第11話 夫の事情
俺はセオドリック・メレディス・カークランド。
このアーモンド王国の堅牢なる盾と呼ばれしアッシュベリー辺境侯爵。
いや、堅牢なる盾ではなくヘテロの盾……か。
この国の者達はこの俺だけではなくアッシュベリーで日々命を懸けて戦う者達までをヘテロと蔑みと侮蔑を込めて呼んでいる。
そう俺自身の事だけならばまだいい。
ヘテロ――――。
穢れし者。
純血の貴族ではない者。
確かに俺を産んだ母親は現国王の王妹だった。
母方の血筋だけで言えば俺は国王の甥であり王族の血に連なる者だろう。
だが俺の実の父親は前辺境侯爵ではない。
俺を産んだ後直ぐに亡くなられし母上は最期まで俺の父親が誰なのかを告げる事はなかったらしい。
いやそれだけではない。
形だけの夫としか見做さなかった筈の父上へ胎の子……つまり俺を父上の子であると妄言を吐き、そうして俺と言う子供を父上へ擦り付け勝手に死んだのだ!!
正義を重んじ誇り高きアッシュベリー辺境伯。
勇猛なる獅子と呼ばれし立派な領主であると同時に騎士として誰よりも強く高潔で俺の自慢の父親なのだ。
幼い頃から俺の憧れの存在だったいや、今でも父は憧れの存在だ。
現在俺はどの様に強く立派な騎士だと呼ばれようともだ。
俺は決して父を超える事はないと思う。
何故なら何処の馬の骨の血が流れているかもしれない俺を己が息子だと、亡くなった母の存在等どうでもよくなるくらいに俺は父に愛され育った。
そうあれは何時だっただろう。
あの頃の俺はまだ10歳にもなってはいなかったと思う。
そして俺は自分は紛れもなくアッシュベリーの血を継いだ父上の子供なのだと信じて疑わなかった。
それもその筈だ。
領内では誰も俺の事をヘテロとは呼ばない。
屋敷の者もだが領民達もこんな俺をちゃんと受け入れてくれたのだ。
だがそんな幸せ過ぎた夢の時間も何時かは終わりを迎えるもの。
何処かの貴族が帝国へ赴く為に宿泊を希望すれば、屋敷で暫くの間逗留し持て成す事になったのだ。
「お客様の相手をするにはお前はまだ幼過ぎる故にな。よいかセディー、東の塔へは絶対に近づいてはいけない」
「はい、わかりました父上っ」
そう父上に注意を受けていた。
だから俺は賓客達が逗留している東の塔へは言いつけ通り近づかなかった。
だがまさか向こうから俺に近づいてくる何て思いもしなかったのだ。
おまけに――――。
「おお本当に存在しているとは……」
「そう言えば何処となく亡くなられたアンジェリカ王女殿下の面影がありますわね」
でっぷりと腹の突き出た恰幅のいい、しかし腹に比べ身長はかなり低いが身なりの良い男と比例する様にひょろっと縦に長いけれどもやせ過ぎで、これではスープの出汁も出ないのではと思うくらいなのだがこちらも貴婦人然とした身なりの女。
身なりだけの判断で悪いとは思うけれどもきっとこの二人が父上の仰ったお客様なのだろう。
そう判断した俺はこのアッシュベリー辺境侯爵家の嫡男として挨拶をしようと思ったのだが――――。
「初めまして僕はこのアッシュ……っっ⁉」
「汚らわしいわ!! 容易く純血である我らへ口を利く出ない!!」
「まあっ、何て事なの。まさか私達へ直接声を掛けるだなんて⁉」
俺が挨拶をしようと思い声を発したと同時に彼らはそれまでの興味深げな視線から侮蔑と蔑み……いや、最初からその様な視線で以って俺を見下していたのだ。
だから彼らは何も躊躇う事なく寧ろ堂々と二の句を、まだ幼い俺へ放ったのである。
「ヘテロ」
純血の貴族ではない穢れし者――――と。
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