ジュヴナイルの里

     風立つや詠み人知れず枯葉舞ひ最後は君にまた巡り遭ふ


 ジュヴナイルの里へのご参加、ご声援、有難うございました。また、大幅に更新が遅れたにもかかわらず、数多くの暖かいご声援を頂きましたこと、本当に励まされ、感謝の念に堪えません。今回の企画には嬉しい誤算がありました。当初は「ジュヴナイル」というジャンルを殆ど需要のないニッチな領域と捉えていたのに、38篇ものご寄稿を頂き、しかも内容の濃い、手応えのある力作ばかりで、心を鬼にしないと全篇ご紹介しなければならなくなってしまいそうな充実ぶりに驚かされました。

→ https://kakuyomu.jp/user_events/16817330661963422268?order=published_at

最初は、「ジュヴナイル」なんて、競馬ファンか特殊な書き手にしか通じない言葉かもしれないとさえ惧れていたのに、こんなに多くの方々から愛されていたのだと再認識させられただけでも、この上ない嬉しさを覚えずにはいられません。もうひとつの誤算は、少しでも多くの方にご参加頂きたくて文字数制限を外したところ、何十万字という大長編やそれに準ずる長編作品を何作もお寄せ頂いてしまい、そのこと自体は実に有難いことだったのに、ただでさえ遅読みの友未のペースが全く追いつけなくなり、感謝の悲鳴を上げてしまったことでした。長編作品に関しては最低2万字まで拝読しますと最初にお断わりしてはおいたものの、50万字の作品を2万字読んだだけでご紹介するなど無茶苦茶なお話ですので、せめて半分くらいまではと読み進めていくうちに、思いがけない私事多忙などとも重なり、さらに、短編作品についても、いつも通り時間を置いて二度読みさせて頂いておりましたので、その後の自主企画への対応を優先して行くうちにこんなに遅くなってしまった次第です。重ね重ねお詫び申し上げます。

 さて、今回は、あれやこれや、ご紹介しておきたい作品が多すぎて収拾がつきそうにありませんので、思い切り目の粗いふるいに無理やりかけた上で、お薦めしてまいりましょう。


 ∮ ぼくらのクリーチャー観察日記/綿雲さま 

→ https://kakuyomu.jp/works/16817330662229103894

あぁ、楽しかった!個人的な好みでイチオシさせて頂きます。一言で言えば、臨場感あふれるドタバタおバカ冒険SFジュヴナイル!隕石の影響で地球に発生した「クリーチャー」と呼ばれる新種の生き物たち用の研究所でアルバイトとして働く「動物まっぴら」な高校生ユウと動物大好きな相棒マコの繰り広げる波乱万丈のお話です。全篇にバディものの可笑しさとカリカチュア的スプラスティックがあふれ、なぜか古き良き時代の懐かしさまで留めていました。海も生き物も潜水艇も大好きなので、一緒にライブで冒険している気分です。舞台が地球上であったり、身分がアルバイトだったりと、身近に感じられるのも憎いです。ごく部分的に小さな文章の乱れを感じたのもご愛敬。作者の紹介文には、このふたりが「不思議な生物「クリーチャー」とふれあい、冒険し、成長していく物語。」とあるのですが、こんな調子で本当に成長していけるのかどうか、失笑させられてしまうでしょう!


 もう一つ、

 ∮ 甘人、来たりて/そうざ様

→ https://kakuyomu.jp/works/16817330650859206972

も無茶苦茶友未好みで、壮絶な一撃を喰らわされました。物騒きわまりない作品です。夏休みに父親と共にはじめて帰省したユウ君が、二つ年上の中学生の従兄弟のカッちゃんに教わって「甘水」という蜜液を作り、カブトムシやクワガタをつかまえに森へ出かける最初の章が完全に児童文学なのに、実は児童文学どころかジュヴナイルさえ平気で跳びこえてしまっているとんでもないお話です。ユウ君が深夜の森で見た奇怪なその異形の光景は一体何だったのでしょう。そして、ユウ君のこれからの人生は … 、読む者を子供と大人に二分する試金石のような作品で、「ジュヴナイル」をテーマに掲げた主催者が、こういう絶対にジュヴナイルでない(断言します)作品に嬉しがってしまってどうするのかという非難は覚悟の上で、それでも、おとなより、むしろ子供に読ませたくなった物語だったと、断固主張させて頂きます。突然おとな世界に投げ込まれた子供の戸惑いを追体験させられました。


