第20話 気刃炎嵐

 「遅かったわね、カイル。」


 「遠いんだから仕方ねぇだろ?」


 一軒家に俺達は集まっていた。

 ここにいるのはお嬢とじいさんとキクリシス、あとは俺達ナーグルとトルガナの町の仲間だ。


 「で、これからどうすんだ?」


 「それよりもカイル、自己紹介が先じゃないか?」

 

 サジンが自己紹介を促して来たので、俺とセラ以外の自己紹介をする事にした。


 「あと、此処には居ないけど副騎士団長をやってたトートっていう男が居るわ。」


 「そういえば、何であいつは呼んでないんだ?」


 「呼んだら貴方と揉めるでしょ?だからよ。」


 確かにお嬢の言う通り、トートは言い掛かりを付けてくるだろうな。


 「よし、じゃあ改めて。これからどうするんだ?」


 「最終的な目標は国を興す事よ。今の様に人種が各地に散っていては魔物に対抗なんて出来やしないもの。」


 俺とお嬢で話を進めていく。


 「国か。そりゃあ大変そうだな。」


 国を興すと成れば人を集めなければならない。それも大量にだ。


 「って事は、これからは人集めか?」


 「ええ、そうなるわ。ただ、エヨーナで人集めは出来ないでしょうね。」


 「ん?何でだ?」


 「食糧の問題よ。この周りは荒野だから植物を育てるのに、あまり適していないのよ。」


 「ああ、食糧の問題か。どこか良い土地に目星は付けてるのか?」


 「ここより北東に進むと平原地帯が有るから、そこを目指すわ。」


 「そうか、それって遠いのか?」


 「そうね、馬車で三十日以上掛かるわ。」


 移動だけで三十日、そこに魔物との戦闘も含めるともっと掛かるだろうな。


 「つまり、人を集めながら三十日も掛けてそこを目指すのか?それは移動中に食糧が尽きるんじゃねぇか?」


 「ええ、そうなのよ。それを解決出来るまでは出発出来ないわ。」


 「誰か良い案はないか?」


 「目的地までの途中に何ヵ所か拠点を作れば良いんじゃないかい?」


 周りを見渡して聞くと、キクリシスが案を出した。


 「いや、それは難しいじゃろうな。資材まで運ぶ事になっちまうわい。」


 バラックのおっちゃんが作る側の視点からの回答を出す。

 その後も案が出ては没になりを繰り返していた。


 「ん?そういえば。」


 「何、カイル?何か思い付いたの?」


 「いや、魔法で植物の成長を早められねぇかなと思ってな。」


 「う〜む、そんな魔法聞いた事ないぞい。」


 ローグストのじいさんでさえ知らねぇなら誰も知らねぇだろうな。


 「アーリア、前に精霊と会話出来るって言ってたよな?精霊にお願いしたら出来ねぇか?」


 「そうね、お願いはしてみるけど出来るとは言い切れないわ。」


 「そうか……。気を人に分けるみたいに出来れば良いんだけどなぁ。」


 「気を人に分ける?そんな事出来るのか?」


 サジンが驚いた表情で聞き返してくる。

 セラを治した時は癒しの力と共に気を送ってたみたいだからな。だからセラはいきなり第三チャクラまで解放出来た。


 「気を分けるとな。……気と魔力を混ぜた魔法なら可能かも知れんぞい!」


 「ほんとか!じいさん!」


 「うむ、これから作る事になるんじゃがな。」


 「よし!じゃあアーリアとレジーナはじいさんに協力してやってくれ。」


 「分かったわ。」


 「わかりました。」


 「残りはこれからに備えて鍛えるとするか。」


 その後、それぞれに分かれて行動する事になった。

 俺とサジンとシジールとキクリシスは模擬戦や坐禅をして鍛える。お嬢はじいさん達に混ざり、空いた時間に魔法を教えてもらう。おっちゃんはこの町の工房に行って何か作るみたいだ。


