第9話 激突
向かって来たガルンジアは元世界の虎に良く似ていた。熱帯性の気候による森の影響か、ベンガルトラと同じ様な進化を辿っていった結果だろう。
ただ普通の虎と違い、大きさは五メートルを超えており、脚には鎧の様な甲殻がある。さらにサジンが言うには火まで吹くらしい。
あのサイズで素早く動き火を吹くなんて、とんだ化け物だ。
その虎が五匹。いや、だいぶ離れた所にもう一匹いる様に見えるが、遠すぎていまいち確認出来ない。
手前の五匹が真っ直ぐ北門に向かって走ってくる。そのうち二匹は柵を交わそうとして落とし穴に落ちる。
「しめた!落とし穴に落ちやがったぞ!みんな隙を見つけて止めを差しに行ってくれ!サジンが残りの一匹、俺が二匹を受け持つ!!」
「おう!!」
俺、サジン、アーリア以外の戦士達は迂回しつつ落とし穴に向かう。
俺はサジンの所に二匹が向かわないように気を大きく発しながら大声で一喝する。
「こぉいぃやぁぁぁ!!!」
その大音声に三匹共に反応してしまうが、サジンが一匹に音もなく近寄り斬り掛かる。
こうして上手いこと俺は二匹を相手取る事が出来た。
そこでアーリアから援護の魔法が飛んで来る。風による斬撃のような魔法でガルンジア共は躱す為に飛び上がる。
俺はその隙を逃さずチャクラを回して脚にいつも以上の気を送り込み、高速で近寄り右側に居るガルンジアを一撃で潰す!と気合いを入れた蹴りを頭目掛けて放つ。
しかし、猫科特有の柔軟な動きで空中で躱されてしまう。
だが、俺は蹴り脚の軌道を変えるブラジリアンキックの様な動きで左の前脚を捉えた。
バキッ!!
左の前脚を蹴られたガルンジアは甲殻が潰れ脚が折れ曲がっていた。
蹴り終わった俺目掛け左側に居たガルンジアが飛び掛かって来た為、腕に気を集め回し受けの様な動きで受け流し、そのまま肘打ちで胴体への攻撃を加える。
バキャッという音と共に骨を折る感触がした。そして仕切り直しの為にバックステップで距離を取った瞬間、目の前に巨大な火の玉があった。
その火の玉を気を集めた右脚で蹴り散らし、そのまま回転して左脚にも気を集め後ろ回し蹴りで気による蹴撃を飛ばす。蹴りの勢いそのままに飛んでいった蹴撃は火を吹いたガルンジアの左目を潰す。
攻防の合間に距離が空き、ガルンジアはグルルルと唸り声を上げながらこちらの隙を窺う。
そこへアーリアが次の魔法を放つ。竜巻の様な風がガルンジアの左右より迫り巻き込まれた左側のガルンジアが斬り刻まれ血だらけになる。
右のガルンジアは竜巻を交わす為にこちらへ向かって来た為、俺は地面が陥没する程の踏み込みと共に強烈な前蹴りを放つ。
その蹴りのあまりの速さにガルンジアは反応出来ずに頭を蹴り抜かれ、顔面が陥没し、首が折れ絶命する。
残りの一匹もアーリアの魔法により大きく傷を負っており、動きが鈍っていた為、高速で近寄り気を込めた右脚による踵落としで止めを差す。
残心の為構えを解いていなかったが確実に倒していたので周囲を確認する。
サジンの方を見てみると、丁度ガルンジアに止めを差しているところだった。怪我らしい怪我はしてないようだ。
落とし穴に落ちたガルンジアに止めを差しに行った奴らも、火を吹かれた事によって怪我した者もいるが上手く止めを差せたみたいだ。
そういえば戦いの前に遠くに見えた個体はどうなったと思い、森との切れ目辺りを見るとそいつはゆっくりとこちらへ歩いて来ていた。
そいつと目が合った瞬間、鳥肌が立ち思わず声を上げた。
「みんな下がれ!!まだ危険な奴が──!!」
ゴガァァァァァァァ!!!!
