第16話 ある夫婦の物語 sideシリル
「どうしたの? 何故お兄様は泣いていらっしゃるの?」
「泣いて……?」
俺は泣いているのか……?と思わず自身の瞳から頬にかけて指をゆっくりと這わせば確かに、そうほんの少しだけれどもそこは濡れていた。
「あ、汗じゃ……」
あ、汗であるに決まっている。
これから戦場へ赴く俺が泣くなんてあり得ない!!
今はただ初めての事だけにほんの少しばかり感傷へ浸っていただけで決して泣く等――――そう俺は断じて弱虫ではな……⁉
「でも泣いていらっしゃるのは事実だわ」
そうしてそっと、まるで真冬に降り積もる新雪の様に真っ白で、少しの穢れすらもない白くもマシュマロの様にふわふわと柔らかな両の手を俺へと伸ばせばである。
一応これでも貴族の令息として毎日肌の手入れはされていた。
だが毎日鍛錬へ明け暮れる日々の中でどうしても、またそこは男と女と言う決定的な差がある訳で、目の前の天使に比べれば俺の肌等そこら辺にいる
そんな俺の肌、いや俺の頬へ一瞬の躊躇いもなく天使は手を伸ばせばだ。
濡れた頬をそっと優し気に温かくも柔らかく包んでくれた。
「泣かないでお兄様。アンジェが少しだけだけれど一緒にいるから、だから泣かないで……」
こつん――――と天使は自身の額を俺のそれへ優しく合わせながら言う。
まあ実際はこつんなんて音等発しはしない。
そう実際に音がしたいや、その瞬間俺の心臓がどきんととんでもなく跳ねたのだ。
多分俺の半分も生きてはいないだろう小さくも愛らしい天使。
俺はと言えば素性も明かさずただ庭園の奥で大きな身体を必死に縮こませながらだ。
天使にしてみればその理由なんて全くわかりはしないだろう。
いや、そこは天使だからわかった上で俺を慰めてくれているの……か?
時間にしては十分にも満たないひと時。
その間俺達は何も語らずただ額と額を合わせていただけ。
でもそれだけで俺には十分過ぎるものだったのだ。
俺の心の奥で震えあがっていただろう勇気を叩き起こすのには……。
この愛らしい天使の笑顔を何としても護りたいと思ったのだ。
俺を絶望の淵より引き上げてくれた天使を何としても護りたい。
だから俺はこれより俺自身の意思で戦いへ赴こう――――と。
必ず生きて帰ってみせる。
そして必ずこの国をっ、天使の笑顔を何があろうとも護ってみせる!!
アンジェ……どうか貴女は安全な場所で何時も笑っていて欲しい。
危ない事は全て俺が引き受けるから……。
そうして俺は陛下との謁見を無事に果たせばだ。
そのまま父や仲間達と共に戦場へと赴けば無事に勝利を収める事が出来た。
とは言え初陣の俺が挙げられた功績等ミジンコ1匹くらいなものである。
それでもだ。
この勝利を俺の天使へ捧げよう。
そして何時か、ああ叶うならばまた貴女へ逢いたい。
貴女に逢うまでに俺は今以上に俺自身をもっと鍛え強くなり、誰よりも貴女を護ってみせよう。
叶う事ならば貴女の隣へ立つ許可と権利を勝ち取りたい俺の愛しい
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