第8話 準備

 陽が登って暫く経つとバラックのおっちゃんが土人衆を引き連れてやってきた。


「おっちゃん!無事だったんだな!!」


「朝っぱらからやかましいわ!」


 そんないつもの挨拶を交わす。サジンより、おっちゃん達は無事と聞いていたが、やはり姿を見た方が安心出来る。


「それにしても早いな。もう作業を開始するのか?」


「この程度の修繕なら魔法を使えばそんなに時間は掛からぬからの。それに町を復興せねばならんからな」


 土魔法すげぇと思いながら手際良く土人衆に指示を出すおっちゃんを見る。


「バラックさん、おはようございます」


 そう言いながらアーリアもこっちに寄って来た。昨夜、サジンの気を目醒めさせた後、暫くしてアーリアとサジンは不寝番を交代していた。

 そのせいかアーリアはやや眠そうだ。


「そういえば、おっちゃんの土魔法で落とし穴って作れたりするか?」


「おう、作れるぞ。で、罠でも仕掛けるのか?」


「そそ!北門の前に落とし穴を仕掛けてガルンジアをタコ殴りにしてやろうと思ってな!」


「がはは!そりゃあ良い!防壁の修繕が終わったら作ってやるわい!!」


 おっちゃんは楽しげに笑いながら請け負ってくれた。

 アーリアと共におっちゃん達が土魔法で防壁を修繕しているの見てるとサジンも起き出して来た。


「ここに居たのか」


「おう!おはようさん!」


「おはよう、サジン」


 サジンが起きたので三人で揃って炊き出しをしてる所へ朝飯をもらいに行く。


「で、どうだ?少しは気が体に馴染んできたか?」


「ああ、だいぶ馴染んできた。朝食をとったら体を動かしてみねばなるまい」


「あれ?サジン、貴方も気が使えるようになったの?」


「昨夜、カイルに教えてもらったのだ」


「えぇ!!ずるいわ!カイル、私にも教えなさい!」


 アーリアがずるいずるいと言いながら騒ぎ出す。炊き出しに集まってる人達が何事だと驚きこちらを見るが、俺達三人を見て何か納得した様な顔をして元の方向へ向き直る。

 何に納得してんだ?って不満に思いながらもアーリアに返事する。


「分かった分かった。後で時間が出来たら教えてやるよ」


「約束よ!絶対よ!」


「はいはい」


 朝食を食べ終わり、おっちゃん達の所へ戻るともう防壁の修繕は終わっていた。仕事めっちゃ早いなと思いながらおっちゃんに声を掛ける。


「おっちゃん、落とし穴の方もお願いして良いか?」

 

「おう!これからすぐに行くか?」


「おっちゃんが良ければ早めが良いな!」


「分かった、すぐに行こう」


 そうして俺達三人はおっちゃん達を連れて北門の外に出る。


「で、どの辺りに仕掛けるのが都合良いかな?」


 北門の前も東門の前と同じく平地が広がっている。東門との違いは森との間に丘がない事くらいだ。

 平地となると設置する場所が難しい。この広い平地の何処をガルンジアが通るか分からないからだ。


「柵でも作って通れる範囲を限定してやれば良いんじゃないかの?」


「おっちゃん!!それだ!!」


「だからやかましいわ!じゃあちょっと柵の材料を用意してくるから待っとれ」


「はーい」


 おっちゃん達が町に戻って行って手持ち無沙汰になった為、サジンに提案する。


「なぁ、サジン。丁度良いからここで体を動かしてみたらどうだ?」


「そうだな、少し気で体を強化して動かしてみるか」


 そう言ってサジンは剣を抜き構える。シャドーボクシングの剣バージョンみたいなのするつもりみたいだ。


 右に斬り上げた剣を素早く切り返し今度斬り下ろす、そして斬り下ろしている途中で突きに動きを変える。

  

