第7話 慟哭
目の前で家が燃えている。
周りを見渡すと至る所で人が血を流し倒れている。
何が有ったかは分からないが、とにかく助けないとと思い、アーリアを下ろして近くで倒れて居る人に声を掛け血止めをしようとする。
「大丈夫か!どうしたんだ!!何があった!?」
「ぐっ!ま、魔物が襲って来たんだ」
「魔物か!?防衛してる奴らはどうしたんだ!!」
「殆どの奴らはあいつらやられちまった!」
俺は愕然とした。防衛してる仲間はギーズ相手には滅多に遅れなんてとらない。
それがこんなにも被害が広がってるなんて信じられなかった。
「治療はどこでしてくれるんだ!アーリア教えてくれ!」
「町の教会に行けばシスターが治癒魔法を使えるはずよ!」
「分かった!ここには置いておけないから、まずはアーリア、お前を連れて行く!」
「そんな!怪我人がこんなに居るのに私なんか後でいいわ!!」
「そうはいくか!また魔物が帰ってきたらどうするんだ!!」
「──!!分かったわ」
アーリアは捻挫をしてるとはいえ、周りのものより軽症の為に先に行く事を躊躇ったが、ほっといて行く訳にはいかない。
そのままアーリアを背負い、道案内をしてもらいながら教会へ向かった。
教会では大量の怪我人を町中から集まった治癒魔法の使い手が治療していた。
「アーリアはここで大人しくしてろ!俺は怪我人をここに運んで来る!」
「分かったわ」
アーリアは出来ることがない為、気落ちしながらも了承する。
俺は町中を駆け回り怪我人を教会に運んだ。その中には既に死んでる人、運んでる途中で死んでしまう人もいた。
「くそっ!!どんな魔物に襲われたんだ!!」
感情を抑え切れず、言葉に出してしまう。その時サジンの声が聞こえてきた。
「ガルンジアの変異種だ。通常ではあり得ない火を操る個体が防壁を破壊して入ってきた」
「お前が居なが──っ!!」
振り向くと片目を縦に切り裂かれ、今も血を流しているサジンが居た。
「お前!その目!!バカが!早く治療してもらえ!!」
「……俺は守れなかった。町の者達だけではない。ミーレも守る事が出来なかった……」
「ミーレ?……それってお前の婚約者じゃねぇか!!」
「ああ、俺は婚約者一人守る事が出来なかったんだ!!」
そう叫ぶサジンの残った目は全てを呪う様な暗い目をして居た。
「くそが!!」
そこで俺はまだミーズ達に会ってない事に気付いた。
「おい、サジン。今こんな事聞くのも悪いがミーズ達は見てないか?」
「……ミーズとミーズの祖父母は魔物にやられた」
「はっ?何言ってんだ、お前?そんな訳ないだろ?なぁ、こんな時にそんな冗談言ってんじゃねぇよ!」
俺は言われた事を受け入れる事が出来ず、サジンに言葉を叩き付けた後、ミーズ達の家に向かって走り出した。
そしてミーズの家の前に着き畑の方を見るとミーズとミーズの祖父母が折り重なる様に倒れて居た。
「ミーズ!じいちゃん、ばあちゃん!」
ミーズ達に近付き、震える手で触れたが、既に冷たくなっていた。
「おいおい、なぁ、嘘だろ。ほらお兄ちゃんが帰って来たんだぜ。これから土産話でもしながら飯でも食おうぜ。お兄ちゃん今回凄い活躍したんだぞ。なぁ、目を開けてくれよ。なぁ、嘘だろ?くそぉぉぉぉ!があぁぁぁぁぁ!!!!」
頭の中が真っ白になり、気が付けば叫び声を上げていた。
どれ程そうして居ただろう、気が付けばアーリアが泣きながら俺の背中に抱き着いていた。
「なぁ、アーリア。ミーズってさ、すげぇ察しが良い子でさ。絶対天才って奴なんだぜ?知ってたか?これから大人になって何にでも成れる将来有望なガキんちょだったんだよ。
それが何でだろうな、冷たくなってもう動いてくれないんだ……」
「……カイル」
アーリアの抱き締める力が強くなる。
