第24話 異教の徒

 「ぜぇりゃ!」


 気で固めた右脚での上段蹴りで纏めて二匹のジグザを倒す。

 今回の群れは通常種が二十匹程度だから余裕を持って倒せるなと思い、隣りに居たクルンドを見る。

 クルンドは手を組んで祈る様な姿勢で魔物と相対していた。


 「おい!クルンド!目の前にジグザが来てるぞ!!」


 「はい、大丈夫です。神の御業をお借りしますので」


 そう言ったクルンドの組んでる手の先から鈍く光る刃が放たれる。


 「!?お前魔力無かったんじゃねぇのか!?」


 「これは魔力なぞ使っておりません。神の御力をお借りしているのです。」


 クルンドから放たれた鈍く光る刃は目の前に居たジグザだけでなく、その背後のジグザまで切り裂いている。


 「はぁ、お前らの神って力まで貸してくれるんだな」


 「ふふふ、興味を持たれましたか?我々はいつでも入信されるのをお待ちしておりますよ」


 薄く笑いながらクルンド達の宗教への入信を勧めてくるが、生憎俺は神は信じねぇ主義だからな。


 「いや、遠慮しておくぜ」


 クルンドは次々に鈍く光る刃を放ち、ジグザ達を刈り取っていく。


 「よし!ラストだ!」


 最後の一匹に踵落としを叩きつけ頭を潰す。これで粗方片付いたなと周りを見渡し確認する。


 「トート。お前ら、そろそろ気を学べよ」


 「下民の技などいらん!」


 こちらを睨みつつ拒否をするトートにクルンドが近寄って行く。


 「でしたら私達の宗派の御業はいかがでしょう?貴方様の様な高貴なお方には相応しいと思われますが?」


 謙って言うクルンドに気を良くしたのかクルンドに近寄り詳しい話を聞いている。

 戦力が上がるなら良いかと俺はその場から離れる事にした。


 「クルンド悪ぃな。頼んだぞ」


 「はい、喜んで神の御業をお伝えしていきましょう」


 お嬢達の元に戻った俺は魔物を殲滅した事を伝える。


 「クルンドの奴、神の御業とか言いながら魔法みたいなの使ってたぞ」


 「それはおかしいぞい。魔力は確かに無かった筈じゃ」


 じいさんは真剣な顔で反論してくる。だが実際使ってたからなぁ。


 「光る刃みたいなのを手の先から出してジグザ共を倒してたぞ。ん?そういえば魔法名は言って無かったな?」


 「魔法名を言わずにじゃと!?それは余計におかしいぞい!魔法は魔法名を言わなければ発動しない筈じゃ」


 確か、手を組んで祈って目を開けると発動してた筈。俺に聞こえなかっただけで、小声で言ってたのか?


 「もしかしたら小声で言ってたのかもな。戦いながらだったから良く聞こえなかったって可能性も有るぜ」


 「う〜む、しかし魔力は無い筈なんじゃがなぁ。お主みたいに気を使ってるのじゃないのかの?」


 「いや、気の気配はしなかったな」


 魔力でも気でもない謎の力か……。こりゃあ本当に神の力なのかね?

