第15話 迷霧と激情
「カイル!!」
目の前でカイルが背中に針を背負った魔物に吹き飛ばされていく。カイルの元に駆け寄ろうとした時、森からビズが次々に出て来て私達を襲ってきた。
「邪魔しないで!!『風積の山颪』!!」
風魔法で出て来たビズを全て地面に叩き落とし、カイルの方へ行こうとしたけど森から追加で出て来たビズに再び囲まれる。
「くっ!邪魔よ!『風積の山颪』!!」
「アーリア!魔力を使い過ぎるな!」
サジンは気で体を強化して『風積の山颪』の影響を抑えて、ビズに斬り掛かっていた。
「だってカイルが!!あぁっ!!」
カイルの方を見ると更に廃墟の奥に吹き飛ばされていた。
「サジン!離れて!!『気刃の山颪』!!」
「くっ!」
廃墟側から森に向けて気を混ぜた魔法を放った。その魔法はビズと共に森の木を斬り刻んでいく。
「無茶をするな!しかし良くやった!!」
私とサジンは更にビズが出て来る前にカイルを追い掛ける。カイルが吹き飛んで行った方へ行くと、血の跡と破壊された建物があった。
「どっちに行ったの!?」
「焦るな!探査の魔法だ!」
「『巡りの風』!見つけた!川の方よ!!」
全力で駆け出し、川に着いた時に見た光景はカイルが魔物と共に川に飛び込むところだった。
「いやぁ!!カイル!!」
私は駆け出して、川に飛び込もうとした。しかし、サジンに腕を捕まれて止められた。
「邪魔しないで!カイルが!!」
「駄目だ!この流れの速さでは流されるだけだ!!」
「でも!カイルが!!」
「カイルならきっと生き延びる!!あいつはこんな所で死ぬような奴じゃない!俺の相棒だぞ!!」
「あぁ、カイル……。」
力が抜けて膝を着き、涙が溢れてくる。駄目だわ、カイルと離れるのがこんなにも辛いなんて。
「……アーリア。」
サジンが慰める様に肩に手を置いてくる。
暫く顔も上げれずに居た。
「カイルを待つか、トルガナに戻るか決めなくてはならん。」
顔を上げてサジンを見る。そんな事は分かっている、でも体が動かないの。
「カイルを待つわ。」
「分かった。だがいつまでも待つ訳にはいかない。」
「なんでよ!!」
「食糧の問題が有るからだ。塩が節約しても、あと十日程で尽きる。」
「そんな……。」
塩がないと生きてはいけない。そんな事分かってるけど、どうしてもカイルを待ちたい。
私は決めれないでいた。
「カイルを信じよう。あいつは絶対に生きて戻ってくる!川に流されたなら川を遡ってでもな。あいつは気の達人だぞ。」
「……。分かったわ。四日待ってカイルが戻って来なかったら町に戻りましょう。」
今日まで拠点にしてた教会の跡地で四日間待つ事にした。
不寝番は交代でする事にする。私の番の時、焚き火を見ながら色々考えてしまう。
もしカイルが死んでしまってたら!今もカイルが苦しんでいたら!そう考えてしまうと胸が張り裂けそうになる。
カイルは変わった人だった。最初は聞いた事のない言葉を話してたけど、それもたった一ヶ月で私達の言葉を覚えた。その時はちょっと早過ぎない?と思った。
カイルは気という力を持っていて、それを使って防衛隊のみんなと共に魔物を倒していた。
サジンと特に仲が良く。魔物を倒した後には、よく私が働いてたシグナートに飲みに来てた。カイルとサジンは性格が全然違う為、気が合いそうにないのにいつも楽しくしてた。
バラックとも仲が良く、いつもうるさい挨拶を楽しそうにしてたなぁ。
私がカイルと仲良くなったきっかけは何だったかな?そうだ、酔っ払ったおじさんに店で働いている時にお尻を触られそうになった時だった。
カイルは後ろを向いていた筈なのにおじさんの手を掴んで、「おいたしちゃ駄目だぜ」なんて言ってたな。
その事でお礼を言った後にカイルと話してたら、カイルの話が面白くてそこから仲良くなっていったんだった。
「……。カイル……。」
カイルが居ない事が寂しい。隣りで笑ってくれない事が辛い。
知らない間に涙が出てきた。
