第13話 森林と擬態

 「いきます!『気刃の山颪』」


 レジーナが撃った魔法は、平野に出て来ているビズの八割を斬り刻んだ。


 「よし!行くぞ!」


 一気に数が減ったビズ目掛けて、シジールを先頭に駆け出す。残り二割しかいないビズは、瞬く間に全滅した。


 「もう完璧ね!レジーナちゃんやるじゃない!」


 「いえいえ、まだまだアーリアさんには敵いません。」


 レジーナはあれから三日程掛けて、気と魔力を混ぜた広範囲の攻撃魔法を覚えた。アーリアが言うには、この魔法は難しいらしく三日で覚えるのは早い方だと。


 「これで巣の捜索に行けるな!」


 「そうだな。今日中に準備を終わらせて、明朝に出発しよう。」


 レジーナの攻撃魔法があれば、トルガナの防衛は過剰なくらいだろう。

 俺達は町に戻り、食糧などの必要物資を集めた。


 「シジール。俺らは明日の明朝に出て、巣を探して来るからよろしくな!」


 「分かった、カイル。任せておいてくれ!」


 「だが、最近ダステルが出てこない事が気に掛かるな。」


 「そうね、きっと森の奥に戻ったんでしょうけどね。」


 サジンの言葉にアーリアが答える。確かに最初の時以来ダステルは見ていない。

 策略を巡らす程の知性はない筈なので、余計に気に掛かる。


 「まぁ、森に入れば何か分かるだろ!」


 「そうだな。」


 「心配すんなって、相棒!」


 明日の為に早く休む事にする。明日からの探索が早く終われば良いけどな。


 翌朝、まだ日の登ったばかりの時間に俺達は北門の前に居た。


 「よし、忘れ物はないか?」


 「ああ、大丈夫だぜ!」


 「私もよ。」


 「では、行こう。」


 森までは北門から一キロメートルしかないので直ぐに森の入り口に着く。


 「アーリア、探査の魔法を頼む。」


 「分かったわ。『巡る風』」

 

 アーリアが探査の魔法を使い、周囲を調べたが近くに魔物は居ないみたいだ。

 そうして俺達はアーリアを先頭に森の中を進んで行く。アーリアは俺やサジンには分からない、僅かな魔物の痕跡を辿っていく。


 三時間程何事も無く進んでいたが、進行方向より羽音の様な音が聞こえてきた。


 「気を付けろ!多分ビズだ!」


 俺の声にサジンとアーリアは構える。

 アーリアは気を覚えた頃からサジンに剣を習い始めた。まだ強くはないが、チャクラを解放した事によって身体能力が上がっているので自衛が出来る程度の強さはある。


 そして森の奥より出て来たのは茶色の体をしたビズだった。


 「こいつ、上位種か!?」


 「いや、通常種だな。」


 「ん?上位種じゃないのか。」


 俺は飛び上がって横にある木を蹴ってビズの高さまで行き、気によって強化した右脚で回し蹴りを放つ。その蹴りで五匹纏めて蹴り飛ばす。蹴り飛ばされたビズは体を大きくへこませて絶命している。

