幻想の里、怪奇の里 第1回

 今回も友未の自主企画への御参加と暖かい御声援、ありがとうございました。

 おかげさまで最終的に45の佳作、力作にお集り頂くことができました。また、途中退出された皆様も、ご参加、ありがとうございました。

 さて・・・、困りました!嬉しい悲鳴です。どの作品を取り上げて良いものやら収集がつかなくなってしまいました。全く面白くなかった作品など一つもなかったからです。心を鬼にして、参加者の皆様の恨みを買うことを覚悟の上で思い切り絞り込んで行っても、まだ二十作くらいの候補作が残ってしまいます。結局、ここから数作に絞り込むことなど人間業では不可能とあきらめて、今回はその二十作全てに一言ずつコメントを添えて、さっとご紹介させて頂くことで、お赦し頂くことに勝手に決めてしまいました!友未は、結構好き嫌いも激しく、気難しい所もあって、何でもかんでもほめてしまうようなタイプの読み手ではないつもりなのですが、それでも今回お寄せ頂いた皆様の作品の質の高さと、その多様性には驚かされるばかりでした。ここに取り上げなかった作品の中にも、企画の趣旨から少しずれているだけで普通なら当然取り上げられるべきファンタジーや、傑作なのに友未好みではなかったものが少なくありません。本当に充実した企画に盛り上げて頂き、ありがとうございました。

 ♪ 二十作を数作に絞り込むことは無理ですが、一作だけ選べと言われたら、迷わずオロボ46さまの「化け物ぬいぐるみ店の店主、金魚にがしをする。」を挙げさせて頂きます。四本の腕をバックパックに隠した青年とその妹が、味のほどけた縁日で、全員がお面を被った店主たちの視線を受けながら、死んだ金魚たちを破れないあみで受け鉢から延々と逃し続けて行く … シュールで暗示的な不条理世界です。無気味で、はかなげで、孤独で、そのくせどこか人懐かしさを潜ませた世界が完全に友未好みで、一目で魅せられてしまいました。この作品を守るためなら進んで自作を一つ捨てましょう ― どういうシチェーションを想定しての発言なのか、よくわかりませんが …(笑)。夜店つながり、金魚つながりでは、武江成緒さまの「金魚球」が無気味なホラーでした。「禁形魂」 … 。さらに、夜店とは関係ありませんが、目々さまの「回帰」のラストの部分もおぞましいイメージにゾッとしました。

 ♪ 崇期さまの「正常な人がただそこにいる」は二重の魅力のある、ホログラムのような虚像作品でした。福岡県は嘉麻(かま)市にある「手柴美術館」というところに、金子広路重の絵を見に行くエッセイです。金子は自らの作品に、いつも、ありもしないエピソードを添える画家で、「胃の中の動物が見る夢」というシュールなタイトルを持つ絵画 が不気味な幻想世界に読む者をいざないます。美術館を出た後、ひふみん(加藤一二三)や大根の話題に触れて一息つく内容です。が … 。作者自身による種明かしが最初になければ、大方の読者は実際のエッセイだと思ってしまうでしょう。これに対して麻生 凪さまの「落日の眩耀」という不吉な作品では、バルテュスの『決して来ない時』という現実の絵画(https://ameblo.jp/guy503/image-11898039255-13016959500.html)が扱われます。この物語にも崇期さまの作品とはまた違う意味での複層的な面白さがあり、『全文でミステリー、第4話と6話を外して読むと現代ファンタジーになる』上に、それ自体が長編小説内の作中話であるという構造です。騒ぎ立てない静かな筆致の活かされた内容でした。

 ♪ ニャルさまの「顔のない人々に関する考察」はクトゥルフ神話(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%83%88%E3%82%A5%E3%83%AB%E3%83%95%E7%A5%9E%E8%A9%B1)で、周囲の人々の顔がわからなくなって行く薄気味悪さや、遂には、自身がグロテスクな異形の存在に変容し果てて、これが自分本来の姿だったのだと気付く描写が見事でした。ラストはいかにも神話的雰囲気に満たされて閉じられます。もろに気色の悪い描写も面白く、重厚な読後感でした。それとは、また全く異なるのですが、宇津喜 十一 さまの「荊の淵」は、思わずイドの世界のリビドー・ファンタジーと呼びたくなるような幻覚的な作品で、全てが、愛や罪たちが分化する以前の無意識下の出来事であるかのように響きました。宇津喜さまが「混沌とした不条理な世界に生まれた純粋な友情」とおっしゃる以上に、友未は問答の論理学的な面白さと、バラの香気や「手の人」の陶酔と官能の描写に惹き込まれていました。一つ一つの物事が、まるで何かの象徴であるかのように感じられ、海と渚は意識と無意識の境界線のように思われます。今回の企画中、「化け物ぬいぐるみ店の店主、金魚にがしをする。」以外で友未が唯一★★★を捧げさせて頂いた作品でした。心象風景という点では、石濱ウミさまの「箱庭」のラストも忘れられません。箱庭療法そのものを描く物語なのですが、途中でとんでもないことになってしまい、驚きました。世の中、皮肉です。