「じいちゃんとばあちゃんもさ、ミーズは賢い子だってよく自慢してたんだぜ?そんなじいちゃんもばあちゃんもさ、すげぇ優しくてさ。飯を美味そうに食う俺を見て、いつもニコニコしてくれてたんだぜ。でも、何でだろうな。……ほんと何で死んじまったんだろうな。くそが……」
「カイル!!」
俺もアーリアも涙が止まらず、日が落ちるまでそのまま座り込んでいた。
「……なぁ、アーリア。ミーズ達を殺した魔物ってまた襲ってくると思うか?」
「……ええ、人種の味を覚えた奴らはまた襲って来るわ」
「……そうか。じゃあ早く体を治して、くそ共を擦り潰さないとな」
「ええ、早く体を治しましょう。大事な町の皆んなを殺した奴らを私も許せない!」
ミーズとじいちゃんとばあちゃんを出来る限り綺麗にして、家にあった布を掛け教会に向かう。
教会では治療がひと段落したのか、シスターや町の治癒魔法使いが座っていた。
「すまんがちょっと右腕と肋骨の骨折を治してくれないか?」
そう言いシスターに近付いて行く。
「貴方は?とりあえず診ましょう」
シスターは俺の右腕と肋骨に手を当て、魔法で怪我の状況を探っていた。
「もうほぼ治りかけの様に感じます。では治癒魔法を掛けますね。『繕う月光』」
治癒魔法の効果は強く、骨は完全に繋がったようだ。動かしてみても違和感はない。
「ありがとな、シスター。ところでサジンを見てねぇか?」
「サジンさんでしたら、北門の辺りへ向かわれたそうですよ」
お礼を言いながら俺たちは北門に向かう。そこには松明の灯りに照らされながら外を睨むサジンが居た。
「……よう、魔物達はまた来そうか?」
「カイルか、あぁきっと明日にはまた来るだろうな」
そう言いながら振り向いたサジンは血こそ止まっていたが怪我は治療されていなかった。
「……サジン!お前!」
「あぁ、この怪我の事か?この怪我はミーレを守れなかった罰だ」
「バカな事言ってないで早く治してもらってこい!視界が狭まると戦いでも不利になるぞ!」
「そうよ、サジン!早く治してもらいなさいよ!」
俺とアーリアの勧めに対し、サジンは首を振って答える。
「この傷を残しでもしないと、俺は俺を許せそうにないのだ。戦いは何とかする」
「──っ!そうかよ!」
このバカがとは思うが、気持ちは分からないでもない。これ以上その事には触れないでおく。
「で、魔物は何匹現れたんだ?」
「五匹だ」
「五匹!?たったそれだけでこんなにも被害があったのか!?」
「嘘でしょ!?ガルンジアってそんなにめちゃくちゃ強い魔物ではない筈よ!?」
アーリアが知ってるガルンジアはサジンとなら一対一で他の戦士ならば三対一で倒せる筈だそうだ。
「奴らは変異種だ。火を吹き、脚部には甲殻を纏っている」
「そんなに強かったのか?」
「ああ、強かった!」
サジンは拳を強く握り締める。
「そうか、じゃあ問題は次に来た時にどうやってそいつらを殺すかだな」
「カイル、何か手はあるの?」
「そうだな、俺は多分普通に戦っても負けないと思う。気を纏えば火なんか散らせるし」
「あれ?貴方そんな事出来たの?」
「ああ、第二チャクラの能力に気の具現化ってのが有って、昨日の野営の時に色々試していたんだ」
「そうだったのね」
「カイルよ。第二チャクラとは何だ?」
「今までよく分かって無かった俺の力だ。アリ共と戦ってる時にそれに気付いて更に進化したんだぜ!」
「ああ、お前の謎のエネルギーの話か」
「ただなぁ、相手の動きの速さによっては一匹しか引きつけてやれねぇな。この北門の防壁は直るのか?」
「バラックたち土人衆が明日の朝には土魔法にて修繕してくれるそうだ。」
おっちゃん達ってドワーフ(仮)じゃなかったのか。頼れるおっちゃん達だな。
「そうか、じゃあ後は奴らが来る方角だな」
「ガルンジアは確か北の方に生息している筈よ」
「よし、じゃあ北門の外に罠を仕掛けておこう!」
「「罠っ?」」
二人が声を揃えて疑問の声を上げる。正攻法で戦うのが難しいなら作戦を練って戦い易くするしかない。
「分かりやすいので言うと落とし穴だな」
