第13話 夫の事情と心に受けた大きな傷
「セディー……」
俺が後先考えず叫んでしまった事に対し父上は切なげに俺の名を呼べば、ぐしゃりと大きく表情を歪ませた。
それは普段より厳つい容貌の父がより一層怖くまた悲し気な様相は、エルネスト山に住むと言われる孤高の主の様にも思えたのだ。
山の主とは身体は物凄く大きくまた強いが故、常に孤独で一人きりでその悲しみを背負う魔獣。
確かに父上は勇猛果敢でこれまでに俺の知るどの様な騎士よりも強い。
だが常は悲し気ではなく豪快でとても愉快な方だったのだ。
身体が大きいからと言って性格はがさつではない。
その心は誰よりも繊細で優しい事を俺はちゃんと知っている。
俺はそんな父上の子供だと信じて疑わなかった。
だから将来の夢は父の様な大きくて強くも優しい男になりたいと思っていたのだ。
でも今は――――と問われれば多分あの頃はわからないと答えていただろう。
それ程までに俺は彼らによって身体だけでなく心までもを痛めつけられてしまっていたのだ。
幸い数日続いた暴力は大方打撲で済んだ。
ただ頭だけはステッキで余程強く殴られた所為なのか少し切れてしまい、結果数針縫う事になったのだがそれは何れ完治出来る傷なのである。
しかし一度受けてしまっただろう心の傷は目に見える傷とは違い完治出来るものもあれば永遠に患ったままでいる事もある。
俺はどちらかと言えば後者だった。
今現在もあの時に受けた心の傷は完治をしてはいない。
だからと言って父上が何もしなかった訳ではない。
傷つき一人で抱え悩み続ける俺へ一度だけ話してくれた事があったのだ。
そう、過去の俺に連なる父と母上の真実について……。
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