閑話   冷酷死神と呼ばれし者

 冷酷死神執事のブラッドリー。



 全く……この私をよくもその様な呼び方をする者等奥方様、世界広しと言えど人族では貴女くらいなものでしょう。

 ええ、実は私自身その呼び名を以外にも気に入っているのです。

 何故なら私の正体は……。


 

 とある日を以ってこの人族の縄張りにおき私はブラッドリー・ヨークと名付けられました。

 そして何故と表現するのかと言えばそれは当然この私へが存在するからですよ。


 然もあろう事かこの世界において最も脆弱なる存在と位置づけされているだろう人族によってなのです。


 まあ脆弱とは言え人族の中でも少数ではありますが優れた力を持つ者は存在します。

 それは私も認めます。

 また私の正体は兎も角として何故名付けられたかと言えばそれは愚かにも人族の子供によって私の真名を知られてしまったからに他ありません。



 真名は決して己以外、たとえ血を分けた親兄弟であったとしても知られてはならないもの。

 私の故郷では誕生し成人となるまでの間は仮の名、分かり易く言えば愛称を先ず両親より授けられるのです。

 取り敢えずの個体を示す呼び名ですね。

 そうして無事成人を迎えられれば大神殿奥にある真名の間において、室内の中央で宙に浮かぶ神珠みたまと己との間で真名の儀式を執り行うのです。


 ええ、真名とはそれ程に重要なもの。

 真名を己以外のものに知られれば個人としての自由を奪われるだけでなく時には命すらも奪われてしまうのです。

 一度真名を知られてしまえばどの様に強く魔力に秀でまたあらゆる力を持とうともです。


 真名を縛られればその者は無垢な赤子同然。


 そして今の私も偶然とは言え真名の縛りを受け、ああその表現は少し違うと思います。

 何故ならその者は私の正体を知らずに偶々口遊くちずさんだ言葉が、そこへ何気に通りかかっただろう私の真名だったと言うバカみたいなオチなのですから……。



 この件に関しては私自身生涯最大の汚点としか言いようがありませんね。

 ですが今の暮らしも実のところ決して嫌ではなく、何気に馴染んでいる所が何とも妙な気分です。

 最近……奥方様がこのタウンハウスへと来られてからは特にでしょうか。


 先ず面白いと思ったのはこの私を相手にあの物怖じをしない性格そして彼女のこれまでの生き方と境遇。

 それ以上にまた何とも見事と申し上げて良いのでしょうか。

 

 多少間抜け感の否めないしか弱き女性が行うには決して推奨出来るものではありませんが、しかしながら私室からの脱出そして食堂で平民の様に汗を流し働いておられるところとか、然もご本人は私だけではなく屋敷の者全員にご自身の行動が筒抜けなのを全く気付いてはいらっしゃらない。


 まあそこは我がアッシュベリー辺境侯爵家の奥方ですからね。

 室内はおろか脱出経路から食堂までの行き来に至るまでいえ、食堂内でもそのご様子は客へと扮した配下の者によってちゃんと護衛をさせて頂いております。


 私はあくまで……ではなく某アニメ同様に与えられた職務は求められる以上に行うのを信条としておりますからね。


 とは言え私は所謂ではありません。



 しかしながらかれこれもう三年となるのです。

 我が主がその外見に反して精神……まあこれも奥方様限定なのでしょう。


 それ以外の事でしたら我が主である旦那様は鋼と然して変わりの……いやいやそれ以上の精神と胆力、また他者を凌駕するだろう素晴らしい力を有しておられるのですからね。


 それ程の御方だからこそ真名の縛りを受けたと言えど、この私自ら膝を屈する事等決してあり得ないのですから……。


 ですがその奥方様限定のヘタレっぷりも相当ですが、私の掴んだ最新情報ではどうやら奥方様は旦那様との離縁をお望みの様に御座います。

 まあ何れにせよどの様に奥方様が離縁へ向けて画策なされようともです。


 我が主が奥方様をお望みになられる限り、私はあらゆる手を使いそれを阻止するまでに御座います。



 ああ本当にお気の毒な奥方様ですね。

 我らの様な者に魅入られてしまわれたのですから……。


 まあ代わりと言えるのかどうかはさて置き、奥方様の創造豊かな脳内で離縁なんて言葉が考えられないくらい幸せにして差し上げますよ。


 それこそあらゆる手を使って……ですね。


 しかしその前提に我が主のヘタレを何とかしなければいけません。


 旦那様のお望みもですが私自身奥方様を気に入っているのです。

 なので逃がす心算は毛頭ないのですがそれでも度を超えた行動をなさるようでしたら仕方がないですね。

 

 大人しくして頂く為にも物理的に動け……いえいえ流石に私もそこまではしたくはない?

 ああ四肢の関節を外してしまい何も出来なくなった奥方様の可愛らしさは変わる事なく、また私を含め屋敷の者達、そして我が主も心より奥方様を精一杯愛しませ何もかもすべてお世話をさせて頂く所存です。


 奥方様、お互い……多分奥方様のお身体がこのままお健やかにあられる為にも、どうか我がアッシュベリー辺境侯爵家より逃げようだ何て努々ゆめゆめ思わないで下さいね。


 ではまたお会い致しましょう。

 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る