第10話 気法士
「ミーズ、じいちゃん、ばあちゃん。そっちはどうだ?しんどい事はないか?楽しく過ごしてるか?俺は元気にやってるよ。多分これからもな」
前回の襲撃の被害者の共同墓地が出来た。
町の復興というより修繕を優先した為遅くなったが、これでやっとミーズ達も落ち着いて眠れるだろう。
「さぁ、カイル。行くわよ」
「あぁ、分かった」
町の至るところで建物を建てている。ガルンジアの襲撃により多くの建物が破壊されたからだ。
土人族を中心に町のみんな総出での作業だ。
俺達防衛に参加してた奴らは一応免除されてるが、手伝う奴は手伝ってる。
俺はそんな町中をアーリアと共に歩いていた。
俺は今、サジンの家に居候させてもらってる。ミーズ達の家は残ってるが、思い出まで残っているから住むには少し辛かったからだ。
誰にも言ってはいないが、元の世界へ戻る事を目標としていた俺は周囲にあまり興味を持っていなかった。ごく一部を除いた人種、建物、環境。全てに興味を持っていなかった。
しかし、この世界に来てからずっと世話になってたミーズやじいちゃん、ばあちゃんが亡くなって考えを変えた。
この世界で精一杯生きてあの世でミーズ達に土産話をしてやらないといけないからだ。
俺は出掛ける度に土産を買って帰っていた。今回は長い長い時間が開くからいっぱい土産話を持って帰ってやらないといけない。
「おーい!カイル!お前の防具が出来たぞ!」
「おっ!おっちゃんまじか!!」
バラックのおっちゃんの工房の前を通った時に声を掛けられた。
今回の戦いで白いガルンジアに防具を壊されていた為、白いガルンジアを素材に新しく作ってもらった。
「これが新しいグリーブじゃ!!」
「グリーブ??」
「脚の防具の事じゃ」
そこには白い金属質な甲殻で出来たグリーブがあった。あの白いガルンジアの脚の甲殻を素材に作ってくれたみたいだ。
「こいつは並の硬度ではないからの、次は壊れる事はないはずじゃ!」
「おぉ!ありがと、おっちゃん!!」
「それと、サジンにも新しい剣が出来たと伝えといてくれんかの?」
「分かった、伝えとくぜ!」
新しい防具を身に付けて外へ出る。
この世界は俺が来てから、ほぼ毎日町が襲撃されるようなエンカウント率がバグってる世界だ。だから防具は寝る時以外は大体付けてる。
「さぁ、早くサジンの所へ行きましょう!」
アーリアが手を引っ張って急かしてくる。多分サジンが待ってるシグナートで早く酒が飲みたいのだろう。
アーリアの酒好きにも困ったものだ。
そのアーリアも酒場の店員は辞めて防衛隊に参加してる。防衛隊と言っても町独自のだから自警団みたいなもんだけどな。
「やっと来たか、カイル」
「おうよ、相棒。待たせたな!」
シグナートではサジンが料理も注文せずに待っていた。
「さて、聞きたい事があるとの事だったな。どんな事を聞きたい?」
「ああ、この世界の事を色々教えてくれ」
料理を注文し、酒を飲みながら色んな事を聞いた。
この世界はソジンカと呼ばれているらしい。
ソジンカの中でもこの町は辺境に属している。所属している国とかは有ったが、もう百年以上も前から交流が途絶えているらしい。
どんだけ辺境なんだよと思って聞いたら、この町より南は森があり、その先は海だそうだ。
北門の先は森、東門の先も森、南門の先も森、じゃあ西門はと聞くと、西門の先は山岳地帯になってると教えてくれた。
「ほほぉ、そんな感じになってたんだな」
「貴方がこの町に来て一月も経つのに知らなかった事が驚きだわ」
「じゃあ、ここがこんなにも毎日魔物の襲撃を受けてるのも昔からか?」
「いや、それはここ数年の話だ」
「そうなのか?何で急にこう毎日襲撃を受ける様になったんだろうな?」
「それは分からんな」
そんな話をしてると防衛隊の一人がやって来た。
「サジンさんは居ますか!?」
何か慌てた様子でやって来たので、また魔物かと思って立ち上がった。
