マイ・ベスト短編の里 第1回

 この度はマイ・ベスト短編の里へのご参加ありがとうございました。おかげさまで最終的に32篇の名作たちにお集り頂くことができました。実際にはその倍近くのご寄稿を頂いていたのですが、文字数条件か恋愛禁止条項(ごく一部、ラノベ禁止条項)かのいずれかに触れるため、多数削除させて頂きましたこと、お赦し下さい。

 文字通りのマイ・ベスト短編を選べと言われたら友未自身でさえ悩み込んでしまいそうな困ったお題でしたのに、少なくとも、作者ご自身にとって非常に大切な作品の一つをお寄せ頂いたに違いないことが、文字の向う側からひしひしと伝わってくるほど力作ぞろいの内容でした。企画名に恥じない素晴らしいレベル内容に盛り上げて頂けたこと、深く感謝いたします。

 さて、その中で、今回まず最初にご紹介しておきたいのが、友未のアンテナにとりわけ鋭く訴えかけて来たふたつのイチオシ作品のうちの一つ、koumotoさまの「ホログラムと少年」というSFです。人類の絶え果てた世界に残されたアンドロイドの少年が、廃墟をさまよい生きて行く孤独な物語です。koumotoワールドとでも呼ぶべき終末観と静謐な翳りの深さの虜になりました。「幻想の里、怪奇の里」の「放課後モノクローム」の場合もそうでしたが、単に寂しいとか、暗いという言葉だけでは片付けきれないわびしい詩情を宿しています。ストーリー性に乏しいこれだけの長さの作品を単なるイメージの羅列だけに終わらせず、まとめ切っている見事さに唸らされました。「エイン博士は人間を愛していなかったし、少年もエイン博士を愛してはいなかった。それでも、少年は博士の残像をその記憶から消すことはないだろうし、形見の外套が、すりきれて使い物にならなくなったとしても、継ぎをあてながらでも纏いつづけることだろう。」

 SF作品では他にも二つ、印象深い作品に出会うことができました。クララさまの「海のチャーム〜白き輝きが僕らを導くとき〜」は、真っ白な色彩と澄んだ風の音の別世界の物語です。美しい生理を次々に紡ぎ出して行く言葉たちまでまっさらでした。ラストでは遠い遠い過去に向って馳せられようとする懐かしい想いと、今日と言う日が同じ様に遠い未来へと続いて行く新たな出発点だという希望が爽やかに響いて来ます。我那覇キヨ様の「ReadMe.txt」は文章、プロット共にゆるぎなく書き込まれた現代、あるいは近未来本格SFで、人の複製を扱っています。最後の部分、友未は切ないぬくもりを心に禁じ得ませんでした。また、人のいなくなった世界でコピー人間たちだけが連綿と日常を営み続けて行く風景を思わず想像してしまいました。冒頭の一文と、最後に三つのさりげないエピソードが置かれている点だけからでも作者のセンスの見事な冴えが窺えます。ただ一点、疑り深い友未に伏線を隠したまま、ラストで思い切り突き落として頂きたかったのにと、そこだけが残念です …

 単純に感動したとか、惚れ込んでしまったというのとは全く違うのですが、深川夏眠さまの「小袋逸聞 -Bloody Codpiece-」は怪し過ぎるというか、無茶苦茶気になるというか、忘れようとしても忘れられなくなるトラウマ作品でした。まず第一に、「コッドピース」という奇怪すぎる歴史上のファッションが登場します(深川さまもこのファッションを絶対面白がっている!)し、内容も、男として育てられた12歳のお姉さんが女として育てられた12歳の双子の弟くんにある出来事から嫉妬して、オチンチンを切断して殺害するという今日でもよくありそうな(ない!)さわやかなエピソードを含むものです。この物語は過去と現在の二部構成をとっており、友未は、いわばお口直しにあたる終盤の部分に、作者の意図しなかったミステリーとしてのポテンシャルを強く感じました。深川さま … なかなかポーカーフェイスな雰囲気があって、悪くありません。

 えげつなさでは、広河長綺さまの「LGBT過剰配慮のサラダ(夕喰に昏い百合を添えて7品目)」と、江山菰さまの「あなたのように」、中田祐三さま「『そして私は神を続けることを誓う』」の三作も負けていません。「LGBT過剰配慮のサラダ 」は、作者自身の概説に「ポリコレのためにさらなるマイノリティを目指す偽装百合カップルの狂気」とある通りですが、実際に読んでみますとまさに鬼気迫る凄まじいホラーでした。「あなたのように」は、女主人公が、ある「友人」につきまとわれて次々にどこまでも真似をされ続けて行くサイコパス・ホラーですが、その結末は、運命のブラックユーモアとでも言いたくなる皮肉さに満ちたものでした。「『そして私は神を続けることを誓う』」は、これまた、新興宗教に洗脳された妻を再洗脳したために、今度は逆に自分が妻から神として崇め続けられることになってしまった夫のえぐ過ぎる日常を描いています。妻の敬虔な信者ぶりはとても悲喜劇と呼べるような生易しいものではありません。友未が彼なら、即、家出(出家ではありません)するでしょう。以上の三作は、いずれも設定が現代で、ファンタジー要素が全くないため、怖さがリアルです。

 ホラーではもう一つ、ふさふさしっぽ(旧 コーヒーブレイク)様、「二人の少女」も紹介してみたくなりました。こちらは、表現やイメージに俗ながあるくせに、最後に悲しくなりました。