 サジンとアーリアは向かって来たビズを着実に斬り殺していた。


 数自体少なかった為戦闘は直ぐに終わった。


 「通常種も居たんだな。」


 「そりゃあいるでしょ。でも、通常種なら問題ないわね。」


 その後は魔物が現れる事無く日が暮れた為、野営をする事にした。


 「飛行種は痕跡を見つけ難いから厄介ね。」


 「足跡が無いからなぁ。変異種でも出てくれれば方向は掴めるんだけどな。」


 「そうだな。」


 不寝番は交代で一人ずつ寝る事にして夜を過ごした。夜の間は魔物が襲ってくる事はなく、それなり休む事が出来た。


 翌日も二回程通常種の襲撃があったが変異種は現れなかった。


 「でも、おかしいよな。」


 「おかしいって何がよ?」


 その晩に野営をしてる時に、今日までに疑問に思った事を話す。


 「こうやって俺達が森に入ってる間もトルガナは魔物の襲撃を受けてるんだろ?毎日襲撃を受けてる筈だからな。」


 「そうだな、たまたま二日間トルガナが襲われてないとは考え辛いな。」


 「だろ?だったら巣を目指してる俺らはすれ違ってないとおかしくないか?」


 「確かにそうだわ!」


 「ちょっと探査の魔法使ってみてくれねぇか?」


 「ええ、分かったわ。『巡る風』

 ……!?魔物に囲まれてる!?凄い数!気を付けて!!」


 「どこだ!?」


 俺は野営の為に燃やしていた木を松明代わりに一本掴んで周囲に向ける。


 「居ないぞ!アーリア!どこなんだ!!」


 「おかしいわ!魔力の反応では私達は囲まれて居たの!!」


 火で周囲を照らしてみるが、魔物の姿は見えない。鬱蒼とした葉の生い茂った木々に囲まれているだけだった。


 葉の生い茂った木々……まさか!!


 「ビズの変異種の色は緑だった!擬態しているかもしれねぇ!!気を付けろ!!」


 その時、俺が持っていた松明代わりの木が近くにある葉に触れた瞬間、葉の塊が動いた。


 「やっぱり擬態していやがった!!」


 一匹が気付かれたからか、周囲の全てのビズが一斉に擬態を解いた。


 「やばい!数が多過ぎる!!」

 

 「狭いところでこの数は拙い、倒しながらビズの包囲を抜けるぞ!」


 サジンを先頭に俺達は走り出した。俺は後ろから来るビズを倒しながら最後尾を走る。

 

