第2章 気刃炎嵐

第11話 山岳と魔法

 「はぁはぁ、ちょっと!この道合ってるの!?」


 「ああ、使者殿が前を歩いている限り合ってるのだろうな。」


 アーリアの息を切らしながらの問い掛けにサジンが答える。


 俺達は今、隣り町になるトルガナに向かっている。

 今歩いている所は俺達の町ナーグルから北西に進んだ所にある山岳地帯だ。隣り町にあたるトルガナはその山岳地帯の麓にあるらしい。


 「しっかり気を練っておけば疲れもましになるだろう。ゾンガさーん、そろそろ休憩しねぇか?」


 俺はゾンガを呼び止めて休憩を促す。ゾンガはこちらを振り向き、チラリとアーリアを見て仕方ないかと肩を落として立ち止まる。


 「分かりました、ここらで休憩しましょう。」


 トルガナが魔物の襲撃に晒されている為、ゾンガは急いでいたようだが、アーリアの姿を見ると何も言えないみたいだ。


 「ほら、アーリア。休憩だぞ、水でも飲みな。」


 「ええ、もらうわ。」


 喉を鳴らしながら水を飲むアーリアは金髪長髪で美形かつスリムなエルフみたいな種族、森人族である。

 森人族は森の中での活動は得意だが、どうも山岳は苦手みたいだ。


 「使者殿、あとどれくらいで着くのかな?」


 「このペースですと日が暮れるまでには着くと思います。」


 つまりあと半日近くは歩かないといけないみたいだった。


 「ほら、アーリア。この道もあと半日の辛抱だ。」


 「えぇ!長いわ……。まぁ、いざとなればカイルに背負ってもらえばいいか。」


 「おい!はぁ、限界が来たらな。」


 救援に行く前に倒れられても困るので、折れてやる事にした。

 

 「ところでお前らは、気と魔力を混ぜた魔法は使えるようになったのか?」


 「ああ、勿論だ。」


 「ええ、私もよ。」


 流石天才共だ。あれから五日も経ってないのにもう使えるようになってやがる。

 俺もあれから気の活用について色々考えて思い出した事があるので、次に魔物と戦う時は試してみようと思ってる。


 休憩が終わり出発しようとした時に左手の山側から何かが転がる様な音がしてきた。


 「魔物だ!気を付けろ!!」


 山から転がって来たの黒いダンゴムシの様な魔物だった。但し地球のダンゴムシとは違い丸まった状態でさえニメートルはある。


 「先手必勝だ!」


 俺は二人より先に掛けだし、先日思い出した技を試してみる。

 ダンゴムシが丸まった状態から戻る前に気を纏い、地面を陥没させる勢いで左脚を強く踏み込み、体を捻りながら右手を掌底の形にして気を打ち込む。

 

 ダンゴムシはその威力に吹き飛び、背後の岩にぶつかり潰れる。

 俺は倒したダンゴムシではなく自分の手を見ていた。


 「どうしたのカイル?」


 「いや、こないだ思い出した発勁って技を試してみたんだが……。」

  

 「その発勁がどうしたんだ?」


 「蹴った方が強いし早いなと思って……。」


 そう、発勁を打ち込むよりは技の後の硬直もなく、次に繋げれる蹴りの方が強いと思ってしまった。

 響き的には強そうなんだけどなと、残念だと思いながら顔を上げるとサジンの背後よりもう一匹ダンゴムシが来ていた。


 「サジン!」


 サジンは即座に振り返り、剣を抜きまだ離れているにも関わらず上段より斬り下ろす。


 「『風気刃』」


 剣先より斬り下ろした軌道そのままに、気に風を纏った斬撃が飛ぶ。 

 ダンゴムシはその斬撃を受け縦に二つに分かれた。


 「おっ!それが気と魔力を混ぜた魔法か!」


 「ああ、そうだ。俺には魔法そのものよりも剣を絡めた方が相性が良いらしくてな。」


 「流石魔法剣士だな。」


 サジンは天才だけあって、もう気と魔力を混ぜる事を技に昇華していた。


 「私だって新技があるのよ!」


 「お前の場合は範囲が広そうだから救援の時にでも見せてもらうさ。」


 アーリアは少し不満気だったが、救援の時と聞いてそれもそうかと納得した。

 

