第35話 集落

「さて、どの様な事を聞きたいのかの?」


「この辺りの地理とか、色々だな」


 翌朝、ワグナスの案内の元、長老の所へ再び来た。


「この辺りの地理かね?そうさなぁ、この村の周囲は森しかないでのう」


「他の村とかはこの辺りに無いのか?」


「ここより更に東に二日程行けば、風人族の村があるが交流はしてないのう」


 風人族?これまた初めて聞く種族だな。


「セラ、イエール、風人族って知ってるか?」


「私は存じ上げません」


「風人族か、背中に羽の生えた種族だな」


「おっ、イエールは会った事あるんだな」


「ああ、以前一緒に魔物と戦った事がある」


 イエールは深緑の国に住む前は、色々な土地を旅していたらしい。その旅の途中で風人族と一緒に戦う事があったそうだ。


「彼らは強力な風魔法を使う、魔法が得意な種族だ」


「風魔法特化みたいな感じか。おっと、話の腰を折ってすまねぇな」


「よいよい。その風人族の村以外は聞いた事はないのぅ」


 次の目的地は風人族の村になるな。風人族の村で他の村の話が聞ければ良いんだけどな。


「そうか。話は変わるが、俺達は町を作ってるんだ。良かったら俺達の町に来ないか?」


「町を作るとな?どこに町を作っているのじゃ?」


「ここから五日程西へ向かった所にある、草原地帯に作ってるとこだ」


「なぜそんな所に町を作る事にしたのじゃ?」


「それはマグラース王国が滅びたからだ」


 今までの経緯を説明する。この大陸の全ての国が滅んでいると話すと長老は驚く。

 

 この村では、他の村とは交流がない。高い技術力で自給自足が成り立っているそうだ。


「この村は、昔から他の村と交流がないのか?」


「そうじゃのう。わしの祖父の代では他の村との交流もあったと聞くが、それ以来はないのう」


 長老の祖父の代、約二百年前までは他の村とも交流があったそうだ。


「この村では魔器ってやつを作ってるそうだな。その魔器を作る技術を教えて欲しいってのは可能か?」


「魔器を作る技術とな。う〜む、そうじゃのう。あれは魔人族でなくては作れぬと思うがのう」


「魔人族じゃねぇと作れねぇのか?それは何でだ?」


「付与魔法が使えないと作れぬが、付与魔法は魔人族しか使えぬからのう」


 付与魔法か。じいさんとかおっちゃんなら出来そうなんだけどなぁ。


「そうなのか。移住してみたい奴とかはいないのか?」


「それは聞いてみないとわからぬ」


「すまんが聞いてみてくれねぇか?別に住まなくても滞在して、町作りを手伝ってくれるだけでもありがてぇ」


「それはかまぬが、そなたらの町まで五日掛かるのが問題じゃの」


「ああ、それは転移魔法があるから問題ないぜ」


 ここに目印になる印を置いておけば、行き来が楽になるからな。

 魔器は町を作る上で是非欲しい。魔器には色んな可能性を感じるからな。


「転移魔法とはなんぞや?」


「転移魔法ってのは、ここの村と俺達の町を一瞬で移動する魔法だ」


「なんと!?そんな魔法があるのか?」


「ああ、うちの魔法士隊の隊長が作った」


「凄い者がおるんじゃのう」


 確かにじいさんは凄ぇ。生命魔法に続いて、転移魔法まで作った天才だからな。


「では、これから人を呼んで希望者を募るでの。すまんが時間をつぶしておってくれんかの?」


「わかった。この村を自由に散歩しても大丈夫か?」


「おお、大丈夫じゃぞ。色々見て回るといい」


 長老の元を離れ、村の中を見て回る事にした。


「魔器とは凄いものだな」


「ああ、そうだな。だからこそウルガスにも魔器が欲しいところだ」


 イエールとセラと村を歩いているが、至る所で魔器は使われている。

 井戸の汲み上げや、街灯、それに露天での料理用のコンロまである。


 どんだけ種類があるかわからねぇが、魔器さえあれば出来る事が増えそうだ。


「ちょっと、そこの人。少し良いかい?」


「ん?どこだ?」


 どこからか聞こえて来る声に周囲を見回す。


「こっちこっち。この家だよ」


 声がした方向には一軒の家があった。その家の窓から一人の男が顔を出している。


「お前か、何か用か?」


「お前さんら、どこから来たんだい?」


「ああ、俺らは西の平原から来た」


「西の平原!つまりは外の世界から来たんだね!色々話を聞かせてもらいたいんだけど、時間は大丈夫かい?」


「ああ、構わねぇぜ」


 その男に誘われるままに家に入る。家の中では男がベッドの上から目を輝かせながらこちらを見ている。長い黒髪をベッドに垂らし、色の白い肌に痩せた体を起こして俺達を待っていた。


