第14話 激流と強弓

 川の中の流れは激しく、掴んでいた熊擬きの体は離れていた。

 試してない為成功するか分からないが、俺は水を司る第二チャクラを意識し、残った気を全て水に変換し激流に対応しようとする。


 残り少ない気を何とか水に変換し、激流の中自在に動ける様になった俺は熊擬きを探す。

 万が一、陸に戻られてサジンやアーリアを襲われたら助からないからここで熊擬きを殺さなければならない。


 周囲を見回すと少し下流に熊擬きが居た。水に変換した気を右脚の先に集め凝縮し固める。そして激流の流される勢いを加えた前蹴りを熊擬きに放つ。

 凝縮し固めた気は鉄より硬い刃となり、熊擬きの首を断ち切る。


 気を全て使い切った俺は激流に飲み込まれる。泳ぐ事が出来る俺は抗おうとしたが、激流の勢いに勝てず体の自由を失い流されていく。


 そして、呼吸が続かず意識を失った。



ーーーーーーーーーーーーーー



 「がはっ!」


 どうやら死なずに済んだみたいだ。俺は川岸にある岩に引っ掛かっていた。

 周囲を見渡すと草のあまり生えてない荒野の様な場所だった。

 気温が高いとはいえこのまま水に入っていると体温が下がる為、陸に上がる。


 体内の気の量を確認すると、あまりの少なさに愕然とする。


 「無理をした反動か。暫くすれば戻るだろう。」


 サジン達の所へ戻る為には川沿いを遡って行くしかないが町があった方とは対岸に着いてしまった。

 川の流れは此処でも激流と言って良い程激しい。

 飛び越えるに少々幅が広くどうしようもない。


 「はぁ、仕方ない。とりあえず上流を目指すか。」


 今俺は食糧もなく、気が少ない為火も起こす事も出来ない。やばい状況だ。


 川を上流へ向かって歩いていると野生のインパラに似た動物を発見した。一匹で居たので食糧になる!と近付いて行くとこちらに向かって走ってきた。


 少ない気で体を強化し、構えて待つ。インパラ擬きは頭の角を前にして突っ込んで来たので左に交わし、インパラ擬きが通り過ぎる時に右脚の膝蹴りで胴体を蹴り上げ絶命させる。


 「よし、食糧だ!」


 ただ、今の状況では捌く為の刃物も焼く為の火もない為、坐禅をして気を回復させる。

 二時間程坐禅をしていると気がある程度回復した為、手に気を凝縮し刃の代わりにしてインパラ擬きの皮を剥ぎ捌く。

 大雑把に部位に分けると、今度は手の気を火に属性変換して肉を焼く。


 肉に火が通ったので齧り付くが、血抜きもしてない為ひどく血生臭く不味い。しかし今の環境では塩分を取る事が出来ない為、これも塩分と栄養と思い我慢して食べる。

 ふと思えば、第三チャクラの能力に代謝の強化があった事を思い出す。代謝、つまり消化と吸収だ。

 それならばと食べずに捨てようとしてた肝臓の部分を生のまま食す。血の臭いに辟易としながも栄養の為だと我慢する。


 ある程度食べて腹が膨れたので皮を火で炙り、簡易の風呂敷を作って残りの肉を詰める。


 「あぁ、何か原始人になった気分だ。」


 そして日が暮れるまでまた歩き始める。その後は小さなトカゲなど以外には会う事もなく日が暮れた。暗くなる前に見つけた岩山の窪みで坐禅を組んだまま仮眠を取る。


 二日程そんな生活を続けたところで川が遥か下に見える様になっていた。ここら辺は谷になってるみたいだった。


 どれだけ流されたんだと、自分のことながら呆れてしまう。

 

 そうして更に二日程歩いた所で谷の近くに町があった。


 「おっ、町があるぞ?美味い飯にありつけるといいが。」


 町に近付くと警告の声が聞こえてきた。


 「待て!近付くな!お前は誰だ!!」


 「俺は川を流されてしまったから戻ってる途中だ!良かったら休ませてくれないか?」


 「暫し待て!」


 防壁の上にいた弓を構えた若い闇人族は姿を消した。多分上の奴に伺いをたてに行ったのだろう。


 「よし、ゆっくり入ってこい。」


 戻ってきた若い闇人族はこちらに指示を出してきので、俺はその指示に大人しく従って付いて行った。


 町の住人は物珍しそうにこちらを見ていた。

 

