第19話 黎明と邂逅
蛇が頭を揺らしながら、こちらの隙を窺う。牙からは毒液が垂れ、地面を溶かし刺激臭を辺りに撒き散らしていた。
「私からいくわ!サジン合わせて!『蒼気弾』!!」
アーリアの手の先からスイカ程の大きさの水の塊が蛇の頭へ向かって飛んでいく。その水の塊は、蛇が顔の前に張った風の膜によって散らされる。
「『剛気刃』!」
水の塊が飛び散り、蛇の視界が塞がれた瞬間にサジンが駆け出し激しい踏み込みと共に気で強化された横薙ぎの斬撃を放つ。蛇は視界を塞がれていた為胴体を深く斬り裂かれる。
「私も行くぞ!『気突』!」
シジールが気を纏った槍で、胴体目掛け突きを放つ。蛇はその突きを躱そうとするが、突きの方が速く胴体に深く刺さる。
「ギシャァァ!!」
胴体を斬られ、刺された蛇は怒りの咆哮を上げて周囲に風の斬撃を撒き散らす。
「任せて下さい!『逆向く気壁』」
風の斬撃はレジーナが放った風と気を混ぜた魔法の壁により、全てが防がれる。
「ぜりゃあぁ!!」
そこへ俺は脚の気を空気に変換し、高く飛び上がり前方宙返りからの踵落としを蛇の頭に落とす。気を凝縮し硬められた脚は、蛇の頭を陥没させながら地面に叩きつける。
「止めだ。『瞬華斬』」
サジンが身体能力を極限まで強化して、瞬き程の間に十の斬撃を放ち蛇の頭を細切れにした。
「美味しいところを持っていったな、相棒!」
「ああ、ちょうど良い所に頭があったのでな。」
そう言ってサジンと笑い合っていると、アーリアが抱き着いてきた。
「カイル!待ってたのよ!無事で良かった!!」
「ああ、遅くなってすまなかったな。」
アーリアの背中を撫でながら答える。
「熱々だね。」
「ええ、熱々ですね。」
「シジールとレジーナも来てくれたんだな!」
茶化す二人に迎えのお礼を言う。久しぶりに会う仲間達に安堵する俺はセラを呼び戻して紹介した。
「こいつはセラだ。色々あって一緒に行動する事になった。」
「……色々って何よ?」
アーリアが少し不機嫌そうに聞いて来たので、川に流されてから、これまでの事をみんなに説明する。
「カイルさん大変でしたね。」
「相棒は何処に行っても強い魔物と巡り会うんだな。」
「好きで巡り会ってなんかねぇよ!」
誰が好き好んで何回も死に掛けるかよ!俺が憤慨しているとシジールが何やら考え込み始めた。
「どうしたの?シジール?」
「いや、その伯爵様のお嬢様の所へ行った方が良いのかなと思ってね。」
参加するかどうかは個人に任せるとはいえ、ここに居るみんなは強いので是非参加して欲しい。
「とりあえず一度町に帰らねぇか?」
「そうだな、町に戻るとするか。」
その後二日掛けてトルガナに到着する。
「地図を見せてもらったが、エヨーナへはナーグルからの方が近ぇから参加するか教えてくれ。」
「一日だけ時間をいただけますか?」
レジーナは考える時間が欲しいみたいで、俺はそれを了承した。シジールもレジーナと一緒に考えると言って付いて行った。
「カイル様、空いた時間によろしくお願いします。」
「ああ、分かった。良いぞ。」
「何をお願いするの?」
「戻る途中でセラに戦い方を教える約束をしたんだよ。だから蹴り技を教える。」
「ええ!?セラさんこんなに細いのに大丈夫なの!?」
確かにセラは見た目華奢である。だが脚力には自信があるって言ってたし、第三チャクラまで解放しているから大丈夫だろう。
「セラはこう見えても第三チャクラまで解放してるから大丈夫だろ?」
「嘘!?私もまだ第ニチャクラまでしか解放してないのに!」
「ああ、そういえば俺も第三チャクラまで解放したぞ。」
「はっ!?お前もう第三チャクラまで解放したのか!?」
やはりサジンは天才だ。セラの場合は俺が大量の気を渡した事によって第三チャクラまでいったが、サジンは自分の実力で第三チャクラまで解放している。
「私も一緒に修行するわ!!」
アーリアは自分が第ニチャクラまで解放していないのが気になるのか、一緒に修行すると騒ぎ出す。