 そしてセラはじいさん達の手伝いをしつつ空いた時間に俺と修行だ。



 「キクリシスはどこまでチャクラを解放したんだ?」


 「まだ第ニチャクラまでだなぁ。」


 「じゃあシジールと一緒に第三チャクラまで解放する事だな。って事で相棒は俺と模擬戦な!」


 「ああ、分かった。」


 サジンと模擬戦をしたが、こいつめちゃくちゃ強くなってやがる。第三チャクラまでしか解放してねぇのに俺と互角だった。


 「何で第三チャクラまでしか解放してないのに、こんなに強ぇんだよ!」


 「ふむ、魔力があるからじゃないか?気に加えて魔力分も強化されてるからな。」


 「まじかよ、ずりぃな!セラも覚えが良いし、この世界は天才ばっかりかよ!」


 「努力の結果だ。」


 「くそ!もう一回だ!」


ーーーーーーーーーーーーーー


 そんな日々を過ごして一ヵ月が経った頃、町を歩いて居ると声が聞こえて来た。


 「貴方の様に美しい方こそ、私に相応しい。私の妻になって下さい。」


 「嫌よ。」


 アーリアとトートの声だ。


 「何故です!まさかあの黒髪の男が良いとでも言うのですか?あの様な紛い者は貴方に相応しくない!」


 「貴方がカイルの何を知ってると言うの?」


 やばいな、アーリア怒ってやがる。これは出て行くしかねぇか?


 「どうしたんだ、アーリア?」


 「カイル!」


 「貴様何しに来た?邪魔だ。どっか行ってろ。」


 「って言ってるみたいだけど、どうする?」


 「気にしないで、カイル。しつこく話掛けて来て困ってたの。」


 「だそうだが、お前がどっか行ったらどうだ?」


 「貴様の様な下賤な者にお前などと言われる筋合いはない。失せろ。」


 「話にならねぇな。アーリア行くぞ。」


 「ええ、行きましょう。」


 アーリアと一緒に歩き出そうとしたらトートが肩を掴もうとしてきた。


 「触んなよ。」


 トートは俺が教えた技術を使うのが嫌なのか、まだチャクラを解放していない。なので、トート如きに捕まる俺ではない。


 「くそっ!」


 トートが剣に手を掛けようとしたのをみて、気を練り始める。


 「やめなさい、トート貴方はどこか行きなさい。」


 「お嬢様!しかし!」


 「口答えは許しません。」


 「くっ!!」


 お嬢に言われたトートは俺を強く睨み去って行った。


 「ごめんなさいね。トートはあれでも一応貴族の生まれでプライドが高過ぎるの。」


 「実害さえなけりゃ気にしねぇよ。」


 将来的にはどうなるか分からねぇけど、今はとりあえず何もしない。


 「お嬢、アーリア。進捗状況はどんな感じだ?」


 「もうすぐ完成しそうよ!この魔法は今までにない属性になりそうなの。差し詰め生命魔法って言ったところね。」


 アーリアが嬉しそうに答えた。属性として成立するくらいの魔法ってどんなもんだろうな?

 そんな話をしながら歩いていると、魔物襲撃を知らせる鐘がなり始めた。


 「おっと、出番みたいだ。ちょっと行ってくるか。アーリアとお嬢はどうする?」


 「私はカイルと一緒に行くわ。」


 「私もよ。覚えた魔法を使ってみなくちゃ。」


 「分かった、北門みてぇだから急ぐぞ。」

 

 北門に着くと珍しくみんなが揃っていた。

 それぞれ分かれて研究なり修練なりしている為、全員揃うのは久しぶりだ。


 「今回は何が来たんだ?」


 「またツーミシラの変異種だよ。」

 

 「おっ、食糧になるな!」


 「あはは、そうだね。美味しく頂くとしますか!」


 キクリシスと冗談を言い合いながら魔物の方を見ていたが、どうも様子がおかしい。


 「何か様子がおかしくねぇか?」


 「そうね、凄い勢いで走って来てるわね。」


 体長四メートルはあるツーミシラが十匹程、その群れは一塊になりエヨーナに向かって来ている。

 

 「気を付けて!ツーミシラの後ろからも何か来てる!」


 ツーミシラの群れの後ろからトルガナに戻る時に森で襲われた蛇が来ていた。

 他にもルーデリアの変異種と上位種が二十匹程、ノクサと呼ばれる蜘蛛の魔物が四十匹程町に向かって来ている。


 「何事だ!?コリビランやルーデリア、ノクサまで居るじゃないか!」


 「あの蛇、コリビランって言うのか。」


 キクリシスが名前をあげていったので蛇の名前が分かった。

 それにしてもこんなに色んな種類の魔物が同時に襲って来るのなんて初めてだ。しかも何かに追われてる様に必死で町に向かって来ている。


 「でかいのも来ておるぞい!……あれはまさか!!」


 群れの一番後ろより少し離れて、十メートルあろうかというサイズのワニガメの様な魔物が現れた。


 「あやつはイルガインじゃ!子爵級の魔物じゃぞい!!」


 「子爵級だと!!」


 俺の背後に居たお嬢が震えている。王国が滅ぼさた時を思い出したのだろうか?


