第26話 幻惑の刃

 「な、何だその鎧は!?」


 先程までは着ていなかった鎧を、一瞬で纏った俺にトートが驚く。


 「知るか。死ね」 


 予備動作もなく前蹴りを放つ。トートはその蹴りを見る事も出来ず肋骨の折れる音と共に吹き飛んでいく。


 「クルンド様!加勢します!!」


 「いえ!貴方は贄を拠点に運びなさい!」


 「させる訳ねぇだろ」


 アーリアを連れて逃げようとした男に、頭を狙った上段蹴りを放つ。


 ガギィィィン!!


 突如現れた鈍く七色に光る壁により蹴り脚は弾かれる。


 「クルンド、てめぇか?」


 「今のうちです!早く行きなさい!」


 「はっ!」


 逃げる男を追い掛けようとするが、クルンドと眷属が俺の前に立ち塞がる。

 

 「邪魔だ」


 消えたと錯覚する程の速度で眷属の前に立ち、上半身を捻りながら後ろ蹴りを放つ。

 踏み込みの力を体内にて螺旋の力に変えた後ろ蹴りは、眷属の胴体に大きな穴を穿ち生命活動を終わらせる。


 「がぁぁぁっ!!」


 眷属の胴体に穴を開けたと同時に咆哮を上げ、気を爆発させる。生じた衝撃波は残った眷属を押し潰し、吹き飛ばす。


 「あとはてめぇだけだ」


 「やはり貴方は逸材ですね。次にお会いした時は必ず神に捧げさせていただきます」


 「次なんてねぇよ」


 ガギィィィン!


 殺す為に上段蹴りを放つが、クルンドが邪法の壁を生じさせ蹴りを受け止める。

 

 この壁邪魔だな。


 右脚を第一チャクラの土から派生した鉄に属性変換させる。

 そして左脚には第ニチャクラの水から派生した氷に属性変換させる。


 「器用な事をされますね」


 「うるせぇ、死ね」


 ガゴッッッ!


 飛び上がり両脚による二連続の飛び蹴りを壁に撃ち込むが壁は依然として聳え立っている。


 「無駄ですよ。この壁はそう簡単には破れません」


 「そうか」


 右脚を第三チャクラの火から派生した蒼炎に、左脚を第四チャクラの空気から派生した超臨界流体に変換する。


 ジャリィィィィン!!


 「第四チャクラが効くのか」


 「何ですか!?今のは!?」


 超臨界流体は科学が発展してねぇと分かんねぇだろうな。

 まぁ、そんな事はどうでもいい。死ね。


 「うるせぇ、アーリアを迎えに行かきゃならねぇんだ。さっさと死ね」


 両脚共に超臨界流体に気を属性変換して、回し蹴りを壁に叩き込む。

 その蹴りは壁を真っ二つに斬り裂き、壁の奥に居たクルンドの顔に傷を付ける。


 「くっ、仕方ありませんね」


 クルンドが素早く手を組み、眩いばかりの光りを放った後には周囲一帯が邪教の魔物に囲まれていた。


 「貴方達任せましたよ」


 逃げて行くクルンドを追い掛けようとするが、次々に魔物が襲って来て前に進めない。


 「がぁぁぁぁっ!」


 咆哮により周囲の魔物を押し潰すが、すぐに奥から魔物が現れて隙間を埋められてしまう。


 「邪魔するんじゃねぇ!!」


 全身の気を右脚に集め、頭頂部近くまで振り上げる。


 ドガァァァァ!!!


