第28話 決意の力

 「カイル!!駄目だ!」


 「サジンさん!今は耐えて下さい!カイルさんならきっと戻って来ます!」


 カイルを連れて行かせまいとした俺をレジーナが止める。

 俺の目の前でアーリアは刺され、そしてカイルは身代わりになり邪教徒に付いて行った。


 俺は何をしているんだ?あの時誓った筈なのにまた俺の前から命が溢れていくのか?


 脚の力が抜け膝をつきそうになった時、アーリアが視界に入る。


 だめだ!まだ絶望する訳には行かない!カイルにアーリアを頼まれたのだ、必ず助けねば!


 「レジーナ!シジールの傷はどうだ!?」


 「傷は塞がりましたが、まだ意識は戻っていません……」


 「そうか……。すまないがアーリアも診てやってくれないか?」


 「分かりました」


 アーリアの傷もカイルが塞いでいる筈だが、まだ意識を取り戻していない。


 カイルを追い掛けたいが、意識を失っている者が多い。

 

 「ローグスト、イエールの様子はどうだ?」


 「こやつは意識を失っているだけじゃぞい。して、これからどうするのじゃ?」


 「……一度ハーナリア達の元に戻る。今のままでは追い掛ける事は出来ない!」


 「私はこのまま気配を消して追い掛けて行こうと思います」


 カイルが連れて行かれた事により、セラは焦っている様だ。


 「だめだ。一人で行っても助ける事は出来ない」


 「ーーーっ!しかし!!」


 「ただ、カイルが連れて行かれる場所を確認しとかなければならない。セラ、カイルがどこに連れて行かれたか確認してきてくれないか?」


 「!分かりました!!」


 「決して一人でカイルを助けようとするのではないぞ。俺達も戦力を整えてから助けに行く!」


 邪教徒の生贄などにさせてたまるものか!必ず助け出す!

 

 イエールと騎士達を起こし、俺とイエールでアーリアとシジールを連れて戻る。


 


 「ハーナリア、カイルが連れて行かれた」


 「嘘でしょ!カイルは私達の中でサジンと並んで一番強いじゃない!」


 ハーナリアの元に戻り、状況を報告する。

 ハーナリアは言われた事が信じられないかの様に叫ぶ。


 「すまない。俺の力不足だ」


 「力不足って……!……いえ、貴方でだめだったのなら誰もカイルを止める事は出来なかったわ」


 「俺にもっと力があれば!!」


 握り締めた拳から血が流れる。俺は弱い。それがどうしようもなく悔しい。

 

 ナーグルで婚約者であるミーズを助けられなかった時に強くなると誓った筈。しかし、今の俺はどうだ?

 カイルが連れ去られている所を見ている事しか出来なかった!!


 「……サジン、だめよ。貴方、血が出てるじゃない」


 拳にそっとハーナリアの手が添えられる。そしてほぐすかの様にゆっくりと拳を開かせていく。


 「今回は後れを取った、でも諦めた訳じゃないのでしょ?」


 「ああ、相棒は必ず助ける!」


 「じゃあ今は体を休めて。体力を消耗したままでは勝てる戦いも勝てないわ」


 「すまない。では、少し休ませてもらう」


 ハーナリアの天幕を出て、空を見上げる。よく晴れた夜空に星が浮かんでる。

 どうすれば強くなれるのか?第四チャクラの解放まで後少しまで来ているという感覚はある。しかし、何か最後の一歩になるべき要素が足りない。


 カイルを助ける為には複数の邪教徒と相手取る事になるだろう。だからこそ助けに向かうまでに第四チャクラを解放せねば。


 自分の天幕に戻り坐禅を組み、気と魔力を練る。

 こうやって坐禅を組んでいるとカイルとの事を思い出す。


 あいつは面白い奴だ。無愛想である俺に遠慮なく話しかけて来ては馬鹿な事を言って笑わせる。


 ナーグルの町の中でも良く一緒に行動していた。あいつは口が悪く、ぶっきらぼうな態度と裏腹に子供と女には優しい。それを言うといつもふててたな。


 「カイル……。どうすれば強くなれるんだ」


 あいつは誰よりも強い。皆は俺と同じくらいと言ってるが俺はそうは思わない。

 模擬戦では勝率が同じくらいだが、いざ強い魔物と戦うとなった時には信じられないぐらいの力を発揮する。やばい状況になればなるほど強くなる。


 どこから力が湧き出ているのだ?今こそ俺も同じ様に力を発揮しないといけない。

 

 「もう誰も失う訳にはいかないのだ!!」


 ゴォォォォ!!


 その時、体内より気と魔力が溢れ始めた。


 「これは……第四チャクラが解放されたか!!」


 今ままではどうやっても解放出来なかった第四チャクラが解放された。

 心臓より大量の気が溢れ出す。そして魔力の量が明らかに増えている。その魔力は気と混ざり、体の周りを漂っている。


 何がきっかけだったのであろうか?


 多分、誰も失う訳にはいかないという強い想いだろうか?

 きっかけが分かれば他の者には教える事が出来るのだが。


 「サジンさん、起きてますか?」


 「レジーナか。どうした?」


 天幕の外より声を掛けて来たレジーナは天幕の中に入って来る。


 「アーリアさんが目を覚ましました」


 「本当か!?すぐに行く!」


 レジーナの先導でアーリアの元へ向かう。その天幕の中でアーリアは寝床より体を起こしていた。


 「サジン!なにがあったの?カイルは!?」


 「……カイルは邪教徒に連れて行かれた」


 「そんな!!」


 アーリアにこれまでの事を説明する。クルンドに刺され、治療と引き換えにカイルが連れて行かれた事にショックを受けたアーリアは涙を溢す。


 「わ、私のせいでカイルが!!」


 「悪いのはお前ではない。トートと邪教徒だ!」


 そう、トートが俺達を裏切って邪教徒の元へ向かわねばこうはならなかった。

 

 「それにまだカイルがやられた訳ではない。必ず助け出す!」

  

 「!?貴方その気と魔力!?」


 俺の体から無意識に立ち昇る気と魔力に気付いたアーリアは驚きを露わにする。


 「そうだ、第四チャクラを解放した。第四チャクラの解放には強い想いが要るのかもしれん」


 「強い想い……」


 「明日には先行してカイルの連れて行かれた場所を探しに行ったセラに合流するつもりだ。一緒に行くつもりなら体力の回復に努めるんだ」


 「もちろん行くわ!何があろうとカイルは助けるわ!」


 そうだ、何があろうとカイルは助ける!

 あいつは俺がこの集団の中心人物の様に言ってるがそれは違う。俺達はカイルを中心に纏っているんだ。


 だからこそ、カイルは何があろうとも助けねばならん。


 「では、俺も明日に備えて休む。アーリアとレジーナも早めに休むんだぞ」

 

 「はい、分かりました」


 「分かったわ」


 自分の天幕に戻り体力回復の為に早めに寝る事にした。


 翌日、再びハーナリアの天幕に来ていた。


 「ハーナリア、カイルを助けに行くメンバーを決めた」


 「誰を連れて行く事にしたの?」


 「俺とアーリア、レジーナ、キクリシス、それとローグストを借りたい」


 「ええ、良いわ。でも少なくない?」


 「相手は人種を操る術を使う。そしてその術はチャクラを解放している者には効かない」


 そう、あの時操られる術が効いた者はチャクラを解放していない者だった。

 正直、人数的には少な過ぎるくらいであろう。しかし、今の俺は誰にも負ける気はしない。


 何人来ようとも斬り伏せる!


 「……無理してはだめよ?貴方にはこれから先も助けてもらわなくちゃだめなんだから」


 「はは、そうだな。これから先もハーナリアを助けてやらないとな」   


 少し赤くなった顔で言うハーナリアの言葉に同意する。早くカイルを助けて国の建設予定地に向かわないとな。


 「では、また出発前には声を掛ける」


 「ええ、お願いね」


 シジールにも参加して欲しかったが、イエールに刺された傷が痛むのか今回は参加出来そうにない。


 アーリア達、カイルを助けに行くメンバーを集めて出発の準備をする。


 「まず、セラを探して合流する。それから邪教徒の元へ向かいカイルを助ける。クルンド以外のやつの強さが分からないから無理をするな。一人で当たらず二人一組になって戦うんだ」


 「二人一組だと一人余るんじゃない?」


 アーリアの言う通り一人余るが、俺は一人で戦うつもりなので問題はない。


 「俺は一人で大丈夫だ。今ならクルンドとも戦える」


 「無理しちゃだめですよ?」


 レジーナが心配するが、第四チャクラを解放した俺は以前の俺とは違う。

 力が体内で渦巻いているのを感じる。そして、気とも魔法とも違う力が宿っているのを感じていた。


 「分かってる。では、行くぞ!」


 まずは邪教徒と戦った場所へ向かう。


 「どうだ?キクリシス、どっちへ向かったか分かるか?」


 「うん、分かるよ。あっちだ」


 探索が得意なキクリシスに痕跡を調べてもらう。指差された場所へ向かって進んでいると、木の影よりセラが現れた。


 「サジン様、カイル様はこの奥にある砦に連れて行かれました。カイル様の気を感じるのでまだ無事です」


 「カイルの気?離れた所でも気を感じる事が出来るのか?」


 「以前治療の為にカイル様に気を分けて頂いたお陰か、カイル様の気だけは離れていても分かります


 「そうね、私も何となくカイルの気があっちにあるのを感じるわ」


 アーリアもカイルに気を分けてもらって治療されたから、気を感じる事が出来るのか。


 「では行くぞ!」


 森の中を更に一時間程歩くと砦が見えてきた。

 しかし、砦の塀の上では邪教徒らしき者が見廻りをしている。


 「このまま向かうのは得策ではないな。夜になるのを待って忍び込もう」


 こちらの人数は少ない。正面突破は無理だと判断して夜に忍び込みカイルを探す事にする。


 「拙いな、人数が多いぞ」


 夜を待つ為に砦近くの森で観察していたが、どうもこの砦には多数の邪教徒が居るみたいだ。


 「この人数で邪教徒の相手か……だめだな」


 「だめって何よ!こんな所で諦めるって言うの!?」


 「これこれ、声が大きいぞい」


 アーリアが激昂するが、このまま忍び込んでも見つかれば終わりだ。


 「諦めるつもりはない。ただ、今夜ではなく明日の夜にする」


 「明日の夜?一日違うだけで何が変わるの?」


 「何が変わるではない。何を変えるかだ」


 「どういう事でしょうか?」


 「皆にも第四チャクラを解放してもらう」


 「ええ!!」


 「だから、声が大きいぞい」


 第三チャクラまでしか解放していないなら正直相手にならないだろう。しかし、第四チャクラを解放すると大きく変わる。気と魔力の量だけの話ではない。

 何か新しい力を感じるからだ。


 「第四チャクラは気と魔力を一緒に練る事、それと強い想いを持つ事で解放出来ると思う」


 「強い想いですか?」


 「そうだ、俺はこれ以上誰も失わないと強く想った時に解放出来たからな。それぞれ考えてみてくれ」


 「強い想い……」


 それぞれが考え始める。今日はとりあえず砦より少し離れ、皆で坐禅を組み第四チャクラの解放を目指す。


 


 「解放出来たわ!!」


 「私もです!!」


 日が落ちてだいぶ経った頃に、アーリアとセラがほぼ同時に第四チャクラを解放した。


 二人はカイルを慕っているから余計に早く解放出来たのだろう。


 「凄いわ、これ。今までと全然違う!」


 「気と魔力だけじゃありませんね。何か別の力も感じます」


 「ぬぅ、中々難しいぞい」

  

 「私もです」


 「で、出来た!」


 ローグストとレジーナは苦戦してるとキクリシスから声が上がった。

 キクリシスもカイルと仲が良いからな。だから助けるという強い想いがあるのだろう。


 「よし、あと二人だな。第四チャクラの解放に成功した三人はもう少し離れた場所で出来る事を確認しておいてくれ」


 俺自身は何が出来るかは感覚で分かるから問題ない。

 ローグストとレジーナは結局寝る迄の間には解放出来なかった。


 「ローグスト、レジーナ、お前達はこの魔物に滅亡させられ掛けてるこの世界でどんな風に生きていきたい?それがヒントにならないか?」


 「どのようにかの」


 「どのように……」


 昼前になり、ようやくレジーナが第四チャクラを解放出来た。


 「よし、後はローグストだけだな。解放出来る出来ないにしろ今日の夜には忍び込むぞ」


 「わかったぞい」


 日が暮れ始めた頃にローグストの声が響く。


 「出来たぞい!確かにこれ今までと違うのう!」


 よし、これで全員第四チャクラまで解放出来た。


 待ってろよ、相棒。今助けに行くぞ!

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