 「とにかく手前の奴からやるぞ!魔法を使える奴はでかいのを頼む!!」


 「分かったぞい!『絶気氷陣』」


 じいさんの魔法は魔物の群れの半分を氷の柱で貫いた。


 「俺もいくよ!『気炎天弓』!」


 ここ一ヵ月で第三チャクラまで解放したキクリシスが、火の矢を空高くに射る。その矢は上空で無数に分裂し、魔物達に振り注ぐ。


 「もう少しで群れを潰せるぞ!」


 「じゃあ私の出番ね!『剛気嵐』!」


 アーリアの放った風が高速で激しく渦を巻く。その渦はどんどん大きくなり竜巻となった。


 アーリアの魔法に触れた魔物は一瞬にして細切れになっていく。


 「これが後はデカブツだけだ!!……嘘だろ!?あいつ飛びやがった!」


 ワニガメの魔物は十メートルもある巨体を甲羅の下から強烈な水を噴射する事によって飛び上がった。そして俺達目掛けて降ってくる。


 「『気岩障壁』じゃ!!」


 おっちゃんが巨大な岩の壁を俺達の前に張り、ワニガメが俺達の上に落ちてくるのを防ぐ。


 「ワニガメのやろうが地面に落ちたら俺達も行くぞ!」


 「分かった。」


 俺の言葉にサジンとシジールとセラが反応した。


 ズガァァン!!


 ワニガメは大量の砂埃を巻き上げ、地面を揺らしながら着地した。


 「『剛破気刃』!」


 「『剛破尖突』!」


 サジンの剣撃がワニガメの甲羅に傷を付け、その傷にシジールの槍が突き刺さる。


 「セラ!行くぞ!!」


 「はい!カイル様!!」


 俺とセラは気を練り上げチャクラを回し、脚に気を凝縮していく。


 一瞬にしてワニガメに近寄る。セラが俺の肩を踏んで跳び上がる。サジンとシジールが付けた傷に気で硬化した脚で踵落としを叩き付ける。


 俺は気を空気に変換して踏み込む事によりセラより高く跳び上がり、脚に凝縮した気を固めてワニガメの傷口に踵落としを放ち傷口を更に拡げる。


 「グゴォォォォ!!」

 

 ワニガメは怒りの咆哮を上げて周囲に水のレーザーを撒き散らす。


 「いけません!『嵐気壁』!!」


 レジーナが荒れ狂う風で出来た障壁を張り、水のレーザーを全て防ぐ。


 「あれだけのダメージを与えてもまだ死なねぇのか!?」


 「そうみたいだな、相棒行くぞ!」


 「おうよ!」


 「『剛閃気刃』!」


 サジンの放った濃密な気を纏った飛ぶ斬撃に合わせ、気を限界まで振り絞り右脚のみに纏い上段蹴りを放つ。


 俺とサジンの攻撃でワニガメは首が半分断たれた。


 「よし、やったか!」


 「グギャァァァ!!」


 倒したと思った瞬間、俺達の居る場所全ての地面から土で出来た硬い棘が生えてきた。


 「ぐっ!!」


 「きゃぁ!」


 俺とサジン以外は不意を突かれ吹き飛ばされる。


 「サジン、残りの力を全部かけるぞ!」


 俺はもう一度全ての気を右脚に集める。


 「『剛閃気刃・連』!!」


 「ぜぇりゃあ!!」


 二つの連続した強力な気の刃に合わせて、左脚でクレーターを作る程踏み込む。そして全身の捻りを加えた上段蹴りを首へ放つ!


 「やったな!」


 ワニガメの首は完全に断たれた。

 このメンバーが揃ってないと勝てない程の強さ、これが子爵級か。


 「まだまだ俺らは弱ぇな。」


 「そうだな、修行し直しだな。」


 もうすぐ魔法が完成する。完成したら食糧をある程度生産して旅に出る。

 それまでは鍛え直さねぇと、まだ伯爵級の魔物が待ってる。今のままじゃ勝つ事が出来ねぇ。


 早く強くならねぇと。

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