第12話 平野と解毒

 「待たせたな!」


 「いや、まだ奴らはこちらまで来ていない。」


 北門の外でサジンとアーリアが待っていた。視界の先では森からビズが次々と出てきていた。

 

 俺達三人はトルガナの防衛隊の背後に居た。

 今回の戦いでは、気を覚えたトルガナの防衛隊が中心となって戦う予定だ。


 「それにしても、続々とビズが出てくるな!」


 「そうね、いつもより多いみたい。」


 この町に来て四日目になるが、今見えてるビズだけで既に今までで一番数が多い。


 「おいおい、まだ出てくるぞ!」


 「これは拙いかもしれないな。」


 「アーリア、お前の魔法で数を減らした方が良いかもしれねぇ。」


 ビズ共は次々に出てきており、今では森が見えない程居る。


 「おーい!シジール!」


 「なんだ!カイン!」


 前の方に居るシジールに声を掛ける。アーリアに魔法を使わせる為だ。


 「アーリアに魔法撃ってもらってから攻めないか?」


 「そうだな!この数だとそうした方が良いかもしれない。」


 「よし、アーリア頼む。」


 「分かったわ、ちょっと威力が下がるけど広範囲の魔法を使うわね!『気刃の山颪』」


 アーリアの魔法は上空から強い風と共に気の刃をビズ達吹き下ろした。

 全ての気刃が当たった訳ではないが、ビズ達の数が多く、密度が高かった為に大半がビズ達を斬り刻んでいく。


 風が止まった時には半数程に減っていた。


 「よし、では防衛隊達よ!行くぞ!!」


 「おう!!」


 シジール達、トルガナの防衛隊の戦士達は、声を上げビズに向かって走って行った。

 チャクラを解放したお陰かその走る速度も速く、まだ森の前にいたビズに十秒と掛からず辿り着いた。

 

 そしてそこからは乱戦になっていた。防衛隊に対してビズの数が多過ぎるからだ。

 アーリアの魔法によって数が減らされたとはいえ、まだ多い。


 「えーと、俺達はどうすれば良いんだ?」


 「トルガナの防衛隊が撃ち漏らして、こちらに来た個体を倒せばいいのだろう。」


 「分かったわ。」


 そう言って俺達は見守ることにする。トルガナの防衛隊の動きは、気を覚える前とは段違いになっていた。特にシジールの動きは凄まじく、目の前にビズが居たと思うと一瞬で斬り刻まれていた。


 「これはする事ないかもなぁ〜。」


 「そうね、こちらに来そうもないわ。」


 暫くそのまま眺めて居ると、ビズの数がそんなに減って無い事に気が付いた。


 「なぁ、気のせいかビズ共の数がそんなに減ってなくないか?」


 「……。確かにそんな気がするな。」


 サジンが周りの状況を確認していると、不意に表情が変わった。


 「拙いかもしれん!森からまだビズが出て来ている!」


 「なんだと!?」


 「このままだと体力が尽きてしまうわ!」


 トルガナの防衛隊は気を覚えたてであり、体力の配分は上手く出来ていない筈だ。このまま戦いが続けば遠くない未来に体力が尽きてしまう。


 「カイル!俺達も行くぞ!」


 「おうよ!!」


 俺とサジンは森へ向かって駆け出した。アーリアは北門の前で撃ち漏らしを倒す役目の為に残してきた。


 「シジール!!森からまだビズが出てきている!このままじゃあ体力が尽きちまう!防衛隊を下がらせろ!!」


 「……!分かった!!」


 俺とサジンは余裕を持ってビズを捌いていく。サジンは第二まで、俺は第三までチャクラを解放している為、気の量も多く、スタミナもある。そして第一チャクラまでしか解放してない者と比べれば段違いに身体能力が高い。


 トルガナの防衛隊がある程度下がったところで、俺は脚に巡らせている気を属性変換し火を纏わせる。

 

 「カイル!何だそれは!」


 「新技だよ!」


 火を纏った右脚で強く踏み込むと火が右脚を中心に円状に迸る。その火は周囲のビズを焼き殺していく。


 「サジン!俺にはあんまり近寄るなよ!」


 「見れば分かる!」


 踏み込んだ右脚を軸にして上空へ向けて左脚での回し蹴りを放つと、その二メートル先迄のビズが燃え尽きていく。

 射程は二メートル程みたいだ。


 「ちっ!高い所を飛んでる奴ばかり残ってるな!アーリア!魔法で奴らを地上に叩き落としてくれ!」

 

