第32話 役割
目の前には、芳しい香りを周囲に漂わせている、肉の塊がある。
「うめぇな!これ!」
「ほんと美味しいわ!」
一心不乱に食べる俺とアーリアを、サジンが呆れた顔で見ている。
「そんなに焦らずとも肉は逃げないぞ」
「そうは言っても、止まんねぇんだよ。まじで美味いぞ、これ」
俺達以外にもここには、同じ様に肉を食っている人が集まっている。
「それにしても、こんな美味い奴が群れで来てくれて運が良いな」
「ああ、そんなに強く無かったしな」
今朝、いつも通り見廻りをしていると、平原の先に牛の様な姿をした魔物の群れが、こちらに向かって来ているのを発見した。
その魔物はソネシスという名前らしく、食用に向いた魔物だった。
肉を大量ゲットだ!と戦える奴らを集めて群れを狩り尽くした。
「食糧はこれでだいぶ安定するんじゃねぇか?」
「そうだな。野菜類や穀物は生命魔法でだいぶ備蓄が出来た。肉類も今回のでだいぶ余裕が出来ただろうな」
「じゃあ、後は家を建てる事だなぁ」
このたった数日で一キロメートル四方の防衛は完成した。
おっちゃんが土魔法を使える奴を集めて、スパルタ指導をした結果だ。
「下水道も作らないといけないんじゃないの?」
「ああ、それもあったな」
壁を先に作ったら下水道作る時に邪魔になるんじゃねぇか?
まぁおっちゃんなら何とかするか。
「そういえば、カイル。ハーナリアが呼んでいたぞ」
「お嬢が?何だろうな?」
食べ終わったので、とりあえずお嬢の元へ向かう事にする。
「お嬢、何か用事か?」
「カイル、お疲れ様。ええ、少し先の事になるけど、話しておこうと思ってね」
天幕の中で地図を見ていたハーナリアは、向いに座る様に促してくる。
「それで、何の話だ?」
「今、私達って人が少ないでしょ?この人数だと町どころか集落って良いくらいよ」
確か全員でも七十人も居なかった筈だからな。
「それで、貴方には住人になってくれる人を、探して来て欲しいの」
「住人になってくれる人をか?」
「そうよ。魔物に滅ぼされた国から逃げている人、魔物の襲撃に疲弊している集落。そんな人達にここの事を伝えて欲しいの」
「それは良いけどよ、時間が掛かるぞ?」
集落がどこにあるか何て知らねぇからな。ましてや、逃げてる人達なんてどこに居るか検討もつかねぇ。
「それは承知の上よ。ただ、人はあまりそちらへ回せないの。この町の防衛もある事だし」
「だろうな。で、誰が俺と一緒に行くんだ?」
「今のところ考えてるのは、セラとシジールかイエール辺りかしら?」
「シジールとイエールの二人一緒にはだめなんだな」
「シジールとイエールには、サジンに代わって戦える人達を纏めてもらってるの。だから、二人一緒には無理だわ」
「あー、そりゃあ無理だな」
となると三人か。流石に少ねぇ気がするけど、何とかなるのか?
「アーリアは?」
「アーリアには生命魔法を研究してもらうのもあるし、ローグストと共に空間魔法の開発をしてもらわないといけないから」
そういえば、まだ魔法の開発をしてたんだったな。
「分かった。で、いつから行けば良い?」
「下水道と建物の工事が終わって、転移の魔法が完成してからよ」
そうか、転移の魔法が有れば、いつでも行き来出来るな。
問題はどうやって連絡とるか、か。
「じゃあ、その時はまた声を掛けてくれ」
「ええ、改めて声を掛けるわ」
「おっ!そうそう、この町は何て名前にしたんだ?」
「女神ウーガス様から名前を頂いて、『ウルガス』という名前にしたわ」
ウルガスか。中々良い響きだな。
ハーナリアの元を出てセラを探す。
離れている場所と連絡を取る方法を思い付いたから、試してみなくちゃな。
「セラ、ちょっと良いか?」
蹴りの鍛錬をしていたセラに声を掛けて、他の鍛錬している者達から離れる。
「何でしょうか、カイル様?」
「ちょっと、実験したい事があってな」
第五チャクラの能力にテレパシーってのがあった筈だ。それを試す為にここに来た。
気を練り、第五チャクラを回していく。ある程度気が溜まった所で、頭の中でセラに呼び掛ける。
(セラ、聞こえるか?)