「それは構わねぇけど、セラとは格闘の訓練だぜ?坐禅じゃないぞ?」
「良いの!隣りで坐禅しとくから!!」
何をムキになっているのやら。まぁ、邪魔にならないならいいかと了承する。
日が暮れるまでセラに蹴りによる格闘の手解きをして、拠点にしてた教会へ向かう。
「一日考えて長老達とも話し合った結果、私もレジーナも付いて行く事にしたよ。」
教会に着いたらシジールとレジーナが待っており、開口一番そう言った。
「分かった。多分厳しい戦いが待ってるけど、大丈夫か?」
「はい、このまま放っておいたらいずれ魔物がこの町にもやって来ます。それを防ぐ為にも付いて行きます。」
「それに分けてもらった結界石があるから町の防衛も安心出来るしね!」
そう、俺は結界石を死守していた。あの蛇に追われ続けていても結界石を入れた背嚢だけは捨てずに持って来てたのだ。
「そうか、じゃあもう何も言わねぇ。頑張ろうぜ!」
「では、明日の朝から我々の町に戻るか。」
「そうね。ナーグルを離れてだいぶ経つから少し心配だわ。」
「カイル様の故郷ですね。」
「故郷ちゃあ故郷ではあるな。」
俺の故郷は地球にある。しかし、この世界での故郷と言えばナーグルになるだろう。
「じゃあみんな今日は早く寝て明日に備えろよ。」
「分かったわ。」
翌朝トルガナの東門から旅立った。山道では行きと同じくダンゴムシの魔物が出てきたが、第ニチャクラ以上を扱える俺達には弱い魔物にしか過ぎなかった。
「やっと帰って来たな!俺はちょっと寄る所があるから離れる。」
「ああ、ミーズ達の所か。」
「では、私もご一緒します。」
「いえ、セラさんは私達と行きましょ。」
アーリアが気を遣ってセラを連れて行ってくれる。
「ミーズ、じっちゃん、ばっちゃん。帰って来たぞ。」
今まで有った事、これからする事を墓の前で話す。
「そんな訳だから今回は長い長い旅になりそうだ。また土産話楽しみにしといてくれよ。」
そう言って目を瞑り祈る。こちらの世界に神がいるか知らないが、天国で幸せに暮らしている事を祈ってその場を後にする。
ーーーーーーーーーーーーーー
「乾杯!」
シグナートにみんな集まって酒を飲む。久しぶりのシグナートでの食事はやはり美味い!
「ええと、あとバラックさんを誘うんだったのかな?」
「そうだな、おっちゃんには来て欲しいな。武具とか作って欲しいし。」
「私の槍も作ってくれないかな!?」
「う〜ん、頼めば何とかなるんじゃねぇか?」
「それでは明日バラックさんに話をして、明後日の朝に出発で良いな。場所はカイルが分かるのだったな。」
「ああ、地図は大体頭に入ってるし、セラも分かるだろう。」
「そうですね、私も地図は覚えております。」
「そういえばセラさんやシジールやレジーナはうちに泊まるので良いのよね。」
この町には旅人が来る事も無いので宿などはない。だから三人はアーリアの家に泊まる事になった。
「はい、お世話になります。」
「レジーナ、そんなに遠慮しなくて良いのよ。」
アーリアは笑顔で受け入れている。
この町からエヨーナまでは何日掛かるかなどを話しながら食事が進む。
「えっ、貴方って第四チャクラまで解放したの!?私だけ置いて行かれてるじゃない!?」
「いや、お前も天才だし直ぐに追い付くだろ?」
「その白いツーミシラとやらを倒した時に解放したんだな?」
「そうだ。」
「お前は強敵と戦う事で、より上位のチャクラを解放しているな。もしかして強敵を倒す事によって相手の気を取り込んでいるのでは無いか?」
「それは……。確かにそうかも知れねぇな。言われてみれば強い奴を倒した後か、倒して少し経った後に解放しているな。」
「俺は強敵と戦った後ではなく、坐禅で気を練る事によって解放している。カイルと我々では少し違うのかもな。」
「そうだな。まぁそれはそれで良いじゃねぇか?強い奴と戦わなくても上位のチャクラを解放出来るなら、それに越した事はねぇ。」
