とぼけの里 第1回

 今回の企画には10名の皆様にお集り頂くことができました。正直、ご寄稿数が予想外に少なく、また、友未のイメージしていた「澄まし顔で読者を戸惑わせるような作品」(前回の「芸術と通俗の里」でいえば深川夏眠さまの「アッペティート」風の作品を期待しておりました)から微妙に逸れた内容が多い印象はあったものの、反面、koumotoさま、古博かんさま、塩塚不二夫さまなど、友未にとっては忘れ難い皆様のご参加を頂けたことは何よりの喜びでした。全体に、なぜかショートショートか断章か、それに近い短さの作品だけが集まり(ちなみにそのうち三つが猫作品でした)、本格的に物語が展開されて行くような読物を一作もご寄稿いただけなかったのは単なる偶然でしょうか?とはいえ、いずれも粒ぞろいの小品群で、平均点は結構高かったと思います。

 ただ、上記、友未好みの三名さまの作品につきましては、それぞれに楽しませて頂けはしたたものの、個人的にさらに衝撃的で、客観的にもおそらくより優れた大傑作たちにすでに出会ってしまっており、友未の期待値の高さゆえ、今回はスルーさせて頂くことに致しました。


 さて、今回もっとも友未を堪能させて下さった作品としてご紹介しておきたいのは、初参加の藤咲 沙久さまの美しい断章、「月下、唆すは猫。」です。この作品、企画の趣旨からは完全に外れているような気がする上に、友未のアレルギー・ジャンルである恋愛譚なのですが、そんなことは度外視してでもお勧めしておかないともったいない小さな傑作です。パロディーという意味ではありませんが、友未の大好きな不思議の国のアリスの世界(特にチェシャ猫)を下敷きに持つ、孤独でほの暗いトーンの印象的な短編でした。人生(この場合は「時子」という女性)から逃避している主人公が、チェシャ猫役の少女の登場によって、「明日、時子に会おう」と前向きに歩み出すまでの一瞬の場面を、過不足のない冷静な文章でシリアスに描いて行きます。「チェシャ猫の持つ、敵でも味方でもない独特なスタンスを表現したくて、細かなところにもアリス要素を散りばめながら頑張りました」と作者のおっしゃっている通り、この作品の魅力は少女のトリックスターぶりに尽きると言い切ってしまいたくなるほどの心憎さです。ところで、チェシャ猫といえば、「ニヤニヤ笑わない猫なら知ってるけど、猫のないニヤニヤ笑いなんて初めて見たわ」というアリスの名ぜりふを愛して止まない友未ですが、あの「細い、細い三日月」の浮んだようなニヤニヤ笑いのイメージの定着には、原本の挿絵だけではなく、やはり古いディズニー映画が大きく貢献してきたのかもしれません。友未は今でも時々、ディズニーや、他の何種類かの実写版のアリスを観て癒されています。エッチなアダルト版まであるのはご存知ですか?

 もう一つ、これも初めてのご寄稿だったのですが、「a man with NO mission」つくお様は、可笑しくも、少々気がかりなお話でした。奇妙な小話を集めた笑えるショートショート集という点では、塩塚不二夫さまの今回の「嘘日記」に似ていましたが、「嘘日記」が楽しくおバカ笑いできるのに対して、「a man with NO mission」の方には笑うだけでは片付かないダークな苦味が含まれていました。トイレで小用を足している時ふと買い物を頼まれていたことを思い出した男が、頼まれたものとは別のものを買う「頼まれごと」、どこへでも自転車で出かける男がバーベキューの場所までなぜ二時間もかけて自転車で来たのかと友人に問われて答えられない「自転車にのって」、親危篤の報せで十数年ぶりに帰郷した男が炎天下の田舎道で死にまみれ途中で引き返して行く「帰郷」など、ここには使命なき男たちの、不可抗力的でなぜそうしたのか自分でも分からない日常が次々に晒されて行きます。「現実」の抱えるどうしようもない不条理さ、中途半端さを思い知らされる感がありました。「a man with NO mission」とはよくぞ言い得たと、エピソードごとに唸らされるでしょう。

 同じ初登場でも矢向 亜紀さま「さきちゃんの受難」はもっと気楽に楽しめる妖怪譚で、のどかで可笑しな雰囲気がまさにおとぼけでした!置いてけ堀のホリちゃんと口裂け女のさきちゃんの仲良し譚なのですが、その半端でない仲良しぶりと、今日を前向きに生きぬこうと頑張る姿にすっかり惚れ込んでしまいました。途中、さきちゃんが、ごく自然な会話 の流れのなかで「わたし、綺麗?」というところがおかしくて、おかしくて …

 なお、前回「芸術と通俗の里」の企画で衝撃を受けた「誰もいない静かな森」のモグラ研二さま、今回も社会派的な視点のダークコメディーでご参加頂いていたのですが、6月末ごろ突如カクヨム界から蒸発されてしまいました。今後とも、どこかでご活躍され続けますように。

 最後に一つ、お詫びです。「幻想と怪奇の里」の企画に「落日の眩耀」をお寄せ頂き、この欄でも紹介させて頂いております麻生 凪さま、「芸術と通俗の里」にも「カンパニュラ / 鐘の音」をお寄せ下さいましたのに、コメントをお送りする際、「はじめまして」と申し上げてしまいました。あってはならない不注意だと猛省しております。本当に申し訳ございません。



 

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