「えっ!?カイル様?」
ビクッとしたセラが俺を凝視する。どうやら聞こえるみたいだな。
(頭の中に直接声を掛けてるんだ)
「何か不思議な感じですが、声が聞こえます」
「おっ!成功だな!」
「これは何なのですか?」
「テレパシー……って言っても分からねぇか。差し詰め念話っていったとこかな?」
「念話ですか?」
「そうだ。もう少し試すから付き合ってくれ」
色々と試した結果、こちらから話し掛ければ念話が出来る事が分かった。
一旦念話を止めて、セラから頭の中で声を掛けてもらったが聞こえなかった。
やっぱり第五チャクラが必要なのだろうな。
念話可能な距離は正確には測れなかったが、少なくともウルガス内ならどこに居ても出来た。
この場に居ないアーリアやサジンにも出来るかと思い、頭の中で話し掛けるが返事はなかった。
最初は会ってからやらねぇとだめみたいだな。
「セラ、邪魔して悪かったな」
「いえ、お役に立てたのならば幸いです」
その後、アーリアとサジンを探して念話を試す。
どちら共、上手くいった。一回念話をすれば俺と相手に繋がりみたいなのが出来るみたいだった。
その繋がりを辿り、チャンネルを切り替える様に相手を切り替える事が出来た。
念話はウルガスの中心になってる奴、全員と繋いでおいた。これで住人探しの旅に出てる時にも連絡が取れるな。
「そうじゃ、カイルよ。ついに完成したぞい」
最後にじいさんの元へ訪れていた。
「完成?ああ、転移の魔法か!」
「そうじゃぞい。やっと完成したのじゃぞい!」
「見てみてぇから、一回やってくれ!」
お願いをすると、じいさんは集中し出した。
暫くみていると急に姿が消えた。
「おっ!どこまで行ったんだ?」
「おーい!こっちじゃぞい!」
三百メートル程離れた場所より声が聞こえてきた。
声が聞こえた方に振り返り、走っていく。
「すげぇじゃねぇか!」
「ほっほっ。苦労したぞい」
それでも二ヶ月足らずで完成させてるからな。やっぱりすげぇな。
「これは、どの程度の距離まで転移出来るんだ」
「理論上は目印になる物があれば、どこへでもじゃぞい。ただ、距離が伸びるにつれて、魔力の消費が激しくなるがのう」
「どこへでも簡単にとはいかねえか」
ゲルガの奴も師匠を呼ぶのに印を掲げてたからな。あれが目印だったんだろう。
「これで人種を探しに行く時、いつでも戻って来れるな」
「そうじゃのう。セラにも教えておくかのう」
俺が使えれば一番良かったんだが、魔力がないから仕方ない。
「良し、後は工事が終われば出発だな!じいさん、俺は工事を手伝って来る」
「ほっほっ、がんばるんじゃぞい」
それから十日間、工事を手伝った。
この十日間ぇ下水道の工事が終わって建物を建て始めた。
建物は土魔法で土台を作って、森から切り出してきた木材を火魔法で乾燥させて建材として使っている。
魔法があり、更に気による強化で力のある人種は、重機など必要とせず、凄い勢いで建物を建てていく。
そんな建物の中で最初に建った、ハーナリアの屋敷に俺達は集まっていた。
「さて、皆集まったわね」
ハーナリアを始め、ウルガスの中心人物が全員集まっている。
今回の会議は役職を決める事だ。
「じゃあ、早速始めるわ。まず、町長だけど、これは私がやらせてもらうわ」
この集団の纏め役を最初からしていたお嬢なので、満場一致で話が進む。
「それで、私の補佐はサジンとヨーガね」
ハーナリアの隣りに居た、茶色い髪を肩まで伸ばし、鋭い目をした男が一礼する。
この痩せた猫人族がヨーガか、どうにもきつそうな見た目してるな。
「防衛隊の隊長はシジール、貴方にお願いするわ。副隊長にはイエールをつけるわ」
「分かったよ!」
「うむ」
この二人は、戦える奴と一緒に鍛錬している姿を見ていた。シジールもイエールも指揮官としてやってきた経験があるからちょうど良いな。
「偵察隊はキクリシスに隊長をお願いするわ」
「分かったよ!」
「魔法士隊はローグストが隊長でアーリアが副隊長ね」
「わかったぞい」
「えっ?私?」
じいさんはともかく、何でアーリアは焦ってんだ?ウルガスの中では、じいさんに次いで魔法士としての実力があるんだがな。
「治療部隊はレジーナが隊長をお願い。副隊長にはセラを付けるわ」
「分かりました」
「私は辞退させて頂きたく思います」
「ん?セラ何でだ?」
レジーナはあっさり了承したが、セラはいつもの無表情を少し申し訳なさそうに変えて辞退を申し出た。
「そうよ、セラ。何でなの?」
「私はカイル様にお仕えさせて頂きます。ですので治療部隊の方へは行けません」
「そう、無理矢理にはしたくないから、また考えないとだめね」
しかし、治癒魔法が得意な奴って他に居たか?