「ベッドの上から失礼。僕はちょっと体が頑丈じゃなくてね」


「そりゃあ大丈夫だけどよ。病気か?」


「いや、生まれつきだよ」


「そうか。で、どんな話が聞きたいんだ?」


「村の外の話なら何でも良いよ!」


 この男、ヨギトスに俺らのこれまであった事の話をしてやる。

 ヨギトスはその話の全てに目を輝かせ、感情豊かに聞いていた。


「はぁ〜!外の世界はそんな事になってるんだね!それに生命魔法に転移魔法、チャクラと興味が湧く事ばかりだよ!」


「ははは、好奇心旺盛なんだな。体が弱いならチャクラを解放したら少しは改善されるかも知れねぇぜ?」


「ほんとかい!?体質が改善出来たらウルガスに行きたいから、お願いしても良いかい?」


「おう、構わねぇぜ。今からやるか?」


「そうだね、早い方が良いから今からお願いするよ」


「セラ、念の為生命魔法と治癒魔法の準備をしておいてくれ」


「わかりました」


 元々体力の無いヨギトスだ。チャクラの解放には体力を使う事になるから、どう転ぶかわかんねぇからな。


「じゃあ、いくぞ」


 ヨギトスの背中に手を当てて、気を少しずつ送り込む。以前のやり方より、気を少しずつ送り込む方が早く解放出来る事に最近気が付いた。

 なるべく時間を掛けずにやってやりたいからな。


 その後、二時間程でヨギトスは第一チャクラの解放に成功した。


「凄いよ!体から力が溢れてる!」


「まだ、解放したばっかだから無理すんなよ」


「そうだね、気を付けるよ。でも本当に凄い!」


 チャクラを解放するまでは、ベッドで体を起こす事すらしんどそうであった。しかし、チャクラ解放後にはベッドから立ち上がり、歩き回れる程には回復していた。


「これから時間がある時は、坐禅を組んで気を練るんだ。魔力も一緒に練っていると効率が良いらしいぞ」


「うん、早く次のチャクラを解放したいからね!」


「じゃあ、俺達はそろそろ行くぜ」


「もう行くのかい?今日はありがとうね!」


「気にすんな。じゃあな」


 良い時間になったので、ヨギトスの所を出て長老の所へ戻る。


「どうだ?ウルガスに来ても良いって奴はいたか?」


「うむ、数人行ってみたいと言う者がおったぞ。いつから行くかね?」


「俺達はいつでも良いぜ」


「そうじゃのう、今日はもう遅いから明日でもよろしいかの?」


「分かった。じゃあ、明日の朝に転移出来る様に準備しとくぜ」


「頼んだぞ」


 明日の朝にウルガスへ転移する約束をして、借りている部屋に戻る。


「やったな。これでウルガスにも魔器が導入されるな」


「そうですね。魔器が有れば生活が豊かになるでしょうね」


「カイル、ハーナリア殿へは説明したのか?」


「おっと、忘れてたな。後で念話しとくぜ」


 いきなり転移して行ったら驚くだろうしな。


「そういえば、セラ」


「はい、何でしょう?」


「転移の魔法って一回で何人移動出来るんだ?」


「今回用意してる転移の魔法は、ウルガスと私の間に扉を開くような魔法です。扉を開いてる間でしたら何人でも移動出来ます。しかし、距離もありますし、魔力の消費が激しいので、現実的には十人も移動出来ないと思われます」


「そうか、制約無しにって訳にはいかねぇんだな」


「そうですね。まだ開発されて間もない新しい魔法なので、これから効率化や派生が生まれていくとは思います」


 じいさんなら上手く改造してくれるだろう。


「そうか。じゃあ明日に備えて今日は早く休むとしようぜ」


 飯を簡単に済ませて早めに寝る事にした。


──ゴァァァァァ!!


