第5話

 この三年の間で私が知った事。


 先ず最初に旦那様はアッシュベリー領からは全く出ていらっしゃる事はない。

 それって結局私達の婚姻は正式なものとならないと言うのかしら。

 その理由は不明……いやいや出て来れないのではなくただ単に領地より出てくる事を許されない?


 然もこれは暗黙の了解と言うものなのだろう。


 一昔前の事だけではなく私自身幼い頃より我が家の借金問題だけで一杯一杯だったから、はっきり言って他所様のお家事情に明るくはないと言うかゴシップ方面に興味がなかった。

 でもそれはあくまで結婚前ならばギリ許されていたのだろう。

 そしてまだ見ぬ旦那様と私は如何なる理由があるにせよ、こうして結婚をしたのだから何も知らないでは済まされないし許されない。


 何故ならあの死神執事は領地より出る事のない旦那様の代わりに社交を行えと強要する。


 まあ言いたい事はわからなくともない。

 かなり零落れてはいようとも私の生家であるリリーホワイト家は爵位こそ子爵位だが、その歴史はこのアーモンド王国の現王朝クリントン家よりも古くおまけに昨今希少な混じりっけなしの


 この私の身体に流れる血で以ってヘテロと呼ばれしアッシュベリーの名誉を回復させたいのだろう。

 普通の貴族ではなく王家よりも古い血脈を持つリリーホワイト家の血だからこそ成しえる。

 そうブラッドリーの思惑通り現実に私が嫁いでから表立ってヘテロと揶揄される事もなければ普通の貴族として待遇を受けられている。


 また何時誕生するかもしれない旦那様と私との間に生まれるだろう子供がたとえ純血でなかったとしてもだ。

 がっつり埃を被った様な古い血脈と言うものは純血大好きな貴族達にとって一代限りの穢れなんて一瞬で霞んでしまうに違いない。


 でも純血大好きな貴族と言ってもよ。

 昨今白い結婚による婚約破棄や離縁が横行し、お花畑な若者達は『《《これぞ真実の愛』》』と叫びそれまで支えていただろう婚約者を好き勝手に罵り蔑み堕とした末に婚約を解消ではなく破棄とすればだ。

 自ら喜んで平民との愛へ投じている。


 ただその結果両親を含め各方面より断罪され良くて平民悪くて死罪になる者も少数ながらに存在する。

 中には色々と頑張って何とか貴族として受け入れられれば力のある上位貴族へ生涯に渡り媚びへつらう。

 若しくは仮面夫婦としての体でお互いに平民の恋人を囲えばだ。

 生まれてきた子供を正嫡として偽りながらも育てるか若しくは



 別に純血だからって何が変わる訳でもないと思うのよね。

 私の場合は生まれた所が愛するお父様とお母様の許だっただけ。

 そしてこの血は単に身体に流れるモノなのよ。

 そんな私から言わせれば純血なんて今更な感じがするわ。

 

 でも三年前は全ての借金を返し終える事が出来る様に一瞬……そう一瞬だけ純血で良かったぁ……何て思ったものだけれどね。


 まあ顔も何もかも知らない旦那様との関係はきっとこれから作り上げていけばいい。

 そこは貴族として生を受けたからには何時か領地と領民の為の結婚を受け入れなければいけないと心積もりは幼い頃よりしていたわ。

 だから夫となる御方とも愛し愛される――――までとは言わない。

 でもそこはきちんと努力をしてウィンウィンの良好な関係を構築していけばいいと思っていたのよ。


 それがまさかの三年経とうとする今でもお迎えが来ないなんて……本当にあり得ない。


 幾ら暗黙の了解で穢れし者は領地より出ては来るなと囁かれていようともよ!!


 それを払拭する為の私との結婚のでしょっっ。

 また何度も言うけれども私一人では子を生す事は出来ないの!!


 ま、まあそれについて具体的な事は余り知らないからそこは割愛する、わね。


 旦那様の事情は察する事が出来るからこそっ、そこは密やかでもいいわ。

 べ、別に愛し愛されての関係でもないした、ただの政略結婚なのですもの。

 ちゃちゃーっと私をアッシュベリーへ連れ去ってしまえば宜しいと思ったの。


 でも旦那様はこの三年もの間それをなされる事はなかったわ。


 旦那様の代わりにブラッドリーとのやり取りが……彼の鬼畜っぷりに私の精神がゴリゴリと削られてしまったわね。

 私が社交を苦手としているのを知りつつあの悪魔の笑みを湛えながらしっかりと強要するのですもの。


 そして私はもう旦那様を待つ事に疲れてしまった。

 勿論大っ嫌いな社交もね!!


 だから私は一念発起したのだわ。

 

 確か三年間白い結婚であればこちらから離縁をする事が出来る――――って誰かが言っていたと思うのよね。

 また借金についてそこはドンと一括で……払って頂いたものを返す事が出来ればいいのだけれども現実はそこまで甘くはない。


 支払って頂いた借金は勿論踏み倒す事はしない。

 でもこの三年間馬鹿みたいに待ち続け、私の花の時間を奪った事と大っ嫌いな社交を強いられた事で多少は減額して貰うでしょ。

 まあ半額――――とまでは言わない。

 せめて1/3まで減額からの……分割払いでお願いします。


 ああ、屋敷を出て行く際には社交で必要とされた衣装や装飾品は当然置いていきますよ。

 荷物は私が持ってきたものだけで十分です。


 さて残りひと月……お互い悔いのない様に過ごしましょうね旦那様。

 

 

 

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