どんでん返しの里 第1回

 「どんでん返しの里」へのご参加、ありがとうございました。

 今回は、最終的に39名の皆様のご寄稿を頂くことができました。

 「 正反対にひっくり返すこと。話・形勢・立場などが逆転すること」「話の展開や物事が正反対に変わること。立場や形勢などが逆転すること」「話や状況などの展開が正反対にひっくり返り、ものごとが真逆に展開すること」等々とあるように、「どんでん返し」とは本来、読者の予想をひっくり返すことを意味する言葉です。野球で例えれば、九回裏、ツーアウト、ランナーなし、ノーボール、ツーストライクの状況から10点差をひっくり返す大逆転のようなイメージです。所が、今回お寄せ頂いた作品の多くは、「野球だと思って観ていたら、実はサッカーだった」「ゴルフだった」「八百長だった」というような方向で驚かせるタイプのものでした。その結果、友未の差し上げたコメントの中に「どんでん返しとは少し違うかも」といった類の感想があふれ返ってしまい、作品をお寄せ下さった皆様の中には、「何が違うの?」とか、「この人、理解できているのか」と不審を抱かれた方もいらっしゃったかもしれません。友未の意見はともかく、これだけ多くの方が、単に「意表をつく思いがけないオチ」を指して「どんでん返し」という言葉を使われているのですから、それがこの言葉の最近の用法なのはまちがいないでしょう。まぁ、何であれ意外性のある作品は大好きですので、個々の作品について敢えてこの点での深追いは致しませんでした。友未の中で「どんでん返し」とはそういうニュアンスの言葉だった、というだけのお話です。

 さて、正直申し上げて、もし友未がミステリー作家か何かでしたら、自分の作品を「どんでん返しの里」に投稿することにはあまり気が乗らなかったかもしれません。「このお話には落し穴がありますよ」と予め宣言しておくことになる訳ですから、考えてみればいかにも酷で無粋な話です。読者だって、できれば予断を持たずに、何も知らないまっさらな状態で驚かされたかったでしょうに。トリックやオチだけが作品の全てではないとはいえ、ネタバレはやはり致命傷になりかねません。

 そんな中で、どんでん返し作品であると分っていながら、友未が唯一、本当にどんでん返されてしまったのが、まさか様の「新型コロナ怪談」でした。わずか二千字にも満たないシンプルな日常掌編で、ここでは不思議なことは最後まで何ひとつ起りません。が、そのこと自体が実は真性のどんでん返しになっていて見事に騙されてしまいました。会話文の配置にも工夫があり、きっとミステリーの達人さまではないかと拝察いたします。結末を読んでしまった後でも、二度、三度と読み返したくなる鮮やかなお手並みでした。赤伊 正広さまの「バス停の傍で見たものは」は、一部これと重なりそうなオチながら、もっとシンプルな展開なので、驚きはあっても騙された感はないかもしれません。ですが、そのかわり、ちょっと切ない掌編でした。なるほど、そういうことだったのか …  と、主人公の少年が可哀そうになるはずです。同様に、都鳥さまの「夏が過ぎたら」も切なく心に触れて来るショートショートです。ラストの「萎びた」の一言が見事な切れ味でした。

 いずも様の「Vライバーになるためにイチから頑張ったお話」は、しっかり構成された物語ですが、ラインやツイッターさえしたことのない友未にとっては、最初は少々とっつきにくいお話ではありました。「Vライバー」とは「YouTuberの中でも3DCG配信者をVTuberと呼び、さらにVTuberでもYouTubeではなく他のライブ配信アプリによるライブ配信を主として活動する者をVライバーと呼ぶ」のだと作中で紹介されています。バーチャルなキャラクター同士による双方向のライヴ通信ですね。このSFの素晴らしいところは、単にどんでん返しがあるというだけではなく、登場者の憧れや恋愛感情がまざまざと伝わって来ることでしょう。友未はアシモフの「I ROBOT」中のエピソードを思い出しました。科学と恋愛のヒューマンドラマSFです。ちなみに終章(第6章)は、「蛇足をあえてしっかりと書き切ること」を目的に書いたもの、というご返事でした。乾燥バガス様、「我思う、故に訳あり。」も、ヒューマンな後味のSFで、読み終えた後、冴えた筆さばきで描かれていた冒頭のユキの描写を、世界観的に味わい直させていただくことができました。ただし、理屈好き、議論好きの読者向きで、一般の読者には少々しんどいかと。@kamikawa2001さまの「俺は、この世界の造化」では、ラストでシュールっぽかった直前までの世界観そのものが覆されてしまいます。「俺」は確かに創造と破壊の神でした。信じている純粋な彼女が可哀そう …

 GB(那識あきら)様、「楽園の手」はまさに天衣無縫です。今回のSF作品の中でもひときわ抜きん出た傑作短編で、友未も唯一、☆を3つ贈らせていただきました。何より「手」たちのイメージが、幾分不気味ながらもシュールに美しく、この上なく精緻なその描写と共に、強烈なインパクトで独自の世界観を形作っていました。曖昧さのないこなれた文章で、痛みを含んだラストがシニカルです。

