第25話 邪教の力

 ガィィィン!!


 火を纏った脚で上段蹴りを放つが、眷属の作り出した壁はびくともしない。


 「こいつ!硬ぇ!」


 「はあぁぁ!」


 サジンの気を纏った剣で斬撃も壁に防がれ弾かれる。

 剣でもだめなのか!と思っているとアーリアより魔法が飛んでくる。


 「『水気貫衝』!!」


 気により高密度に圧縮された水の槍が壁に少し傷をつける。


 「魔法だ!魔法を使える奴は眷属に魔法を撃て!」


 サジンの指示で後方より魔法が放たれ、幾度も魔法を受けた壁が割れる様に崩れて行く。


 「ぜりゃあ!」


 壁が割れたと同時に駆け出し、可視化される程の高密度の気を纏った脚で前蹴りを叩きつける。


 「ぐうぅぅぅぅ!!」


 眷属は防ごうとした右腕を一本吹き飛ばされ呻き声をあげる。

 前に出した脚をそのまま踏み込みに変え至近距離より膝蹴りを放つ。しかし膝蹴りが当たる前に左腕二本の拳が俺の頭と右肩に当たる。


 「ぐはっ!!」


 血を吐きながら転がっていく。口を切っちまったみてぇだな。肩も折れてるかも知れねぇ。何て力だ!


 痛む肩を押さえながら立ち上がろうとした俺の目に眷属の背後より斬りかかるサジンが見えた。


 「ふんっ!」


 眷属はサジンの斬撃で更に左腕が二本斬り落とされる。これで奴の腕は残り四本だ。


 「きゃっ!」


 「アーリア!」


 俺とサジンが戦っている間にアーリアが邪教の魔物に囲まれていた。クルンドの奴、眷属と同時に魔物を呼んだのか魔物の数が増えてやがる。


 「くそが!」


 アーリアの背後から襲い掛かろうとしていた魔物を飛び蹴りで叩き落とす。

 

 「無事か!アーリア!」


 「カイル!ありがとう、大丈夫よ!」


 大丈夫と言うアーリアは額より血が流れている。

 こいつらアーリアを傷付けやがって!許さねぇ!


 「アーリア!耳を塞いでしゃがんでろ!」


 「何するの!?分かったわ!」


 深く大きく息を吸い、喉にある第五チャクラに気を集めて高速回転させ凝縮する。


 「喝っっっっ!!」


 気により強化された大喝は物理的な力を持って爆発的に周囲に広がっていく。


 近くにいた魔物は大喝の衝撃破により、体を潰されながら吹き飛んでいく。


 「ちょっと!物凄く耳が痛いじゃない!!」


 「すまねぇな。初めて使ったから加減が分からなかったんだ」


 加減を間違えたみてぇだか、これでアーリアの周囲に居た魔物は居なくなった。


 「アーリア、イエールかシジールと一緒に戦うんだ!お前一人じゃ危ねぇ!」


 「分かったわ!」


 早くサジンの所へ戻らねぇと!あいつ一人で眷属と戦わせちまってる!


 「サジン!無事か!?」


 「ああ、手強いが怪我はしておらん」


 サジンと並んで眷属の隙を窺う。

 アーリアを助けに行ってる間に、更に腕を一本落としてやがる!流石相棒だ!