 「他の町から人が来る事はないのか?」


 「ないな。」


 「そうか、ところでどこに向かってるんだ?」


 「長老の所だ。」


 それ以降は無言で付いて行った。


 着いた先は周囲の建物より、やや大きな建物だった。


 「入れ。」


 中に入ると三人の老人が居た。


 「お前さんは何処から来たのかのう。」


 「トルガナって町だ。知ってるか?」


 「トルガナのう……。はて聞いた事あった様な無かった様な。」


 「だいぶ川を流されたみてぇだから、遠いのかもしれねぇ。」


 やはり、分からねぇか。俺はどんだけ流されたんだ?サジン達の状況も気になるし、早く戻らねぇといけねぇのに。


 「休ませて欲しいとの事じゃったな?空き家が有るから使うといい。」


 「すまんな、助かる。」


 「案内させるから少し待ちなされ。」


 老人の一人が案内の者を呼びに行った。暫く待つと先程の若い闇人族を連れて戻って来た。


 「此奴はゲールという。此奴に案内させるでの。」


 「付いてこい。」


 ゲールはぶっきらぼうな性格みたいで言葉少なに歩いて行った。遅れない様に後を付いて行くと町の端の一軒家の前で止まった。


 「ここを使え。」


 「おう。ありがとな。」


 「長老の指示に従っただけだ。」


 その家の中には生活用品が揃っていた。食糧も少しあり、もらっても良いのだろうと判断して食べる事にする。


 「ふぅ、久しぶりにまともな物が食える。ここまで良くしてもらってありがたいな。」


 久しぶりのまともな食事で腹が満たされたのか、眠くなってきたので仮眠を取ることにした。


 カーン!カーン!カーン!


 「なんだ!襲撃か?」


 外に出ると町の住人が急いで建物に入っていってるのが見える。

 やはり魔物の襲撃か?俺は状況を確認する為に長老達が居た建物を目指す。


 「何があったんだ?」


 「魔物の襲撃じゃ。お主も腕に自信があるなら手伝ってくれんかの?」


 「おう、分かった。」


 町に入れてくれたお礼に手伝う事にする。北門の外に魔物が集まっているらしいので急いで向かった。


 北門の外にはこの町の防衛隊とアメリカンバイソンのような魔物が四十匹程居た。近くに居た防衛隊に手伝う事を告げたら、誰だと返されたので別の町の者だと答えておいた。


 互いに北門の外の荒野で睨み合っていたが、防衛隊の中の一人が声を発する。


 「俺が弓を撃ったら突撃だ!」


 「おう!」


 防衛隊は揃って返事をし、構える。


 『火墜の連矢』


 その男が放った魔法で出来た火矢は、空中で分裂し魔物達に降り注いだ。火矢の数、そして魔物の密度の要素が重なり、中心にいた魔物は交わす事が出来ず次々に火矢が刺さり悲鳴を上げた。

 火矢が魔物に刺さると同時に防衛隊も駆け出した。


 「さて、俺も一働きするかな。」


 気を練り身体能力を強化し駆け出す。気で強化された俺は先に駆け出した防衛隊を追い抜き、魔物の先頭にいた奴目掛け、走って来た勢いを加えた右脚での前蹴りを放つ。


 蹴られた魔物は首が折れ吹き飛んでいき、後ろに居た魔物を巻き込んでいく。

 蹴り上げた右脚をそのまま大きく踏み出し、ステップを踏みながら気を凝縮した左脚で後ろ回し蹴りを放ち、足先より気刃を飛ばす。

 気刃は広範囲に広がり、当たった魔物を斬り刻んでいった。

 

 「こんなものかな?」


 三十分程で魔物を全滅させて、周囲を確認していると最初に矢を放っていた男と目が合った。


 「お前やるじゃないか。」


 金髪で髪の短い森人族の男はこちらに寄って来て、俺の名前はキクリシスと自己紹介をして来たので、俺はカイルだと返す。


 町に戻りながら色々話し、この辺りの事を教えてもらった。

 今いるこの町はエヨーナという名前で、ここもほぼ毎日魔物に襲われているらしい。色々な種類の魔物が襲って来ているが、一回の襲撃では一種類しか現れないそうだ。先程の魔物はツーミシラという名前で、食用になるので当分肉には困らないと笑っていた。


