大人と子供の里 第1回

 「里」企画を応援して下さってありがとうございます。おかげさまで今回の「大人と子供の里」にも36篇の作品にお集り頂くことができました(怠け者の友未にはまさに理想的な盛況です)。それに、どうすれば良いのでしょう。傑作ぞろいで目移りします !! ハイレベルな作品が一杯で、以前の「幻想の里、怪奇の里」に続いて、一体どの作品から選べば良いのか、どの作品を外せというのか、もう訳の分らなくなるくらい友未好みの作品だらけでした。再び嬉しい悲鳴を上げさせて頂きます。今回はその中から厳選した十数篇のお話をご紹介いたしました。


 さて、読み物には、複雑な思いが複雑な感興を身体中に反響させて来るようなものもあれば、ただまっすぐに届いてしまうものもあります。神代 恭子さまの「ちいさいあきみつけた」をはじめて見た瞬間、友未は、この後、まだ読んでいないどんな大傑作が控えていたとしても、今回は真っ先にこの小さなお話から紹介しなければと決めてしまっていました。あきちゃんとお母さんが落ち葉でおイモを焼く小さなお話で、胸がきゅーんと透き通って、おいもの煙と一緒にさわやかな冬空へ昇って行きました。他には何を言っても蛇足になるだけでしょう。

 紫 李鳥さまの「おっちゃんはヒーロー」もストレートで率直です。紙飛行機を通して描かれる子供たちとホームレスの友情譚ですが、世の中をこういう善意のお話でいっぱいにしたくなりました。変に作った所がないので厭味がありません。守りたくなる作品です。

 この二作よりずっと質量のある物語ですが、ヨシダケイさま、「ゆきの反物」。口減らしのために江戸の呉服屋に奉公に出された津軽の農家の幼い娘「ゆき」と、当時まだ珍しかった顕微鏡に映し出された雪の結晶にまつわる美しい逸話です。しみじみとした情感が雪景色のなかに寂しくも暖かく寄り添うように綴られていました。やはりピュアさに心洗われます。ね?時代物を書かれる作家さまって、実力者ぞろいでしょう?


 次に、これぞ無条件で友未好みだったという偏愛作品を三つ。まず、「水底から見上げてみれば」きょんきょん様。とあるアクアショップに置かれた一つの水槽の中で生まれ育ったコリドラスの見たこの世の断片が次々と語り出されて行きます。閉ざされたたった一つの小空間での出来事なのに、卵を産み残したまま買われて行ったグラミー夫婦や、自分の運命を知っていた餌金のエピソードなど、驚くほど多彩なドラマが織りなされていました。しかも、非常にさりげなく。突っ込み過ぎない書き方が実に心憎い。

 クニシマ様の「スリッパ」は、それとはまったく異なる本格的なサイエンス・ファンタジーで、友未自身の書きかけの「後の風景」とも性格的に通じる部分の多い錯綜した多重世界、パラレル・ワールドに引き込まれました。互いに矛盾する叙述や奇妙な謎に戸惑いを覚えながら気が付けば非日常空間に迷い込んでいます。興味の尽きない論理構造でした。ただ、この物語の素晴らしい魅力が説明のつかない曖昧さと混乱にある点を踏まえた上で敢えて申し上げますと、そこにはまだ何か未解決で未整理なものが若干残されているようにも感じます。奇妙な出来事がバラバラに提示されて行く一方、それが友未のなかで最終的に一つにまとまり切れない一抹のもどかしさを感じてしまうのは、読解力不足でしょうか?

 あん 彩句さまの「Garden」も友未を虜にした妖篇です。オニヤンマを追ううちに見知らぬ庭に迷い込んだ少年が不思議な子供に出会う、少し薄気味悪さのある、奇妙な味わいの幻想譚でした。特に「お前の選んだ本は他より少し薄い」という台詞では背筋に冷たいものも走りましたが、主人公が今そうであるように、人生という読み物をとにかく力いっぱい冒険することを励まされるような初々しさに救われます。いとも軽々と語られるナイフの描写が却って印象的でした。実にキュートで、ジュブナイルと呼びたくなります。ただし、友未なら相手役の素性だけは絶対に伏せておきたい気がしました …


 寓話や教訓的なお話の苦手な友未ですが、今回お寄せ頂いた鯨ヶ岬勇士さまの「はらぺこドラゴンと究極の料理」は、人生や物事のあり方に普通とは異なる角度から光を当てて掘り下げて行くような一筋縄では行かない発見に満ちていました。ドラゴンへの生贄に自らを究極の料理として差し出す村の料理人ヨシュアの物語で、子供向きとは言えませんが、新しい別の見方への道しるべとして、思春期の読者に強くお勧めしておきたい作品です。宗教的とも呼べそうな思索的背景を感じました。もう一つ、性格は全く違うのですが、平 遊さまの「魔女の小言~少年と魔女~」もちょっと気に入っています。抹香臭さとは無縁のクールな可笑しさでした。導き役の魔女が「おばさん」と呼ばれると怒りだす庶民派ですし、文章の語られ方も、教訓の投げ方も素っ気なさ過ぎて何だか愉快ではありませんか?