 「腕は後三本だな!左右から同時に行くぞ!」


 「分かった!」


 同時に駆け出し、眷属の前で二手に別れる。

 走った勢いのまま回転して後ろ回し蹴りで眷属の頭を狙うが右腕の一本に防がれる。


 「ぜぇりゃあ!!」


 防がれた脚を戻す勢いを利用して、体を低くし回転しながら足払いを仕掛ける。


 「良し!今だ!サジン!!」


 「『剛気斬』!!」


 足払いによって両足を掬われた眷属がうつ伏せに倒れる。そこへサジンが空気さえも斬り裂く剛剣技で眷属の首を絶つ。


 「クルンドはどこへ行った!?」


 「見える範囲には居ないみたいだな。カイル、残りの魔物を片付けに行くぞ」


 「ああ、分かった!」


 俺達が眷属と戦ってる間にクルンドの奴は逃げやがった。あいつはどうしてもここで殺しておきたかった。

 俺の勘がやべえくらい警鐘を鳴らしてたからな。


 仕方ねぇか、とりあえず他の魔物共を殲滅しちまおう。


 「じいさん!俺とサジンが援護に回るから大きいので纏めてやれねぇか?」


 「出来ん事はないぞい。新しく開発した気魔法の出番じゃ!」


 「よし、相棒やるぞ!」


 「分かった」


 俺とサジンの二人で両側から魔物を攻撃して、一ヶ所に集まるように攻め込む。


 「じいさん頼んだぞ!」


 「任せるんじゃ!『豪雷気嵐』!!」


 雷を伴った気の刃を含んだ竜巻が魔物共を飲み込んでいく。竜巻の中では雷が稲光、気の刃が魔物を斬り刻んでいく。

 竜巻が消えた後には魔物の肉片一つさえ残っていなかった。


 「これで全部か?」


 「はい、これで終わりみたいです」


 「セラも良く頑張ったな」


 セラはじいさんの周りで近寄る魔物を蹴り殺していた。セラが居なけりゃじいさんはやられてたかもな。


 「いえ、まだまだでございます」


 セラの頭をクシャッと撫でる。


 「今回は凄ぇ役に立ってたぞ!」


 セラは顔を赤くして俯いてしまった。

 さて、お嬢達は無事かね?


 「サジン、他の奴らは無事か?」


 「ああ、怪我した者は居るみたいだが死んだ者は居ないみたいだ」


 「それは重畳」


ーーーーーーーーーーーーーー



 怪我人が出た為、ここでもう一度野営する事になった。

 俺達はこの集団の中心になってる奴らで集まって邪教について意見を交わす事にした。


 「邪教徒の奴らは魔力じゃなくて邪力とでも呼ぶべき力を使って色々して来やがるな」


 「そうじゃのう。今の所分かっておるのは魔法と同じ様に壁や風の刃を使う事、それと眷属と魔物の召喚じゃのう」


 「魔法みたいな力か、呼び辛いから邪法とでも呼ぶか。その邪法の壁は気を纏った蹴りでは破れなかった。この中では一番気の力が強い俺がだぜ?」

 

 「そうだな。しかし、魔法でなら傷は付けれたな」


 サジンの言う通り魔法を何度もぶつける事で破壊する事が出来た。邪法は魔法に弱いのか?


 「でも、魔物も眷属も本体には気の力が効いたんだよなぁ」


 「邪法限定って事になるわね」


 「俺はちと相性が悪ぃな」


 「そうね、壁の邪法を使われたらカイルは何も出来なくなるわね」


 悔しいがアーリアの言う通りだ。だが、まだ気の属性変換は火しか試してねぇからな。他の属性変換で何とかなると良いんだが。


 「お嬢、これからどうするよ?」


 「とりあえずは怪我人の治療ね。それが終わり次第進むわ」


 「怪我をした方達の治療は日が暮れる迄には終わりますが、動くとなると明日に回した方が良いと思います」


 治癒の専門家のレジーナが言うなら、そうなんだろうな。

 今日はここで野営する事になるのか。邪教の奴らが戻って来るんじゃねぇか?


 「邪教の奴らは戻って来ると思うか?」


 「贄とか言っていたからな。戻って来るだろう」


 「じゃあ交代で不寝番か。俺達のうち誰かは常に起きとく様にして交代で回すようにしようぜ」


 「そうだな。その方がいざという時は安心出来るだろう」


 その後不寝番の組み合わせを決めて会議は終わった。


 「俺はセラとか。寝ちまったら起こしてくれよ」


 「その時は膝をお貸しします」


 「それ起こしてねぇじゃねぇか!?」


 「あら、本当ですね」


 無表情で言うなよ。いつもの無表情でこんな事言うからセラは油断出来ねぇ。


 「お前、魔法は治癒魔法しか使えねぇのか?」


 「はい、今はまだ治癒魔法のみになりますね」


 「って事は俺とセラの二人じゃ魔物が出ても壁を破れねぇじゃねぇか」


 「そうなりますね」


 この組み合わせで大丈夫か?ちょっと不安になってきたぞ。


 「そういえば気を属性変換出来る様になったのか?」


 「はい、まだ弱いですが属性変換自体は出来る様になりました」


 気の属性変換はサジンやアーリアでさえ出来ねぇ。俺は気しか扱えねぇし、この世界の人間じゃねぇから別として、セラは何なんだろうな?

 ただ単純に気を扱う才能でもあったのかね?


