白い結婚で離婚率が爆上がりだから10年の婚姻期間を置くってそれはちょっと酷くない?

姫ゐな 雪乃 (Hinakiもしくは雪乃

prologue

少し昔の物語

 これは今より約30年前の事である。


 昨今白い結婚による離婚率が爆上がりだけではなく、巷には無責任な親による父親知らずの子供達が貧民平民街だけでなく貴族社会にまで蔓延していた。

 その貧民若しくは平民街へ無残にも捨て置かれていく子供達の父親の大半はである。

 まあその数%は平民も含まれるが兎も角今一番の問題は血筋を何よりも重んじる貴族社会においてまで父親知らずの子供達は存在するともなれば、それは当然の事ながら社交界においては歓迎されない訳で……。


 然もそれが王族にまで発展した事により事態をより重く捉えた国王以下重臣達によりある一つの法律が生まれたのである。


 10


 当然この暴挙極まりない法律に既婚未婚を問わず女性だけでなく種を振り撒く男性達も異論を唱えたのだが国王は決して折れる事はなかったのである。

 そして異論を唱える者達へ問い掛けたのである。


抑々そもそも結婚とは何ぞや』



 この世界において結婚とは異性同性関係なく他人である二人の成人が生涯に渡り相手を敬い助け、また可能ならば愛し合う事。

 また己が慾の為と言い簡単に切っていはいけない最も大切なる契約。

 政略婚へ重きを置く貴族にとって結婚と言う契約は簡単に切れないしまた切ってはいけない。

 それによって泣きを見るのは何時も力の弱き者達なのだから……。



 それをである。

 彼らは結婚を自分達の身体を拘束するものだと都合よく勘違いすれば、心はそれぞれ自由だろうと慾の欲するままに唯一の相手へ辿り着くまで食い散らかし、挙句の果てには妊娠そうして父親のわからない子供が生まれてしまうのである。

 

 これは何も男性側にだけ問われるものではない。


 女性もまた然りなのである。

 妻を、家庭を顧みない夫若しくはこの身ではない、つまらないと夫だと早々に三下り半を押せば夜の闇へ羽搏く蝶の様に美しくも好ましい男性へと次から次へと渡り歩くのである。

 

 お互い一度目で出逢えれば幸運。

 だが実際は運命の相手何て者はそう簡単に巡り合わない。

 与えられた環境を善しとしない身勝手な者達によって火遊びのついでとばかりに出来てしまった子供を、僅かな金子を渡して孤児院若しくは養子へ出せばまだいい。

 しかし大半は産まれたばかりの赤子を使用人へ押し付ければ、貧民または平民街へ可哀想にも置き去りにして行くのである。


 そこで運よく……と言えばいいのかはわからない。

 だがそれでも犯罪絡みであったとしても何とか生き延びていく者もいればだ。

 生まれてしまった子を捨てる事を出来ずに誰の子かもわからない様な子を我が子だと育てる者もいる訳で、また貴族の中でも少数だが確かに存在はしている。


 そして血筋を重んじる者達にとってはこれは実に由々しき事なのである。


 なのに何とあり得ない事に現王のただ一人の妹がそれをやらかしてしまったのである。

 先王が年老いてから授かった子故必要以上に甘やかしたのが問題だったのだろう。

 兄である国王も愛らしい妹を必要以上に溺愛した事も一因だったのかもしれない。


 辺境伯の許へ輿入れとなった王妹は賑やかな王都より離れるのを大層嫌がったのだが当時は隣国との戦も絶えず国防の一翼である辺境伯家との絆を深めなければいけなかったのである。

 そんな王妹の夫となる辺境伯は彼女の好む役者の様に美しい男性でもなければ血生臭く如何にも戦いに明け暮れているだろう筋骨隆々の現役騎士だったのである。

 花嫁となった王妹は当然辺境伯との閨を拒めば僅かひと月で王都へと舞い戻るとタウンハウスで自由気ままに過ごしたのである。


 ただ大人しく暮らしていれば何も問題はなかった。


 生来お祭り騒ぎが大好きな王妹は夜毎に催される夜会へ出かければ、好みの男性と恋へ堕ち身体を重ねていく。

 そうして数ヶ月後気付けば彼女は子を身籠ってしまった。

 勿論子の父親は夫である辺境伯ではない。

 だが王妹はその頃五人の男性と同時に関係を持ち、彼女自身誰が胎の子の父親なのかもわからないのにも拘らず――――。


「胎の子は


 王妹自身そして社交界の誰しもそれが嘘である事をわかっていた。

 だが彼女は誰の子かもわからない胎に宿った小さな命に対し初めて愛情を感じてしまったのである。

 今まで与えられる事しか知らなかった王妹にしてみれば、自分が与える事の出来る唯一の存在。

 初めて知る愛しいものを何が何でも失う事を善しとしなかったのである。

 そして王妹は子供を出産するとまるで生まれてきた子と入れ替わる様にその命へ終止符を打った。


 一度も分かり合えないまま妻の産んだ子を腕の中へと抱く辺境伯はその子を我が子として認知した。

 兄である国王は国の盾とも言える大切な辺境伯家へ泥を塗る行為に謝罪をしようとしたのだが辺境伯は頑なに受け入れなかった。

 そこで王と重臣達は法を改正すると共に辺境伯を叙爵したのであった。



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