 その後は魔物は出ず、順調に山道を歩いていた。


 「ところでゾンガさんよ、トルガナはどんな魔物に襲われてるんだ?」


 「それは、ダステルと言う植物型の魔物と、ビズと言う虫型の飛行種です。」


 「それってどちらもそんなに強くないわよね?」


 「それがどちらも変異種でして、ダステルにいたっては上位種までが襲って来てるのです。」


 「二種類もか……。そしてまた変異種に上位種か。」


 「なぁ、サジン、アーリア。やっぱり最近何かおかしくないか?」


 俺がソジンカに来てから、変異種や上位種に遭遇し過ぎてる気がする。サジンが言うには最近まで上位種どころか変異種にも遭遇した事が無かったらしい。


 「そうだな、何か異変が起こってるのだとは思う。」


 俺達はそれぞれその事について考えながら歩く。

 そして日が暮れる前に町が見えてきた。


 その町は南と西を崖に囲われ、東はこの山道、そして北は森に面していた。

 立地的に魔物は北から襲って来てるのだろう。


 「よし、町が見えて来たし急ぐぞ!」


 そう言いながら俺達は足を早めた。


 町に着くと、暗い表情の住人達がこちらを見ていた。きっと度重なる襲撃により暗い気持ちになっているのだろう。


 そんな住人を横目に、防衛隊の纏め役が居るという教会へ向かった。


 教会には四肢の一部を失った人達が横になっていた。


 「ゾンガ、ご苦労だった。そして隣り町の戦士達よ救援に応じて頂き感謝する!!」


 そこに居たのは燃える様に赤い髪を短髪にした女だった。その女は余分な部分など無い、鍛え抜かれた豹のようにしなやかな体をした、山羊か何かの角の生えた獣人だった。


 「ナーグルから来た、魔法剣士のサジンだ。そして俺の後ろに居るのが魔法士のアーリアと気法士のカイルだ。」


 「気法士?初めて聞いたな。その辺りも後で詳しく話してもらおう。さぁ、状況を説明するからこちらに来てくれ!」


 女はそう言いながら教会の奥に進む。辿り着いたのは神父の執務室の様な所だった。中に入るともう一人、女が居た。


 「初めまして、私はこの教会のシスター、レジーナと申します。」


 レジーナは背が低く、銀髪の長い髪を後ろで束ねている闇人族だ。やはり闇人族だけあって綺麗だ。


 「そういえば私も自己紹介してなかったな!この町の防衛隊の纏め役をしてるシジールという、よろしくな!」


 シジールとレジーナ。なんか対照的な二人だ。真面目とやんちゃ、そんな感じがする。


 「シジールには先程自己紹介したが改めてしよう。俺は魔法剣士のサジン、後ろに居るのが魔法士のアーリアと気法士のカイルだ。」


 「よろしくな!」


 「よろしくね。」


 一応俺達も挨拶をしておいた。それにしてもサジンの奴もシジールがやんちゃそうだと気付いたのか、さっきより扱いが雑になってるな。


 「じゃあ早速だけど状況を説明するぞ!今この町はビズとダステルの変異種に毎日の様に襲われてる。

 特に厄介なのがビズの方で、こいつらは空を飛ぶ上に毒針より毒を飛ばすんだ。奴らは何十匹も群になってこの町を襲ってくる。」


 「変異種が群れになって襲って来てるのかよ!?よく持ち堪えてるな!」


 「それはレジーナのお陰だ。レジーナの治癒魔法は死んでさえいなけりゃ回復出来る。四肢の欠損はどうしようもないけどね。」


 そう言われたレジーナ少し目を伏せる。そんだけ凄い治癒魔法を使えるなら誇っても良いはずだが、四肢の欠損を回復出来ない事を気に病んでいるのだろう。


 「ビズの毒に関してはレジーナが回復させる事が出来るんだが、何日かは横になっていないと完全には回復しない。」


 「四肢の欠損も毒絡みか?」


 「ええ、そうです。毒針に直接刺された所はどうしても切り離すしかないのです。」


 レジーナは悔しそうな表情でサジンの問いにそう答える。

 魔物の情報について聞いている時に鐘が鳴り始めた。


 「魔物が来たぞ!!」


 外から声が聞こえてきた。それを聞きレジーナを除く全員がすぐに外へ向かって駆け出した。教会を出た後はシジールに付いていく。


 そして着いた北門の先では緑色のデカイ蜂とウツボカズラのような植物が大量にいた。

 北門の先は森を切り開いており、一キロメートルは平野が広がっていた。


 「今度は蜂とウツボカズラか!」


 「悪いけど早速力を貸してもらうよ!」


 「任せろ!」


 そう言って俺達は戦闘に取り掛かる。


 「先制は私に任せて!『気刃の風』」


 アーリアは先制に新しい魔法を放った。その魔法は以前見た竜巻の魔法より遥かに大きい、気の刃を中に含んだ竜巻だった。竜巻は高速で魔物に近付き半数以上を切り刻み通り過ぎて消えた。


