第33話 防衛
「『熱線弓』!!」
極太の紅い熱線がザローナの上位種に向かっていく。十匹居た上位種の内、四匹が巻き込まれ体を焦がして煙を上げている。
「ぜぇりゃあ!」
「はっ!」
俺と一緒にセラが上位種に突っ込み、中段蹴りで頭を抉る様に蹴り抜く。蹴り抜かれた上位種は首を曲がってはいけない角度に曲げ、絶命した。
「ふんっ!『剛気炎斬』!」
イエールの火を纏った横薙ぎの一撃が三匹纏めて斬り飛ばす。
「『剛突気衝』」
シジールの突きを受けた上位種は、気で強化された槍で貫かれ、槍先からの衝撃波により爆散する。
「そこまで強く無かったね!」
「キクリシス、油断するな!」
背後には、まだ黒いザローナが居る。奴らは一定の距離より近寄らず、こちらを観察していた。
「じいさん、あれは見た事あるか?」
「黒いザローナは初めて見たぞい」
「さっきの上位種が男爵級上位くらいだったから、少なくとも子爵級はありそうだな」
「キクリシス、先制攻撃を任せて良いか?」
「良いよ!『熱線弓』」
極太の紅い熱線が黒いザローナに向かう。熱線が当たると思った瞬間、黒いザローナは消えた。
「消えやがったぞ!?どこだ!?」
「キクリシス!後ろに居るわ!」
キクリシスの背後に現れた黒いザローナは、毛皮に包まれた太い腕を上から振り下ろそうとしていた。
「はっ!」
一瞬にしてキクリシスの元へ駆け寄ったセラが、振り下ろされようとした腕目掛け、上段蹴りを放つ。
黒いザローナの攻撃を防ぐ事には成功したが、力負けしたセラは吹き飛ばされてしまう。
「ぜぇりやぁ!!」
セラの蹴りで腕を弾かれていた黒いザローナに踵落としを放つ。
頭に踵を受けた黒いザローナは、地面に出来たクレーターと共に頭を砕かれる。
「あと二匹はどこだ!!」
「『赤雷』!」
じいさんが天より赤い雷を降らす。それは俺の背後とイエールの背後に、轟音と共に降り立つ。
「ぐっ!」
雷が落ちた衝撃波で吹き飛ぶ。俺とイエールは受け身を取りながら周囲を確認する。
俺達が居た場所には黒いザローナが居た。背後から攻撃をしようと腕を振り上げた体勢のまま、雷により痺れているようだ。
「『剛貫閃』!!」
雷に痺れているザローナにシジールが鋭い突きを放つ。
「グギャァァァ!」
頭を貫かれた黒いザローナは絶叫と共に絶命した。
「『剛氷棘』!」
最後の一匹にアーリアが放った氷の棘が向かう。しかし、雷による痺れから回復した黒いザローナは、再び消える。
「皆集まれ!円陣を組むぞ!」
不意を突かれぬように円陣を組み全方位を警戒する。
俺達から少し離れた所に現れた黒いザローナは、こちらを睨みながら動きを止めている。
「こいつ、他の奴より一回りくれぇでけぇな」
「そうね、この群れのボスなんでしょう」
円陣を組んだまま黒いザローナを警戒していると、黒いザローナの周囲の影が動き出す。
「なんだ?影が動いてるぞ?」
「あれは!闇魔法かもしれんぞい!」
今まで戦ってきた奴らの中で闇魔法を使ってきた奴はいなかった。火とか風とかと違い、どの様な事が出来るのか曖昧な闇魔法に警戒する。
「ーー!!避けろ!」
ゆっくりと蠢いていた影が、急加速して俺達に向かってくる。その影は俺達に近付くにつれ、鋭い棘のような形をとっていく。
「『剛氷棘』!」
アーリアが氷の棘を影の棘にぶつける。
「嘘でしょ!?」
影の棘は氷の棘にぶつかり合う事はなく、そのまますり抜けて向かってくる。
「散れ!」
四方に散って影の棘を避ける。避けている間に、黒いザローナはまた消えていた。
「近くに居る奴の背を守れ!」
近くにいた奴と互いに背中合わせになり、死角を無くすように指示を出す。
「じいさん!上だ!」
辺りを見回して探していると、じいさんとレジーナの上に黒いザローナが現れた。
黒いザローナは、体の周囲に黒く蠢く影を纏って上から降ってきた。
「ぐあぁ!」
「きゃっ!」
気付くのが遅かった事もあり、じいさんとレジーナは影から伸びた太い影の棘で身体を貫かれる。
「くそがっ!行くぞ、セラ!」
「はい!」
背後に居たセラに声を掛けて、じいさん達に駆け寄る。
黒いザローナは、駆け出す俺達の姿を確認した瞬間に消えた。
「じいさん、レジーナ!大丈夫か!?」
「ぐぅ、やられたぞい。わしよりレジーナを診てやってくれんかの」