 大地に振り下ろした脚は、半径十メートルのクレーターを作る。その衝撃波は半径百メートルまで強烈に伝播し、魔物を押し潰しながら周囲に波紋する。


 「次から次へと鬱陶しい!!」


 半径百メートルの空白地帯は十メートルも進まぬうちにまた魔物に埋められる。


 「カイル!!居るのか!!」


 サジンが追い付いて来た。闘いの音で場所が分かったのだろう、だいぶ先行していた筈だが来るのが早かったな。


 「サジン!アーリアがクルンド達に連れて行かれた!!俺は追い掛けなくちゃならねぇ!」


 「なんだと!?分かった!とりあえず魔物を倒すぞ!ローグスト頼む!」


 「分かったぞい!『絶気氷陣・乱』!」


 ローグストのじいさんが放った魔法は広範囲に広がり、大地より生えた氷により魔物を串刺しにしていく。


 「カイル!ーーー!?何だ!その姿は!?」


 じいさんの魔法により、俺の所への道が開けた。

 サジン達がその道をキープしながら合流して来た。


 「鎧?ああ、気の事か」


 「それは気の鎧なのか!?いや、そんな事よりアーリアの事だ」


 「ああ、クルンド達に連れて行かれた。連れいかれた場所は今なら勘で分かる」


 「勘でか?……。分かった、付いて行こう」


 じいさんの魔法で一気に魔物を吹き飛ばし、俺とサジンを先頭に駆け出す。


 「こっちだ!急ぐぞ!」


 魔物の包囲を抜けた俺は、直感力を更に強化する為に第五チャクラに大量の気を送り込み高速で回転させる。


 アーリアの気配を何となく感じる。まだそんなに遠くねぇ筈だ。


 「メンバーはこれだけか?」


 俺と合流したメンバーはサジン、セラ、じいさん、レジーナ、シジール、イエールの六人だけだ。


 「相手は邪教徒だからな。生半可な腕では足手まといになりかねないからな」


 「ああ、そうだな」


 後ろで走っていたセラが隣りに追い付いてくる。


 「カイル様、どうか冷静におなり下さい。今のままでは危険です!」


 セラには俺が冷静に見えねぇみたいだな。


 俺は冷静だ。アーリアを助けてクルンドとトートを殺す。


 「そうだな、相棒冷静になるんだ」


 「お前まで言うか?俺は冷静だ」


 サジンが険しい顔でセラに同意する。

 更にセラが何か言おうとした時、クルンド達が見えた。


 追い付いた!


 「クルンド!!」


 「おや?もう追い付きましたか」


 アーリアは変わらずクルンドの部下に抱えられている。


 気を爆発させ一気に近寄ろうとする。


 「ぜぇりゃぁ!!」


 飛び膝蹴りでクルンドの部下を狙うがクルンドの鈍く光る腕に弾かれる。


 「邪魔すんな!!」


 「そういう訳にはいきませんねぇ。あれを使いなさい!」


 クルンドが部下の男に指示を出すと、男はアーリアを下ろし手を組む。


 「がああ!」


 「きゃあぁ!」


 突如背後より咆哮と悲鳴が聞こえる。

 ばっと振り返ると、イエールがシジールの腹を剣で貫いていた。


 「!?何してやがる!!」


 「シジールさん!!」


 シジールの側に居たレジーナが駆け寄り治癒魔法を使い始める。


 「はっ!」


 セラが気を凝縮した脚でイエールの剣を狙った中段蹴りを放つ。


 「がああああ!」


 セラが放った蹴りはイエールの剣で弾かれた。

 イエールはまだチャクラを解放してないからセラの方が力は強い筈だ。しかしセラが力負けした。


 「様子がおかしいぞ。まさか!操られているのか!」


 「くそが!サジン、セラ、じいさん、そっちは任せて大丈夫か!?」


 「分かった!任せろ!」


 「任せて下さい!」


 「任せるのじゃ!」


 イエールの事はサジンとセラとじいさんに任せ、クルンド達に対峙する。


 「てめぇ、何しやがった!」


 「ふふふ、さぁ?何をしたのでしょうね」

 

 「クルンド様、我が騎士団の者をお使い下され」


 「おお、それは良い考えですね」


 「ちょうどここは待ち合わせ場所に近い場所でしてな。少し先に居るので呼んで参りましょう」


 「トートさん、お願い致します」


 トートが森の奥に消えて行く。

 今はトートなんかよりアーリアだ!敵が二人になったから有利になった筈だ。


 「死ね」


 二人の元へ飛び込もうとした瞬間、眩い光りが放たれる。


 光りが消えた後には四メートル程の大きさの色々な生き物を混ぜた魔物が現れた。


 「この子は特別製でしてね。少し手強いですよ?」


 「知るか」


 両脚に気を集め凝縮させる。脚に纏っていた気の鎧が光りを放つ。

 助走を付けた上段蹴りを魔物に叩き込むが、硬いゴムを蹴った感触と共に衝撃が吸収されてしまう。


 「くそが!」


 「色々な魔物を混ぜた我が神の作品ですよ」


 改めて見るその魔物は、頭は猿の様な生き物で丸太程ある腕は虎の様な縞模様と鋭い爪、胴体はワニの様な鱗を纏っていた。


 「邪魔すんじゃねぇ!」


 再度、上段蹴りを放つ。先程との違いは脚の気を超臨界流体に属性変換している事だ。


 バシュン!!


 蹴り脚が通った所は抉り取られ体が傾く。


 「ゴォォォォ!!」


 魔物が咆哮を上げたと同時に抉られた場所が再生していく。


 「面倒くせぇ奴だ!」


 それならばと連続で回し蹴りを放ち、体を削っていく。


 「トート様?これはどういう事ですか?」


 俺と魔物が戦っている所にトートが五人の騎士を連れて戻ってきた。


 「お前らもクルンド様に加勢するのだ」


 「ローグスト殿達を倒すのですか?おかしいではありませんか!?」


 「クルンド様お願いします」


 「分かりました。貴方方も神の僕になりなさい」


 クルンドが手を組み光りを放った瞬間、騎士達は動きが止まる。

 再び動き出した時には、虚な表情をして俺に剣を向けて来た。


 「やっぱり人を操れるのか!?」


 「そうですよ?貴方方はあの大きい人以外は効きませんでしたがね」


 くそが!やっぱりイエールも操られてるのか!