「落とし穴って。そんなのに掛かるのかしら?」
アーリアは疑問に思っているが知性が高くない限りは大丈夫だろう。
「サジン、やつらって知性があるのか?」
「仲間とのコミュニケーションはとっている風ではあったが、知性と呼べる程ではなかったな」
「ん〜、じゃあ引っ掛かるだろ!大丈夫大丈夫、何とかなる!」
「貴方、何か適当ねぇ」
そう言いながらも三人で作戦を練っていく。落とし穴は採用となり、日が登ってから設置する事になった。
その夜は北門の前で、不寝番の手伝いをしながら三人で過ごす事となった。
アーリアがテントで寝てる時に、俺はサジンと話をしていた。
「なぁ、サジンよ」
「何だ、カイル」
「どうやってガルンジアを倒すつもりだ?」
「捨て身だな」
「はぁ!?あほか!」
「うるさいぞ、カイル。アーリアや他の者が起きるだろ」
捨て身と言った時のサジンの目からは怒りを感じられた。
「捨て身になってどうするんだ、死んじまうぞ!」
「だから、うるさいぞ。そうだな、死ぬだろうな」
「捨て身なんて許さねぇからな!」
「では、聞こう。他にどうすればガルンジアを殺せる?」
「そこは……、ほら、魔法とかあるじゃねぇか」
「魔法では駄目だった。剣でも奴の速さにはついていけぬ」
魔法も効かない、剣でも速さに追い付けない。そうなると今日明日の話で、どうにか出来る事ではない。
が、ふっと思い付いた。
「そんなに速いのか……。なぁ、お前って気は扱えないのか?」
「気といえば、お前が使っている力か?」
「ああ、そうだ。気が有れば身体能力が強化されるし、何とかなるんじゃないか?」
「そうだな、使えるなら何とかなるかもな」
見た目的には人間とそんなに変わらないので気を扱えるんじゃないかと、気について色々説明してみる。
「色々試してみたがどうやら使えないみたいだな」
「う〜ん、最後もう一個だけ試してもらって良いか?」
「ああ、分かった」
俺は気を手に集めサジンの背中に当てる。第二チャクラの能力の中にコミニュケーション能力の強化というのがあり、もしかしたら気を扱うという感覚を伝えられるんじゃないかと思ったからだ。
「どうだ?」
「ああ、背中が何やら熱いな」
「おっ!それが気だ!自分の中にも有るのを感じれるか?」
「そうだな、背中に感じる気よりは弱々しいが、お前が言う会陰とやらの辺りに感じられるな」
「よし!じゃあ坐禅を組んで深く呼吸をするんだ。そしてその会陰に体から気を集め、集まった気をそこでグルグルと回し凝縮するイメージをしてみろ!」
サジンは深く集中し始め、深呼吸を繰り返す。暫く経つと急にサジンの気が強くなった。
「第一チャクラが開いたか!」
「……あ、ああ。体に力が溢れてくる!だが、体が熱くて意識を失いそうだ……」
「あー、俺も気の力に目醒めた時は気を失ったっけ?無理せずそのままテントで休んでもいいぞー」
「いや、大丈夫だ。何とか制御出来そうだ」
いやいや、こいつ気を制御するの早くないか?と思ったが、天才という奴なんだろうなと思って納得する。
「その第一チャクラには身体能力に加えて、骨格、脚の強化もあるからガルンジアの速度にも負けないんじゃねぇか?」
「まだ、試してみてないから分からないが負ける気はしないな」
サジンは強い眼差しで返事を返してくる。
先程までは婚約者の復讐の為、刺し違えてもガルンジアを殺すと思っていたのか憎しみを持った目をしていたが、第一チャクラにある精神安定の能力のお陰か今は少し前を向いているように見える。
「坐禅を組んで周囲の気を取り込むイメージで深呼吸する事である程度は気が高められるから、不寝番の時、暇なら坐禅しとけよ。周囲の警戒は俺がしとくから」
「すまんな、助かる」
そうして、夜は更けていった。
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