ヤンデレシスター 中
「どうでしたか。ゆっくりできましたか?」
「えぇ、それはもう。いいお湯だったよ」
「それはよかったです」
湯上りの彼が講堂に行くと彼女がぱたぱたとかけてくる。
「食事の準備ができてますからよければご一緒しませんか?」
「さすがにそれは・・・」
彼としては願ってもない提案であるが至れり尽くせりの状態に戸惑う彼に対し、ソフィアはにこやかに答える。
「傷ついた人を癒すのも私の務めですから」
「本当によろしいんですか」
「えぇ」
にこやかに答える。
「そうですか。それならご相伴にあずからせていただきます」
そんな彼女の笑顔に若干頬を染めながら彼はありがたく食事のお誘いに乗る。
「そうと決まれば早く行きましょう。せっかくの料理が冷えてしまいます」
彼の返答に顔をほころばしながらソフィアは彼を食堂へと案内した。
「あー。すごくおいしいです!」
「・・・そうですかそれはよかったです」
温かいスープとパン。
簡単な食事だが数日何も食べていない彼にとってはご馳走以外の何物でもない。
マナーなどお構いなしにがっつくように食べる彼—無論農民出の彼が食事のマナーなど知っているはずもないが—を楽しそうに見つめながらソフィアは今回の依頼内容について尋ねた。
「今回の依頼は最近クルド平原に出没し始めたゴブリン5体の討伐です」
クルド平原とは彼が所属している冒険者組合が存在するオルガノ王国の南方に広がる大平原のことである。
王国建国にあたって周囲の森を大規模に切り開いたため、周囲にモンスターの類は出なくなっていたのだが年に一度低級~中級のモンスターがひょっこりと顔を出し、王国に出入りする馬車を襲うのだ。
この一連の出来事は王国では「ゴブリン狩り」という名称までついているほどである。
そしてそんな時に王国の冒険者が役に立つ。
といってもモンスター自体の等級が低いため、依頼を受けるのは彼のような等級7という最もランクの低い冒険者ばかりである。
それでも普段の依頼の報酬よりも数倍のそれが約束される為、日々の食事も事欠く彼らにとってはまさに天の恵みなのだ。
「ゴブリンはやはり強いのですか?」
湯気の立つスープが入った器をテーブルに置きながら彼女は口を開く。
「あ、いえ。強いような弱いような・・・」
魅力的な女性にこう聞かれて正直に答えたいという気持ちと自分が弱い男だと知られてしまうという二つの感情に板挟みになり何とも煮え切らない言葉を返すのがやっとな彼。
「ご謙遜なさらないでください。私にはわかりますよ。長年冒険者を務めたあなたがこんなに傷を負うということはやはりゴブリンというモンスターは強いのですね」
ソフィアが少し世間一般の常識からずれているのには理由がある。
実は彼女が経営するこの教会は王国内にはない。
クルド平原の西にこじんまりとした森があり、そこにひっそりと佇んでいるのがこの教会なのである。
そこは神の加護があると噂される土地でその森周辺にはなぜかモンスターは近寄ることがないらしい。
また豊かな森のおかげで自給自足の生活ができるため、王国に行く必要がないのだ。
そのため、ソフィアにはどこか少し抜けているところがあるように思われるのだ。
「ごちそうさまでした!いやーとてもおいしかったです」
食事を終え、幾分か生気が戻ったようである。
「全部食べましたね」
「え?」
「いえ、こちらこそお気に召していただいたなら良かったです」
朗らかな笑顔を見せる彼女だったがすぐに真面目な表情に変化する。
「・・実は少しお話があるんですけど」
言いにくそうに表情を曇らせる彼女。
薄暗い室内、テーブルの中央においてある小さなろうそくの灯がゆらりとくねり、影を揺らす。
「何ですか?いろいろしていただきましたし、俺なんかで出来ることならなんでもしますよ」
むしろ彼としてはここまで良くしてくれた彼女に少しでも恩返しがしたいという気持ちでいっぱいだった。
「そうですか。それは・・・本当によかったです」
そんな彼の言葉に微笑を浮かべながらそれではとソフィアは言葉を続ける。
「冒険者を金輪際やめて頂けませんか?」
「・・・え?」
夜は静かに更けていく。
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