じいさんは肩を、レジーナは脇腹を貫かれていた。
「セラ、治癒魔法を頼む!」
「分かりました!」
セラに治癒魔法を頼み、俺は再び周囲を警戒する。
「くそ!予兆がねぇから捉えられねぇ!」
「焦っちゃだめよ!」
焦るなという言葉を発したアーリアの方を向くと、アーリアの頭上に黒いザローナが居た。
「アーリア!上だ!」
「『気岩障壁』!だめじゃ!」
アーリアと一緒に居たおっちゃんが土魔法で障壁を張る。しかし、黒いザローナは障壁をすり抜け、一緒に居たおっちゃんとキクリシスも纏めて太い影の棘で貫く。
「くそが!セラまだか!」
「まだ傷が塞がっておりません!」
アーリアの元へ行きたいが、じいさん達を放って行く訳にも行かない。
「『剛気炎斬』!」
「『剛気雷突』!」
動けない俺の代わりに、イエールとシジールがアーリアの元へ向かう。
二人同時繰り出した攻撃は、消える事により躱される。
「イエール!後ろだ!」
「イエール!!」
黒いザローナは攻撃を躱してすぐに、イエールの背後に現れた。
イエールに向けて放たれる影の棘による攻撃を、シジールがイエールを突き飛ばし、代わりに受ける。
「ぐうぅぅ!」
足を貫かれたシジールが、苦悶の声を上げる。
「貴様!!『剛気炎斬』!」
シジールが攻撃された事に怒ったイエールが斬撃を放つが、横に軽く飛ぶ事により躱されてしまう。
「『炎剣』!くらえ!」
イエールは斬撃の途中で片手を放し、その片手に炎の剣を作り出す。
作り出した炎の剣で突きを放つが、消える事により躱される。
「くそ!イエール、シジールを連れてこっちにこい!」
「くっ!分かった!」
シジールを抱きかかえて来たイエールと合流する。
やべぇな、このままじゃジリ貧だ。
「アーリア達を連れて来るから、こっちは頼む!」
イエールにセラ達をお願いして、アーリア達の元へ向かう。
向かっている途中で嫌な予感がして、急速に気を集め、脚に纏わせて頭上へ蹴りを放つ。
「ゴガァァァァ!」
何も無い空間を蹴った筈の脚は、俺の頭上に現れた黒いザローナを捉える。
「ぜぇりやぁ!」
上にあげた脚を下ろしながら逆の脚で地を蹴り、二段蹴りを放つ。
大量の気を凝縮して纏った脚は、黒いザローナの顔を捉える。
「ギィィィィィ!」
耳触りな声と共に黒いザローナは吹き飛んでいく。
追撃の為に地を蹴り駆け出そうとするが、黒いザローナはまた消えた。
「グォォォォ!!」
俺から100メートルほど離れた場所に現れた黒いザローナは、右目を蹴りにより潰されていた。
咆哮をあげ、こちらを睨んでいた黒いザローナは暫くして消えた。
「気を付けろ!!」
アーリア達の元へ寄りながら、周囲を警戒する。
しかし、どれ程経っても黒いザローナは現れなかった。
「逃げたのか……。アーリア!おっちゃん!キクリシス!大丈夫か!!」
「ええ、大丈夫よ。二人も生命魔法で自己治癒を高めてるから問題ないわ」
「そうか、良かった。セラの方はどうだ?」
「こちらも治療が終わりました」
怪我人は出たが、何とか撃退出来たな。
しかし、ウルガスの近くでこんな魔物が出るとは。今回は俺の勘で何とか攻撃出来たが、俺達がウルガスを出てる時に現れたら厄介だ。
何か対策を考えねぇといけねぇ。サジンとお嬢と相談しねぇとな。
「動ける様になったら、ウルガスに戻ろうぜ」
「そうね、早く戻りたいわ」
暫く経って、皆が動ける様になったのでウルガスに戻る。
「そうか、そんな魔物が現れたのか」
戻って直ぐにお嬢とサジンに報告に来た。殺す事ができず撃退だった事に、お嬢は厳しい顔をしている。
「これは厄介ね。町の場所を覚えられたから、また襲って来るでしょうね」
「だよなぁ。今回は俺の勘で捉える事が出来たが、俺が居ない時だと攻撃も出来るか分からねぇ」
「それに魔法がすり抜けたのよねぇ。魔法同士がすり抜けるならまだ分かるけど、黒いザローナの本体も魔法をすり抜けていたわ」
「多分、体を影と化していたのじゃぞい。闇魔法がここまで厄介じゃとはのう」
「闇魔法というか影魔法みてぇな感じだな。……ん?影ってなら、光を当てたら消えるんじゃねぇか?」
「そうかも知れぬが、光魔法を使える者がおらんのじゃぞい」
光魔法か。そういえば聞いた事ねぇな。珍しい魔法なのか?