 「スイート・ライムジュース」一初ゆずこ様は、全く異なる作風ですが、友未はちょっと気に入りました。純文学風のエンタメ、あるいはその逆の作品で、主人公の視点の動きの描写が面白く、どんでん返しにも単なるオチとは呼びたくない驚きがありました。結末がストンと落ちてきます。全てを凝縮させたタイトルが友未好みでした。もう一つ、遙夏しま様の「Writing dream & 彼女」も味のある心理描写に苦笑させられました。犯罪や大事件が起こるわけではありませんが、もの書きとして結果的に成功してしまった「俺」の困惑や戸惑いの心情が、皮肉な苦味を醸しています。オチは前々回「芸術と通俗の里」のつるよしの様「模範的な関係」的ですが、必ずしも物語の本質に直結するものではありません。そのつるよしの様の「時計の死」もまた、なかなか皮肉な寓話です。説得力満点の逆説を楽しませていただきました。

 どんでん返しと言えば、もちろんミステリーぬきにしては語れません。風梨 りん様「Reversal」は、スラム街を背景に展開される少女連続殺人事件です。ずば抜けた文章力で描かれる薄暗くよどんだ空気感が、映画のようでした。全編が緊迫したサスペンスに貫かれており、とりわけ、悲劇的で無気味なムードに覆われた第3章が圧巻の迫力です。ただ、わずか三人の登場人物によって進行して行くため、どんでん返しが起きるとわかっていると、悲しいかな先が読めてしまいました。この点、本格ミステリーはSFなどよりはるかに不利です。とはいえ、人間ドラマとしてもよく描き込まれており、ラストの味わいにも捨てがたいものがあります。次の機会には、どんでん返しがあると分っていても騙されてしまうほどの仕掛けをぜひ編み出して驚かせてみせて欲しくなる作者さまでした。

 「理想の姿」矢向 亜紀さまの文章も見事です。ミステリーと呼んで良いのかどうかわかりませんが、サイコパス的な気味悪さを漂わせる謎の展開に巻き込まれて行きました。最後の部分、ホラーな幻想感の広がりを楽しめる読者と、どんでん返し感を薄められてしまう読者の二通りに分れるかも知れません。

 ミステリージャンルはweb上ではあまり人気がないとうかがっていますが、今回は他にも数々の力作をお寄せ頂き、楽しませて頂くことができました。お礼申し上げます。

 泡野瑤子さま。半端な筆力ではありません。「選ばれし者の帰還」は、「選ばれし者」をキーワードに描かれる友情と成長の劇的なファンタスティックSFとでも呼べそうな、様々な要素を含んだ人間ドラマです。しかも、作品の中で、純文学の魅力と、エンターテインメントの魅力が喧嘩していてビックリです!純文学側はエンタメ側に「目障りだから出て行け」と文句をつけていますし、エンタメ側も純文学側に「面白くなければ意味がない」と憤っているようです。文学指数が高いのに変な書き方だなあ、と驚かされました。

 いずれにしろ、風梨 りん様、矢向 亜紀さま、泡野瑤子さまの揃い踏みには、表現力大会のような壮観さがあって圧倒されるばかりでした。それでも、全員が☆ひとつなのは、絶対、友未が才能の凄さに焼き餅を焼いているからだとしか思えません!

 シリアスな文学でも、青瓢箪さまの「追想」のどんでん返しは強烈なインパクトでした。ナチスによるホロコーストを扱っています。一方、みよしじゅんいち様の「あをによし」には、どんでん返しと呼べるほどのオチこそありませんが、いかにも歴史語りらしい滋味に浸れました。未来に向けられた行基様の遠い眼差しに包み込まれて行くような落ち着いたぬくもりが印象的です。両作品とも格調高い文章でした。さらに、一見ミステリー風ですが、「かくれ鬼」戸松秋茄子さまは、むしろ純文学的とも言えそうな内容で、悲しみの中にも、祈りに似たヒューマンな独白が、物を書く全ての人々に向けられた応援メッセージのように暖かく響いてきました。冒頭のエピグラフや第0章も気が利いていてお洒落です。第5章ラストの一文、「何より、どのみち、わたしは遠からず死ぬということだ。」が衝撃的でした。

 最後にシリアス佳品を三つ。

 まず、猫とホウキ様の「謎行動のコックリさん」。二転三転とはまさにこのことです。これだけたたみかけられると、「どんでん返し」の定義なんてどうでも良くなってしまいます。どこまでされるのですか …  @Ak_MoriMoriさま、「『データが消えた!!』」。新入社員、渡辺さんの「今まで、黙ってたんですけど、私、時間を・・・少しですけど、過去に戻す能力があるんです。」にずっこけてしまいました。おしまいに、lachs ヤケザケさまの「時奪いの魔女とあなたの話」は決して読んではいけません。気づいた時にはもう手遅れです。



 


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