 「すげぇじゃねぇか!アーリア!!」


 アーリアの魔法を見た皆の士気は上がり、魔物へ向かって駆け出す。その中でも俺とサジン、そしてシジールは特に早く先行していた。

 シジールは槍を片手に戦っており、シジールが通った後には大量の魔物の死骸があった。


 そして俺は気による蹴撃を飛ばしてビズとダステルに相対していた。ビズは飛んでいる為、ダステル体の構造上蹴りが効き辛く、気を飛ばす蹴撃でしか倒す事が出来ないでいた。

 被害無しとはいかなかったが、そんなに時間は掛からず魔物を殲滅する事が出来た。


 教会に戻り、シジールと先程の話の続きをする事になった。

 

 「サジン、この町でも気を広めるか?」


 「そうだな、戦力を上げるにはそれが良いと思う。」


 「よし!シジール、俺達の戦いは見てたよな?」


 「ええ、凄い動きだった!そしてアーリアのあの魔法は凄まじかったな!!」


 「その力をこの町のみんなにも渡すと言ったらどうする?」


 「それは有難いな。だがそんな事出来るのか?」

 

 「あぁ、俺達三人が教える事が出来る。」


 こうして俺達は気の説明をして戦う者達に気を覚えてもらう事にした。


 槍の達人であるシジールはすぐにでも第一チャクラを解放するかと思ったが、解放までに結局三時間程掛かった。

 もっと早いと思ったんだがな。まぁこんなもんかと納得する。


 それから魔物との戦闘の合間に三日程掛けて、全ての者に気を覚えてもらった。


 そして四日目の朝にレジーナに呼び止められる。


 「カイルさん、少しよろしいですか?」


 「ん、なんだ?」


 「私にも気を教えて欲しいのです。」


 レジーナに気を教えて欲しいとは言われたが、治癒魔法に気って意味あるのかと考える。

 確か第四チャクラまでいけばヒーリング能力が得られるから意味あるかと思い承諾する。


 「分かった、今すぐで良いのか?」


 「はい、今でお願いします。」


 「よし!じゃあ坐禅を組んで目を瞑ってくれ。」


 「こうですか?」


 「ああ、合ってるぞ。じゃあいくぞ。」


 準備が出来たのでいつも通り手に気を纏い背中に当てる。

 するとレジーナの気が既に多く強い事に気付く。

 あれ?この子まだ第一チャクラを解放してないよな?と疑問に思いながら進めていく。


 「あっ!」


 その声と共に大量のチャクラが溢れ出す。元々強かった気が更に増え溢れていた。


 「大丈夫か?」


 「だい……。」


 そう言って倒れるレジーナを受け止める。この子は元々気が多い体質なのだろうと思い近くにあった寝台に寝かせて部屋を後にする。


 俺は久しぶりに一人になったので坐禅を組む。

 最近の戦いでは相性のせいか中々上手く敵を倒せていない。なので気を強化する為に体内の気を練り研ぎ澄ませ高速で回転させ丹田から上に伸ばす。

 激戦を潜り抜けてきたお陰か最近ではもう少しで第三チャクラのある鳩尾辺りまで気を伸ばせそうだった。

 

 そうして暫く集中していると、ついに鳩尾にある第三チャクラ、マニプーラチャクラに届いた。


 「よし!!」


 届いた気を第三チャクラで回していく。まだ馴染んでないせいか、ゆっくりとしか回せていないが効果は絶大だった。

 筋肉がより引き締まり密度が上がり気が今まで倍以上に溢れてくる。


 その力を体に馴染ます為に全身に気を行き渡らせ、気の密度を上げていく。

 そして気による防御が完成した。この状態ならビズに針で突かれても刺さりはしないだろう。


 そして以前から考えていた気の属性変換を試す。第三チャクラは火を司っている為、火への気の属性変換を試みた。


 足に気を集め火をイメージすると、足が火に包まれる。不思議と俺自身は熱くない。


 「よし!!これで直接ダステルにダメージを与えられる!!」


 そこでタイミング良く魔物襲来の鐘が鳴った。

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