ーーーーーーーーーーーーーー
「今日で四日経った。カイルを待つにしろ、一回町に戻ろう。」
「ええ、分かったわ。」
カイルは四日経っても戻って来なかった。仕方なく一度町に戻る事にする。この四日間、最初はカイルが居ない事が悲しくて何も出来なかった。けど、サジンの慰めもあり次第に立ち直っていった。
次は同じ事がないように、カイルの隣りに立てる様に新しい気を混ぜた魔法を考えて過ごした。
「ねぇ、気を混ぜた魔法って長いから、今度から気魔法って呼ぶ事にしない?」
「そうだな、それは良いな。」
「でしょ!新しい気魔法も考えたし、カイルが帰って来た時にビックリさせてあげましょ!」
「それは、良いな!俺も新しい技を考えておこう。」
そんな事を話ながら森を歩いて行く。もちろん擬態してるビズを刺激しない様に気を付けてる。
「今日はここで野営をしよう。」
少し開けた場所があったので、そこで野営をする事にした。
食事を終えて片付けをしてる時、辺りに霧が漂い始めた。
「霧が出て来たわね。」
「明日の朝には消えてるだろう。」
霧は不寝番をしてる時にも消えず、より深くなっていった。
「霧、消えないわね。」
朝になったが霧は消えてない。今では少し先も見えない程深い霧が出ていた。
「仕方ない、気を付けて進む事にしよう。」
こうも霧が深いと森での探索が得意な森人族でも方向が掴めない。とにかく真っ直ぐに進もうと話し、進んでいると見た事のない湖の前に着いた。
「おかしいわ、真っ直ぐ進んだらトルガナに着く筈なのに。こんな湖見た事ないわ。」
「そうだな、何かがおかしい。」
霧に導かれる様に着いた湖は透明度が高く底まで見えていた。霧と相まってとても幻想的な風景だけど、何か嫌な予感がする。
「サジン早く離れましょう。」
「ああ、何やら良くない予感がするな。」
湖から離れようとした時、元来た道に見慣れない木が生えてた。
「あれ?こんな木、有ったかしら?」
「いや、無かった様な……。アーリア!魔物だ!!」
見慣れない木は急に枝を伸ばし私達を掴もうとする。
「これはメルガだ!」
見慣れない木は植物型の魔物メルガだった。メルガは普段木に擬態して通り掛かる人を取り込み吸収してしまう、厄介な魔物だ。
「『気刃の風』!まだ居るわ!」
気が付けば目の前のメルガだけでなく、周囲に無数のメルガがいた。
「『風気刃』!ここを突破するぞ!」
目の前のメルガを斬り刻み、私達は駆け出す。しかし周りには無数のメルガが居た。
メルガの枝による攻撃を防御魔法で防ぎながら気魔法で斬り刻み、少しずつ進む。
「大きい!!あのメルガ大き過ぎるわ!!」
そこには巨木と言って良いほどのメルガが居た。
そしてそのメルガの巨木の中からビズの変異種が飛んで来た。
「まさかこいつがビズの巣になってるのか!」
巨木からは無数のビズの変異種が出て来ており、中には白いビズも居た。
「上位種まで居るわ!逃げきけれない!やるわよ!!」
「仕方ない!出し惜しみなしだ!!」
サジンは左に駆け出し、離れた所より『風気刃』で巨木を狙う。
「『気刃の山颪』!!」
私は正面の上空から巨木に向けて魔法で気刃を吹き下ろす。
「ギィィィィィ!!」
変異種はその魔法で斬り刻まれたが、上位種には浅い傷しか付かなかった。
「効かない!?」
サジンも上位種を相手取って戦っていたが中々倒す事が出来ていなかった。
「サジン!大きいのを使うわ!合図をしたら後ろに飛んで!!」
「分かった!!」
体内にある魔力と気を大量に混ぜ合わせ、チャクラを回して凝縮していく。
「いくわよ!!サジン飛んで!!『気嵐の烈風』!!」
猛烈な風により、ビズの上位種は吹き飛ばされながら、風の中に含まれていた凝縮した気の刃で斬り刻まれていった。その魔法は巨木のメルガも中程から真っ二つに断ち切った。
「よし!やったな、アーリア!」
「ええ、何とか発動出来たわ!」
