第26話 sideアン
「私が愛するのはシリル様、貴方だけ……」
「――――あ、ア……ン?」
「「「「シリル様⁉」」」」
その瞬間誰よりも大きなお身体であられるシリル様の身体は突如ぐらりと大きく右へと傾きました。
「あ……」
地面へ激突しない様に私はシリル様に抱き締められた形で何とか彼の身体をお支えしようと思うのですが如何せん男女の体格差、それ以前にシリル様は筋骨隆々の逞しい体躯をお持ちでいらっしゃるのです。
非力な私が如何に頑張ろうともそこは普通に彼を支えられ様筈もなく、実に情けない事ですがこのまま私はシリル様のお身体でプレスされればある意味幸せ……なのかもしれません。
そう愛する御方の重みを感じながらあの世へ旅立てるなん――――⁉
「そこは残念ながらご期待に沿えず申し訳ありませんね奥方様」
「ま、まあレイン様相変わらず私の心を覗くのは止めて頂きたいものですわ」
「いや別に俺は人の心を覗く趣味もなければそこは普通にそんな特殊能力を持ってはいませんよ」
で、でもそう言って何時も私の考えている事をわかってしまうでしょう。
「それは貴女様のお顔へ感情が駄々洩れとなっているだけでしょう」
そう言いながら眠りに就いたシリル様をしっかりと抱えておられます。
「とは言え奥方様でしょ。これ、シリル様を眠らせたのは……。まあその理由は敢えて聞かない事にしておきます。だがこいつさんが目覚めた時にどうなるかは考えたくはないなぁ」
そう、シリル様へ眠りの魔法を……とは申しましてもごく軽い魔法です。
短時間だけの、ええ私が兄の許へ行く間だけのものですわ。
何故ならこのままアッシュベリーと王国の騎士達で小競り合いが起こればです。
きっと間違いなく兄はシリル様と騎士達を処分……最悪処刑にし兼ねないでしょう。
私へ執着する余り兄はきっと両親と言う箍が外れ自信を抑えられなくなってしまったのです。
最早王としての立場や妻である王妃や生まれてくるだろう子供の事の全てがどうでもよくなる程に、兄の心は狂ってしまったと言っても差し支えないでしょう。
今の兄は以前の私が知る兄とは違うのかもしれません。
だからこそなのです。
兄の付け入る隙を与えずシリル様と騎士達を無事にアッシュベリーへ帰す方法はこれしかなかった。
それに元を
そう王女としてこの国の王族として降嫁したとは言え責任からは逃れられません。
先ず最初に気の狂った兄を諫める事。
またアッシュベリーにいた頃より漏れ聞いた王都の不穏な噂の真意を確かめる事。
そしてもしその噂通りならば兄と刺し違えてでも国を元の正しい方向へと戻さねばならないのです。
当然王妃である義姉ともその事について話をしなければいけないでしょう。
ええこのまま義姉の国の思う儘に国を乗っ取られてもいけませんからね。
民の安全を護るのが王族の務めなのです。
それに私の愛するシリル様と騎士達の身の安全を図る為に私と言う贄がどうしても必要不可欠だったのです。
これはアッシュベリーを出る前に決めていた事。
だからセディーにも最期の別れを済ませました。
勿論リザにも……。
本当ならば旅の道中でシリル様へ何度か打ち明けようとしたのです。
でもその度にきっと打ち明ければ問答無用でアッシュベリーへ連れ帰られれば、間違いなく王国の騎士達と戦になってしまうでしょう。
そうなれば幾ら今現在帝国と停戦状態と言えども血気盛んな帝国人にしてみれば、このまたとない機会を逃す筈もありません。
それに加え義姉の故国がどう出てくるのかもわかりませんからね。
#抑々__そもそも__#私はシリル様にこれ以上無理をして欲しくないのです。
また何時も腕の中で護って貰うばかりは嫌なのです。
だから此度は私が動く事に致しました。
ええ、お姫様は何時までも護って貰うだけではないのです。
「アン様に作って頂いたこの機会を無駄にはしませんよ。しかしお願いですからどうか無理だけはしないで下さい。少なくとも俺やシリル様が駆け付けるまでに変な気を起こさないで下さいよ」
大きな左手で自身の頭をくしゃっとひと掻きし一瞬何とも言えず顔を歪められたかと思えばです。
レイン様は一瞬の隙を突いてシリル様と騎士達と共にこの場を去りました。
勿論王国の騎士達は後を追おうとしましたがしかし――――。
「そなたらが必要なのは私だけであろう。私がお兄様の許へ下ると申した以上アッシュベリーへ手出しは無用です!! もし約束を違えるならば兄に会う前に舌を噛み切るがよいのかっっ」
白い結婚で離婚率が爆上がりだから10年の婚姻期間を置くってそれはちょっと酷くない? 姫ゐな 雪乃 (Hinakiもしくは雪乃 @papiten
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