 次にご紹介するのは、ただ面白かった、感動したというだけでなく、いずれもその文学性の高さに敬服させられた本物志向の純文学たちです。まず、「引っ越し。送られていく自分」ななくさつゆり様、ひとり暮らしをはじめることにした娘が父の車で送られて行く、ただそれだけのスケッチですが、父と娘の距離感が絶妙でした。淡々とした文章のすき間から、暖かいような寂しいような情感が仄かに匂って来ます。

 四谷軒さまの「岩倉具視――その幽棲の日々」は、知名度の割に取り上げられることの稀なこの主人公を、さばけた豪胆な人物として、前半に描かれる不遇な一時期の閑居生活と、そこから今まさに翔び発たんとする熱い意気込みの瞬間までを切り取った歴史ものです。例によってどっしりと腰の据わった文章は読み応え充分で、最後はワクワクと高揚させられますが、特筆すべきは活き活きと語られる「川遊び」の章で、さながら児童文学でした。

 矢向 亜紀さまの「やさしい崩壊」は、子供向けではありません。が、素晴らしい親と子の物語です。もっとも、主人公の建造物専門カウンセラーが、コンクリートの建造物を両親に持ち、建物たちの言葉や気持ちをある程度理解できる点が非常に変っています。文章が冷静なのに内容はエモーショナルで、話を追うごとに哀しみが深まって行き、崩壊の場面はまるで子供が母親にもう一度生み出されていくような切なさでした。

 お終いは、「君はわたしの歯車」呉 那須さま。友未を震撼させた衝撃の前二作、「さわる」と「私たちの踊り場でまた会おうね」とは全く異なる作風で、3歳のとき回転する時計の歯車を飲み込んだ、という最初の言葉の強烈な真実味に虚を突かれました。理屈ずくではなかなか捉え切れない魂のあり方が歯車を飲み込むという形で鋭く提示されている点に文学性の高さを感じます。ただ、前半の禅問答めいたよるべない叙述のユニークさに比べて、後半が内容的にも表現的にも意外に普通な青春ものになってしまっているような気がしてなりません。恋愛による自我の確立の物語と考えて良いのでしょうか?


 子供向けの冒険小説では、かがわ けん様の「たっくんとりゅう」と、ぽち様の「本嫌いのマシューと古ぼけた本屋」を楽しませて頂きました。前者は、無邪気でのびやかな幼年童話で、読んでいるうちに5歳の自分に還っていました。後者は不思議の国の(鏡の国も?)アリスを意識されたという物語で、友未は特にちょっと怖めの第3話「見えない誰かさんとしゃべる壁」が気に入りました。アリスファンとしては、言葉遊びとナンセンスが欲しい! と欲張りを言いたくなります。


 最後に、詩とエッセイからは「140字で伝える★クラシックな恋愛掌篇」/柚子さまと、「秘事は睫」/和響さまをご紹介させて頂きます。柚子さまは標題通りの恋愛詩集ですが、各詩それぞれに有名なオペラからのタイトルが冠されており、友未は2番目の「ある晴れた日に」にドキッとさせられました。若者の愛とはまた別の世界で、寂しくなるほど透明です。


白い鳥が、青を横切り空を征く。//

生成りのツーピースは少し薄いけど、/よく晴れた午後だから大丈夫、と/

坂道をゆるり、ひとりドライブ。//

丘の上で車を降りる/振り返れば、/あざやかな青と白い雲のコントラスト。/

頬をなでる潮の香りの向かい風。///

ねえ、/孫が産まれたわ/あなたの目もとを想ったの//

ある晴れた日に   (全文)


 和響さま、やった! (=^・^=) ネコエッセイです。厳密にはエッセイというより、「福」ちゃんから見た小林家の生態記録というべきでしょうか。中でも「私もおんなじお腹に赤ちゃんがいるのに、ふくちゃんだけこんなかわいそうなことになってしまてごめんね、人間って勝手だよね、ごめんね、おんなじお母さんなのに、こんなひどいことしてしまってごめんね」(本文より)という第2話「ママさん泣かないで」は十分すぎるほど身につまされました。ときに、福ちゃんの家には電動式ねこ扉があるそうです!ネコものでは、のの(まゆたん)様も「ハローウインなお祭り・にやん♪☆」でご参加くださいました。


 おまけに一句。

          プーさんが暴れて怖いウクライナ 友未

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