「すごいじゃねぇか!以前見た時より断然動きが速いぞ!」


「ほんとだわ!所々速過ぎて私には見えなかったわ!」


「まさかこれ程強化されるとはな。これなら余裕を持ってガルンジアの変異種を殺せそうだ」


「そうだな、油断さえしなけりゃ一人でも一匹を相手に出来るんじゃねぇか?」


 サジンの身体能力の伸びは凄まじく、動きの速さに加え、動きのキレまで変わっていた。こりゃあ俺も負けてられないな!と気合いを入れた所で腕を引っ張られる。


「で、私にはいつ教えてくれる訳?」


 アーリアが笑顔だが不満気のオーラを出しながら言ってきた。だが、ここは町の外なのでいつガルンジアからの襲撃があるか分からない為、ここでは教える訳にはいかない。


「落とし穴を作り終わって町に戻ってからな。ここじゃ危ないだろ?」


「危ないって何よ?どんなことをして教えるつもりなの!?」


「昨夜、サジンも気を失いかけたからなぁ」


「ああ、そうだな。俺も油断していたら気を失っていただろう」


 チャクラを開くと一気に気が体中を巡る為、体が熱を持ちのぼせたようになってしまう。チャクラを開く事自体が危ないという訳ではないが場所が悪い。


「えぇ、余計に不安になるんだけど……」


「じゃあ止めとくか?お前は接近戦する訳でもいし」


「いや!私も覚える!!」


「はぁ、分かったよ。町に戻ったらやってやるよ」


 そんな事言ってる間におっちゃん達土人衆が木材を持って戻ってきた。


「待たせたのう」


「いや、大丈夫だ。それでその木材で作るのか?」


「うむ、そうじゃ。我々土人族は手先が器用だからのう、直ぐに終わるわい」


 そう言って作業を開始して一時間も経たないうちに柵は出来上がる。

 その柵をサジンの経験からくるアドバイスの元、設置していった。


「さっ、おっちゃん。落とし穴もお願いするね!」


「おうよ、任せとけ!『蠢く大地』」


 俺達の目の前で一瞬に横縦深さ共に五メートル程の穴が出来上がった。


「おお!凄いなおっちゃん!」


「がはは、このくらい余裕じゃ!」


 そう言ってサジンが指定した箇所に次々と落とし穴を空けていった。


「さて、後はこれを気付かれない様にカモフラージュするだけだな!」


 俺達3人とおっちゃんで手分けして落とし穴に薄い木板を渡し、草をかけていく。


「よし!完成だ!町に戻ろう!」


「ええ、町に戻りましょう」


 町に戻った俺達は北門の詰所でアーリアのチャクラを解放する事にした。


「さぁ、アーリア坐禅を組むんだ。」


「坐禅って何?」


 坐禅のやり方を説明し、準備をさせる。


「じゃあ、いくぞ!」


「分かったわ。やって頂戴」


 アーリアの背中に気を纏った手を当てる。


「どうだ?何か感じるか?」


「ええ、背中が熱いわ。」


「よし、じゃあそれが自分の中にも有るのが分かるか?」


「わかるわ!確かに有るわね!」


「それを会陰に集めて回し、凝縮するんだ!」


 女性であるアーリアに会陰の場所を説明するのは苦労したが、何とか宥めつつ理解してもらっていた。変態とは言われたがな。


「目を瞑って深呼吸をしながら周りにある気も集まるイメージを持つとうまくいくぞ!」


 そうアドバイスしてアーリアのチャクラが解放されるのを待つ。

 流石にサジン程早くはないが二時間程やっているとアーリアの気が溢れ始めた。


「あぁ、熱いわ。カイン」


「おめでとう、第一チャクラの解放は成功だ!」


「だめ、熱過ぎて目の前が暗くなって……」


 アーリアはそう言いながら後ろに倒れてきた為、受け止めた。

 