 一方、

 ∮ 日南田 ウヲ さまの 「向日葵を探しに」

→ https://kakuyomu.jp/works/1177354054921842703

は、日南の山村地域と向日葵を背景に綴られた唯々ハートフルな堂々たる本格児童文学で、思春期の少年たちの冒険と別れと旅立ちが、しっかりと地に足の着いた生活感情や自然描写と共に共感豊かに織り成されて行く7万5千字に及ぶ大作を完読させて頂きました。《この手紙を拾ってくれた人。誰でもいいので私のお友達になって下さい。/私は重い病気でずっと家に居て独りぼっちです。だから今まで一緒に笑える友達がいません》鯉を捕ろうと川に入った、主人公の夏生、同じ6年生のガッチとその弟のかっちゃん、6年生のツトムの四人組が、網にかかった小瓶の手紙の送り主を訪ねて、家族に無断で遥かな峠を自転車で目指し、「向日葵の少女」に巡り合う冒険譚。少年たちがそれぞれに抱える重い家庭事情への言及や、仇敵と繰り広げる大喧嘩があったり、蛇に嚙まれてしまったりと波乱万丈です。昭和レトロな、あるいは大正時代と言われても違和感のないほどの懐かしさ(背景の自然の豊かさや人情の素朴さ、殊にお城の中に校舎があるなんてうらやまし過ぎるでしょう!)で一杯なのに、永遠に色あせることのない熱く、切ない少年たちの輝きが進行形で生き生きと胸に迫ってきます。昭和80年代頃のお話だが、少年少女の姿はいつの時代も変らない、とのご返事でした。途中、《追い越して行った二人がまるで僕の最後の夏という駅を過ぎ去った汽車に見えた。/それは勢いよく笑顔を見せて、もう手を伸ばしても掴めない夏が過ぎようとしているように思わせた。》では、感動と懐かしさで胸が一杯になりました … 作品全体は少年時代の出来事を、成人になった作者が振返って書き留めていく形をとっており、事後譚である最終章の、故意にぼやかされた「気を持たせる」筆致に、思わず「もっと懐かしさに溺れ切らせて欲しいのに!」と思わず叫び出したくなりました(笑)。今回の企画にお寄せ頂いた作品中、最も映像化して欲しくなった作品ですが、第39話に挿まれた詩が、この「向日葵を探しに」の全てを完璧に集約していましたので最後にご紹介しておきましょう。さすがに、この作品のためにご自身で作詞作曲されただけのことはあります。


    空に 月が昇り 

    星が 流れて消えた

    OH daring 今は まだ 夢中な子供のままで

    あとすこし 夢を 見させて


    君は 花を抱いて 

    何も 言わずに消えた

    OH daring 今も まだ 夢中な子供のままで

    あの夏の 夢を 見ている


    何が あっても 時は 流れる

    それだけ 僕らが  大人になった

    夢の続きは  あの日の日記の中

    SO daring 二人で 夢を描こう 


    あのながい夏の小路をあるく   

    僕の側に君はいつもいてくれた


    OH daring 今は まだ 夢中な子供のままで

    あとすこし 夢を 見させて

    OH daring 今も まだ 夢中な子供のままで

    あの夏の 夢を 見ている


 ∮ 雨のち雨のレイ/山田とり様

→ https://kakuyomu.jp/works/16817330658244122298

の冒険は、より内面的なもので、アイデンティティー探しの物語と呼びたくなりました。中一の三月、放課後の教室の窓を乗り越えて「空に飛んで」死んだ同級生の親友、撫子なでしこと、一緒に転落して今は保健室登校している主人公の少女はこべと、雨の日にだけはこべの前に現れて、想い残りの、魂揺たまゆらの世界へといざなう正体不明の少年レイによって、混乱した手探りのドラマが繰り広げられて行きます。少年は何者ではこべに何を求めているのか、たまゆらの世界と現実の学校生活を並行して生きるはこべは、それぞれの世界で何を見、感じ考えるのか。8万2千余文字を完読させて頂き、瑞々しい女性的、というより少女的感性の、透き通った掘り下げに打たれました。時には、間違って婦人用下着売り場に迷い込んでしまったような気恥ずかしさや戸惑いを覚えるほど純粋でまっすぐで憧れと予感に満ちた世界でしたが、決して少女趣味ではない自分探しに満ちた作品です。本線からは少し離れた部分でも、時折り挿まれるクスッと可笑しな会話や、ハムスターの「豆だいふく」の愛らしさがご機嫌でした。