 先にクルンド達をやらねぇと他の奴が危ねぇ。


 激しく脚を踏み込みクルンドに駆け出そうとした時にアーリアが起きた。


 「うぅ、えっ?ここは?」


 「アーリア!こっちに来い!早く!!」


 気がついたばかりのアーリアはまだ意識がぼーっとしているのか動きが鈍い。


 「仕方ありませんね。祭壇でと思ったのですが、ここでも良いでしょう」


 フラフラと起き上がったアーリアにクルンドが近寄って行く。


 そしてローブの奥より深い緑色に染まった剣を取り出してアーリアの腹を貫く。


 「アーリア!!」


 貫かれた腹から濃い紅い血が大量に溢れ出す。アーリアは力無く崩れ落ちていく。


 「くそが!!どけぇぇ!邪魔だぁ!!」


 目の前の全ての奴を殺してでもアーリアに駆け寄ろうとした俺を、異変に気付いてこっちに来たサジンが止める。


 「駄目だ、カイル!周りを見ろ!こいつらは操られているだけだ!!」


 「知るかよ!アーリアが危ねぇんだ!!セラかレジーナは居ねぇのか!?」


 「セラもレジーナも近くには居ない!後ろで奴と戦っている!!」


 サジンが俺を引き留める。しかし、早くアーリアの元に行かねぇと!体の周りには紅い水溜りが出来ていってる。


 「駄目だ!これ以上こいつらに構ってる暇はねぇ!アーリアが死んじまう!!」


 全身の気を脚に集め踵落としをするかの如く渾身の力で地面に脚を叩き付ける。脚が地面に着いた瞬間、大地が爆発した。


 周囲に居た騎士達や魔物は強風に飛ばされた紙の様に吹き飛んでいく。


 「アーリア!今行くぞ!死ぬな!!」


 地に深い足跡が残る程の踏み込みと共に駆け出す。

 しかし、辿り着く直前にアーリアの前にクルンドが剣を構えて立ち塞がる。


 「てめぇ!!邪魔だ!どきやがれ!!」


 「ふふふ、何をそんなに焦っているのです?喜ばしい事でしょう?神の生贄に選ばれたのですから。」


 「てめぇだけは絶対許せねぇ……。殺す!!」


 アーリアを助ける為にも早くコイツを殺す!と全身の気を爆発させて、空気との摩擦で火が上がる程の速度で前蹴りを繰り出す。

 くそが!何でアーリアがこんな目に。


 「がぁぁぁ!」


 咆哮による衝撃波を飛ばしながらの前蹴りは半身になりつつ手首を返した受けの剣でいなされる。


 こいつ!近接戦闘も出来るのか!?


 クルンドが近接戦闘を出来る事に驚いたが、間髪入れずいなされた脚を引き戻しながら膝を曲げ、踵でクルンドの背中を狙う。


 「ふふふ、やはりお強いですね」

 

 後ろに飛び退いて躱したクルンドは楽しそうに提案をしてくる。


 「ここで一つ提案があります。カイルさんが代わりに生贄になって頂けるのでしたらアーリアさんはお返ししましょう」


 「何!?何を企んでやがる!!」


 「アーリアさんをここで神に捧げるより、カイルさんを祭壇で贄にした方が我が神が喜ぶかと思いましてね」


 「カイルだめだ!」


 このままじゃあ戦ってる間にアーリアが死んじまうかも知れねぇ。


 選択肢はねぇか。


 「分かった。アーリアの治療をしてからなら生贄にでも何にでもなってやる」

  

 「カイル!!」


 「物分かりが良くて嬉しいですよ」


 不気味な笑みを浮かべたクルンドがアーリアの前から離れる。


 「アーリア……。お前死ぬんじゃねぇぞ」


 全てのチャクラを回し、気を増幅してアーリアに癒しの気を送り込む。


 流れていた血は戻らねぇが顔色は少しずつ良くなり、傷は塞がっていった。


 全身の気を全て送り込んだ事により力が抜け、体に纏っていた気の鎧が消える。


 「さぁ、良いぞ。連れて行きやがれ」


 「だめだ、カイル!今ならアーリアがこっちに居るのだから皆で逃げるぞ!!」


 「それは難しいな」


 第四チャクラ解放した俺と互角だったサジンが、第五チャクラを解放した俺が倒しきる事が出来なかったクルンドに勝てると思わねぇ。

 俺も今は気がねぇからどうしようもねぇな。


 「アーリアを頼む。おい!クルンド!操ってる奴を元に戻しやがれ!」


 「わかりました」


 クルンドが手を組み光りを放つとイエールと操られていた騎士が倒れる。


 「では、行きましょう」


 「じゃあな、あとは頼んだぞ相棒」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る