この魔法は大量の気と魔力を消費する魔法みたいだった。廃墟で考えてはいたがまだ使った事が無かった為、加減が分からず。私は魔力が尽きかけていた。
「何か出て来るわ!」
真っ二つになった巨木のメイズから上位種のビズより大きい、赤いビズが出て来た。
「女王か!アーリア気を付けろ!」
女王は私達を視界に捉えると飛び立った。
そして瞬き程の間にサジンに攻撃を加えていた。
「サジン!!」
サジンは剣にて女王をいなしていた。そのサジンから大量の気が体の周りより立ち昇っている。
「こいつは俺がやる。アーリアは気を混ぜた防御魔法を使って離れてろ。」
サジンは剣を構えて女王に相対する。女王は最短距離で飛び込み毒針による刺突を繰り出した。
その刺突を地面が陥没する程の踏み込みと共に上段斬りを放ち毒針を切り離した。
「『剛気刃』!!」
振り下ろした剣を更にもう一歩踏み込みながら、今度は斬り上げ、胴体を真っ二つにした。
「やるじゃない!」
手を上げて喜んでいると、徐々に霧が晴れていった。
「霧はメルガの変異種だか上位種だかのせいだったみたいだな。」
「そうね。霧が完全に晴れたら町に向かいましょ。」
霧が晴れさえすれば太陽で大体の方角が分かる為、町の位置が分かるようになる。
一時間も経たないうちに霧が完全に晴れた為、町の方へ向かう。
「さっきのサジン凄かったわね。」
「ああ、第三チャクラまで解放したんだ。」
「えっ!?貴方も第三チャクラまで解放したの!?」
「廃墟を出る前の不寝番の時にな。カイルの言った通り気が溢れる程増えた。」
「私も負けてられないわね!」
話の中にカイルが出て来た為、一瞬胸が締め付けられる。
早くカイルに会いたい。
「町に戻ったら説明をして物資を分けてもらって廃墟に戻るぞ。」
「ええ、分かったわ。」
「廃墟に行く時は可能であればシジールとレジーナにも来てもらおう。何が出て来るか分からんからな。」
「シジールは良いとしてもレジーナは難しいんじゃない?」
「俺等がビズの巣を潰したから今後はトルガナの町の襲撃も減るだろう。そうなればレジーナが町を離れても問題ない筈だ。」
「確かに!そうね!レジーナが居たら回復もしてもらえるし助かるわね。」
町に着いた私達はシジールとレジーナに説明する。
「そんな!カイルさんが!?」
「カイル程の者でさえ倒せなかったのか!?」
「ええ、でもその魔物はカイルと共に川に落ちたわ。」
あの流れであれば、気の使えない魔物では助かりようがないだろう。
カイルが魔物に後れをとった事に二人は驚愕していた。カイルの強さは防衛の時に見ていたから信じられないみたいだった。
「それで、巣を破壊したから今後はビズの襲撃も収まってくると思うの。」
「そうね、女王まで倒したのならこれ以上増える事もないでしょうね。」
「だから、シジールとレジーナにも私達に着いて来て欲しいの。お願い!!」
「俺からもお願いする。あの廃墟には何が出てくるか分からないんだ。
しかし、カイルをこんな所で失う訳にはいかない!」
「カイルは私達に気という技術をもたらしてくれたわ。そして私達の師匠でもあるの。そんなカイルを絶対に連れ帰らないといけないわ!」
「分かりました。私は付いて行きます。シジールさんはどうされますか?」
「そうだね、流石に私の一存では決められないから長老達と話して来るわ。」
シジールは長老達と話をしに行った。その間に物資を集めようと三人で手分けして町を散っていった。
「よし、私も付いて行くぞ!」
長老達より許可が出た為、これで四人であの廃墟に赴く事になった。
「しかし、川に流されてカイルは大丈夫なのか?」
「あいつは俺達よりも気の扱いに熟知している。俺達が知らない使い方もある筈だから必ず生き残っている!」
「そうね、カイルは絶対に生きてるわ!」
そうして私達は北門を出て廃墟に向かった。
「カイル、待ってるわ。早く戻って来て……!」
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