居ないならば鍛えれば良いのかと納得しておく。
「次は内政的な役職よ。法律とか財政については私の補佐の二人にお願いするわ」
「分かった」
「かしこまりました」
「農業関係はテルルに一任するわ。鍛治とか装備や道具の制作と町内の工事関係はバラックね」
「分かりましたぁ〜」
「おう!」
テルルはいつも通りぽやっとしてるな。
そういえば、まだ俺は呼ばれてないな。
「なぁ、俺は何すれば良いんだ?」
「カイルは私の直属の部下って感じかしら?色々なお願いに答えてもらうわ」
「つまり何でも屋みてぇなもんか」
「ええ、そうね。カイルへの依頼は、内容によって一緒に行動する人が代わると思うから、それは皆も覚えて置いて。」
「分かったよ」
「じゃあ、最初の依頼ね。カイルにはこの前話したけど、住人になりそうな人を見つけて来て欲しいの」
「今回はセラとあとは誰を連れて行けば良いんだ?」
「今回はイエールにお願いしようと思うわ」
「了承した」
イエールは邪教徒との戦いの後から、気を鍛え始めていた。今では第三チャクラまで解放している。
「俺達がウルガスを出てる間に何かあったら困るから、定期的に念話で報告するようにする」
「そうね、そうしてくれると助かるわ」
「よし、これで全部か?」
「ええ、これで終わりよ」
ハーナリアとサジンとヨーガ以外の皆でわいわいと話しながら屋敷を出ると、そこに防衛隊の奴が走ってきた。
「魔物です!魔物の群れが向かって来てます!!」
「何だと!皆行くぞ!!」
防衛隊の先導に付いて行き、防壁の外に来た。
「あいつは!!」
そこには見た事のある魔物が群れになりこちらに向かってきていた。
熊の様な見た目で背中にヤマアラシの様に棘を背負っている。
「あれはザローナじゃぞい。男爵級程じゃったかの?」
あいつはザローナっていうのか。
ザローナを見たアーリアは目を細め怒らせていた。
「先制は私に任せて『絶気氷陣・乱』」
氷の棘がザローナに向かって行く。群れで行動していた為、隣の奴が邪魔になり行動範囲が狭くなったザローナは、次々に串刺しにされていく。
「あの時の借りを今返させてもらうわ!」
以前ザローナに襲われた時、何も出来なかった事がずっと頭にあったのだろう。
アーリアは魔法を次々に放ち、ザローナを狩っていった。
「よし、これで粗方片付いたか?」
大半が串刺しにされ、動いているザローナは残り数匹だ。
「カイル、まだみたいだよ」
目の上に手をやり、遠くを見ていてたキクリシスが何かを発見した。
「あれは上位種か?」
キクリシスの視線の先には、通常種より一回り大きい、白いザローナが居た。
「まだ居るよ!」
キクリシスの警戒した声に更に目を凝らすと、全身が真っ黒なザローナが三匹居た。
「こいつはやばそうだな」
真っ黒なザローナからは、上位種とは比べ物にならない程の圧を感じる。
「まぁ、俺達が揃ってるなら何とかなるだろう」
皆が揃っている今なら負ける事はまず無いと、駆け出す。
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