第17話 鬼雨と治癒
雨が降っている。大きな滴が顔に当たる。こんな強い雨の事は何て言うんだったかな?
あぁ、そうだ。確か鬼雨って言うんだったな。
「……はっ!やばい、気を失ってたか!!」
意識が覚醒して来て、思い出す。
「状況はどうなった!?ぐっ!」
折れた肋骨と右脚が痛む。雨が強く視界が悪い。
意識を失う前にもう一体の白いツーミシラを見た筈だ!どこに行った!?
「きゃぁぁぁ!!」
女の叫び声が遠くで聞こえる。拙い!早く行かねばと思うが右脚が折れていて立ち上がれない。
「くそが!とりあえず少しでも回復しねぇと!」
倒れた体勢のまま気を練る。第二チャクラの生命力強化と新しく解放した第四チャクラの癒しの力を意識する。
「早く早く!」
焦るが怪我が酷い為、中々回復しない。遠くからはまだ悲鳴や怒号が聞こえてくる。
「みんなやられちまう!集中だ、集中するんだ!」
集中していると体内だけでなく、周囲の木々から気が体に取り込まれている事に気付く。
今までにない事に驚くが、都合が良いとばかりに更に集中し、体を治していく。
「よし!とりあえず動ける様にはなった!!」
急いで叫び声が聞こえている方へ向かう。道中には沢山の人が倒れていた。
「じいさん!!大丈夫か!?」
ローグストのじいさんも倒れており、呻き声を上げていた。
声を出せるならまだ生きてる!と心苦しいがそのまま駆け抜ける。
「見えた!あそこか!!」
目の前ではお嬢が護衛の騎士に囲まれていた。その騎士の前には白いツーミシラが頭を下げ、後ろ脚で地面をかきながら突進しようとしていた。
「やべぇ!逃げろ!お嬢!!」
声を掛けながら駆け出したが間に合わず、騎士達が吹き飛んで行く。
「くそが!!」
そしてお嬢の前には誰も居なくなり、やばい!と思った瞬間にメイドがお嬢を押し飛ばし、代わりにツーミシラに吹き飛ばされた。
「……おい。お前良い加減にしろよ。」
ここまで沢山の人が倒れているのを見てきた。そして今目の前の女が吹き飛ばされた。
ふざけんなよ。
「死ね。」
助ける事が出来なかった怒りに呼応したのか大量の気が湧き出てくる。気を纏め、練り上げて全てのチャクラを高速で回していく。
あとの事なんざ知ったこっちゃねぇ!
「ぜりゃぁ!!」
駆け出し、白いツーミシラの前で激しく踏み込む。その踏み込みは泥濘んだ大地にクレーターを作り水が地から天へ上がって行く。
左脚での踏み込みの力を右脚での蹴りの力へ変換する。気で硬化した右脚で白いツーミシラの頭を蹴り上げる。
「グゴァァ!!」
白いツーミシラは大きく仰け反り体を横たえた。
「止めだ!!」
天高く振り上げた右脚を勢いよく下ろし、白いツーミシラの頭に踵落としを放つ。
バチッ!バチチチッ!!
白いツーミシラが雷を呼んだ。
やばい!この濡れた状態で雷を食らうのはまじぃ!
咄嗟に全身の気を第四チャクラの属性である空気に変換し雷と俺との間に空気の層を作り、そのまま脚を落とす。
ベギィッ!!
白いツーミシラは首が半ばまで千切れ飛び。頭は潰れた。
「ふうぅぅ!終わったか。」
激しい雨の中、深呼吸をする。周囲を見渡しても立って居るのは俺一人だ。
いや、一人立ち上がった。
「お嬢!無事か!?」
「え、えぇ。何とか。」
「お嬢は治癒魔法を使えるか?」
「それが使えないの。使えるのは私を庇ってくれたメイドの子よ。」
「あいつか!」
メイドに近寄ると胸部が陥没し、息をしていなかった。
「死んでるのか……。いや、まだ脈がある!!