もうひとつ、

 ∮ 修学旅行で出逢った、君と…/もってぃ様

→ https://kakuyomu.jp/works/1177354054888590698

も上記作品と共通点の少なくない、非常にしっかりした文章で書かれた物語でした。もってぃ様ご自身による概要が、これ以上は手の加えようのないほど完璧な物でしたのでそのまま引用させて頂きますと、「個人的な問題を抱え、日々に距離を置くように生きている高校生、宮崎良樹は修学旅行で京都を訪れた自由行動の日、満員のバスで老人を先に乗せ、一人乗車できなくなりクラスメートとはぐれてしまう。仕方なしに一本後のバスを待つことにし、そこで同じように独りでバス停に居た制服姿の女生徒、中里宏枝に気付く。/初夏の京都を一緒に歩き、お互いの想い出の中に自分を写していく二人。しかし、彼女にはもう時間がなかった……。」というお話です。そして、こちらも前半の純文学的な筆致から、自分探しの方向へと掘り下げられて行く展開が当然期待されたのですが … 。後半、がらりとファンタジー化されたまま終ってしまったのがあまりにも意外で、正直、肩透かしを喰った印象です。この作者なら、もっと巧くまとめられて然るべきだと思うのは友未だけでしょうか。ですが、まずは「出逢った後に 6、7」や、「また逢えて 1」の筆の冴えを御覧いただかなければ!


 ∮ 「ユリって雑草だよね」/ちありや様

→ https://kakuyomu.jp/works/1177354054934146841

は、何かを掘り下げるというより、青春の一コマを見事に切り取ったあまりに切ない断章です。まぎれもない悲劇なのに、ラブ嫌いの友未にも全く抵抗感のない不思議な爽やかさを持つ喪失譚でした。


 ∮ すべて孤独は音もなく倒れる/ぶざますぎる様

→ https://kakuyomu.jp/works/16817330650196253305

の場合は、もはや自分を探るのではなく、自分という疎外定理を世界に演繹し、還元して行くが如き私小説です。真夜中に目を覚ましたひとりの男が体の自由を失っていることに気づき、尿意と吐き気に襲われるまま、為す術もなく汚物にまみれて独り布団の中で朝を迎えて死を思い描くという凄惨な冒頭のシーンにはじまり、転校先の中学校で無視やいじめに会って来た根暗な自分の姿や、これまでの人生のなかで二度とないほど親切にいたわってくれた先輩の女子生徒ヨシダのエピソードを走馬灯のように振り眺める内容です。「誰もいない森の中で木が倒れたら音はするのか」「森の中で木が倒れても、観測者がいなければ倒れようと倒れまいと同じことである。」「おそらく今もどこかの森で木が倒れているのだろうが、私にはその音が聞こえない。」(以上、原文より)この作品の魅力は救いのない疎外歌である点で、たまには救いのない言葉も良いものだと痛感させてくれる何かを確かに孕んでいます。

「ほんとによ、なにもかも、なにもかも、クソみてえだな」(原文より)


 ∮ 命名/われもこう様

→ https://kakuyomu.jp/works/16817330662035706525

は、極めて詩的な友未好みの佳篇です。やはり完全な純文学で、好むと好まざるとにかかわらず大人たちの中で自分として生きて行かなければならない「わたし」のよるべなさが、不条理なまでに美しい朝の景色のなかに浮かび上がって行きます。人や物に名前を付けることは、座標上の原点を与える行為であり、孤独からの救いでもありえますが、その意味でこの物語には未だ名前がないのかもしれません。


 ∮ 鈴鳴りの舞最新/浜鳴木さま

→ https://kakuyomu.jp/works/16817330662313802048

は、不当に読まれていない中編です。友未自身の評価を除くと、💛3名、コメント0、★3つという反応はどう考えても異議ありです。筆力の豊かさが存分に発揮された、読みごたえたっぷりの佳篇なのに、5話26,917文字という微妙な長さや、重厚精緻な文体が逆に敬遠されているのでしょうか。確かに、細やか過ぎる描写のために誰がどちらを向いているのか掴みにくかったり、後半、論理的な煩わしさを覚えたりした部分もなかった訳ではありませんが、民話風の神秘性や耽美性にどっぷりと浸り込める深く妖しい幻想譚でした。殊に、第一章から第二章、また第三章と描かれる幼馴染の桜の、舞姿の見事な描写に強く惹かれました。文章の美しさを深呼吸させて頂くような前半です。こちらの作品についても、作者ご自身の手際よい紹介文を全文引用させて頂きますと、「地元の神社のお祭りで披露される稚児舞に、一緒に舞手として参加していたことがある幼馴染の少女、美織と桜。/桜はまた美織と一緒に踊りたいと願っているのに、美織はなぜかそんな桜にそっけない様子。/最後の稚児舞を舞うことができずに舞手を卒業した二人の少女が、ある夏の山中で遭遇した不思議な体験のお話です。」後半のファンタジーは薄気味悪くてホラー好きの読者必読です。