 「貴方達まで巻き込まれてしまうから出来ないわ!」


 「俺達は気を多めに纏えば大丈夫だ!やってくれ!!」


 「……!分かったわ!『風積の山颪』」


 先制にアーリアが撃った魔法と同じように上空より風が吹いてくる。その風は空気の密度が高いのか圧を持ってビズを上空から叩き落としていく。『気刃の山颪』の元型なんだろうな。


 俺とサジンは気を多めに纏い風の圧力に耐え、落ちてきたビズに止めを差して回った。


 そして森からもビズが出てこなくなり、戦いは終わった。


 「ふぅ、何とか終わったな。」


 「ああ、今までにない数だったが倒しきったな。」


 俺達が今拠点としてる教会に戻るとレジーナが毒針に刺された防衛隊の戦士に治癒魔法を使っていた。

 その顔は必死であった。毒針に刺された腕は紫色になり倍程に腫れていた。これは切り落とすしかないのかと思って見ていたが、切除しようとはしていない。


 何でだ?と見ていると治癒魔法の光が強くなっていった。そして光が収まっていくと、そこには元の太さに戻った腕があった。

 治癒魔法でも刺された所はどうしようも無かったんじゃないのか?と、レジーナに近寄ると大量の汗を掻きながらも安堵の表情をしていた。


 「刺された所も治癒魔法で治せるようになったのか?」


 「はい!カイルさんのお陰です!」


 嬉しそうな声でレジーナは返事した。話を聞くと、どうやら気で治癒魔法を強化したらしい。

 気と魔力を混ぜるに第二チャクラまで解放しないと駄目な筈だ。レジーナは今日第一チャクラを解放したばかりじゃないのか?と聞くと、既に第二チャクラまで解放したと答えた。