 「拙いぞ、アーリア灯りを頼む!松明代わりの木だけじゃ見えねぇ!」


 「分かったわ!『優しき白光』」


 アーリアの頭上に光の玉が浮かび上がり、周囲を照らす。この光の玉はアーリアについて行くみたいだった。


 「視界いっぱいビズじゃねぇか!サジン!急げ!!」


 俺達はビズ倒しながら走っていたが、全ての攻撃を防ぐ事は出来ず細かな傷を負っていく。


 そうして一時間程走ると急に広い所へ出た。そこはボロボロになった町だった。


 「ここなら戦える!!」


 俺は脚に火を纏いビズに相対する。しかし振り返り戦おうとした俺達に対して、ビズは森から出て来なかった。


 「なんだ?森からは出て来ないのか?」


 「そうみたいだな。ここで睨み合いをしていても仕方ないだろう。この廃墟の奥に進んでみよう。」


 俺達はビズの事はひとまず置いて町の廃墟を調べる事にした。


 「こんな所に町が有るなんて初めて知ったわ。」


 「そうなのか?」


 「ああ、俺も知らなかった。」


 廃墟を調べていたが、もう真夜中なので野営出来そうな所を探す。

 教会らしき建物があまり壊れていなかった為、今日はここで寝る事にする。


 「背嚢を二つしか持って来れなかったから保存食が少しやばいかも知れねぇ。」


 「あと何日分くらいあるの?」


 「そうだな、三人で五日分って所か?」


 「そう……。」


 夜の森じゃなけりゃビズがどんだけ居ても何とかなったが、視界が狭い中戦うのは少し厳しかった。


 「あれって刺激しなかったら襲って来なかったと思うか?」


 「そうだな、一日目の野営の時も周囲には擬態したビズが居たと仮定するならばそうだろうな。」


 「くそっ!要らん事しちまった。」


 「まぁ、今日は早く休みましょ?」


 念の為不寝番を交代でしながら朝を迎えた。


 「まだ森の入り口にいやがる。」


 森の入り口を確認に行くと大量のビズがまだ居た為、森に入れそうに無かった。


 「暫くは保存食を節約しながらビズが落ち着くのを待つしか無いだろうな。」


 ビズを倒す事は簡単だが、どれ程の数が居るかわからない為森に突っ込むわけにはいかなかった。


 「しゃあねぇか。じゃあこの廃墟でも探索しようぜ!」


 「他の魔物が居るかもしれないから気をつけるのよ!」


 「あいよ!」


 俺はこの廃墟となった町を探索する事にした。まず町の周囲をぐるっと回って確認すると三方を森に囲まれていて、森の無い北側には大きな川があった。

 流れが速く、入ったら流されてしまいそうな川だが、上手くすれば魚が獲れるかもしれねぇ。


 「なぁ、アーリアって雷の魔法って使えねぇの?」


 「雷の魔法?そんな魔法あったかしら?」


 「俺も聞いた事が無いな。」


 「何だ雷の魔法ってないのかよ。北に大きい川が有るから雷の魔法が有れば魚でも獲れると思ったんだがよ。」


 「あら?魚なら水の魔法で獲れるわよ?」


 「本当か!」


 俺達三人は川の前に移動した。そこでアーリアに水魔法を使ってもらう。


 「じゃあいくわよ。『青き堅牢』」


 アーリアが魔法を使うと水が一辺二メートルの立方体の形で浮かんできた。その水の中には丸々太った鮎の様な魚が五匹泳いでいた。


 「すげぇな!大漁だぜ!」


 その魚を焚き火を起こして昼飯にする事にした。軽く塩を振って焼いた魚は新鮮だったからかめちゃくちゃ美味かった。


 「ふぅ!美味かった!」


 「ふふ、良かったわね。」


 「これで一応食糧の目処が立ったな。」


 食糧の問題が無くなった俺達は廃墟を改めて探索する事にした。この廃墟は俺達の町程広くはないが全部見るには一日では足りないくらいだった。


 「しかし、何でここは廃墟になったんだろうな?」


 「そうね、手掛かりになりそうな物はまだ見つかってないけど、廃墟になってそんなに経ってないと思うわ。多分数年くらいかしら?」


 「そうなのか?良く分かるな。」


 数年しか経ったないのだったら、何があったかちゃんと調べておかないと俺達の町も何か被害があるかもしれないと本腰を入れて調べる。


 「この建物何かすげぇ穴が空いてるな。」


 そこには一軒の家があったが何か大きな物が貫通した様な穴が空いていた。


 「自然に崩れた感じでは無いから、魔物なのだろうな。」


 「げっ、こんな大きな穴を開けるような魔物も居るのかよ。」


 その穴は高さ五メートル近くあった。二階建ての家の二階の中頃までの高さの穴が空いていた。


 その日はそれ以外には目ぼしい痕跡が見つからなかった。

 また教会の廃墟で夜を明かす。


 「明日にはビズ共が落ち着いてくれてたらなぁ。」


 「そうね、そうなると嬉しいわね。」


 「食糧に関しては何とかなったから持久戦だな。」