 ∮ 宇宙魚と地球蝶/まさみ様 

この作品、もう一度読み返しておきたかったのですが、現在カクヨム上には姿が見当らず残念でした。幻想感とシリアスな哀しみとの印象的な作品でした。確か、環境汚染のために生物たちの棲めなくなってしまった宇宙を背景に、主人公の少年の父親の生み出した宇宙魚や、絶滅して行こうとする蝶の姿ゆえに自ら地球に留まることを選んだ祖父たちのエピソードの交錯して行く物語だったように思います(記憶違いならお赦し下さい)。主な舞台として描かれた熱帯植物園?のイメージがひと際鮮明に残っています。


 ∮ 西の風が吹く/朝吹さま

→ https://kakuyomu.jp/works/16817139559136528639

は、友未の企画でも、これまで一作しかお寄せ頂いたことのなかった西部劇でした。顔なじみの悪党団のボスから誘われた悪事への加担を断り、その妹と駆け落ちして追われる主人公の男の逃避行の顛末を描いた痛快にして渋くもスマートな短篇です。筋書き自体が特にユニークだという訳ではないのですが、文体やプロットに隙がなく、読んでいること自体が楽しくなるこれぞザ・エンタメ作品でした。もちろん「大団円」です。


 さて、最後は二つの大作にトリを取って頂きましょう。


 ∮ 十月のイザヨイ/橋山直樹さま

→ https://kakuyomu.jp/works/16817330660437879818

「大異変から数百年。内陸の辺境のため難を逃れた央州には、初潮前の少女を一人だけ選び、イザヨイという神として祀る風習があった。異変前からの住民・ラト族と、異変後の避難民・セト族には身分差があり、たびたび争いになっていたが、十年前の革命を機に不公平が解消されようとしている。

 ダイム教の修行僧で混血の少年ジリスは、地下で見つかった旧時代の記憶板を解析するため、首都ダルバートを訪れた。だが、最高司祭・真海にも手が出せず、より設備の整った天文方へ行くよう促される。イザヨイの侍女・神無の護衛も兼ねることになるが、王家の生き残りを奉じたラト族の過激派が、赤月党を名乗り女神の館や旧王宮を占拠してしまう。

 二人は無事に目的地へたどり着けるのか。そして、女神イザヨイとは何者なのか。」(作者による紹介文全文)

 なんと壮大な物語でしょう。157,845文字という文字数にふさわしい、あるいはそれを凌がんばかりのスケール感に圧倒されました。ただし、この物語には一点、友未にはどうしても了承不能の論理があって、途中でひと月ほど、全く読み進めなくなってしまった期間がありました。にもかかわらず、この作品が傑作である点だけは迷わず保証させて頂きます。さて、この大作は確かにSF作品なのですが、前半部には、むしろ歴史小説めいた手応えがありました。この部分に歩みの遅さや、掴みの悪さを覚える向きも少なくないのでしょうが、友未は全く逆に、その重厚精緻な文章表現と世界観にすっかり心奪われました。こういう文章を読んでいると、ストーリー展開など、もうどうでも良くなってしまいそうなほどです(余談ですが、ご寄稿作品を拝読する際、友未は読んでいてこれはと感心した単語や、知らない言葉、知ってはいても自在に使いこなす自信のない巧みな表現などをパソコンの「ことば帳」と名付けたファイルにメモして行くのですが、多分この「十月のイザヨイ」ほど多くの言葉をメモした作品は過去になかった気がします。ただしこの「ことば帳」、実際には役に立った試しがありません)。また、物語がサナギから抜け出した蝶のように真の姿を現す瞬間のアッと息を呑む驚きや、SFとしての面白さにもこと欠きません。

 そやのに、何でイザヨイに選ばれた神無自身が、自分をイザヨイではなく、イザヨイの侍女やと思てるねん!?この作品には細かい点では他にも幾つか、途中で引っ掛かったり躓きかけた部分もありましたが、最後まで読むとほぼ「回収」されていたのに、この点だけが全くわかりません。いい加減な作者がいい加減に書き飛ばした作品であったり、いい加減な読者が読みとばしているのならともかく、この場合、作者も読者も立派なものなので(はい)、一層不可解です。どなたか、この謎を解いて下さる第三者はおられませんか?


