第3話  ある夫婦の物語 Sideアンジェリカ

 それからが地獄の日々でした。

 敬愛していた実の兄に身体を求められるだなんて……。


 勿論その後は全力で阻止をしたのは言うまでもありません。

 何も気づかなかったとは言えです。

 血の繋がった、確かに純血の尊さ故にほんの少し前までは兄妹婚もなかった訳ではありません。

 ですが特に王家はその血筋故に近親婚を繰り返せば、それによる弊害を一番被った一族でもあります。


 そう今より約八十年前に近親婚は禁忌とされました。

 だから私と兄との関係は許されるものではないのです。

 それなのに兄は毎晩私の許へやってくるのです。

 

 どの様に騎士や侍従と侍女を多く配備しようとも、未来の国王の前でそれらは何の役にも立ちません。

 ですがその中でもリザはそんな兄をものともせず勇敢に立ち向かってくれますが結局は男と女の力の差。

 またそれは私にも当然当て嵌まるのです。


 ええ、どの様に必死に拒もうとも兄の力の前で女である私は本当に無力なのです。


 そうして日々犯され続ける中、後もう少しで両親の喪が明ければです。

 兄の即位と結婚は目前です。


 ええ勿論兄の妃は私ではない。

 流石の兄もまだ国王ではないのですからその様な法を変える力は持っておりません。

 摂政として国を治める事は出来はしても――――です。


 兄の正妃となる女性は海の向こうにある国の王女です。

 我が国との貿易繫がり……そうはっきり言って政略結婚ですわ。

 それでもです。

 私はその王女へ一縷の望みを掛けましたの。

 どうか兄の関心が王女へ向く事を……。


 両親の分も兄の即位を見届けた後私は密やかに修道院へ向かう事と決めておりましたから。


 罪深い私達兄妹の罪を、無理やり犯されたとは言え隙を与えてしまったのはこの私なのです。


 昔から過剰な愛情を兄より感じる事は多々ありました。

 でも仲が良いから……と何も気づかなかった振りをし続けたのは誰であろうこの私なのです。

 ほんの少し前まで近親婚を繰り返してきた我が国なのですもの。

 その可能性を無視し続けた事こそが私の罪。



 それから慌ただしく兄の即位と婚儀が盛大に執り行われる中、当然兄は私を犯す事はありません。

 また私も出来得る限り兄と接触をしない様に心掛けましたからね。

 そうして兄夫婦の初夜も無事に済めばもう心残す物はないと思っていた矢先でした。


 最悪です。

 私の身の内に兄の子が宿ってしまったのです。

 これでは修道院は受け入れてくれないでしょう。


 子を産むまではどうあっても修道院へはいけない。

 でもこのまま王宮で、あの兄の許で暮らすなんて嫌!!

 先ず大前提で胎に宿る子を愛する事なんて私には無理なのです。

 

 私が一度でも兄との関係を望んだ事はありません。

 寧ろ身体の関係が分かった時点で兄を嫌悪さえしていました。

 でもだからと言って私の身体は私の心とは関係なく、兄より与えられるだろう快楽を全て拾い上げてしまうのです。

 

 ああ、この子さえいなければ私は永遠に兄より逃げおおせたのに!!



 この頃の私は何の罪もない我が子をずっと憎んでおりました。

 この子が決して悪い訳でもないのに、子供が親を選ぶ事が出来よう筈もないのにです。

 でもまだ16歳の成人を二ヶ月前にした私にしてみれば初めての懐妊、然も決して望まぬ相手との子を生したであろう事実は何処までも私の心を苛んでいくのでした。

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