「なんだ!?」


 夜中に何かの叫び声が聞こえて来た。腹の底に響く様な大きな叫び声に飛び起きて部屋を出る。

 部屋の外に出るとセラとイエールも出て来た。


「何の叫び声だ!?」


「多分魔物かと思われます!行きましょう!!」


 建物の外に出て、叫び声が聞こえて来た方向へ向かう。


「ワグナス!魔物か!?」


「カイルか!村の外に魔物が現れた!」


「どんな魔物だ!?」


「それが見た事の無い魔物だ!とにかく向かうぞ!」


「わかった!」


 村の防壁の方に向かうと、そこには魔人族の戦士が集まっていた。


「状況はどうなってる?」


「ワグナス様!魔物が防壁へ攻撃を仕掛けて来ています!」


 防壁の外を見ると、サイとトリケラトプスを足した様な魔物が防壁へ突進を繰り返していた。


 体高は五メートル、体長は七メートル程ある巨大な体に三本の角を生やしている。全身が赤い鱗に覆われていて生半可な攻撃では傷がつきそうにない。


「やばいぞ!防壁にヒビが入ってきてるぞ!」


「これはいかん!行くぞ!」


 防壁の外に出て魔物に相対する。魔物は出て来た俺達を気にする事なく防壁へ突進を繰り返す。


「『炎牙』」


 魔人族の戦士より放たれた、火の槍の様な魔法は魔物の強靭な鱗により弾かれる。


「効いてねぇな!こいつ硬そうだぞ!」


「『岩槍』」


 地面から岩の槍が現れ、魔物の腹部を貫こうとする。しかし、岩の槍は魔物に当たると同時に砕けていく。


「魔法が効いてねぇな。セラ、イエール行くぞ!」


「はい!」


「おう!」

 

 俺を先頭に魔物へ突っ込む。


「ぜぇりやぁ!!」


 気を纏った右脚で魔物の脇腹へ前蹴りを放つ。その蹴りは魔物の鱗へ少し傷をつけて魔物の動きを止める。


「『剛気突』」


 イエールの気を纏った突きが傷をつけた鱗へ向けて放たれる。鱗は突きにより割れ体へ刺さり血が噴き出す。


ゴガァァァァ!!


「だめだ!浅い!体内も硬いぞ!!」


「はっ!!」


 セラが右脚へ大量の気を集め、魔物の後ろ足の爪先へ向けて踵落としを放つ。


ガァァァァ!!


 爪先を砕かれた魔物が咆哮を上げる。


「──!?セラ離れろ!」


 咆哮を上げていた魔物から炎が噴き出していく。


 強烈な熱気を放つ炎を纏った魔物はこちらへ体を向き直す。


「当たるとやばそうだぜ。気を付けろよ」


 こちらを向いて後ろ足で地面を掻いていた魔物が、俺達目掛けて突進をしてくる。


「躱せ!!」


魔物を中心に左右に飛び、突進を躱す。


「ワグナス!氷系の魔法を頼めるか!」


「任せろ!『氷寒牢獄』!」


 魔物の周囲へ氷が集まっていき、徐々に勢いを増していく。


「よし、少し炎が弱まってきたぞ!」


「──!?いえ、だめです!!魔力が高まっています!!」


グガァァァァ!!


 氷の檻が完成するかと思われた瞬間、魔物を中心に炎の竜巻が立ち昇る。


「やべぇ、離れろ!!」


 炎の竜巻が徐々に大きさを増していき、弾けるかの如く周囲へ拡散していく。


「ぐうぅ!」


「カイル様!」


 セラの前に立ち、気を全力で集め、体の前面を強化して防御する。しかし、気の防御を超えて炎は俺にダメージを与えた。


「『天与の癒し』!」


「すまん」


 セラに回復してもらい、周囲を見る。魔人族の戦士は殆どが先程の攻撃で深い怪我を負っていた。


 イエールは炎に炎をぶつける事により相殺していたが、魔力をかなり消耗したのか、膝をついている。


「これは本格的にやべぇかもしれねぇ。セラ、村の中に戻って転移の準備をしてくれねぇか?」


「しかし、カイル様はどうされるのですか?」


「誰かが足止めしねぇとだめだろう。他の村人を呼んで魔人族の戦士も連れてってくれ。イエールはすまねぇが俺と一緒に足止めに回ってくれるか?」


「承知した」


「すぐに準備を終わらせるので、カイル様も早く来て下さい」


「ああ、タイミングを見計らって向かうさ」


 そこまで余裕が作れたらいいんだけどな。

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気法士戦記 サルノコシカケ @sousuketakei

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