 現時点で唯一完読できていないのが


 ∮ 九十九の黎明/GB(那識あきら)様

→ https://kakuyomu.jp/works/1177354054882868129

「その知識は、本来お前が持つべきものではない――


筆写師見習いの傍ら、地図制作を請け負うウネン。領主の依頼で仲の悪い隣領との境界を測量することになった彼女は、護衛を探すために訪れた酒場で一人の旅の剣士と出会う。

ウネンが過去に作った地図を手に、剣士は「測量技術を誰から教わった?」と詰め寄ってくる。彼は、三年前に失踪したウネンの師匠を罪びとだと言って探していた。


師の犯した罪とは何なのか。彼が持ち出した門外不出の知識とはどのようなものなのか。

恩師の無実を証明すべくウネンの旅が始まる。


――小柄で男の子と間違えられてばかりいる地図屋の少女と、少女の師匠を追う腕利き剣士(口下手で苦労性)と切れ者魔術師(笑顔が胡散臭い)との、世界の秘密を巡る冒険譚。」(以上、作者による紹介文より)

533,834文字に及ぶ超大作で、全12章+番外編、計93話中、まだ4章計35話までしか読めていませんが、奇をてらわず寄り添うように語られて行く生粋のジュヴナイルです。読みはじめた頭初、友未はこの物語の性格を掴み切れず、面白さを思い出すまでにしばらく時間がかかりました。舞台設定は中世ヨーロッパ風で魔法の登場する異世界もの、というテンプレ系にありがちな感じでしたし、文章は凄みのある「十月のイザヨイ」より遥かに優しく、登場人物も好い人だらけ、能力も「測量の知識」という地味なものでしたから、何だかつかみどころがないなあという印象でした。でも、違うのですね。読み進むにつれて、これは良い意味でアナクロな作品なのかもしれないと気付かされました。基本的に人の善意や友情の信じられているポジティヴさを感じます。時に悪意や凶事に出遭っても、物語の底に透明で純粋なものが宿されている気

がしました。随所にヒューマンなぬくもりやジュヴナイル的良心のようなものを感じるのですね。気が付くと、友未もいつの間にか少年時代のように物語の中へ誘《いざ

な》われ、彼女たちと一緒に旅をして、みんなの息遣いに触れていました。展開としては旅先や道中で様々な問題を切り抜けたり経験を重ねたりして話が進んで行くのですが、そこに仕掛けられた大小とりどりの謎 —— あるものは局所的な、あるものは全編を貫くような —— が心憎くて、ミステリーのように読み継がされて行ってしまいました。また、登場人物の描き分けが行き届き、それぞれの性格に基ずいた会話に、ついクスッとか、ニタッとか、笑わされてしまうはずです。幼さを残しながらももの怖じしない主人公の素直さに胸がすきます。しかもこちらの文章、平易そうなのに気付いてみれば「ことば帳」に山ほどメモさせられてしまっていました。この先、どんな旅が続き、何が待ち構えているのか、愉しみに読み進めさせて頂きましょう。


今回のご寄稿作品はいずれも驚くほど粒ぞろいの内容で、他にも、月とレンズ/いいの すけこ様、九分後では早すぎる/りんごのタルトさま、Bad Boys Symphony/鐘古こよみ様、ひるとよかぜ/ハヤシダノリカズさま、など愉しい作品や、キャプテン・フック/みりあむ様、のような問題作もあり、どの作品を紹介したものかとさんざん悩みぬきました。贅沢過ぎる話です。

 また、予定を3カ月も遅れての更新となってしまったにも拘らず、数多くのご声援に励まされて、ようやくこの形にまとめられましたこと、心よりお礼申し上げますと共に、いま一度お詫び致します。なお、新たにページUPする形での更新となりましたが、皆様に頂いた💛マークの激励や148件ものご訪問が嬉しくて、更新前の「ジュヴナイルの里 第1回」のページも下書きの形に戻してそのまま保存させて頂いております。

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