 レジーナにでも聞いてみるか。


 「ちょっとレジーナのとこに行ってそんな事出来るのか聞いてくるぜ」


 「あ、カイル。ついでに怪我人の状況を確認して来てくれない?怪我が治って移動出来るようなら移動しときたいの。この辺りはジグザが沢山居るみたいだから」


 「わかった、確認しとく」


 お嬢の言う通り、確かにこの森に入ってからジグザに連続して遭遇してるからな。早めにジグザの縄張りを抜けるに越した事はねぇか。


 「レジーナ、ちょっと聞きたい事あるんだけど良いか?」


 「何でしょう?」


 「天教では神の力を借りて魔法みたいなのを使ったり出来るのか?」


 「いえ、その様な事聞いた事ありませんね」


 「そうなのか?クルンドは神の力を借りて魔法みたいな事をしてたんだがなぁ」


 「魔法では無いのでしょうか?」


 「いや、魔力でも気でもねぇな」


 やっぱり神の力を借りて魔法みたいなのを使えねぇのか。まぁ使えるなら今までも使ってるだろうしな。


 「カイルさん、そのクルンドさんの宗教は何教と呼ばれているんでしょうか?」


 「あー、その辺りは聞いてないな」


 そういえば聞いてなかったな。クルンドに会った時に聞いておくか。

 おっと、怪我人の具合も聞いとかなくちゃな。


 「怪我人の具合はどうだ?」


 「もう怪我は完治して皆さん普通に動いてますよ」


 「そりゃあ良かった。怪我人が治ってたら移動しようって話になってるからレジーナも準備しといてくれ」


 「分かりました」


 怪我人は全員治ったってのをお嬢に伝えると、早速準備して移動し始めた。


 「相棒、アーリア。お前らはクルンドの力が何なのか想像付くか?」


 「いや、分からんな」


 「ええ、私も分からないわ」


 「そうかぁ、やっぱり誰も分かんねぇか。こりゃあやっぱり神の力なのかね?」


 「クルンドの信仰してる神、ナグザクトスっていったな。その神は何を司る神何だろうな?」


 「そうだな、それも分からねぇな。色々と聞いてみてぇ所だが、クルンドはトート達と連んでるからなぁ」


 「ええ!トート達と連んでるの!?よく出来るわね」


 信じられないとばかりの顔したアーリアが呆れている。俺だってびっくりするわ。あのトートだぞ?


 「クルンドの奴、トート達を上手く持ち上げてたからなぁ。ま、トート達がクルンドの神の力を使えるようになれば、少しは役に立つんじゃないのか?」

  

 「そうね、あの人達は未だ気を覚えようとしないものね」


 そうなんだよなぁ。皆が気を覚える前ならいざ知らず、今は本当に役に立ってねぇからな。


 「カイル、魔物が居る」

  

 「何?相棒どこだ?」


 相棒が指差した所には肉で出来た四角い箱のような物が一つ宙に浮かんでいた。これ本当に魔物か?


 「こいつは何なんだ?」


 「知らぬな。俺も見た事ないな」


 「注意して、どんな攻撃してくるか分からないわ!」


 ベースになった動物が分からないってのは昨日の魔物と同じだが、形が違う。昨日の奴の仲間かと気を全身に巡らせる。


 「どうする?様子見するか?それとも先手を打つか?」


 「進行方向に居るからやるしかあるまい」


 「しゃあねぇか」


 巡らせた気をチャクラで回し体を強化していく。

 

 足の裏で気を爆発させて強く踏み込み、一歩で魔物の前に近付き前蹴りを放つ。


 ガィィィン!


 蹴りは魔物の前に張られた鈍く七色に光る半透明の盾で防がれる。


 「やっぱり昨日の奴と同じ種類か!」


 気を火に変換し、盾を破ろうとすると鈍く光る刃が飛んで来た。

 それを前に出て潜り込みながら躱し、火を纏った前蹴りを盾に叩き込む。


 バシュュン!


 盾は水の中に焼けた石を入れた様な音をさせて溶ける様に消えていく。


 「気を付けろ!こいつ風の刃みてぇなのを飛ばしてくるぞ!」


 鈍く光る刃ってクルンドと同じじゃねぇか!と思いながら盾が消えた魔物に近寄り上段蹴りを放つ。


 「よし、これで倒しただろ!」


 上段蹴りで真っ二つにされた箱型の魔物は、地に落ちて動きを止めた。


 「こいつ、クルンドと同じ力を使いやがった。俺はクルンドの所に行ってくる!」


 「俺達も付いて行こう」


 「ええ、付いて行くわ」


 後ろの方に居たクルンドはトートと楽しげに話していた。


 「クルンド!お前の使ってた神の御業ってやつ、魔物も使ってきたぞ!どうなってやがる!?」


 「おや、その様な魔物が現れたのですね。ナグザクトス様の眷属でしょうか?」


 「眷属だと!?待て、お前の信仰してる宗教は何教って呼ばれてるんだ!?」


 「あぁ、私達の宗派の名前ですか?お伝えしてなかったですか?」


 「ああ、聞いてねぇな!何て言うんだ?」


 「私達の宗派は邪教と呼ばれていますよ。我が神、御自身が仰っていました」


 邪教だと!!この世界ではどうか知らないが地球では邪悪なって意味だぞ!?どういう事だ?


