第27話 脱魂の檻
「着きました」
あれから夜道を歩いて日が登る直前にここ、邪教徒の砦に着いた。
森の中の開けた場所に、石材で出来た砦が急に現れた。元々あった放棄された砦を邪教徒が使ってるのか、それとも邪教徒が建てたのか分からないが、立派な作りをした砦であった。
「森の中にこんな砦があるとはな」
「放棄されてた砦を私達が有効活用しているのです」
あの場では大人しく付いて行く事にしたが、俺はまだ諦めた訳ではない。隙をみてこいつらを返り討ちにしてやる。
そう思い、今後の為に砦の配置を覚えていく。
中では邪教徒らしき者が見廻りをしていた。
クルンドと同じ様に深い緑色のローブ着て、フードを目深に被っている。
「こんなにも見廻りがいて、何を警戒してるんだ?」
「それは、この辺りの魔物ですね。砦が破られる事はないでしょうが、傷が付くかも知れませんからね」
「そうか。お前らは何人でこの大きい砦を守ってるんだ?」
「二十人程でしょうか?皆戦える者なので過剰とも言える程の戦力ですがね」
邪教の技を使える二十人か。戦う事になれば面倒そうだな。
「さぁ、カイルさん中へ参ります」
砦の中心に有った建物に入る。そこは殺風景な場所であった。
装飾品の類いは何も無く、ただ広いだけの建物であった。
「なぁ、邪教徒ってここ以外にも居るのか?」
砦の中を歩きながら尋ねると嬉しそうにクルンドが答える。
「もちろんですとも。ここ以外の場所でも、布教と生贄を集めております」
「そうか」
布教をしているという事は、俺が行った事ある場所以外にも人が居るって事だ。
伯爵級の魔物によって滅んだマグラース王国の生き残りか深緑の国の生き残りか、はたまたそれら以外の国の人種か……。
「国は全て滅んだって聞いてたけど、生き残ってる奴は結構居るんだな」
「ええ、この大陸では国という形は現在残ってないしょう。しかし、集落や小規模な町など魔物に襲われてない場所もまだあるのです」
「お前らはこの大陸について詳しいんだな。……ん?この大陸では?他にも人種が住んでる大陸があるのか?」
「この大陸以外も勿論有りますよ。この大陸は世界で二番目に大きい大陸です。世界で一番大きな大陸ではまだ国という形が残っている所もあるそうです」
お嬢に一回地図を見せて貰ったが、今いる大陸の半分程しか載っていなかった。お嬢やじいさんが言うには北の方にも幾つか国があったそうだ。
しかし、やはりこの大陸の国は全て滅んでいるのか。
「お前ら邪教って昔から有ったのか?レジーナ達、天教の奴らは知らなかったみてぇだけど」
「邪教が生まれたのは最近の話ですよ。我が神が現界なさったのが五年程前なので」
「結構最近の話なんだな。何でお前は邪教徒になったんだ?」
「我が神に拝謁する機会があったからです」
「神と直接会ったのか!?」
天教では神に会う事はおろか、神託が下る事も無かったと言っていた。邪神って少し身近過ぎねぇか?
「簡単に会えるとは言いませんが、神の御意志次第で拝謁させて頂くことが可能です。
さぁ、お話はここまでです。今夜はこちらで過ごして頂きます」
こちらと言われた場所は砦の中の牢屋であった。
牢屋なので衛生環境は良く無さそうな上に床には何やら魔法陣めいた物が描いてあった。
「何だ、この魔法陣みたいなものは?それに直ぐに生贄にする訳でもねぇんだな」
「生贄を捧げるにも良い日というものがあるのです。魔法陣とは何でしょう?」
「そうか、でいつになるんだ?魔法陣は床に描いてある図形の話だ」
「二日後の夜に生贄としてカイルさんを捧げさせて頂きます。ああ、床の邪法陣は魂を神の元に届ける為のものです」
アーリアを外で殺そうとしたのは生贄の為じゃなかったのか?