「ここに居る。どうしたんだ?」
「あぁ、他の町からの使者が来ました!!」
「他の町だと?」
サジンは何やら驚いた様子だった。
「なぁ、アーリア。サジンは何に驚いているんだ?」
「この町に他の町の人種が来るのなんて、ここ何十年も無かったのよ」
と、アーリアも驚いた様子だった。
滅多にない事みたいなので俺もついて行こうと会計済ませた。
「よし、行くぞ相棒!」
「ああ、行こう」
「何で貴方が仕切ってるのよ」
アーリアが呆れた様子で突っ込んできた。それを気にせず防衛隊の詰所に向かう。使者はどうやら北西の方角から来たらしいので西門の詰所だ。
「お初目にかかります。私はゾンガと申します」
ゾンガは頭に甲殻らしきものがある。多分アルマジロの獣人になるのか。
「こちらこそ初めまして、サジンと申す」
サジンは武人然とした挨拶を返した。
「どのような要件で参られたのだろうか?」
「我が町、トルガナが魔物により窮地に立たされているので御援助頂けないかと思いまして参りました」
そう言ってゾンガは頭を下げる。他の町でも魔物のに襲われてんだなと思い聞いていると、サジンがちらりとこちらを見てから答えた。
「この町も日々魔物襲撃に遭っている為、救援は難しいと思われる」
「そんな……。そこを何とか出来ませんか!?」
いやぁ、確かにこんなに毎日襲われてたら難しいだろうなぁと思い、うんうんと頷く。
「そうですな、少し相談しても宜しいかな?」
「ええ、勿論ですとも」
そう言ってサジンがこちらに来る。
「カイル、お前他の防衛隊に気を覚えさせる事は出来るか?」
「あぁ、そりゃあ出来るけど。結構時間が掛かるんじゃないか?」
才能のあるサジンでも一時間、強い魔法士のアーリアでさえ二時間掛かったのだ、他の者だとどれくらい掛かるのか予想も付かない。
それに今は防衛隊は二十人程しか居なかった筈だ。これで町が守れるかどうか。
「それに防衛隊って二十人くらいしか居ないんだろ?そんだけじゃ町を守れなくないか?」
「そこは土人衆にもお願いする。元々土人族は力の強い種族だから何とかなる筈だ」
「う〜ん、おっちゃん達もとなると、もっと時間が掛かるんじゃないか?そんなに隣り町は持つのか?」
切迫した様子のゾンガを見ると、そんなに時間的猶予は無さそうだなと思う。
「ところで、その気を覚えさせるのは第二チャクラまで解放出来てたら出来るのだったな?」
「ん?ああ、そうだ。第二チャクラのコミュニケーション能力の強化と気の具現化が要るな。」
「じゃあ問題ない。」
「はっ?えっ、お前まさか!?」
「ああ、第二チャクラまで解放する事が出来た」
「はぁぁぁ!?俺があれだけ修羅場潜って解放したのに、お前!もう解放したのか!?」
「坐禅による修練をしてたら自然とな。ああ、アーリアもだぞ」
「嘘だろっ!?はぁぁぁ!?」
ゾンガが驚いてこっちを見てるがそんな事知ったこっちゃない。それどころではないのだ。
クソ!この天才共めと思い軽く睨み付けるが、涼しい顔でゾンガの方へ向き直る。
「使者殿、どれくらいの時間の猶予がある?」
「出来るだけ早くとは思いますが、まだ十日程は持ちましょうな」
「分かった。あと、ここからトルガナまではどのくらい掛かるだろうか?」
「徒歩で二日程あれば着くかと。」
意外に近い所にあるんだなと俺達は驚く。
「では、五日後に救援に向かう事で良いか?」
「ええ!ご助力感謝致します!!」
「まぁ、行くのは私とアーリアとカイルの三人だけになるが」
三人だけと聞いてゾンガの顔が曇る。
「三人で御座いますか?」
「ただ、この三人で有ればガルンジアの変異種を五匹は相手取れる」
「ガルンジアですか!変異種というのがどの様なものか分かりませぬが、ガルンジアを五匹も相手取れるならば心強い!!」
「では、五日後に向かうという事で良いな」
「はい、よろしくお願い致します」
話し合いが終わり、外に出ながら俺は半目でアーリアを見る。
