詩とうたの里 第1回

 詩とうたの里へのご寄稿、ご参加ありがとうございました。今回も、最終的に二十六作品にお集り頂くことができました。二十六と言っても、その多くがそれぞれ数篇から数十篇の詩やうたから編まれた詩集や句集でしたので、少なく見積っても、多分、二百篇くらいの詩や句に出遭わせて頂けたことになるはずです。

 詩を読む場合、多くの方がそうではないかと思うのですが、散文小説の場合に比べて、好みや作品観の違いがはっきり現れがちです。友未が一番苦手なのは、間違いなく、作者の私的な思いが一度も客体として検証されないまま主情的に綴られた憧れや泣き言やおのろけを読まされることで、そんな言葉を押し付けられるくらいなら、その辺の石ころの数でも数えていた方がまだましです。それが、今回「『私』を垂れ流さないセンスの詩」というテーマを掲げさせて頂いた所以です。

 とはいえ、今回も(「も」というのは以前にも一度同様のことがあったからですが)残念なことに、友未の気に入っていた作品が一つ、おそらくテーマにそぐわないとの自主的判断から消えてしまわれるという口惜しい事件がありました。それで、今後のお願いですが、友未の自主企画に参加して下さった皆様は、たとえ少しくらいテーマと違うかなという気がしてきても、友未に強制排除されない限りどうか企画終了まで居座り続けていて下さい。特に💛マークを送らせて頂いた作者様は絶対に脱獄されませんようお願い致します。折角の名作を紹介できなくなってしまいます。友未は単に「読みました」という印やお義理で💛を送ることはございません。友未の💛は「この作品好きです」か、「好みとは違うのに素敵です」のどちらかだと信じて下さって結構です。テーマはあくまで一つの方向づけでしかありませんので、文字数やラノベ、恋愛除外規定ほど厳しく考えてはおりません。実際、「『私』を垂れ流さないセンスの詩」という友未の考えを厳格に本気で適用してしまうと、二十六篇中、四分の一程度しか生き残れなくなってしまったかもしれません。いえ、それどころか友未自身の詩だって怪しいものなのです。友未は素晴らしい傑作に出会いたくて、また、それを皆様にも発見して頂きたくて自主企画を開いていますので、作品さえ素敵なら少々のことには目を瞑る覚悟です。

 いずれにしろ、「石ころの数でも数えていた方がまだましだ」なんて憎まれ口をたたいていると、遅かれ早かれ必ずこういう天罰が下るものだということなんです!


 さて、嬉しいことに今回の企画でも、これぞ友未ごのみという二つの素晴らしい作品に巡り会うことができました。一つはクスクルさまの「木漏れ日のひらめき」という詩集、もう一つは理柚さまの詩集「ある日の日記」です。


  十一階目の屋上に登れば/そこには空まで広がる自由があった//

  見下ろせば夕日の向こうに/観覧車のシルエット/遊具のネオン//

  そこからの喧騒が/微かに風を彩って/帰宅の群れの背中の影も/

  知らない家の窓の灯も/みんな一つに染めている//

  街は何の疑念もない永遠の循環の中/子供が信じたままに閉じ/

  もしもそこに落ちたとしても/失われるものは何もない//

  寝転べば夜の雲は近く/黒馬が胸を付いて飛ぶように/

  そのままどこへでも自由に飛べる//

  でもある時/二人の子供を突き落とし/自分も死んだ母親がいた//

  十一階目の屋上に登れば/そこには空まで広がる自由があったのに/

  それ以来扉は閉ざされて/二度とそこへは行けなくなった//

  ずっと大人になってから/その扉を開いて見ると/

  そこはただ灰色のコンクリートの世界になっていた//

  十一の子供にしてみれば/その扉は一度閉じれば二度と戻れない/

  楽園からの追放だとは/思いも寄らないことだった//

  十一階目の屋上に登れば/そこには空まで広がる自由があった


「木漏れ日のひらめき」の中でもとりわけ印象に残ったこの「十一階目の屋上」は、クスクルさまが11歳の時の実体験をもとに、14歳の時に書かれた失われた詩を復刻されたものだということです。ファンタスティックな深い郷愁と語りのリズムが胸底に沁み渡って来ます。この詩については、詩自体と同じくらい興味深いエピソードを、友未の応援コメントへのご返事として頂いていますので、ぜひ一度、覗かれてみて下さい。この詩集には他にも魅力的な詩があり、どれも、絵で言えば具象画と抽象画の間のような(どちらかと言えば具象画寄り?)言葉遣いがされています。いずれも意味の流れはしっかり方向づけられており、現代詩としてはそれほど難しい、あるいは目新しい訳ではありませんが、言葉の意味が作者によってがんじがらめに束縛されていない自由さがあります。作者によってコントロールはされているものの、言葉と作者の間にブレーキでいう所の「遊び」の部分があり、そこから一種、象徴的な味わいが生み出されて行くように感じられました。


 一方、理柚(りゆ)さまの「ある日の日記」の簡潔でストレートな書法は、友未に百パーセントの共感と賞賛を覚えさせてくれると同時に、「私を垂れ流さない」というテーマにも完璧にかなうものでした。