こいつを回復させたら、みんなを治癒魔法で癒せるか!?」
「ええ!その子は魔力が多いから沢山の人を助けられる筈よ!」
「分かった。ちょっと集中するから静かにしといてくれ。」
メイドの前で坐禅を組み、手をメイドの胸に当てる。気でメイドの生命力を探る。
「微かだが……ある!戻ってこい!!」
全身全ての気を集め第四チャクラを通してメイドに送る。第四チャクラの癒しの力によって急速に傷が癒えていく。
同時に俺の中の気も急速に消えていく。
これはちょっとやべぇかもな。俺の中の気全てじゃ少し足りねぇかもしれねぇ。
気を送り続けていると、あっという間に気が枯渇寸前になった。
「まだだ!まだ足りねぇ!!俺の生命力も持って行きやがれ!!」
自分の生命力さえ気に変換してメイドに送る。失ってはいけない物が減っていく感覚と共に意識が薄れてきた。
「早く戻って……こい……。」
意識を失う直前にメイドの胸が動いた様な気がした。そして俺は意識を失った。
ーーーーーーーーーーーーーー
「はっ!ん?何処だここ?」
目の前には天幕らしき天井が見えた。
そうだ、メイドに気を送ってそのまま意識を失ったんだと思い立ち上がろうとしたが、よろけてしまい転けそうになる。
「まだ、立ち上がるのは早いかと。」
俺の腕を誰かが掴んで受け止めてくれた。
横を向くとメイドが無表情で俺を受け止めていた。
「おっ!治ったんだな!良かったぜ。」
「その節はありがとうございました。私、メイドをしてます、セラと申します。」
「セラか。俺はカイルだ。」
「存じ上げております。さぁ、こちらにどうぞ。食事を用意致します。」
天幕の中にあった椅子まで体を支えてくれる。椅子に座ると食事の用意をし出す。
「準備良いな。ところで他の奴らはどうなった?」
動きを止める事なくセラは答える。
「殆どの皆様は、回復なさっております。」
「殆ど……か。」
白いツーミシラの襲撃で亡くっなった奴も居るんだろうな。早く駆け付ける事が出来て居たならば。
悔しさで手に力が入り、表情が歪む。
気が付くと隣りにセラが立ち、俺の手に手を添えていた。
「カイル様は出来る限りの事をして下さりました。悪いのはカイル様では有りません。悪いのツーミシラです。
ですからそんな顔はしないで下さい。」
セラは泣きそうな顔でこちらを見ていた。
女にこんな顔させる訳にはいかねぇなと、大きく息を吐き力を抜く。
「そうだな、すまん。食事の用意をしてからでも良いからお嬢とじいさんを呼んでくれないか?」
「お嬢様とローグスト様の事でしょうか?かしこまりました。」
セラは食事の用意を手早く終わらせ、二人を呼びに行った。
残された俺は早く体力を戻さねばと思い食事をかき込む。
そう云えば第一チャクラに食事による強化ってあったっけなと思い返す。そんな事を考えながら食べていると、セラが二人を連れて戻ってきた。
「お前さん、ようやっと起きたのう。」
「カイル助かったわ。」
「おう、気にすんな。あの後どうなった?」
俺が意識を失った後、セラが目を覚ました。目覚めたセラはまずローグストのじいさんを先に治して二人で他の者を治していったらしい。
「何人やられた?」
「四十七人よ。」
「……そうか。」
「これで私達の残りも三十一人、だいぶ減ってしまったわ。」
「エヨーナまでは大丈夫か?」
「幸い、馬や荷馬車はやられなかったから何とかなりそうだわ。」
「そうか。じゃあ俺は体力が戻り次第、町に戻る。」
「分かったわ。」
「此度は本当に助かった。恩に着るぞい。」
「魔物は俺達の共通の敵だ。気にすんな。」
「そう言ってもらえるなら助かるわい。」
「そういえばトートはどうした?」
「トートなら他の残った騎士達を纏めてるわ。」
「そうか、奴は生き残ったんだな。」
憎まれっ子世に憚るだな。苦笑いしつつそんな事を思う。
その後、これからの話をして、お嬢とじいさんは天幕から出て行った。
「で、お前はお嬢に付いて行かないのか?」
セラは天幕に残っていた。食事の片付けが終わってする事は無さそうなんだがなぁ。
「はい、ここに居ます。」
「そうか、俺はこれから坐禅をするから、いつでも出て行って大丈夫だぞ。」
「それは気という力に関係する事でしょうか?」
「ん?そうだ。坐禅をして気を集め、体の調子を戻す。」
「もし宜しければ私にも教えてくれませんでしょうか?」
「興味あるのか?良いぞ、ってかじいさん達にも教えてやらないとなぁ。」
そう言いつつ気を集めセラの背中に手を当てる。
あれ?こいつ気が多くないか?ってかチャクラ開いてないか!?
