ストックブック

友未 哲俊

児童文学の里 第1回

今回、友未の好みに特にマッチした(形で言えば三つの☆を献上させて頂いた)作品を6篇、以下にご紹介させて頂きます。


真っ先にお知りおき頂きたいのが、木村恵子さまの「ヤ子シリーズ」という幼年童話です。春の世界を背景に、幼いヤ子と仲間たちの紡ぎ出す無心なエピソードは、あどけなさ過ぎて、読む者の顔をほころばさずにはおきません。この、愉しさと可笑しみと詩情を抱いたミクロコスモスを、ただ刺激的でないというだけの理由で見過してしまうのは一つの罪でしょう。幼年童話の桃源郷のようなお話です。どの時代にも護られなければならない無垢な童心を、世のお父様、お母様方には是非、幼い子供たちに読み聞かせてあげて頂きたいと思いました。


koumotoさまの短編「階段のショーペンハウアー」は今企画中、最も衝撃的な作品でした。象徴性と、詩的な切れ味を兼ね備えた爽やかな神品です。自分が今ここにあることの意味を悟らされた気がします。そのまま子供の無意識にとび込んできそうな最高の児童文学でした。ショーペンハウアーの台詞が「幸あれ」である点が見事です。koumotoさまの作品目録は、死体ゴロゴロ、死臭プンプンのようですのでご注意を。


文章の人懐こさと、主人公の愛らしさにただただ唖然としてしまった古博かん様の「茶色のこびん」にも、同様に、尋常ならざる共感を覚えずにはいられませんでした。破目を外さない格調があるくせに可笑しみだらけの、実に気の利いた快作です。ビン一家のコックニーや、最後のとっぴんぱらり、読者への直接の語りかけが悔しいほど楽しく、まるでソナタ形式のような再現部まで備えています!スゴイ。


麻々子さまの「うなぎの寝床にはうなぎの時が刻まれる」は、その長々しいタイトル(損をされているのでは?)にもかかわらず、今回の全作品中、最もシリアスな作品の一つで、むしろ地味と言って良い、真実味のある文学ファンタジーでした。古都京都を舞台に、母親から離れてひとりで暮すことになった思春期の少女が、魂の飢えに苛まれながら学生運動をさまようひとりの過去の娘との触れ合いを通じて、自身の明日へ踏み出して行く姿を飾り気のない率直な文章でていねいに辿って行きます。腰を据えて主人公に寄り添って読んで行かなければならない中篇でしたが、文学したい日にはうってつけの胸の熱くなるヒューマンドラマでした。ファンタジーとしても秀逸です。


最後に二つ、文章や書法そのものに呆然と見惚れてしまったのが、メグさまの「星詠みと流星」と、まりる様の「アフタ・スクール」でした。共に字数が多いため、2月23日現在、最初の部分しか読めておらず、レビューもまだ書けていない状態なのですが …


最初の章しか読めていないメグさまですが、それだけで充分な気さえしてきます。文章そのものがすでにファンタジーでした。ストーリーなんてもうどうでも良いから(すみません!)、いつまでもこのまま浸り続けて溺れてしまいたくなるような文章です。たおやかで、ほの暗く冷たい色彩を帯びた和声が、ただただ美しいの一言でした。この文章に耐えられるだけのストーリーは、ちょっとやそっとでは作れそうにない気がするので読み進めて良いのか心配なほどです。


一方のまりる様、これまた、最初の「青の目」しか読めていませんが、怪しいくらいの鮮やかさです。スタイリッシュで、キュートと言えば良いのか、クールと讃えるべきなのか、憎らしさ一杯でした。歯切れが良いのに文章がしっかりしていて浮つく所がありません。ホラーのくせに怖さ以上に粋(いき)なのが赦せませんでした!こちらは一話読み切り型連作のようですので、ストーリーもしっかり楽しめました。

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