 今回、友未イチオシの二つ目の作品が古地行生さま、「猪口礼湯秘話」です。猪口礼湯、チョコレートです。「江戸の何処かの岡場所で 格子はさんで客を呼ぶ 女郎はどこからきたものぞ」ヒューマンな悲しみとやさしさに心洗われる遊女譚で、一目で惚れ込んでしまいました。これ、素晴らしいです。途中で展開は予感できたのですが、予想通りになっても、興ざめ感が全くないほど透明なペーソスでした。しかもお洒落で、カッコいい!最初と最後の挿入歌もこなれていて、「初回」とか「裏」とか、お茶屋言葉の小憎いタイトルがまた粋です!芯のある文章なのに読みやすく、お糸が最後に乱れる場面の表現力も実に鮮やかでした。 哀れで切な過ぎるのに、最後は心がすっと救われました。この作品、なぜかコメントもレビューも友未だけなので興味を感じられた皆様はぜひ読んでみて下さい。

 この作品や、「幻想の里、怪奇の里」の濱口 佳和さま「天偏の花」、「芸術と通俗の里」の四谷軒さま「その坂の名」を経験させて頂くと、時代ものや歴史劇をものする方々の実力の高さに驚かされます。その、おふた方、今回も読み応え十分の力作をお寄せ下さいました。濱口 佳和さまの「捨て鉢くじら」は内藤新宿を舞台に旗本次男坊の放蕩者、破滅型無頼漢の内藤大八と飯盛女おもんの男女の機微がハードボイルドタッチで烈しめに描かれていて味があります。四谷軒さまは今回も本格時代劇、「花倉の乱 ~今川義元はいかにして、四男であり、出家させられた身から、海道一の弓取りに至ったか~」で再登場して下さいました。桶狭間で信長の引き立て役として語られることの多い今川義元が、豪胆なつわもの武将として、新たな視点から洗い直されます。引き締ったハードな文体の魅力もさることながら、桶狭間を前にした終章が圧巻で、作品世界がいきなり広がって行くような視線の遠さを感じさせる余情のラストでした。

 帝政ロシア末期の貴族の少女とその幼い妹の没落した姿を描く「マトリョーシカ」吾妻栄子さま。描写力のすばらしさに唸らされました。一言一言の精確な美しさに息を飲みました。比類ない文章力に脱帽です。ラストでは、はかないペーソスと小さな救いが心に触れて来ました。

 現代ドラマでは二つの物語が忘れられません。藤咲 沙久さまの「誰が為の舞台」は演劇の舞台稽古を背景に、「それはひとの為なのか、自分のための偽善に過ぎないのか」を問いかけるシリアスな内容です。時おり劇中の台詞と現実が二重写しに交錯するような手法で展開されて行く、しっかりと焦点の定まったテーマ作品でした。他者への愛と利己的な欲望の両方を神仏のように包み込んで行けるような生き方はないものでしょうか。凛々サイ様の「世界の線引き」では、心に壁を設けず相手の世界に踏み込んで行ける善意あふれる主人公と、心の線引きを求める孤高な人間との相克と葛藤が手に取るように克明に描かれて行きます。永遠に交われそうにない平行線が、最後で微妙に交差して行く妙味に敬服です。このお話は全体が一匹の猫に集約されていますが、この猫の存在だけで仄かな幻想感まで醸し出されているようでした。

 現代ドラマとしてジャンル分けされている作品のなかに、友未が児童文学と呼びたくなった二つの佳品がありました。いずれも、児童文学と呼ぶには主人公の年齢が若干高く、また仮に児童文学と呼ぶことが許されるとしても「童話」とは呼べない内容でしたので、やはり現代ドラマとするのが妥当かとは思います。ただ、児童文学のようにいつの間にか読み手の魂に浸み行って来るナイーヴな感動に心洗われるエピソードたちでした。鴨ことは様の「四葩の花は」は残り少ない少女の命と、保護された燕の雛のお話です。重苦しくもなければセンチメンタルですらありません。四葩よひらの花(紫陽花)を添えて語られて行く言葉がただひたすら哀しく透き通っていました。悲しみや寂しさにも人に寄り添う力があることに気づかされるでしょう。この作品に☆や❤がほとんどないのは全く不当で納得できません。青海なみ様の「根古柳四丁目2番15号」は逆に、爽やかな懐かしさでいっぱいの、心ぬくもるお話でした。大好きだったおばあちゃんと高校時代の私のちょっとした出来事が語られます。この二篇は読者の心の純度を量る試験薬、かも … (友未の心はまだ純粋でした!)

 同様に、SFジャンルながら(確かに立派な現代SFですが)、Phantom Catさまの「伝統を継ぐもの」も児童文学と呼びたくなるほど楽しいジュヴナイルでした。金沢の風土や、金箔づくり、AIばなしなど、そこだけ読んでも面白い話題をバックに、軽快にテンポよく語られるエピソードが楽しくて一気に読ませて頂きました。

 最後にもう一つ、ライトノベル系ではないかと思うのですが、叶奏さまの「死んでも追放してやるから」。上記の諸傑作にくらべると、表現的に粗削り感はあるものの、充分に楽しませて頂けた友情譚です。文学性や精度の高さも重要ですが、魂のこもったこういう熱い話が友未は大好きです。



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