「その邪法陣以外の場所でアーリアを殺そうとしたのは何故だ?」
「別に邪法陣の上にでなくても神には捧げる事はできます。しかし邪法陣の上の方が全て余す事なく捧げる事が出来るのです」
「そうか」
「では、後程食事を届けます」
その言葉と共にクルンドは牢屋の鍵を閉めて去っていった。
さて、どうするかね?
とりあえず何をするにしても気を回復しねぇとどうしようもねぇか。
坐禅を組み、気を集めながら考える。
ここから逃げるにはこの牢屋から出ねぇといけねぇが、どうにも破壊出来そうじゃねぇな。
そうなると二日後の生贄に捧げられるタイミングにやるしかねぇ。
二時間程坐禅をして、体力を回復させる為に石で出来た硬い床に横になり睡眠をとった。
翌日、邪教徒が朝飯を持ってきた。こいつは見た事ねぇ奴だな。
「おい、飯だ。受け取れ」
「分かった」
「お前も災難だったな」
何だこいつ?俺に同情してるのか?
邪教徒なら神に生贄を捧げる事は喜びだと言ってた気がする。こいつはちょっと変わってるな。
「仕方ねぇだろ。女を守る為だ」
「おっ!女を守る為に代わりになったのか!お前男気のある奴だな!」
「お前はお前で変わった奴だな」
「ああ、よく言われるな。俺はゲルガだ。短い間になるだろうが、よろしくな」
「俺はカイルだ」
よく話す奴だから、もしかしたら邪教の情報を手に入れれるかもしれねぇな。
「ここではクルンドが一番偉いのか?」
「ああ、クルンド様は使徒だからな」
「使徒ってのは何だ?」
「邪神様より特別な力を受け取った方だ。邪教徒の中でも十人しかいねぇな」
クルンドが邪教徒の中でそこまで上位の存在だったとはな。確かにクルンドの奴は強かった。まだ奴の底は見えてねぇ。
「ゲルガはどうなんだ?」
「俺は邪教徒の中でもはみ出し者だからな。戦いでは負けるつもりはねぇけど、地位とかはないな」
「そうか、お前は強いんだな」
「ああ、戦闘だけなら使徒にも引けをとらねぇ筈だぜ」
はみ出し者か。だからこんなにあっさり情報を教えてくれるのか?どうもこいつはクルンドみてぇに神一筋って感じがしねぇな。
「じゃあ、俺は行く。また夜には飯を持って来る」
「おいおい、昼飯はねぇのかよ?」
「贅沢言うな。飯が貰えるだけでもありがてぇと思いな」
「しゃあねぇな」
ゲルガが去ったあと坐禅を組む。気は少しずつ回復してきた。
しかし、今のままでクルンドに勝てるのか?
俺の蹴りをあっさりと受け流したクルンドは強い。このままじゃ勝てねぇかも知れねぇ。
出来る事は試していかねぇとな。
まだ試してないのはエーテルへの属性変換と星辰体だ。どっちもどういう物か全く想像が出来ねぇ。
まずエーテルへの属性変換を試す。
「これは……」
どうにも変化が分からない。
いや、待てよ!気の集まり方が変わった気がする!
属性変換する前より気がより多く集められてる!
それに周りの空気が今までより強く感じるようになっている。触覚が強化されてるのか?
これはもしかしたら防御向きの属性変換かも知れねぇな。
一旦エーテルへの属性変換を止め、今度は星辰体を試す。
星辰体を意識した瞬間、自分の体が二重に見えた。
これはなんだ?
