いたずらの里 第1回
この数日、清々しい秋晴れの日が続き、わが家の猫たちもほぼ半日まるまる庭に出してもらえてご満悦です。それと入れ替わるように顔なじみの庭猫が部屋に入って来て、今も大きな顔をしてクローゼットの特等席で居眠りしています。ひとり、「元気」という五歳の猫が1週間以上帰って来ていませんが、よく甘えるくせに以前から放浪癖のある子で、去年も三ヵ月ほど戻って来なかったことがあったので、それほど心配はしていません。本当に素晴らしい季節になりました(10月2日現在)。
さて、今回の企画には8名の皆様のご参加を頂きました。友未的にはとても楽しみにしていたテーマであり、30篇くらいはご寄稿頂けるものと期待していただけに、意外な反響の少なさに少し寂しい思いをしています。 … そうですね、今でも、皆様、いたずらは大好きなはずだと信じているのですが、単に間が悪かっただけなのか、はたまた別の要因が絡んでいるのか …
とはいえ、そんな状況の中で、今回も奇跡的に、「そう!こういう作品が読みたかったばかりにこの企画を立てたんだ!」と跳び上がりたくなった一つの作品との出会いがありました。
もう一つ、こちらもいたずら一杯で、ご参加いただけて本当に心強かったのが崇期さまの「僕たちの救急車もいつか空を飛べるのかな」でした。崇期さまは「笑いのヒトキワ荘」ですっかりお馴染の主催者さまで、今年のお正月には「おバカの里 第2回」企画のゲストコメンテーターとしても盛り上げて頂き、さらに、何とカクヨム上での友未の第一発見者ということで、どんなに心強かったかがお分かり頂けるでしょう。「僕たちの救急車もいつか空を飛べるのかな」は、主人公の「僕」とその友人による「救急車の『なにものにも留められることのない行動体としての強さ』」に関するお話です。柱となるのは、本来なら高級レストラン〈
小此木センウさまの「忘れ草、またはヤブカンゾウ」は、上二作とは全く異なる「表現態度上のいたずら」とでも呼ぶべき非コメディー作品(でも別の意味で、もの凄く可笑しい)で、こうしたタイプの作品も企画的には大歓迎でした。そもそも導入部、最初から二番目の文章「特に夏場は散歩さえ熱中症の危険があるしかといってジムに通うなんて向いてないしでこれまで困っていた。」には一つの読点もないためひどく読み辛く、作者の筆力から見て単なる不注意とも思えなくて、いきなり翻弄されてしまいます。さらに最後の「1+2」の章でも突然視点が錯綜し始めるなど、文章的いたずら、あるいは冒険にからかわれてしまいますが(詳しくはコメント欄をご覧ください)、それはこの作品のわがままの一部に過ぎません。そもそも、この作品は全体が冒頭の紹介文にある「ペダンチズム」と「他我問題」でできているのですが、もう、やりたい放題、言いたい放題に書き散らかされている感じに苦笑が止りませんでした。ペダンチズムとは自分の知識や見識をひけらかす衒学(げんがく)趣味のこと。実は、友未自身も自作中に自分の好きな物事や興味を持つ対象についての
田中ざくれろ様の「つぎはぎUFOと、はりぼて神神」は、最初に読んだ時点では楽しいけど乱雑かなという印象でした。けれど、何かが気になってもう一度読み返してみると、作品を緻密に簡潔にまとめて行きたいという友未自身の美学とはある意味逆方向の、外側へ広がって行く強烈なエネルギーを孕んだ八方破れのいたずらだということに気付かされました。構成や個々の表現は粗削りでも、スケールの大きさが感動的です。奇想天外な化かし合いが繰り広げられて行くざくれろワールドでした。
古博かん様は「里」企画頭初より多くの作品をお寄せ下さり、友未にもしばしば暖かい励ましを下さってきた上得意さま、いえ、ビップ会員さまです(!?)「発我大根」は、ある時、自我に芽ざめた一本の大根が、野菜達の自由のために今、立ち上る! というお話で、作者が説明責任回避で居直り通すユーモアや、何をどうしようというあてもないのに「自由を求める野菜たちの、終わりなきトウソウ」を目指す熱気と良い加減さに呆れさせて頂きました。「お野菜って時々、「きみきみ、実は自我芽生えてるよね……?」という育ち方する子がいるなあと前から思っていた」というお言葉に、さすが古博さま!と目を開かされました。古博さまには、他の皆様にも是非読んで頂きたい傑作が二つあります。一つは、今回の企画のテーマにもぴったりの、英国を舞台に描かれた正真正銘の名作メルヘン「茶色のこびん」、もう一つは美しい風物スケッチに短歌のタイトルの添えられた「タイトルで一首 本文で読書旅行」です。
水城洋臣さま、今回も楽しい歴史エンターテインメントをありがとうございます!今回は痛快、爽快で、心和む、まさにいたずらっぽいカンフー・エピソードでした。とりわけ、
チェシャ猫亭さまの「大日本球状教」は問題作です。日本人よ、ボケーっと日和っとってええんかい、と警鐘を鳴らす強烈なカリカチュア的皮肉に満ちたお話です。個人的にはこの手の作品は読むのも書くのも、必ずしも好みではありませんし(考えれば考えるほど落ち込んで行ってしまいます)、クスクス笑いながら書けるテーマだろうかという疑問もあるとはいえ、花鳥風月しか詠まない者も、お笑いしか書かない者も、社会や政治的出来事から目を逸らすことなく、時にはその人なりの方法で一言態度表明しておく姿勢がないと、どんな世の中になっても文句を言えなくなると思っている者のひとりとして、一概に否定することはできません。
雪月風花さまの「Rewind ~キミに逢いたくて~」は、今回お寄せ頂いた全8作品のなかで、唯一、どこに「いたずら」がしかけられているのか確信の持てなかった物語で、申し訳ない限りです。あるいは、「俺」の嫉妬していた相手が実は「俺」だったという結末の辺りでしょうか?ラヴコメ的なぬくもりを織り込んだタイムリープもののSFでした。
10月6日、突然寒くなったなと思っていたら、夜7時半まえ、案の定、元気が帰って来ました。カーテンを閉じていたので最初は気が付かなかったのですが、部屋にいた菊花が教えてくれました。放浪中、何も食べていなかったのか痩せていましたが、いつもの事です。例のごとく、帰宅直後、全身で狂ったように甘えかかってきました。そんなに我が家がよければ家出するなよ。今回は11日間の外泊でした。きょう7日は朝から秋雨になっています。
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