 ♪ ところで、友未の星★の数には、それなりに何か基準のようなものがあるのでしょうか?私なら「ない」の方に一票を投じさせて頂きたい感じです。噂ではその時の気分次第で、なるべく控えめに贈っているそうです。好きな作者や作品にたくさん付けるとは限らないし、暖かい日は、寒い時より評価が甘くなるとか、ならないとか。さて、koumotoさまの「放課後モノクローム」も★ひとつです。放課後の校舎という狭間世界にしか生きられない少年が、猫の霊と共に獏を退治し、自らの居場所を消して行くという、モノクロームというか、セピア色の印象深いエピソードでした。殊さらに寂しさや孤独さだけが強調されている訳でもなく、新たな終末へと再生を繰り返し続けて行く自らのあり方を「そんな刹那の終末しか与えられなくとも、人生はこれほど楽しいし」と語るペーソスはまさに友未好みです。koumotoさまの作品はどうも友未の体質に合うような気がしますので、きっと、遠い親戚か何かではないかと疑っています。今回は、あまりに手慣れ過ぎた感じが悔しくて★ひとつにしてみました。同様に、深川夏眠さまの蒼白い幻想譚「エニドリオン」も友未ごときの声援など却って失礼になりそうでしたので★で逃げ帰って来ました。

 ♪ 内容の厳しさや文章の風格で堂々と迫ってきたのが夏海惺(広瀬勝郎)さまの「霊障」と濱口 佳和さまの「天偏の花」の両ホラーでした。夏海惺(広瀬勝郎)さまの「霊障」は、形の上ではホラーですが、命への問いかけをはらむ重厚で鋭い作品集でした。全57話にのぼる読み切り型連作短編ですので、最初の三篇しか拝読できていないのですが、どの話にも手応えがあり、特に第三話の「潮騒」はエッセイとしても非常に読み応えのある美しい内容(ただ、現実のエッセイではないかもしれません)で、潮騒の音が単なる懐かしみを超えた象徴的なものとして響いてきます。この秀逸な短編集は、その筆致の峻厳さ故か、pv数に比べてコメントやレヴューの数が不当に少ない気がするのですが、いかがでしょうか?一方、濱口 佳和さまの「天偏の花」は、落ち着いた風格ある文体で綴られて行く時代ものの怪異譚です。モチーフの桜が実に耽美的で、善良としか言いようのないりくの側に実は魔性がひそんでいたのか、それともそこに魔性を見た亡夫の妄念や孤絶そのものこそが魔性であるのかさえ定かではない揺らぎが玄妙です。第六章冒頭で、知らず知らずのうちに引き寄せられてきた視線をふっと引き戻す巧みな遠近法が印象的でした。桜といえば児童文学の里の企画にも参加して下さっていた麻々子さま。今回は前作に「雨降り花」と「熟柿」の二篇を加えた「天神さんの細道は梅の花びらで敷き詰められ」で再登場して下さいました。「雨降り花」には前作同様、淡い幻想感が漂い、「熟柿」の方は一転、うす怖さと哀しみをまとった印象的なお話でした。まだお読みでない方には、標題作の「天神さんの細道は梅の花びらで敷き詰められて」を当企画として新めてお勧め致します。

 ♪ ストーリー性のある作品として、あと一つ、泡野瑤子さまの「鶴のゆく末」の擬古文体には唸らされてしまいました。現代から日露戦争時代の騒乱を振り返る吸血鬼譚なのですが、本当に、大正時代か昭和初期の作品を読んでいるような雰囲気でした。泡野瑤子さまご自身は「文体はなんちゃって感ありますが」と御謙遜ですが少なくとも友未は大喜びです。作者様には申し訳ありませんが、吸血鬼譚であることが目障りにさえ思えてくるくらい、しっかりと書き込まれた内容でした。

 ♪ ストーリー的でない詩的な作品や、シュール系、不条理系短編の御参加はある程度予想できていましたが、これほど素晴らしい作品を幾篇もお寄せ頂けたのは驚きです。呉 那須さまの「さわる」は、今回の企画の全ての作品の中で最も衝撃的で気がかりな内容でした。残酷さと哀しみに彩られた不条理ホラーですが、エンターテインメントとしての怖さというより、マジな怖さに少し退きたくなってしまうほどです。呉 那須さま御自身によるとテーマは「障害」ということで、ある一定の角度に体が傾いた一瞬だけ、世界はこんな風に正体を現すのでしょうか。ねこK・Tさまの「天使の笑い声」は、さながら一篇の詩のようです。シュールというのでもなく、不条理というのとも少し違うようですが、包み込み、包み込まれて行くような愛しみや裏切りを切なく残酷に織りなして行く言葉たちの向う方向に、必然性と強い説得力を感じました。 @caprini_様の「きみにこいこがれ」は、女性みたいな生き物が男性みたいな生き物に髪を切ってもらって行くらしいこと以外背景のわからないファンタジーですが、耽美的な表現に凄絶なフェティシズムがこめられ、異常に美しく、極めて読み難い文章でした。普通なら「が」であるはずの助詞を「の」に置き換える手法をはじめ、文法的に正しくても特殊な語法が多用されるが故の美しさであり、難しさです。擬古的という訳ではないのに古しえが香ってきます。忍野木さりや様の「押し入れの中のマアチ」は、フレーズが繰り返される度、無気味な悲しみの鼓動が刻み出される恐怖謡でした。怖いのに思わず口ずさみたくなってしまう、メルヘンホラーとでも呼ぶべき呪われた童謡です。御注意を。


参加作品一覧 → https://kakuyomu.jp/user_events/16816452218884012783





 


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