元の体の周りに半透明の自分の体が見える。
これが星辰体か。腕を動かすと元の腕は動かず、星辰体の方の腕だけ動く。
「幽体離脱みてぇなもんか」
元の体から離れれるかと思い、動いていく。完全に元の体から分離してもまだ星辰体を動かす事が出来る。
「よし、これなら牢屋の中から外の状況が確認出来るな!」
星辰体のまま牢屋の外に出てクルンドを探す。
クルンドは執務室のようなところで、部下の男と話していた。
「しかし、クルンド様。あの者共もいずれここにやって来るでしょう」
「ええ、そうでしょうね。この場所がわかるように敢えてあの場所から真っ直ぐに進んで来たのですから」
「何故その様な事を?」
「より多くの生贄を捧げる為ですよ。カイルさんだけでも十分ですが、多く捧げる事に越したことはありません」
「その様なお考えだったのですね」
サジン達がここに来るかも知れねぇって事か。
それはやべえな。ここには強そうな邪教徒が複数居る。今のサジン達じゃ勝てねぇだろうし、多勢に無勢だ。
こりゃあ早く逃げるしかねぇか。そう思い元の体に戻っていく。
体に戻りエーテルへの属性変換をして気を集めているとゲルガが飯を持って牢屋の前に来た。
「もうそんな時間か」
「ああ、もう夜だからな」
集中して坐禅をしていたら、いつの間にか夜になってたみてぇだ。
「なぁ、ゲルガ。牢屋から出してくんねぇか?」
「駄目だ。個人的には出してやりてぇが、ここにはクルンド様が居るからな」
こいつならもしかしてと思ったが流石にそこまでは無理か。
「やっぱり無理か。そんなに熱心に神を信仰して無さそうなお前ならと思ったんだがな」
「確かに熱心じゃねぇな。だが、第三使徒様には命を救われてるからなぁ。それに邪神様にも邪力をもらったしな」
「邪教徒の中に命の恩人が居るのか……。邪力をもらったとはどういう事だ?」
「邪教徒に入ると魔力を邪力に変換して強化してもらえるんだよ」
「邪力の元は魔力だったのか!だから魔法みてぇな事が出来るんだな!」
「そうだ。ただ、邪力は元の魔力より数倍は強くなるからな。だから邪法は強いぞ」
「ああ、それは実感している」
魔力を邪力に変換してるからじいさん達は邪教徒から魔力を感じなかったんだな。
「今日が最後の晩飯になるからしっかり食えよ。特別に飯作ってる奴を脅して豪華にしてもらったんだからな」
「それはありがたいな。しかし、どうしてそこまでしてくれるんだ?」
「お前の男気に共感したからだ。俺も女子供を生贄するのは好かねぇ」
「……。お前邪教に向いてないんじゃねぇか?」
「うるせぇよ。命の恩人が居なけりゃこんな宗教入ってねぇよ」
「そうか」
飯を食い終わってゲルガが食器を持ち去った後、早めに寝る事にした。
明日は生贄にされる日だ。コンディションを整えておかないと戦いどころじゃねぇからな。
「さぁ、カイルさん時間です」
翌日、日が暮れてからクルンドがお供を連れて牢屋の前に現れた。
「もうそんな時間か」
そう返答を返しながら隙を窺う。こいつが牢屋を開けて入って来た時がチャンスだ。
「では早速ですがやりましょう」
クルンドはその場で手を組んで祈り始める。
しまった!牢屋の外から出来るのか!?
牢屋に入ってくる時がチャンスと思っていた俺は、牢屋の外で手を組んで祈り始めたクルンドの姿に焦る。
組んでいた手が光り始めた時、何かに体が上に引っ張られる感触がした。
その力は徐々に強くなっていき、遂には体が宙に浮く。
「くそ!何だこれは!」
俺の声はクルンド達には聞こえていないみたいだ。いや、姿さえ見えていないようだった。
クルンド達の視線は俺の下を向いている。
おかしいと思い下を見ると、生気のない俺の体があった。
「これは!魂を引っ張られてるのか!!」
拙い、魂を抜かれると死んじまう!どうにかしねぇと!
魂の状態の俺の体内に意識を向けるとチャクラを感じる事が出来た。
しめた!これなら何とかなるかもしれねぇ!
第四チャクラに気を送り込み、星辰体を意識する。気により星辰体、つまり魂が強化されたのか引っ張る力に抵抗出来た。
「があぁぁ!」
第四チャクラに過剰な程気を送り込む事で徐々に肉体に戻っていく。
そして肉体と重なった瞬間、元の体を動かせる様になった。
「何故です!!貴方の魂は神の元へ送った筈です!!」
「残念だったな!!」
ゴガァン!!
その時遠くで何かが破壊される音が響いてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます