第29話 邪教の砦
「良し、行くぞ!」
辺りが暗くなる前に見つけた、壁の崩れた場所に向かう。
ここに居る全員が第四チャクラまで解放した今ならば邪教徒と一対一で戦っても負ける事はあるまい。
「ローグスト、隠形の魔法を頼む」
「分かったぞい。『昏き衣』」
隠形の魔法は俺達を包み込み姿を隠す。この魔法は足音や鎧の擦れる音も消してくれる優秀な魔法だとローグストが自慢げに話していた。
「アーリア、セラ。カイルはどっちの方に居る?」
「中央にある建物の辺りからカイルの気を感じるわ」
「良し、気を付けながら建物に入るぞ」
建物の入り口の横には邪教徒が立っている。しかし、隠形の魔法が掛かっている俺達の姿は見えてない様だ。
「セラ、先導してくれ」
「分かりました」
カイルの気が分かり、かつ近接でも戦う事が出来るセラに先導してもらう。
通路では邪教徒が見廻りをしていたが、壁に寄り掛かりやり過ごす。
「この下辺りから気を感じます」
「下か。地下室があるのだろう。降り口を探すぞ」
カイルの気を感じる場所から周囲を探していく。
「魔物だ!何で建物の中に魔物が居るんだ!?」
四角形に触手を貼り付けた様な魔物が通路をこちらに向かって来ている。
「邪教の魔物だ。キクリシスは見るのは初めてだったな」
こいつはアーリアを助けに行った時にも現れた魔物だ。邪教の魔物はどうも生理的嫌悪をもたらす外見をしている。
「やり過ごすぞ。壁に寄れ!」
壁に寄った俺達の前に魔物が向かってくる。
このままやり過ごせると思ったが、俺達の前で魔物は動きを止めた。
「これは!?こちらに気付いているのか?」
「だめじゃぞい!触手が向かって来ておる!」
隠形の魔法が掛かっている時に魔法を使うと隠形が解けてしまう。なるべくならば魔法を使わずに倒したい。
「私がやります」
セラがそう言った瞬間、セラの姿が消えた。
ドゴッ!!
魔物が地に叩きつけられる。その背後にはセラが立っていた。
「セラ!?貴方どうやって倒したの!?」
「踵落としです。第四チャクラを解放して得た力は自身の速度を上げる能力だったみたいです」
セラが蹴っている姿は視認する事が出来なかった。どうやら俺とは違う能力に目覚めたみたいだな。
「凄いな。全く見えなかったぞ。第四チャクラの解放で得られる能力は皆同じではない様だな」
「そうね、私はあんな事出来ないわ」
「さぁ、降りる所を探すぞ!」
魔物が出て来た方向に向かう。
少し進んだ先で階段を見つけた。しかし、そこには邪教徒と共に邪教の魔物が多数居た。
「あそこに階段が見える。これは戦うしか無さそうだな」
「出来れば気付かれずにカイルの元へ辿り着きたかったんじゃがのう」
「仕方あるまい。やるぞ、準備は良いか?」
「じゃあ俺が先に攻撃するよ」
キクリシスが手に何も持たず前に出る。
「いくよ!『熱線弓』!」
何も持っていなかった手に紅い弓が現れる。弓の弦を引いた右手に火の様な熱を持った塊が現れ、それは徐々に大きくなっていった。
ゴオォォ!!
右手を離した瞬間、熱を持った塊は空気を焦がしながら邪教の者共に向かう。
「ぎゃあぁぁぁぁ!!」
弓から邪教徒まで線になって繋がっている熱線をキクリシスは横に動かし、薙ぎ払う。
「よし!今だよ!」
魔物にはあまり効かなかったようだが、邪教徒は熱線に焦がされのたうち回っている。
あとは魔物と邪教徒が半分程だ。
俺は右手に魔力を、左手に気を集める。
「『銀光金牙』!」
第四チャクラの解放によって俺が得た力は両手それぞれに魔力の剣『銀光』と気の剣『金牙』を生成する事だった。
エヨーナを出た後でカイルに二剣流を進められて少しずつ訓練していたが、まさか得られたものが剣だとはな。
「俺は魔物をやる!邪教徒は任せたぞ!」
魔物の前に飛び込み、上段より『金牙』で魔物を袈裟斬りにする。『金牙』は何の抵抗もなく魔物を通り過ぎ、両断した。
右手の『銀光』で両断した魔物の背後から迫っていた魔物を突く。『銀光』が刺さった所から魔物は爆散する。
「増援が来る前に倒して地下に向かうぞ!」
「大きいの使うから離れるんじゃぞい!」
「砦は壊すなよ!」
「分かっておるぞい!『剛雷気渦』!」
バチバチと音を鳴らしながら水の渦が邪教徒共に向かう。広範囲の魔法は残った邪教徒を全て巻き込む。
水は雷を含んでおり、水に触れた邪教徒は濡れながらも煙を上げて倒れていく。
「後は魔物だけだ!」
「任せて!『気鋭水』!『気刃嵐牙』!」
アーリアが両手それぞれから別々の属性の魔法を同時に放つ。左手から放たれた水の槍は魔物を次々に串刺しにしていく。そして右手より放たれた気刃の風は右側に居た魔物を細切れにしていった。
「地下に向かうぞ!急げ!!」
魔物は全部倒した。これで邪魔者は居なくなった。
戦闘の音で砦にいる邪教徒には気付かれた筈だ。急がねば。
降りた先は長い通路になっていた。両側は牢になっており、暗く湿っている。
「奥に誰か居るぞ!」
「カイル様!」
「カイル!」
奥の牢の中にカイルを見つけた。しかし牢の前にクルンドとトートが居る。
「クルンド!カイルを返してもらうぞ!!」
「生贄が自ら来てくれましたか。神もお喜びでしょう」
話し方はいつも通りだが、クルンドはどこか焦っている様に感じる。
何故だ?何に焦っている?
「サジン!気を付けろ!!」
カイルの言葉に考える事をやめ、目の前に集中する。
「さて、多勢に無勢ですので私も仲間を呼ばせていただきますね」
「させるか!」
クルンドが何かする前に斬ろうと駆け出したが、クルンドが片手をあげた瞬間、周囲は光に包まれた。
光がやむとそこには眷属が十体居た。
「くっ、眷属か!貴様ら今までどれ程の人種を生贄にしてきたのだ!!」
「さぁ、どうでしたかね?数なんて覚えてないですね」
「外道共が!」
一番近くに居た眷属を『金牙』で下から斬り上げる。両断こそ出来なかったが深い傷をつけた。斬られた事により怯んだ眷属に『銀光』を突き出し、頭を串刺しにする。
眷属が絶命し、倒れていくのを待つ事もなく更に斬り掛かっていく。
それぞれ一体から二体の眷属を相手取り着実にダメージを積み重ね、倒していく。
「クルンドとトートはどこだ!?」
「お前らが戦ってる途中で上へ逃げちまったよ。とりあえず牢を開けてくれ!」
「土魔法で破壊するから下がっておるのじゃぞい」
ーーーーーーーーーーーーーー
サジン達が助けに来てくれ、やっと牢から出れた。
それにしても何だ?あのサジンの剣は?
それにセラの動きもおかしいし、皆強くなってねぇか?
「俺が居ない間に何があったんだ?何か強くなってねぇか?」
「相棒が居ない間に皆、第四チャクラまで解放したのだ」
「まじかよ!皆?六人共か!?」
「そうだ。そんな事より、ここから早く脱出するぞ!」
「そうだな。道は分かるか?」
「ああ、分かる」
サジンを先頭に砦を走る。
「……カイル。ごめんなさい。私のせいで」
「良いんだよ。気にすんな!こうしてまた会えたじゃねぇか。それより怪我はどうだ?」
「貴方とレジーナのお陰で完全に治ってるわ。ありがとう」
少しはにかみながらアーリアがお礼を言う。
怪我が治って本当に良かった。あの時はすげぇ焦っちまったからな。
「……カイル様。あれ程無茶はだめだと申した筈です。……貴方はもう!」
セラが泣きそうな顔で怒る。セラにも心配掛けちまったな。
「すまん、これ以外に手が浮かばなかったんだ」
「次からは私も御一緒しますので!」
「うえっ!?連れ去られる時は付いて来るって事か!?」
「そうです!どこまでも貴方様に付いて行きます!!」
「……なるべくそういう状況にならないようにする」
どうやら今回はいつも以上に怒ってるみてぇだ。どうにか埋め合わせしねぇとなぁ。
「カイル、モテモテだね!」
「そんなんじゃねぇよ。まぁ、でも助かったぜ」
キクリシスめ。
助かったってのは本当だがな!