「あとは勘を鍛えるしかねぇか」
「勘って……そう簡単に鍛えれるもんじゃないでしょ?」
確かに勘は鍛えようと思っても、中々鍛えれるもんじゃねぇ。
しかし、第五チャクラまでいけば、直感強化がある。早く第五チャクラまで解放してもらうしかねぇな。
「サジン、第五チャクラは解放出来そうか」
「いや、まだ糸口も掴めない状況だ。第五チャクラがある喉の方へ気を送り込もうとしても第四チャクラがある心臓より先に行く気配はないな」
サジンでさえ、まだ糸口も掴めてねぇのか。俺と他の奴らは、チャクラの解放の仕方が違うからアドバイスも出来ねぇ。
「他の奴もか?」
サジン以外に確認してみたが、皆同じみたいだ。
いや。
「私は何となくだけど第五チャクラに少しずつ気を送れてる気がするわ」
「私もです」
アーリアとセラは第五チャクラ解放への兆しが見えてるようだ。
「第五チャクラを解放すれば、直感が強化されるから黒いザローナの現れる場所が何となくわかるはずだ。早めに解放出来る様に頑張ってくれ」
「分かったわ」
「分かりました」
「でも、奴も傷を負ってるから、暫くは来ないだろうけどな」
最後に見た黒いザローナは、片目が潰れていた。片目が見えないと遠近感が狂う。それに慣れるまでは襲ってこないだろう。
「では、それまでの間にカイルに住人になる人種を探しに行ってもらうわね」
「どの辺りに居そうか目星はついてんのか?」
「ええ、ウルガスより更に東に進むと川があるの。その川の反対側が森になっているからそこを調べて欲しいの」
ウルガスより火がへ十キロメートル程進むと川がある。人が生活する上で水は欠かせないから、川か、湖かの近くに集落か何かがあるだろうとの事だ。
「分かった。いつから行けばいい?」
「明後日の朝からお願いするわ」
明後日か。早く準備しねぇといけねぇな。
道具類はおっちゃんに任せるとして、食糧だな。
「セラ、イエール、いいな?」
「大丈夫です。旅の準備は任せて下さいませ」
「シジールが心配だが。了承した」
シジールは今回も怪我をしちまったからなぁ。決して弱い訳じゃねぇんだけど、やはり前衛だからか怪我はしやすい。
「残った奴らは、第五チャクラを解放出来る様に頑張ってくれ」
「カイルが帰ってくるまでには解放しておこう」
兆しがなくても相棒なら解放しそうだな。こいつは本当に天才だからな。
その日はそのまま休み、次の日におっちゃんの所へ向かった。
「おっちゃん!居るか!!」
「うるさいわ!聞こえておるわい!!」
おっちゃんにテントとか鍋とか旅に必要な物を準備してもらう。
「しかし、カイルよ。気を付けて行くんじゃぞ」
「大丈夫、大丈夫。そんなに弱かねぇよ」
「世の中にはとんでもない魔物もおるからのう。用心に越した事はあるまい」
確かに、まだ伯爵級以上には遭遇していないからな。やはり強い魔物は絶対数が少ないんだろうな。
「忘れ物はないな?」
「ああ、大丈夫だ」
サジンとアーリアとシジールが見送りに来ていた。
「カイル、連絡はこまめにして来てね」
「なんだ?寂しいのか?」
「違うわよ!心配してるだけよ!」
顔を赤くしたアーリアが大きい声で反論する。
「イエールも無理しちゃだめよ」
「シジール殿もお体に気を付けて」
イエールとシジールも別れの挨拶をしてる。
気が付けば、こいつら良い雰囲気になってるな。
「アーリア、あの二人出来てんのか?」
「う〜ん、二人で居る所はよく見るわ」
「セラ、カイルの事頼んだぞ」
「お任せ下さい」
俺達を無視してサジンはセラに俺の事を任せ出る。いや、大丈夫だって。
「じゃあ、そろそろ行くぜ。またな!」
「行ってらっしゃい。早く見つけて帰ってきてね!」
「おうよ!」
さて、どれくらいで見つかるものか。
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