第50話

 呉林姉妹と私は呆れることを通り越して不安がった。

「そうね。ここは敵の胃袋の中よ」

 霧画も同意して、呪い師の雰囲気を纏う。それは、呉林の不思議な雰囲気を凌駕していた。私は料理には手を着けずにいると、

「さ、真理。赤羽さん。食べましょ」

「え」

「姉さん。今なんて」

 呉林と一緒に驚く、

「毒は入っていないし、この後のためよ」

 私と呉林は不安になって目を見合す。けれど、呉林は得心したようで、ウインクすると料理を食べる。

「戦いが近付いているわ。どうしても、避けられない敵との戦いが。それはキラーを送った巨大な張本人よ。内心、私は怖いわ。でも、みんながいるし、きっと何とかなる。それと、あなたがいるもの」

 呉林は私の顔を見た。視線が合うとにっこり笑い、後、みんなに視線を向け、そう言った。

「大丈夫よ。私たちには赤羽さんがいるわ」

 霧画は私と呉林に微笑えむ。その顔は慈愛に満ちた何とも言えない笑顔だ。

「赤羽くんか。頼むぞ。俺も出来るだけ協力するよ」

 角田は料理を堪能しながら力強く……言い放つ。もう、これが恐ろしい一連の夢の最後だと覚悟を決めたようだ。


「赤羽さん。俺も。敵が何であろうとも……」

 渡部は、赤い月の時の凶暴な一面を垣間見させた。

「ご主人様。やっと最後になりましたね」

 安浦は料理を力強く食べる。

 みんなに勇気づけられた私の心にも、世界を救おうという英雄の息吹を感じた。

 けれど、巨大な敵との戦いに戦慄し始めた。これなら、いつまでも仕事をしていたほうがよかったかも……。

 料理はまさに空の幸とでも言うのか。雨水のミネラルウォーター、雉などの鳥の丸焼き、焼き鳥、飛魚の塩焼、それと数種類のパン。

「鶏肉をこんなに豪勢に料理するなんて……。凄い」

 あの安浦が唸った。


「この焼き鳥もうまい。けど、ビールがないぞ!」

 角田は悔しがった。

「本当、ビールが欲しいわ」

 霧画は焼き鳥片手に言った。

「コンビ二のフライドチキンよりうまいなんて……。有り得ねー!」

 渡部が唸る。

「タダ万歳!」

 ディオは大喜びだった。


 私はカップラーメンやコンビニ弁当、そして正直には安浦の料理よりうまいと思った。こんな豪勢な料理を食べさせて、一体何のために?

「姉さん。この空間。いや、建物。南米に向かっているのね」

「そうよ。シャーマンがご招待してくれたようよ」

「戦(いくさ)じゃ。戦(いくさ)じゃ。やっこさん。どうやら我慢出来なくなったようじゃ。わしらが今でも生きているのが、気に入らないんじゃろうて」

 ディオはからからと笑った。

 私はこれで否応なく、逃げ場のない。最終決戦に挑まなくてはならなくなった。


「南米か。戦うしかないか。……仕方ないかな」

 角田が窓辺で呟く。空を移動する巨大な城はぐんぐんと南米へと向かう。私たちの戦いももうすぐ終わりを迎える。

 食事が終ると、みんなそれぞれ固有のスペースを取ってゆっくりしていた。

 ここは、白い城の食事をした巨大な一室である。

 中央の長いテーブル以外で、みんな寛いでいた。

 この白い城は何階かあるようで、それぞれ居住スペースと何かがあるようだ。呉林はその探検に出ようと、ディオと私と霧画を誘う。

「ディオさん。遅くなったけど、あなたの知識と私たち姉妹の知識を突き合わせましょう」

「解った。ここにサイダーはあるかな」

 ディオは余程サイダーが好きな様子だ。私は霧画の話を聞きたかったので賛同する。


 4人はこの建物の外へロココ調のドアを開け、歩きだす。

「まず、私から話すわ。この世界とは(今の夢の世界ではなく)違う世界にいたのよ。その話からしたほうがいいわ」

 霧画が私たちに話してきた。

 4人は回廊を渡る。

「そこは夢の世界?それとも現実の世界?」

 呉林は裏表の疑問を呟く。

「大きな夢……虚構の世界じゃからどっちでもいい」

 ディオが呟いた。

「私はさっきも言ったけど誰もいない世界にいたのよ。目覚めたわけじゃなくて、あの時、赤羽さんたちが消えちゃって、私だけがポツンといたのね。それから、自宅へと戻ったのだけど、ご存知、真理もいなくて。それどころかコンビニの人や隣人もいなかったのよ。仕方なく私は勉強しながら六週間暮らしていたわ」

「六週間?俺たちの感覚だと。かなり短かったけれど」

 私は時間の食い違いを指摘した。

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