 「神と会ったのか!?いや、それよりも邪教だと!?」


 「ええ、我が神ナグザクトス様は自らの事を邪神と仰ってました」


 「それは人に仇なすって意味の邪教と捉えて良いのか?」


 「いいえ、人に仇なすなんてとんでもない。人々に幸福を齎すのですよ」


 「どうやって幸福を齎すんだ?」


 「我々邪教徒になり、神に命を捧げる事によって幸せな旅路に付くのです」


 「幸せな旅路とはどこへ行くんだ?」


 「肉体より解放される事によって極楽に行けるのですよ」


 クルンドは怪しく笑いながら説明する。

 どう考えてもやべぇ宗教じゃねぇか!こいつをこのままここには置いておけねぇな。


 「おい、クルンド。それは受け入れられねぇな。神に命を捧げるって生贄みてぇなもんじゃねぇか!」


 「おお!その通りです!生贄こそ神への信仰の証なのです!」


 「だめだ、お前どっかへ行きやがれ。俺の仲間達を生贄にさせる訳にはいかねぇ。」


 「おっ!カイルさんはお優しいですね。私を殺さず見逃すのですね」


 世の中色んな考えの奴がいるからな。無理矢理入信させるとかじゃねぇならほっとくつもりだ。


 「優しいとかじゃねぇよ。関わり合いにならねぇだけだ」


 「残念ながら殺される訳にも見逃してもらう訳にはいかないのです」


 「どういう意味だ?」


 「ここにいる人種は全て贄になる事に決まったのです!魔物のにより滅亡しかけてるこの大陸でこんなにも人種に会えるとは!ああ、これぞ神の思し召しです!」


 こいつやべぇと思いながら構える。敵対すると言うならやるしかねぇな。


 「それならやり合うしかねぇな。覚悟は良いか?」


 「ふふふ、もちろんですとも。贄の生きが良いと我が神もお喜びでしょう!」


 クルンドが手を組み祈りだす。光る刃が飛んで来る!と思い、防ぐ為に最速で気を纏った前蹴りを放つ。


 ガィィィン!


 蹴りはクルンドの前に現れた鈍く七色に光る半透明の壁に防がれる。


 「魔物が使ってたやつか!お前も使えるのか!?」

 

 「もちろんですとも。この様な事も出来るのですよ」


 組んでいた手の形を変えた瞬間、周囲に魔物が現れる。

 

 昨日現れた丸い魔物と今日現れた四角の魔物が無数にいる。そしてベースの分からない初めて見る魔物も五種類いやがる。


 「くそが!サジン、アーリアやるぞ!」


 「任せろ!『剛気破空閃』!」


 「ええ!任せて!『円空気陣』!」


 空気さえ切り裂く飛ぶ斬撃が複数の魔物を切り裂き、魔法がアーリアを中心に外へ向かって気の刃を飛ばし、より多数の魔物を真っ二つにしていく。


 「やっぱり魔物とお前は繋がってやがったのか!」


 「この子達はナグザクトス様の眷属ですからね。協力し合うのは当然の事ですよ」


 「ちっ!」


 魔物の魔法擬きを破る為に脚の気を火に変換していく。


 「ぜぇりゃぁぁ!」


 強烈な踏み込みから可視化される程の大量の気を纏った脚で回し蹴りを放つ。脚の先から火を纏った気刃が飛んでいき、複数の魔物を魔法擬きの盾ごと切り裂いていく。


 「トート!他の奴らも呼んで来てくれ!」


 「なぜ私がお前の言う事を聞かねばならん?自分で行け」


 「くそが!こんな時に何言ってやがる!?状況が見えてねぇのか!」

  

 トートと話してる間にも魔物は増え続ける。このままじゃ埒があかねぇとアーリアに頼む。


 「すまん、アーリア他の奴らを呼んで来てくれ!」


 「……分かったわ!すぐに戻ってくるから無理しちゃだめよ!!」


 「分かってる!」


 アーリアが心配そうにこちらを見て、躊躇いながらも了承して他の奴らを呼びに戻る。

 

 「さて、こっちは魔物狩りだ!相棒、どっちがより多く倒すか勝負な!」


 「ははは、良かろう。勝てるとは思わぬ事だな」



 「余裕持ちやがって。行くぞ!」


 三分の一程減らしたとこで皆が合流した。


 「クルンドは敵だ!容赦するな!魔物とも繋がってるぞ!」


 「なんと!?魔物を従えているのかの?」


 「眷属って奴らしいぞ!」


 皆と合流してからは勢いが増し、先程の倍以上の速度で魔物を殲滅していく。


 「そろそろ、私はお暇させていただきます。ああ、お土産残していきますね」


 クルンドが新たに手を組んだ瞬間、その手が鈍く輝く。

 光が消えた先には全身深い緑色で腕が片側に四本、反対に三本の人型の魔物が現れた。


 「こいつはまさか!?生贄にされた人間か!!」


 「おぉ!良く分かりましたね!無事神の眷属に成られた同志ですよ」


 「くそが!こんな姿になって意識はあるのか!?」


 「意識など必要無いのです。ただ神に仕えるのみですよ」


 「くそったれが!」


 俺は全身に気を纏い、新たに現れた人型の魔物に向かっていく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る