最後まで言い切る前に、奥に見えたガルンジアより腹の奥に響く咆哮が放たれた。
その咆哮は物理的な効果があったのか強風を纏い俺達にぶつかった。
落とし穴周辺に居た奴らは、その咆哮により吹き飛ばされていた。
無事なのは俺とサジンだけだ。サジンはその咆哮を聞いてこちらに寄って来た。
「おい、相棒。どうするよ?なんかやばそうな奴が来たぜ。前回の襲撃の時も居たのか?」
「なんだ、相棒よ。そうだな、あんな白いガルンジアは見た事ないな。火を吹くガルンジアが変異種なら奴は差し詰め上位種って事になりそうだな」
「だよなぁ。ギーズといい、ガルンジアといい、変異種やら上位種やら何か多くないか?この辺で何が起こってるんだ?」
「さぁな、そんな事より奴が近寄って来ている構えろ」
その白いガルンジアは物凄いスピードで近寄って来ている。そしてある程度距離が近付いた所で飛び上がり空を走ってきた。
「はぁ!?ガルンジアって空が飛べるのか!?」
「いや!そんな事はない筈だ!?いいからやるぞ!!」
空を走って来たガルンジアは大きく息を吸い込むと人程のサイズの先の尖った氷柱を放ってきた。
「火じゃねぇのかよ!?」
驚きつつも気を腕に纏い火を吹かれた時と同じ様に回し受けで受け流そうとした。
「ぐっ!!重い!!」
腕による回し受けでは受けきれず左肩を抉って氷柱は地面に突き刺さった。
「カイル!!」
サジンはこちらを心配しつつも白いガルンジアに斬り掛かっていた。相手が上空にいる為、下段からの斬り上げに加え、気により強化された脚力による飛び上がりながらの斬撃だ。
飛び上がるという工程があったせいか、白いガルンジアには余裕を持って交わされてしまう。
「サジン!風魔法での斬撃は出せるか!!」
「出せる!ただ、躱されてしまうだろうから隙を作ってくれ!!」
「分かった!!」
俺は白いガルンジアと相対する。奴の氷での攻撃は質量がかなりある為、腕では受け切れない。そうなると脚でしか対処する事が出来ない。
隙を見せぬように距離を詰める。あと少しで間合いに入ると思った瞬間に白いガルンジアは宙を蹴りこちらへ飛び掛かってきた。
俺は奴の前脚での爪撃を気を溜めた左脚で迎撃する。
バキャッ!!
「ぐあっ!」
俺の蹴りは奴の脚を蹴り、爪撃を逸らす事に成功したが膝から足首まで覆っていた黒真鉄鋼製の防具を破壊した。
「サジン!奴の甲殻部分には攻撃するな!硬過ぎる!!」
白いガルンジアの甲殻は変異種などとは比べようもなく硬かった。
「アーリア!お前は手を出すなよ!!そっちに向かわれたら助けれねぇ!!」
アーリアにそう警告し、今度はこちらから攻める。上空にいる白いガルンジアに対して飛び上がり威力のある攻撃にする為に、一瞬で振り返り背後にある白いガルンジアの放った氷柱に飛び乗る。そこから更に飛び上がり、下から上への前蹴りを放つ。
白いガルンジアは一瞬、虚をつかれみたいであったが首を横に逸らし下から上への蹴撃を躱す。
俺は気を手に集め体を思いっきり反らせ、膝へ強烈な肘打ちをして無理やり体を前へ縦回転させ、宙返りによる踵落としを白いガルンジアの背中に叩き込む。
グガァァ!
白いガルンジアは背中に踵落としを食らった勢いのまま地面に叩き付けられる。
そこへ隙を窺っていたサジンが後ろから斬り込む。サジンの斬撃は胴体に浅くない傷を付けるが、白いガルンジア恐ろしい程のスピードで横へ飛び距離を取る。
グルルル、グガァァァァァ!