「おかしいぞ。邪教徒も魔物も居ない」
牢を出てから今まで、魔物にも邪教徒にも会ってねぇ。皆逃げ出したって訳じゃ無さそうだし、何か変だな。
「建物の外で待ち伏せしてるかもしれねぇなぁ」
「その可能性は高いだろうな」
結局入り口に辿り着くまでに邪教徒にも魔物にも遭遇しなかった。
「外に居る可能性が高ぇな。皆気を付けろよ」
その言葉と共に外に飛び出す。
外に出ると砦の入り口を囲むように魔物と邪教徒が待ち構えていた。
「やっぱいやがったか」
「お待ちしておりましたよ。さぁ、皆生贄になるのです」
「そうはいくかよ!やるぞ、相棒!」
「おう!」
全身に気を集め凝縮し、気の鎧を纏う。
アーリアが刺された事でキレてしまった時に出来た、この気の鎧は気が付けば普通に出来るようになっていた。
「ぜぇりゃあ!」
右脚を天高く上げ、振り下ろす。その衝撃波により前方に居た邪教徒が吹き飛んでいく。
「はっ!」
セラの声が聞こえたと思った時には、既に魔物達の間にセラが居た。
「お前、無茶苦茶速くなったな!」
「まだまだカイル様には及びませんよ!」
そう言うセラは超速移動で魔物達を次々に蹴り殺していく。
「『剛炎雷』!」
火を纏った雷が天より降り注ぐ。じいさんの雷と火の複合魔法は邪教徒を燃やしていく
「よし!もう少しだ!」
「あらあら、もう全滅ですか?仲間ながら弱いですね」
「後はお前とトートだけだ!」
「そうですね。やられるのは嫌なので抵抗します」
クルンドが両手それぞれを複雑な形にして構える。
「さて、貴方の出番です。存分に異教徒達を狩りなさい」
クルンドの両手が光ったあと、俺とクルンドの間に身長五メートル程の角が生えた全身緑色の眷属があらわれる。
「ぜぇりゃあ!」
先手を取った俺の前蹴りは、横に半歩動いて躱される。
「はっ!」
大型の眷属が横に半歩動いた事に合わせてサジンが斬り掛かるが、腕を半ばまで断たれながらも防がれる。
「『絶気氷牙』」
「グルゥァァァ!」
じいさんの魔法は眷属が放った深い緑色の氷によって相殺される。
「『熱線弓』!」
紅い弓より放たれた熱線は、眷属が生み出した壁により防がれる。
「こいつ色々と硬ぇな」
「同時に攻めるぞ!」
「分かったぜ、相棒!」
サジンが右側から斬り掛かるのに合わせて、左側より超臨界流体に属性変換した左脚で回し蹴りを叩き付ける。
「グガァァァァ!」
眷属の咆哮と共に大地より炎が立ち昇る。
「ちっ!」
「『凍気魔氷』!」
アーリアの水魔法により、炎は掻き消された。
「こいつ引き出しが多いな」
一度距離を取り、隙を窺う。
「俺が囮になる。サジン頼んだぞ!」
「任せろ!」
眷属の正面に向けて駆け出す。ダメージを受けるのを前提に気を硬化し衝撃に備え飛び込む。
「グルァァァ!」
眷属の拳が俺の腕に当たる。バキッという大きい音と共に吹き飛んでいく。
「相棒!今だ!!」
眷属の背後に回り込んでいたサジンの斬撃は、眷属の背中にバツを描く様に傷を付ける。
「『慈愛の白気光』!」
吹き飛び転がっていた俺にレジーナから治癒魔法が飛んでくる。その魔法は折れた腕を一瞬で治していく。
「助かる!」
「もう一度だ!カイル!次は俺が囮になる!」
傷を付けられた事によりサジンの方を向いて殴り掛かっていた眷属の背後に駆け出す。
気の属性変換を超臨界流体からエーテルへ変えて太い胴体へ中段回し蹴りを放つ。
「ぜぇりゃあぁぁ!!」
「グギャァァァァァァ!!」
その脚は眷属の胴体をすり抜けたかの様に見えたが、何かを蹴り抜いた感触がした。
「これは!?霊体を蹴ったのか!?」
勘に従っての行動だったが、どうやら眷属の霊体への攻撃になったみたいだ。
眷属は蹴り抜かれた胴体から下に力が入らず倒れ伏す。
「止めだ!『剛魔気刃』!」
サジンの両手の剣の斬撃で眷属の首は両断されて息絶えた。
「クルンド!後はてめぇらだけだ!」
「ふふふ、これは困りましたね」
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