 「火以外の属性変換した気で奴らの壁を破れるか試してみなくちゃな」

 

 「カイル様なら必ず邪法の壁を破壊出来ます」


 「だと良いんだがな」


 さて、そろそろ交代の時間か。次はサジンとアーリアだったな?呼んで来るか。


 「そろそろ交代だからサジンとアーリアを起こしてくる」


 「はい、いってらっしゃいませ」


 サジンのテントに行くとサジンは既に起きて準備を整えていた。


 「お前起きてたんだな」

  

 「ああ、偶々目が覚めてな」


 「よし、じゃあアーリアを呼びに行こうぜ」


 「分かった、行こう」


 サジンとアーリアのテントの前で声を掛ける。


 「アーリア!そろそろ交代の時間だぞ!」


 ……。


 「アーリア!まだ寝てんのか?テントに入るぞ!」


 呼び掛けたが反応が無い為、アーリアのテントに入る。


 「アーリア?あれ居ねぇぞ?」


 荷物はテントの中に残ってる。って事はトイレにでも行ってるのか?


 「少し待ってみるとするか」


 その後一時間経ったがアーリアは戻って来ない。


 「おかしいぞ、流石に長過ぎる。探しに行くぞ!」


 「手分けして探そう。カイルはあっちの方向へ行ってくれ」


 「分かった!」


 テントの周りから徐々に範囲を広げて探すがアーリアは居ない。


 「なぁ、アーリアを見なかったか?」


 「いや、見ていません」


 近くに居た奴に聞いてみたが姿は見ていないらしい。おかしい、どこに行ったんだ?


 「サジン!そっちはどうだった?」


 「こちらも見た者は居なかった」


 「もう少し範囲を広げて探すぞ!」


 「分かった!ハーナリアにも声を掛けておこう!」


 「頼む!」


 嫌な予感がし始めた。早く見つけねぇと!


 「おい!アーリアを見なかったか?」


 「副団長が運んでいるのを見掛けましたが?何かあったのですか?」


 「どっちに行った!?どこへ向かいやがった!!」


 トートの奴か!やべぇぞ、あいつアーリアを気に入ってた筈だ!


 「あっちです!見たのは少し前なので、そこまで離れて居ないかと思います!」


 俺の剣幕に姿勢を正した騎士団の奴は森の奥の方を指差す。あっちは邪教の集落がある方向じゃねぇか!!


 「今すぐサジンに同じ報告をしてこい!!全速力でだ!!行け!!」


 「はい!!」

 

 サジンには騎士団の奴に伝えに行かせて俺は先に向かう。


 どこだ!どこに居るんだ!!


 「だめだ!分かんねぇ!」


 奴の痕跡が分からねぇ!このままじゃ拙い!

 いや、焦ると余計にだめだ。集中するんだ。


 その場で坐禅を組み、気を集め第五チャクラを回していく。


 第五チャクラには直感力の強化があった筈だ、今はこれを頼るしかねぇ。


 「ーーー!!あっちか!!」


 何となく気配を感じる方向に走る。


 「居た!トート!!てめぇ何してやがる!!」


 「貴様は!邪魔だ!失せろ!!」


 「アーリアを放しやがれ!!」


 トートは一度振り返ったが、また前を向き走り始める。


 「待ちやがれ!!」


 トートを追掛けて走るが追いつかない。


 おかしいぞ。奴はチャクラの解放をしてねぇから身体能力は低い筈だ。

 なのに追いつかねぇ!


 「くそが!」


 アーリアはトートが走る事によって起こる筈の振動でも目が覚めない。何か飲まされたのか?


 一時間程走ると集落らしきものが見えてきた。


 「お前邪教徒に入ったのか!?」


 「貴様には関係無い事だ!」


 「おやおや、カイルさんじゃないですか。いらっしゃいませ、邪教徒の集落へ」


 集落の前ではクルンドが待ち構えていた。


 「てめぇは!アーリアをどうする気だ!!」


 「新しい同志が贄を運んで来てくれたのですよ」


 何だと!?トートはアーリアの事を気に入ってた筈だ。それが生贄として邪教徒に渡すだと!?


 「トート!!お前それで良いのか!!」


 「神に捧げる為だ。仕方あるまい」


 「仕方ないだと!!」


 怒りで目の前が白くなる。よりにもよってアーリアを生贄にするだと?

 

 てめぇらは殺す。


 「がぁぁぁ!!」


 制御も何も考えず、気を周囲の全てから集める。

 俺の周りにあった木や草が枯れ始め、代わりに俺の全身から気が立ち昇る。


 「これは少しやばそうですね」


 クルンドが手を組み眷属を三匹召喚する。


 「クルンド様お手伝いが必要でしょうか?」


 クルンドの背後からはクルンドと同じローブを着たものが現れる。


 「少し危険な気がするので警戒を」


 「はっ!畏まりました。」


 トートがアーリアをクルンドの後ろから来た奴に渡す。


 グゴン!!!


 眷属を瞬き程の間に踵落としで潰す。


 「てめぇらは殺す」


 そして立ち昇る気を体に纏わせ鎧とする。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る