「お、おい。お前チャクラ解放してるのか!?」
「チャクラとは何でしょう?魔力とは違うエネルギーが体内にあるのは感じますね。」
「それはいつからだ?」
「カイル様に助けられてからでしょうか?」
これはもしかして、セラを治す時に大量の気を送り込んだからか?
チャクラの場所と効果などを説明していると、セラは第三チャクラまで解放している事が分かった。
「まじかよ!?いきなり第三チャクラかよ!」
「それがどう凄いのか分かりませんが、喜ばしい事です。」
「はぁ、じゃあ坐禅での気の練り方を教えるから一緒にやるか?」
「はい、ご一緒しましょう。」
二人で向かい合い坐禅を組んで気を練る。
三時間程そうしていると夜になった為、寝る事にする。体はまだ本調子ではない。
「じゃあ、俺はもう寝る。またな。」
「はい、おやすみなさい。」
そう言って俺の寝床に入って来ようとする。
「……おい。何してんだ?」
「?いえ、カイル様が寝るとの事でしたのでご一緒しようかと?」
「無表情でなんて事言ってんだ!?そこはご一緒するんじゃねぇよ!自分の寝床へ戻れ!」
「左様ですか。わかりました。おやすみなさいませ。……ちっ。」
「おい!聞こえてんぞ!!」
そのまま振り返らず、セラは出ていった。
とんでもねぇメイドだな!おい!
翌日も朝から坐禅をして気を整えて、ある程度力が戻って来たので町へ向かう事にする。
「時間食っちまったな。それじゃあお嬢、じいさん、セラ。またな!」
「ええ、貴方には凄くお世話になったわ。エヨーナで待ってるから仲間を説得して来てね。」
「お前さんに教えてもらった気は面白そうだわい。次に会うまでに色々試しておくぞい。」
「で、お前は何でこっち側に居るんだ?」
セラは俺の隣りに立ちお嬢とじいさんにお辞儀をしていた。
「セラは貴方に付いて行きたいんだって。貴方に助けられた事に対して恩を感じているみたい。メイドはもう一人居るから良いのだけど、驚いたわ。」
「いや、俺の方が驚きだわ。」
無表情で隣りに立つセラを見て呆れてしまう。
「感情をあまり表す子では無いけど、身の回りの事は色々してくれると思うから良くしてあげてね。」
「はぁ、仕方ねぇな。でも急ぎの旅になるぞ?」
「構いません、私は貴方様に付いて行きます。」
考えを変えそうにも無いし、押し問答する時間も勿体ないのでこのまま連れて行く事にする。
「じゃあな!」
森の中を二人で話をしながら歩いて行く。
お嬢は闇人族で、じいさんは小人族って名前の種族らしい。お嬢はともかくじいさんの小人族ってのは初めて聞いたな。
ナーグルにもトルガナにもエヨーナにも居なかったぞ。多分。
ちなみにトートは森人族らしい。どうでも良いけどな!
セラは兎人族であり、白い髪を腰まで伸ばしている。俺より五センチ程背が低く、スリムな体型をしている。
俺はそんなに人の顔を気にしないが、セラはとても綺麗な顔をしていた。鼻が高く、切れ長の目に泣きぼくろが特徴的だ。
セラに気と魔力を混ぜた魔法について説明したりしていると日が暮れてきた。
「今日はここらで野営だな。」
「かしこまりました。準備致します。」
セラはこういった身の回りの事を色々やってくれるので正直凄く助かる。料理も出来るらしく、保存食だけの食事が少し豪華になるのが嬉しい。
「お前、料理上手いんだな。」
「お褒めに預かり、光栄でございます。」
「それじゃあ、寝る前に坐禅して気の修行するぞ。」
「はい。早くカイル様に追い付ける様に精進致します。」
「ま、そんな気負い過ぎるなよ。」
日が落ち、食事が終わって一時間程坐禅をした。
「さぁ、交代で不寝番するか。先に俺が寝るから三時間程したら起こしてくれ。」
先に寝る方は、夜中の途中に起きてからそのまま一日行動する事になるので体力がある俺がやる事にした。
「かしこまりました。さぁ、私の膝をお使い下さい。」
「使うか!?背嚢を枕にするわ!じゃあな、おやすみ。」
「はい、おやすみなさいませ。……ちっ。」
だから聞こえてる!と言おうとセラの方へ目線をやった時、セラの背後に何かが光った。
咄嗟に俺は起き上がり、セラの背後に飛び出す。
「な、何が!?」
セラが動揺してるがそちらを気にする余裕はない。
何故なら森の奥より人を丸呑み出来そうな蛇が出て来たからだ。
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