「そうね、わざわざ痛い思いしなくて良いって事ですもんね!」
「俺だって好きで痛い思いしてねぇよ!」
「ふふふ、カイルさん達は面白いですね。そろそろ眠くなって来たので私はアーリアさんの家に向かおうと思います。」
レジーナの言葉を切っ掛けにお開きにする事にした。
翌朝おっちゃんの工房に来た。
「おっちゃん!元気か!!」
「うるさいわい!!たまには静かに来れんのか!!」
いつもの挨拶を交わし、おっちゃんに今までの事を説明する。
「そうかそんな事があったんじゃのう。分かった、付いて行ってやろう。」
「本当か!おっちゃん!!」
「だからうるさいわい!うむ、本当じゃ。」
「良し!じゃあ明日の朝に北門集合でお願いな!」
これでエヨーナに行く仲間は揃った。エヨーナへの道もこの顔触れなら問題なく行けるだろう。
そして残りの時間は修練に費やす。
「やったわ!第三チャクラまで解放出来たわ!」
「良かったな!」
「後はシジールだけだか、直ぐに解放出来る様になるだろう。」
「うん、私も頑張るよ!」
「あれ?レジーナは第三チャクラまで解放してたのか?」
「はい、私は元々気が多かったので。」
そういえばレジーナの第一チャクラを解放する時に気が元々多かったな。
「北に進むって事はまたガルンジアが出るかも知れぬな。」
「今の俺達なら上位種が出て来ても余裕だろ?」
「ええ、そうね。」
「それにセラも覚えが早いからガルンジアの変異種くらいなら何とか倒せるくらいにはなったしな!」
「まだまだカイル様には追い付けませんがね。」
「そう簡単に追い付かれたまるか!?」
無表情で言うセラに答える俺をみんなが笑ってる。うん、良い仲間達だ。
そして翌日、北門の前に全員揃った。
「そういえばおっちゃん。チャクラはどこまで解放したんだ?」
「第三チャクラまでじゃ。」
「おっちゃんもかよ!?天才ばっかだな……。」
俺の周りには才能に溢れた奴が多過ぎる。そんな事を思いながら出発する。
「大体こっちの方角だ。」
北門を出て北北東に向かいながら進む。四日程掛けて渓谷の前まで辿り着いた。
途中に予想通りガルンジアの変異種が多数出て来たが、この顔触れにとって敵ではなく鎧袖一触とばかりに倒してきた。
「さて、この渓谷を飛び越えて少し行った先にエヨーナがある筈だ。」
「ねぇ、結構距離があるけど、どうやって飛び越えるの?」
「俺が空を走って運ぶ。」
「えっ?」
「いや、だから俺が空を走って運ぶって言ったんだ。」
「嘘でしょ!?」
「まぁとりあえず一人運べば分かるさ。相棒、行くぞ。」
「ああ、分かった。」
サジンを背負い、脚の気を空気に変換し空を駆け抜ける。そして、また元に戻るとセラ以外は唖然としていた。
「いや、廃墟に戻る時に見ただろ?」
「あの時は暗くてよく見えなかったわ!!……貴方、段々人種を辞めて来てるわね。」
「うるせぇよ!ほら、アーリア次行くぞ。」
そうやって全員を渓谷の対岸に運んだ。
対岸に渡った俺達はそれから東に川沿いを歩きエヨーナを目指した。
「町が見えて来ましたね!」
「ああ、あそこがエヨーナだ。」
エヨーナの西門の前まで行くと声を掛けられた。
「カイルさんじゃないですか!」
「よっ!キクリシスは居るか?」
「はい、では門を開けるので中で待っていて下さい!」
門の中で待ってると、程なくキクリシスが現れた。
「カイル!お前ビックリするじゃないか!」
「おう!帰って来たぞ!」
「いや、その事もだけど。ハーナリア様達の事だよ!いきなり三十人も来たから大変だったんだぞ!」
「すまんすまん。キクリシスなら何とかしてくれると思ってな。」
「まぁ、何とかしたけどね!とりあえずハーナリア様達のとこに行こう!」
「おう!案内頼んだぞ!」
やっとこれで合流出来たな。
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