第59話
「だから、その原因である精神を眠らせているものを取り除けば」
「その通りじゃ」
浮浪者はにっこりした。
「その原因の何かは解る。あの赤レンガのオリジナルコーヒーだよな」
私は顔を強張らせる。
「やはり君たちも……。しかし、違うとも言える。全人類がコーヒーを……。わしも赤レンガの喫茶店でコーヒーを飲んだが。もっと、別なものじゃ」
「うーんと。あ、あなたも飲んだのね。赤レンガのオリジナルコーヒーを?」
安浦の発言で、私も驚いた。この人が霧画の言っていたもう一人の仲間だ。
「ああ。飲んだとも。……雨の日の散歩の時に雨宿りをして、そして、タダだったからじゃ」
「そうだったのね」
安浦と私は顔を見合せた。
「話は終わっていない。コーヒーだけではない。この世界の全人類の未来がかかっているのじゃぞ!」
浮浪者は少し厳しい顔になる。
「解った。お水」
「違う。答えは空気じゃ。水だと雨水や水道を飲むものと川や湖の水を飲むものと共通点がないからじゃ」
それで、私ははっきり解った。南米は確か世界中の酸素の大半を、その密林で生成しているんだった。シャーマンはウロボロスの大樹に何かしているって、霧画から聞いたので、そう考えられる。
「お爺さん。明日、会ってほしい人がいるんですけど」
「誰かな?」
浮浪者は自然に首を傾げた。
その仮説では、田戸葉や株式会社セレスはいったい。私はふと思った。もしかすると、あれは虚構の世界なのだろうか……。私は背筋が氷のように冷たくなるのを感じる。つまり、この浮浪者の仮説では、夢の中の出来事ではなくて、田戸葉やセレスは私の歪んだ精神が見せる虚構だったということになる。
……霧画はいったい。
私たちは一旦。浮浪者と別れて家に帰ることにした。明日に浮浪者を連れ、呉林に会いに行こうと考えながら……あ、そういえば、浮浪者の名前は聞いていなかったな。とても賢い味方ができた。
別れた時から、安浦は終始考え事をしているようだった。知的な面を見れて、けっこう頭がいいんだなあ、などと思っていると、
「ご主人様。全人類を救いましょう。いつかはみんな虚構の中で死んじゃう」
安浦は真剣な眼差しをしている。かなりさっきの話が効いているのだろう。
「わ……解った」
どうやって、とは言いたくても、言えない雰囲気だったが、私も特異な危機感を覚えた。
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