その咆哮と共に白いガルンジアは氷を身に纏った。
「血止めのつもりか!!」
氷を纏ったせいか、白いガルンジアは空を飛び上がる事なく地面にて体勢を低くしこちらを窺っている。
「地面の上でやるならまだ戦い易いな!」
「カイル油断するなよ!」
「おうよ!!」
俺達も構える。俺が少し前に出て、その少し後ろにサジンが居る。俺が隙を作り、サジンが斬撃による止めを差す為の陣形だ。
じりじりとお互い距離を詰めていく。
そしてあと二歩で間合いに入るという所で、白いガルンジアは飛び掛かって来た。
左の爪撃を半身になり右脚の裏で押し、そのまま右脚を踏み下ろしながら強く踏み込み、左脚で膝蹴りを放つ。それに反応し体を左へ捻った所へサジンが間合いを詰めて斬り掛かる。
その斬撃を噛み付きにより受け止めた白いガルンジアに膝蹴りから膝を伸ばし下段蹴りに変化させた俺の蹴撃が襲う。その蹴りは交わす事が出来ず胴体に当たり、体表を覆っていた氷を割る。
体表の氷が割れた白いガルンジアは一際大きな咆哮をあげ、体表の氷の厚みを増して外へ向かって放つ。
近距離で氷撃を受けた俺達はそのまま吹き飛んでしまった。
「ぐっ、いってぇ」
「ぐっ!」
俺は全身を強力な気で覆っていたのでまだ動ける。しかし、サジンはまだ第一チャクラしか解放しておらずそこまで強力な気を纏えていなかった為、起き上がれない。
「くそっ!何でもありか、コイツ!!」
「カイル!!サジン!!」
俺は全身の細かな傷から血を流しながら立ち上がる。そしてサジンの前に立つ。遠くからアーリアの心配する声が聞こえるが、構う余裕なんてない。
白いガルンジアも無傷では無く、胴体の斬撃に加え俺の蹴りによるダメージを負っていた。
「お前、このクソ虎共の親玉だろ?つまり生かしてはおけねぇ。絶対に!擦り潰す!!」
そう言って上半身に纏っていた気も解除して残った気を集め全部脚に回す。
白いガルンジアも勝負を決める為なのか周囲に氷柱を三本も浮かべていた。
お互い睨み合い隙を窺う。そして数瞬経った時、サジンの呻き声が聞こえた。
その声が合図になり、互いに駆け出した。二十メートルは離れていた距離が一瞬で埋まる。
俺は第一チャクラと第二チャクラを全力で回し、限界まで身体能力を強化する。
白いガルンジアは浮かべていた氷柱を放って来た。斜め上からと左右からだ。
俺は飛び上がり左右からの氷柱を躱すと共に、上からの氷柱に右脚による渾身の踵落としを食らわす。
視界の端に白いガルンジアがこちらへ迫って来てるのが見えるが、関係ねぇと地面を割る勢いで踵落としを放つ。
その踵落としは地面に小規模なクレーターを作り、こちらに迫っていた白いガルンジアの体勢を崩した。
目の前まで迫っていた白いガルンジアへ目掛け、クレーターを作り上げた脚を筋繊維が切れる程捻り、左脚での回し蹴りを頭に叩き込む。
俺は筋繊維が切れる音と共に白いガルンジアの首が折れる感触を感じる。
そしてそのまま残心を取り構える。
数秒待ったが動きがない為、倒したと確信する。
確信したら急に力が抜けてそのまま背後に倒れる。
「あぁ、やったぞ。クソ虎共が」
そう呟く。
「ミーズ、じいちゃん、ばあちゃん。仇は取ったぞ!!あぁ、クソ!仇取ったのに嬉しくねぇじゃねぇか!!クソが!!」
俺は気付かぬうちに泣いていた。
仇は取れた。
しかし、ミーズもじいちゃんもばあちゃんも帰って来ない。
それがどうしようもなく虚しかった。
気付けばアーリアが俺を見下ろしていた。
「貴方何泣いてるのよ。仇取ったんでしょ。良かったじゃない」
「うるせぇ、お前も泣いてるじゃねぇか。お前こそ何で泣いてるんだ」
「私は貴方が泣いてるから泣いてるのよ」
「そうか……」
そう言って暫く見つめ合っていた。
涙も止まった頃にアーリアに聞いた。
「そういえばサジンはどうした?」
「他の戦いに参加してた戦士が教会に運んで行ったわ」
「そうか、そりゃあ良かった」
「貴方は行かないの?」
「俺は生命力強化もあるし、暫くここに居る」
「そう、じゃあ私もここに居るわ」
そう言ってアーリアは俺の隣りに座って空を見上げていた。
「貴方って飄々としてるように見えて激情家なのね」
日が落ち始める頃にぽつっとアーリアが言った。
「そんな事ねぇよ。ただ周りにあんまり興味持って無かっただけだ」
「そうだったのね。……さぁ、そろそろ私達の町に帰りましょう」
「あぁ、そうだな。俺達の町に帰るか」
そして、暮れかけた平野を二人揃って町へ歩いていく。
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