 「まだ巣を探すってのも待ってるんだから勘弁して欲しいよなぁ。」


 仕方ないかと、諦め先に休む事にする。


 翌朝もまだビズが落ち着いて居なかった為、継続して町の廃墟を調べる。


 「ねぇ!ちょっとこっちにきて!」


 「なんだ?何か見つけたのか?」


 サジンと顔を見合わせてアーリアの元に行くと、アーリアが何かを読んでいた。


 「誰かの日記みたい物を発見したの。」


 「何が書いてあったんだ?」


 「この町は魔物の大群に襲われてたみたい。」


 「どんな魔物に襲われてたんだ?」


 「それが何種類も居るみたいなのよ。」


 そこには俺の聞いた事のない名前の魔物ばかりが載っていた。中にはアーリアやサジンさえ聞いた事のない魔物もいた。


 「つまり、その何種類もの魔物がこの周囲に居るって事か。」


 「そうなると拙いぞ。準備を整えて森に突っ込むぞ!」


 「おうよ!」


 そして教会に戻って準備を整えている時に、咆哮が響いてきた。


 「拙い!あの中のどれかかも知れん!カイル!急げ!!」


 俺達は急いで準備して教会を出て森へ駆け出した。

 あと五メートルで森に入れるという所で、斜め前より熊とヤマアラシを足した様な魔物が現れた。


 そいつは熊の様に毛皮に覆われてヤマアラシの様に背中に沢山の針を背負っていた。

 腕と脚と頭の一部に黒く光る甲殻が付いており、熊を少しスリムにした様な体格をしていた。


 そいつが現れた瞬間に鳥肌が立った。

 こいつはやばい!そう思った時には自然と体がそいつに向かって行っていた。


 「こいつはやばい!俺が全力で戦っても勝てないかもしれねぇ!!俺が引きつけておくからお前らは先に行け!!」


 俺はそいつの前で構えながら叫んだ。俺の勘ではこいつは俺ら三人で力を合わせても勝てるか分かんねぇ。


 「馬鹿な!置いて行ける訳がないだろう!!」


 「駄目よ!カイル!!」


 そう言って、二人はこっちに来ようとする。


 「来るんじゃねぇ!!」


 そう言った瞬間にそいつが突っ込んで来た。

 

 速過ぎる!


 回避が間に合わないと思った俺は、回避は諦め最大まで強化した右脚で膝蹴りを放つ。膝蹴りが奴の頭に当たったと思った瞬間、廃墟に吹き飛ばされていた。

 

 熊擬きは俺の膝蹴りで俺を標的だと決めたのか、アーリアとサジンには目もくれずこちらに来る。


 痛む背中を押して立ち上がりながらチラリとサジンとアーリアの方を見ると、この熊擬きに刺激されたのか森から出て来たビズに囲まれていた。


 「くそっ!サジン!アーリアを頼んだぞ!!」


 そう叫び熊擬きに駆け寄り、火に属性変換した左脚による前蹴りを放つ。最速で放ったはずの前蹴りは熊擬きの右腕によって撃ち落とされ、更に左腕での爪撃を体にくらいまた吹き飛ばされる。


 町の中程まで吹き飛ばされた俺は血を吐く。表面は気で防御していたので浅い傷だけだったが、衝撃で内臓を痛めていた。


 「やべぇな、こいつ。」


 熊擬きは攻撃と共に走り出したのかもう目の前に居る。

 熊擬きの体当たりを廃墟の壁を蹴って飛び上がる事によって交わしたが、熊擬きは背中にあった針を飛ばしたきた。

 俺はそういう攻撃方法もあり得ると予想していた為、腕に気を固めて打ち払う。しかし針の数が多く、左腕と腹と右脚に一本ずつくらってしまう。


 「ぐぅっ!!」


 着地した時に針が刺さった脚が痛み、膝をついてしまう。

 そこへ熊擬きが俺の顔目掛けて爪撃を放ってきた。腕を強化してクロスガードをしたが耐え切れず。両腕が上に上がってしまう。


 両腕が上がった俺に対して熊擬きはまた体当たりをしてきた。体勢が崩れていた為、交わす事も出来ず吹き飛ばされてしまう。

 いくつかの建物を破壊しながら川の前まで吹き飛び、転がっていく。


 川に落ちると思い、慌てて手で地面を掴み体を止める。


 「くそが!」


 焦りからか、思わず声が出てしまう。だいぶ吹き飛ばされたせいか熊擬きとの距離が空き、僅かに出来た時間で針を抜く。


 「ぐっがぁぁ!」

 

 やばいな、歯が立たない!と思うが、こいつをどうにかしないとアーリアとサジンがやられてしまうと思い考える。

 その時、背後にある川の流れる音で思い付く。


 「くそっ!仕方ねぇか。」


 覚悟を決めた瞬間、熊擬きが駆け寄ってくるのが見えた。


 そして、体内にあった気を全て使い全身を強化すると、熊擬きの体当たりを正面から受け止めようとする。

 質量と力の差で吹き飛ばされそうになるのを全力で耐え、力のベクトルを変える為、左脚を下げながら左に力を流し熊擬きと共に流れの速い川に飛び込んだ。


 「アーリア、サジン、すまんな。」

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