「アーリアはここの詰所のベッドに寝かせておこう。一応俺が付いておいてやる。サジンはどうする?」


「そうだな、俺は北門の警戒に戻るとしよう」


 サジンは詰所より出て行った。

 残った俺は坐禅を組みこの後に有るだろう戦いに向けて気を練り始める。


 第三チャクラまで解放出来れば気を大量に生み出すように出来る筈なので、今ある気をチャクラに集め回し凝縮し、研ぎ澄ましていく。


 そして集中しているとアーリアが起きた。


「ふわぁ。おはようカイル」


「ああ、おはようアーリア。体の調子はどうだ?」


「えっ、ああ、そうね。……うん!凄く良いみたい!」


「そうか、良かったな。これからは時間があれば坐禅を組んで気を練るようした方がいいぞ?」


「そうなの?分かった!時間が有る時は坐禅をする様にするわね」


 二人で詰所を出るともう日が暮れていた。


「おーい、サジンは何処にいるか知らないか?」


 すぐ近くにいた闇人族の男に聞くと北門の外にいるとの事だったので、アーリアと共に北門の外にでる。

 北門の外でサジンは坐禅を組みながら周囲を警戒していた。


「おーい、サジン。飯にしようぜ!」


「分かった、では行こうか」


 酒場であるシグナートは昨日の襲撃で建物が壊れていた為営業してないので、今日も野外飯だ。

 適当に食材を買って来て北門の近くで野営する。


「今日は来なかったんだな」


 襲撃が無かった事をサジンに確認すると、サジンは渋い顔で頷く。

 

「そうだな、だが明日には来るだろう」


「そうか、今日は三人共不寝番に当たらない筈だから飯食って早く寝ようぜ」


「そうね、そうしましょう」


 そう言って雑談をしながら飯を食い、それぞれテントに入る。


 翌朝、気持ちの良い天気で外が眩しい。日が登って少し経ったみたいだ。

 サジンは既に起きており朝飯の用意をしてる。


「おはようさん!」


「ああ、おはよう」


「今日こそは戦いになるな」


「そうだな、その為の準備はしてきた」


「くそ魔物共を擦り潰してやろうぜ!」


「ああ!」


 そう言って朝から気合いを入れていると、アーリアも起き出してきた。


「朝から元気ね、ウチの男達は」


「良い事だろ?アーリア、おはよう」


「ええ、良い事だわ。おはよう」


 アーリアはくすくす笑いながら挨拶をする。

 そして三人で朝飯を食べ、北門の外に出て来た。


「ただぼーっとガルンジアを待つんじゃなくて坐禅して気を練りながら待とうぜ!」


「そうね」


「分かった」


 三人横並びになり坐禅を組んで気を練りながら待つ。

 三人が横に並んで座ってるのが珍しいのか、坐禅してるのが珍しいのかちょくちょく視線を感じるが、気にせず気を練る。


 そして昼前になり、そろそろ昼飯の時間かと立ち上がると二人から視線を向けられた。


「いや、そろそろ昼飯かなと思って」


「もうそんな時間か」


「そうね、行きましょう」


 北門の前の昨夜と同じ場所で野外飯を作る。飯を作りながら今回の襲撃での被害はどれくらいだったのかとサジンに聞いてみた。

 

「今回どれくらいの人がガルンジアにやられちまったんだ?」


「百人以上は被害があったとの事だ」


「百人!?そんなに被害があったのか!?」


 今まで近い身内にしか目がいって無かった為驚いた。

 元々この町は小さい町なので百人も居なくなったらやばいだろうと思い更に確認する。


「百人も一気に居なくなってこの町は大丈夫なのか?」


「大丈夫じゃないだろうな。また移民なり何なりで住人を増やしていかなければならないだろう」


 やはり大丈夫では無かった。防衛に回る戦士も、元々五十人は居た筈だが、今は二十人も居ない。

 人が減るとやはり色々な所に影響が出てくる。

 これ以上、被害が増えない様に確実に仕留めねばと改めて気合いを入れ直しながら飯を食う。


 飯を食い終わり北門の外に出て最終確認をする。


「サジンの予想では今日、つまりこれから日が落ちるまでに襲ってくる」


「そうだな、その可能性が高い」


「奴らが来たらアーリア、お前は遠距離での魔法を頼む」


「分かったわ」


「そして落とし穴に落ちた奴は俺ら二人以外の者で槍を使って止めを刺してもらう」


「つまり俺ら二人は落とし穴に落ちなかった奴の対処という事だな、カイル」


「そうだ。それじゃあそれぞれ配置につこう!」


 そして配置についた瞬間に視界の奥の方に大型の魔物が映る。タイミング良く来やがってと思いながら全員に声を掛ける。


「来やがったぞ!みんな注意しろ!」


 そう言って警戒を促していると、急速ガルンジアは近寄って来た。


「ミーズ達の仇だ!一匹も残さねぇ!!」


 そう言って視界の先のガルンジアを睨みつける。

 

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