「お前いつの間に第二チャクラまで解放したんだよ」
「ええと確か三日程前だったかしら?」
「ここんとこ毎日会ってたよな!教えろよ!」
「まぁ、良いじゃない?あんまり気にしてたらハゲるわよ」
「うるさいわ!」
「さぁ、戯れ合うのは良いが、早速気を覚えてもらいに向かうぞ」
三人でまず西門の近くに居る防衛隊を集める。五人居たので二人は見ていてもらう。
「じゃあ始めるぞ。カイル、やり方はお前がやったのと同じで良いのだろう?」
「ああ、手に気を纏って背中に当てて、気の感覚を掴ませるんだ」
「わかった」
防衛隊の奴らに気を習得させようとしてるが、サジンやアーリアの時の様にはいかない。
四時間程経ち、ようやく一人目が第一チャクラを解放出来て、そのまま倒れた。
やっぱり最初は気絶するのが普通だよなぁと思い、サジンの異常さを改めて知る。
その日は結局三人しか第一チャクラを解放出来なかった。
「あと五日って間に合うのか?」
サジンの家にアーリアも来て三人で晩飯を食べながら話す。
「防衛隊さえ覚えてしまえば多分何となるだろう」
「おっちゃん達はどうなるんだ?」
「そうよ、土人衆も二十人以上居たわよね」
「カイルの話によると第一のチャクラはルートチャクラと呼ばれるのだろう?」
「ああ、それがどうした?」
「そして司る属性は土」
「そういう事か!!」
「えっ?どういう事なの?教えてよ!」
第一のチャクラは土を司る。そしておっちゃん達は土人族だから勿論土属性には親和性が強い。
だからきっとすぐに第一チャクラを解放するって事なんだな。
それをアーリアに説明する。
「そういう事ね!確かにそれなら早く解放出来そうね!」
俺達は心配事が減った為、酒も飲みつつ賑やかに食事をしていた。
「そう言えば魔力ってあるじゃねぇか、あれって気と混ぜたり出来ねぇの?」
「「…………」」
「おい!何か言えよ!」
「その発想は無かったわ!!」
「確かに言われてみれば出来そうだ」
「おぉ、じゃあ魔法もそれで強化されるんじゃねぇか?」
「確かに!明日から試してみなくちゃ!!」
「ああ、これでもし出来るようなら俺達の留守中も安心出来るな」
気と魔力を混ぜる事によってどんな事が出来るかをそれぞれ考えながらその夜は更けていった。
ちなみにアーリアは泊まった。
翌日の早朝から詰所に行き、気の習得を手助けして二日で防衛隊は全員第一チャクラを解放した。
「おっちゃん!居るかい!!」
「やかましいわ!!聞こえとるわ!!」
「……貴方達って毎回このやり取りしないと気が済まないの……?」
アーリアが呆れた顔してるが気にしない。いつもの挨拶だ。
「今度は何の用じゃ?」
「いや、おっちゃんにも気を覚えてもらおうと思って」
「気と言えば、カイル、お主が使ってる力か?」
そう聞くおっちゃんにサジンが今回の経緯を説明するとおっちゃんは快諾し、土人衆を集めてくれた。
「じゃあ、始めるぞ!」
そして俺達の予想通り十分もしないうちにおっちゃん達は第一チャクラを解放していった。
「流石土人族のおっちゃん!その第一チャクラは土を司ってるから多分土魔法が強くなるから気を付けてね!」
「おう、分かったわい!」
そうして一日の余裕を残して気の習得は終わった。
「では使者殿、魔法剣士の私、魔法士のアーリア、そしてカイルが救援に向かわせてもらう」
「いや、待て待て。何で俺だけ何とか士ってのがないんだ?なんかおまけ感が酷いじゃねぇか」
「そうねぇ、カイルだと何になるかな?魔法は使えないから蹴士?いえ、気も使うから気蹴士?」
「……何か語呂が悪くないか?」
「魔力の代わりに気力を使うから気法士で良いんじゃないか?」
「おお!流石相棒!!」
「では、改めて。使者殿、魔法剣士サジン、魔法士アーリア、気法士カイル。我々三人で救援に向かう!」
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