          春の雪


  雨がみぞれに変わり/そのうち 音が消えて雪になった/

  前にもこんなことがあったような気がする/

  その時は 沈丁花に積もる雪を写真に撮った//

  咲き始めた山桜に牡丹雪が煙る/イエイオンがくちびるを窄めてうなだれる/

  転生することは可能だろうか/

  今日は写真を一枚も撮らなかった


 まとわりつく私情など一片も見当たらない叙景のすがすがしさ。「言葉をして語らしめる」とはまさにこのことです。


          耳をふさぐ


  定型文通りに鳴けない鶯のこえが/高らかに谷戸に響く//

  帰れない、と思うと 帰りたくなる/会えない、と思うと 会いたくもなる/

  もう あまり 好きなひとも好きなものも/増やさずにいたい、などと思う//

  音が出る耳栓を買った/部屋の中では/かすれた声のうたばかり聴いている


 何てキュートなヘソの曲げ方でしょう!しかも、分りやすい。誰にでも分る、すぐに分かるということは、本当に、ものすごく大切なことだと友未は思います。


 所が、です。今回はもう一つ、これだけは絶対紹介しておかなければならないという、物凄い作品に出遭ってしまいました。友未の文学生命をかけて申し上げますが、この作品はこれまで友未の企画にお寄せ頂いた全ての作品のなかで、最も文学性が高く、奥の深い、而して難しい大傑作です!@caprini_さま、「よそふみむ」。秋の草花に寄せる俳句集です。@caprini_さまと言いますと、以前「幻想の里、怪奇の里」に紹介させて頂いた「きみにこいこがれ」の、凄絶な耽美的フェティシズムの異常な美しさと、極めて読み難い文章に衝撃を覚えた作者さまですが、やはり本物の大作家さまでした!この「よそふみむ」、まず、タイトルからして訳がわかりません。お尋ねしたところ、

「よそふみむ、につきまして、明確にこれ、というような意味はなく、

粧ふ/(て)/みむ

他所・外/文/見む

文/踏み/む[意思]

といったあたりの、ばらばらの語のイメージを組み込みたかったのか、過ぎた秋のものでして、既におぼろかなのですが、たしか音がさきにやってきたように思いますので、これらは後付けでしかないやもしれません。"まだふみもみず"、という歌の響きへの連想もあった気がいたします。」

との丁寧な解説を頂きました。この句集は、一見、ついて行けないほど古めかしくも見えますが、よく読むと中世的とも言えそうな古風さと現代的な感性がしばしば奇妙な結ばれ方をしている箇所や意外な烈しさを宿している句もあり、一概に古典的な写生俳句とも、現代俳句とも言い切れない独自の世界が形づくられているようでした。その驚嘆すべき見事な内容にもかかわらず、古典や伝統文学の素養のない友未にとっては、一語一句、ネットを索きながら読み進めて行かなければわからない部分だらけの手強さで、結局最後まで理解できなかった句も少なくなかったというありさまです。一番多かったのは古語や旧字につまづくパターンと、直観的表現に自分を重ねられなかったパターンですが、他にも様々な難しさに悩まされ通しでした。


( ※ 「よそふみむ」等、書籍化に伴い、2022,9,18日をもちまして、以下、俳句紹介部分ほかを削除させていただきました。申し訳ございません)


ですが、💛やレビュー数の少ないこの大傑作の真価を見抜いた点だけは自慢できると思っています。


 最後にあと一つ、これも非常に気になった中田祐三さま、「韻踏詩」から最初の「『 in(韻) 宇宙 in(韻)地球』」を、長くなりますが全文紹介させておいて頂きたいと思います。


いらつく四六時中 そ知らぬまま生きてる途中


気づけば無視できない 見据える先 は鞭打たれる苦渋 それに夢中


息吐く 覚悟は未知数 行き先は見えず 霧舞う 躊躇絶えず


猶予はいらない ならば言うよ? 射抜くように渋く狂うよう 


ああ殺したい殺されたい これしたい? あれしたい? 行き着く道の先 あれ死体? 問題ない 倒れてる暇無い そうなっても恨まない


恨めしい言われるくらい羨ましい 思われる人 それを目指す使徒 たとえ死と近き時でも信仰 進行 新 ロード


夢は寝てみるもんじゃない? 俺は見てる見まくってる毎回案内 されてる 刺されてる ビルの屋上立たされてる そして突き落とされる


あるいは笑われてる起きても寝ても覚めてもだから居ても立っても


がんじがらめに巻きとられ 腕 振り解くよりも握る強く手 滾る無限の筆 毎日憤怒憂慮崩れそういや踏みとどまろう全て飲み込もう。 そして


書き上げる書き上げる喜怒哀楽をぐっと快楽きっと回想 変えよう 回廊 回ろうグルグルと ズルズルと引きずられズブズブでグズグズ涙ぐむ 日々もこれ愛嬌 叫ぼうアチョーと多少華頂少々花鳥風月で 快調告げる まだ大丈夫です  


まどろみ夢見ることはせず窓見ろって言うてみる 向こう側というすぐ傍へ行ってみる いざ行こう さあヒアウイゴーヒアウイゴー おっと言われた うるせえよ だから窓閉めよう 怒られても怒鳴られても困りません というか止まりません なので先に言っとくすいません隙間からでも届かす 脅かす 安眠 勘弁 許して親び~ん!


