ROSE
うおぉぉぉぉ!!!
異様な熱気と歓声。
そこに集うあまりにも多くの人々は一様に、ある一か所を見つめ、狂喜している。
彼らの視線の先には煌びやかな衣装を着こなし、澄んだ美し歌声で歌って踊る美少女たちが。
ROSE。
このアイドルグループを知らないものはもはや日本にはいないだろう。
日本に数あるアイドルグループでも最も認知度が高く、ファンの数もライブの規模も他とは常に一線を画している。
そんな国民的アイドルグループでも一際異彩を放つ美女がいる。
白鳥麗華。
ROSEのメンバーでもセンターを務めるリーダー的存在だ。
八頭身の見事なプロポーション。
発育の良い双丘。
腰まで伸びた光沢のある黒髪。
すらりと伸びた長い手足。
白魚のような美しい指。
おっとりとした柔和な瞳。
百人に聞けば百人が美少女というだろう。
その美しさはまさに圧倒的だった。
そんな美少女は今ある場所に向かっていた。
時刻は午後11時。
ライブが終わった約1時間後であった。
場所はライブ会場から少し離れたファミレス。
彼女はそこに勢いよく飛び込んでいった。
店内に入った彼女はすぐにある一人の人物を探す。
この時間にしては客がそこそこいるようで仕事終わりのサラリーマンだろうか、高価そうなスーツをきっちり着こなしている。
ただ一人を除いて。
「ごめんなさい!待ったでしょう?」
お目当ての人物を見つけた彼女はすぐにその席へと駆け寄る。
「いえ、そんなことないですよ。」
その人物は若い男性で真っ黒なスーツを着ていた。
しかしそのスーツはすでにクタクタになっており、見るからに幸薄そうな顔。
目の周りには深い隈が刻まれている。
第一印象はとても疲れているサラリーマンといったところだろうか。
「すいません。なかなか会場から抜け出せなくて・・・」
「構いませんよ。とりあえず座ってください。」
申し訳なさそうに彼女は男の向かいに座る。
「ありがとうございます。あ、コーヒーを二つ。」
「そんな、お構いなく。」
「遅れてしまったのは事実ですし、これ位させてください」
慌てて男が止めるがすでに店員は奥へと去っていった後だった。
注文したコーヒーにわずかに口を付け男が口を開いた。
「それで・・話っていうのは。」
男がたどたどしく尋ねる。
どうやらなぜ自分が呼ばれたか良く分かっていないようだ。
「ああ!そうでしたね。えっと・・コホン。」
軽く咳払いすると彼女は口を開いた。
「最近ライブに来てくれなくなりましたね。」
途端に苦虫をかみつぶしたような表情になる。
「えぇ、職場が変わってしまって前にみたいに気軽に行けなくなったんです。」
男は申し訳なさそうに俯く。
「あなたは私達が劇場に数人しか集められなかった時から熱心に応援してくれていたファンでしたよね。」
その彼女の言葉を受け彼は更にうなだれる。
遠回しにライブに行かないことを責められていると感じたのだろう。
「すいません。私はその・・なにぶん安月給なので交通費とかホテル代とか考えると流石に以前のように頻繁には・・・それにそもそも休暇が取りづらくなってしまって・・・」
そう言ってまた口ごもる男。
「まぁそういう理由が・・それではしょうがないですね。」
しかし彼女は残念がるどころか嬉々とした表情で口を開く。
それを俯きながら目だけを動かし垣間見た男は更に落ち込む。
それはそうだろう。
今や彼女は日本のトップアイドルだ。
こんな安月給のフツメン男など一人減ったところで彼女のこれからには全く影響しないだろう。
古参特有の身勝手な欲望が沸いてくるがそれも一瞬ですぐに下火になる。
そんなことを考えたところでどうなるわけでもない。
ただ自分に失望するだけだ。
仕事終わりの疲れた頭は思ったより冷静だったようだ。
「で、でも!自分で言うのもなんですが、今はライブに行かなくてもアイドルを推せます。その・・だから今まで見たいに直接応援できなくてもちゃんt———」
「いえ、もうわかりました。」
手のひらで男の言葉を遮る。
そのまま緻密な細工が施された腕時計をチラリとみる。
「そろそろですね。」
「・・?」
彼女がぽつりぽつりと話し始める。
「ねぇ、なんで私があなたをこんな時間に呼び出したかわかりますか?」
「い、いえ分かりません。」
「君も知ってると思うけど、私最初全然売れなくて自分に自信を持てなくなっちゃってさ。せっかくのお仕事もうまくいかなかったことが多かったの。そんな時、あなたはいつも私の傍で励ましてくれた。ライブにも握手会にも来てくれて・・・あなただけは私のためにいつも応援してくれた。私、あなたにどれだけ助けられたか分からないよ。だからね・・・・・・今度は私があなたを助ける番。」
「え?」
男ははじかれたように顔を上げる。
「あの、それってどういう?・・・!?」
男は自分の体に緩やかな変化が来ていることに気づいた。
「あら?どうしました?眠くなってきましたか?」
くすくすと愉快気に笑う白鳥。
「コーヒー、飲んじゃいましたもんね。」
強烈な眠気が男を襲う。
眠るまいと必死に目を開けようと試みるが代所に瞼が閉じられていく。
「もういいわよ。あなたたち来なさい。」
白鳥の一声を聞き、店にいたスーツの客とコーヒーを入れた店員が続々と男の周りに集まる。
「この人を連れて行きなさい。ちょっとでも傷を付けたらあなたたちどうなるか分かってるわよね?」
白鳥の澄んだその言葉を最後に男の意識はプツリと途切れた。
「ええ。分かってます。これからもアイドルは続けます。・・・はい。ご協力感謝します。」
電話を切り、私は振り返る。
8畳ほどの殺風景な空間にぽつりと佇む天蓋付きの豪華なベッド。
そこから穏やかな寝息が聞こえてくる。
私はそこで寝ている人物に笑みを浮かべると自分も彼の横に倒れ込む。
眠る彼の横顔を愛おしそうに眺めながら、抱き着く。
上手くいった。
彼の匂いに包まれながら私は今までを振り返っていた。
彼の仕事先が変わったの何てとっくの昔に分かっていた。
ただ準備に少し時間が掛かっちゃったから彼がこんなに衰弱するまで計画を実行に移せなかった。
私でも分かっている。
今、私達ROSEは超人気アイドルグループ。
事務所にとってみれば稼ぎ時で不祥事は絶対に避けたいところ。
その中でもセンターの私が彼と一緒になれなかったらアイドルやめるっていうんだから協力せざるを得ないわよね。
君にはいつも助けてもらった。
今の私があるのはあなたのおかげなのよ?
だから今度は私が助けてあげる番。
君はもう何もしなくていいんだよ。
ここで私だけとずっと一緒にいよ?
君には私以外もう必要ない。
絶対離さない。
絶対誰にもあげない。
愛してるよ。
私だけのあなた♪
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