 確かに最初から大量の気を持っていたレジーナなら第二チャクラまで解放出来るかと思い納得する。


 「レジーナは凄いな!」


 「そ、そんな事ありませんよ!」


 レジーナは照れていたが今まで治癒出来なかった、毒針に刺されていた箇所まで治癒できた為、嬉しそうでもあった。


 「ところでサジン、俺達はいつまでここに居るんだ?」


 「このビズとダステルの襲撃が落ち着くまでだな。」


 「それっていつになるんだろうな?」


 「分からん。」


 「ねぇ、カイル。また私達で巣を探しに行く?」


 「う〜ん、それも有りっちゃぁ有りだが、シジールに相談してからだな。」


 「そうだな。」


 教会の奥の執務室に行き、シジールに巣を探しに行ってはどうだ?と話してみるが反応は良くない。


 確かに今日の状況を見ると難しいかもしれない。この町の防衛隊には広範囲の攻撃魔法を使える者は居るが、気と魔力を混ぜた攻撃魔法を使える者がいないからだ。


 「困ったな。これじゃあ俺達はずっとこの町にいなきゃいけねぇ。」


 広範囲の攻撃魔法を使える者が第二チャクラを解放出来れば済む話だが、それを待っていたらいつになるか分からねぇ。


 「あっ!そうだ、レジーナに攻撃魔法覚えてもらやぁ良いじゃねぇか!」


 「レジーナに?」


 シジールは不思議そうな顔をして聞き返してきた。


 「そうだ、レジーナは既に第二チャクラまで解放している。」


 「ええ!そうなの!?」


 アーリアが驚いた声を上げる。サジンもシジールも驚いた顔をしていた。まぁそりゃあそうだよな。第一チャクラを解放したその日に第二チャクラまで解放してんだから。

 俺だって嫉妬しまうくらいだ。天才共め。


 レジーナを呼んで先程の話をする。レジーナは闇人族なので闇魔法か風魔法も得意な筈だ。


 「攻撃魔法ですか?使った事ないのですけど、大丈夫でしょうか?」


 「そこはあれだ、アーリアに任せておけば大丈夫!心配するな!」


 「……貴方ってやっぱ適当ね。」


 アーリアに半目で見られるが教えれるのがアーリアしか居ないので仕方ないだろう。


 そうしてアーリアがレジーナに広範囲の攻撃魔法教える事で纏まった。


 レジーナが攻撃魔法を覚えるまで俺とサジンは暇になる為、坐禅を組んで気を練っているとシジールが声を掛けてきた。


 「今日の戦いで思ったんだけど、まだ気を使った戦いに慣れてないの。だからどちらか模擬戦をしてくれない?」


 俺とサジンは目を合わせる。シジールは槍を使っているから素手の俺よりサジンの方が良いだろう。


 「よし!相棒!出番だな!」


 「そうだな、武器を使うなら俺の方が良いだろうな。」


 サジンとシジールが武器を構えて向き合う。俺は少し下がって見学をする事にした。


 レジーナが先に動く。中段に構えた槍を、右脚の踏み込みと共に最短距離で突き出した。その突きをサジンは同じく中段に構えた状態から小さく半月を描くように手首を返し、左に受け流した。受け流した剣を右脚の踏み込みと共にシジールの右脚を狙った突きに変える。

 

 サジンの突きを受け流された槍を左手で素早く引き戻しながら左脚を左へ円を描く様に動かし、半身になりながら受け流す。


 瞬き程の間に繰り出された攻防を見て、こりゃあ見応えが有りそうだと観戦に徹する。


 一時間程やり合ったらシジールの体力が尽きて終わりになった。流石にサジンは体力あるな。


 その夜、アーリアが戻ってきて聞いてみた。


 「レジーナの様子はどうだ?」


 「う〜ん、治癒魔法とは全然違う魔力の使い方に戸惑ってるみたい。でも、覚えは良さそうだからそんなに時間が掛からないと思うわ。」


 どうやら思ったより早く巣に向かえそうだ。


 「ところでカイルよ。今日の戦いの時の脚に火を纏った技、あれはなんだったのだ?」


 「ん?あれか?あれは第二チャクラに気の具現化ってあるだろ?あれを応用して気を火に変換したんだ。」


 「えっ?気って属性に変換出来るの?」


 どうやらアーリアとサジンは気を属性変換するって発想はなかったみたいだ。アーリアとサジンは魔法が使えるから必要ないと思うけどな。


 「ああ、やってみたら出来た!ただ、変換効率が悪いのか、気を大量に消費するけどな。だから第三チャクラを解放するまで出来なかったんだぜ。」


 「いつの間に第三チャクラの解放までしたのよ?」


 「それは今日だな!」


 「それで第三チャクラはどんな能力があるんだ?」


 第三チャクラ、別名マニプーラチャクラの能力は精神防御、筋肉とスタミナと代謝の強化、後は気の発電所とも言える程の大量の気を生み出す事だ。


 それらを二人に説明する。今の俺は第二チャクラ迄しか解放していなかった時の倍は身体能力が上がっているだろう。今なら白いガルンジアも余裕で倒せるんじゃねぇかな?


 「追い付いたと思ったら離されてしまうな。」


 「そう簡単に追い付かれてたまるか!」


 「ところで、ビズやダステルの巣ってどこにあるのかしら?」


 ビズやダステルは森の中から出て来てるとしか分かっていない。ビズは見た目はでかい蜂だから木の上とかにあるんだろうなと思うが、ダステルに関しては巣があるのかさえ分からない。

 植物系の巣ってなんだ?上位種かそれまた上の種が産み出しているんだろうか?


 そう言えば救援依頼の時にダステルは上位種も居るって言ってたが、まだ見てないな。

 ビズも蜂なら女王蜂がいる筈だ。またでかい奴なんだろうな。


 「なぁ、こっちに来てからダステルの上位種って見たか?」


 「いや、見てないな。」


 「何で出てこねぇんだろうな?」


 「そうね、それもよく分からないわね。」


 「最近の傾向からいうと、森の中にはダステルの上位種だけじゃなく、ビズの上位種も居ると思っといた方が良いだろうなぁ。」


 「問題はどれ程の数が居るかだな。」


 ガルンジアにしろ、ギーズにしろ上位種は少なかったからな。だが、蜂であるビズは大きい群れっぽいから、もしかすれば上位種も沢山いるかもしれねぇ。


 「森の中で大量のビズに襲われるのは嫌だなぁ。」


 「止めてよ!そんな事言ってたら本当に大量のビズに襲われるかもしれないじゃない!」


 そう言ってアーリアは顔を青くしながら怒っていた。


 しかし、森の中じゃ火の属性変換も使えないからどうやって戦うか考えなくちゃいけねぇな。

 


 

 

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