月は天頂 その下の下で 潜行 作戦行動? 閃光無き世に空けろ穿孔 まずは微量の飛行 天井越え飛翔 星さんちょいさちょいさと跳躍 苦悩は天に手届くほど弧描く 然れども未だ止まらぬ さらにいざ飛んでみまする とまらぬ 止まらぬ 留まらぬ 未だ知りえぬ人ライバル サバイバル ヤバイかなわぬ? ならば頑張ります カーニバルしてても勘ぐり始まる


湿る心を絞める手繰りまくる そして抱きしめる それもまた一部 でもやっぱそれは恥部 構わず愛しくぶちゅっ(笑)ぶふっ! 格好悪い~ 狂おしく韻踏む


むっ? 近づくIN THE MOON 気が付く う~ん? 着地点はどこ?欠く視点 立つ月面 遠くに見えるは水金地火土木天海冥 動転 もう大変 目の前の母星に敬礼 でも綺麗 その表面の海面 胸張って対面 小せえな人間は 痛感 感動 つ~か 帰路は何処? もはや迷子 OH MI GOD! どうなるの? 超ヤバイよ 戸惑いのさ迷い人 迷走 ってか昏倒狼狽 してる場合じゃない?  やってみるしかないじゃない? つ~か これからっしょ!


 それじゃ無重力で夢中の中で夢中に靴底 どっと蹴りつけろ するとボっと飛び立つ 振り切る重力 目論む目標補足 無重力で泳ぐ泳ぐ泥臭く 音無くとも聞こえる 心の声必ず帰ってやる! ふと程なく感じる引力 もうすぐだ韻力で捕まえてfrom地球日本国 捕らえた! 向かった! 見えたスカイタワー からやや上の埼玉県庁舎 会いたかった我が職場! なんて嘘! 言うわけねえだろ 働きてえけど社畜の願望 赤ん坊みたい 心配 無く生きたい んにゃわきゃない つか考えても仕方ない 向かう我が故郷にフルスロットルで降りそそいだる 流れ星のよう落下しとる 燃え尽きる 前にお家帰る 行くぜ! 隕石アタックして 向かう自宅 燃え上がる衣服 


摩擦熱 構わねえっす! 落下して 狭まる視界 迫る地快速 快調 目指そう いざ駐車場 はい到着! BY借地用 売約予定地にようやっと着地 むっ? ぶるっちょぶるぶる 震える NOT 会いたくてじゃなくてああ寒くて 気づく 無垢そうな身体 つまり無装着な裸 ご近所集合 驚く衆目 つまり皆さん注目 見るなチン○○ 気まずさ沈黙 の後 のわっ! と逃げる 揺れるムスコ もミニマムと縮みこむ 真冬のご帰宅 もう困っちゃう 明日からどうしよう きっと回るよ 不審者情報 出不精加速してデブ過食しまくっちゃうだからもう寝ちゃう!というけでハラハラ宇宙旅行 ダラダラ韻作り行動 これにて終了!


          (以上、中田祐三さま『 in(韻) 宇宙 in(韻)地球』全文)


 この詩を最初に一読した時、その混乱錯綜したラップ的リズム世界に迷い込んだ友未は、正直、スルーしたくなりなりました。ですが他の詩を何篇か辿って行くうちに(中にはかなり意味の通る「わかりやすい」うたもありました)、この「韻踏詩」が非常に強烈な表現性に満ちた物である事に気づかされ、いつの間にか刻まれるビートに乗ってしまっていました。俗に垂れ流される言葉たちは、一見、「言葉をして私を語らしめる」の原則に反したものであるように見えながら、実はシュールレアリストたちの自由連想詩のように、まさにその原則に則った一つの典型でさえあるような気がしてきたからです。

 全体に、撥ねつけられながら抗うようなトーンの詩が多く、重みのある言葉が直後に何の意味もない韻や音律によって取って代わられ、茶化される俗っぽさ、軽薄さ、そして何よりビート感自体を武器にして戦う一方、「向こう側というすぐ傍へ行ってみる」とか、「雨と名を変え地表へ」などの文芸的詩ことばがたまに現れてヒヤッとさせて来たりします。リフレインがときおり人懐こく寄り添って来る場面もありました。中田祐三さまご自身は「これは音に乗せてのラップとは違くて朗読するときのリズムを意識して作」られたとのことでした。


 今回は他の作者さまからも抜き書きで紹介しておきたい詩がまだ幾篇もあるのですが、きりがなくなってしまいますのでこの辺りでお赦し下さい。あとは参加して下さった皆様方にお預けいたします。



 




  






















  


 





  
















 






























































































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