 キクリシスとは話しが合い、後でこの町の酒場で飲もうと約束し一旦別れた。


 「動いた後の酒は美味えな!」


 「そうだろそうだろ!俺も戦いの後の酒は好きなんだ!」


 俺らは乾杯をして飲み始めた。出て来た料理はツーミシラの肉を煮込んだものだった。ツーミシラの肉は柔らかく、肉汁が滴るほどジューシーで堪らなく美味かった。


 「ところでお前はこれからどうするんだ?」


 「あー、とりあえず旅に必要な物を揃えたら元居た町を目指して旅立つつもりだ。」


 「そうか、じゃあ近いうちに行っちゃうんだなぁ。」


 ここからどれくらい距離が有るか分からないので早めに出るに越した事はない。出来れば明日には出たいものだ。



 「そうだな、歩いて行くとどれくらい掛かるか分からないからな。」


 「じゃあ馬を手に入れれる様に手配しといてやるよ。」


 「馬が居るのか!そりゃあ助かる!!」


 まさか馬が居るとは!と喜んだが、よく考えてみたら地球の馬と一緒なのだろうかという疑問が浮かんできた。

 しかし、何であろうと徒歩よりは速いかと思い気にしない事にする。


 満腹まで食い、たらふく酒を飲んだ俺はふらふらしながら借りてる家に戻って寝た。


 次の日は朝から必要な物資を集めて回った。昨日の防衛の手伝いの報酬で大体の物は集める事が出来た。後は、キクリシスが手配してくれているという馬だけだ。


 キクリシスを探していると鐘が鳴り始めた。

 キクリシスも防衛に出るだろうから丁度良いと思い、その辺の奴に今日はどこに現れたと聞くと東門だと答えが返ってきたので東門に向かう。


 「よう、キクリシス。」


 「おっ!カイルか!今日はハズレみたいだぞ。」


 東門の外を見ると、茶色のトカゲが五匹と黒色のトカゲが二匹居た。どちらも体長は六メートル程ある。

 

 「ルーデリアの通常種と変異種だ。変異種は麻痺毒を吐いてくるんだ。あっ、黒い方が変異種な!」


 「麻痺毒か、厄介そうだな。」


 「あと、変異種の方は鱗がめちゃくちゃ硬いから気を付けろよ!」


 「分かった。」


 今回もキクリシスが先制に矢を放つ、ルーデリアは硬い為、前回より強力な矢を放つと言っていた。


 「じゃあいくぞ!!『魔束の弓』『火咆の矢』」


 キクリシスは弓も魔法で作り、その魔法弓に火の塊の様な矢を番え放った。


 火の塊のような矢は弓なりではなく真っ直ぐ飛んで行き、ルーデリアの手前で集束した。集束した火矢はレーザーの様になり当たった通常種を抉り取りながら三匹を絶命させた。その矢は変異種にも当たったが変異種に傷をつけるだけで、絶命には至らなかった。


 「はぁはぁ、すまんが後は頼む。」


 「おう!」


 防衛隊と俺は駆け出した。俺の狙いは変異種だ。

 試した事はないが、第三チャクラまで解放した俺には麻痺毒は効かないはずだ。


 手前に居た通常種の脇を強化された体で高速で駆け抜け変異種の前に出る。


 変異種は硬いと聞いていたので、脚の気を強化して凝縮し、走った勢いのまま前方宙返りをして右脚による踵落としをルーデリアの頭に叩き込む。


 硬いと聞いていたルーデリアの変異種は頭を踵落としで砕かれて絶命する。

 キクリシスの矢で傷を負ったルーデリアへは回し蹴りで頭を潰した。


 こんなものかと、振り返り残りの二匹の通常種を防衛隊と共に倒す。


 「そんなに強く無かったな。」


 「いや、お前凄いな!どうやったらそんな事出来るんだ!?」


 「気を鍛えればお前にも出来るさ。」


 「気ってなんだ?」


 戦いが終わったのでキクリシスに気やチャクラの事を説明しながら帰る。


 「後で第一チャクラの解放を手伝ってやるから馬の手配を早めに頼む。」


 「分かった!」


 町に戻り、先に馬を受け取ってからキクリシスの第一チャクラを解放させる。時間は掛かったが解放でき、そのまま気絶したキクリシスを寝かせて長老達に挨拶に行く。


 「世話になったな、明日には出て行こうと思う。」


 「なぁに、我々も防衛で助かったから気にするでない。」


 挨拶を終わらせて、次の日の朝には西門の前に居た。


 「第二チャクラまで解放すれば他の奴らのチャクラを解放させてやる事が出来るからがんばれよ!」


 「おう!これで町の防衛が楽になる!ありがとな!」


 「ああ、気にするな!では、また会えたら会おう!」


 「気を付けてな!」


 そう言って俺はエヨーナをあとにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る