第23話 魔物の争

 謎の魔物と戦った翌日、俺達は荒野を出発した。


 あの謎の魔物はじいさん達が調べたが、結局魔力でも気でもない力を使う新種の魔物だとしか分からなかった。


 「さぁ、これから森に入る。馬車は使えないから力のある物は出来る限りの荷物を持つんだ」


 しまった。馬車が有るからガンジュの民も大丈夫かと思ってたが、森では馬車が使えねぇんだった。


 「サジン、ガンジュの奴らはどうするんだ?まだ体力が回復しきってねぇぞ?」


 「歩けない者は力が有る者が運ぶ事になってる。まともな食事を摂ったお陰か、歩けない者はそれ程多くないしな」


 そう言われて周りを見渡すと、確かに歩けない程の奴は数人しか居なかった。怪我してた奴も治癒魔法で治ったのだろう。


 「そうか、なら問題ないな」


 森の中を進む事三時間、だいぶ森が深くなってきた所で先頭を歩いていた俺に何かが争ってる様な音が聞こえてきた。


 「気を付けろ!何かいやがるぞ!」


 キクリシスと共に先行して様子を窺いに行くと、そこでは魔物達同士が争っていた。


 「魔物達同士で争ってるのか?」


 「片方の魔物達は昨日の奴と同じ種類の奴か?」


 昨日現れた魔物と同じ様な奴の群れとカマキリの様な魔物の群れが戦っていた。


 「もう片方はジグザだね」


 カマキリ擬きはジグザって魔物らしい。ジグザは手に生えた鎌を使って戦っているが、昨日の魔物には全く通用していなかった。


 「ジグザの方が弱ぇみたいだな。どうする?みんなを呼ぶか?」


 「そうだね、昨日の魔物と戦う事になりそうだから呼ぼう」


 戦える奴らを呼んで魔物達の戦いを窺う。


 「ジグザの通常種じゃのう。ジグザの上位種になると子爵級まで強さが跳ね上がるんじゃが、通常種なら男爵級以下じゃぞい」


 「って事は、昨日の奴は男爵級以上って事になるな」


 離れて観察していると、緑色のジグザの奥から茶色のジグザが現れた。


 「あれは変異種じゃな。変異種は男爵級じゃぞい」


 「ん?昨日の奴の壁を切り裂いたな。風の魔法か何かか?」


 「ええ、魔力を感じたから魔法でしょうね」


 自身も風の魔法を得意としてるアーリアが答える。

 男爵級で互角か。更に観察を続けていると森の奥から続々と変異種が現れて来る。


 「おい、これは拙くねぇか?どんどん出て来やがるぞ!」


 「ああ、確かに拙いな。しかし、今出て行けば両方と戦う事になる」


 「ちっ、見とくしかねぇのか。歩けねぇ奴らを背負って逃げ切れるとは思わねぇしな」


 変異種が増えた事により、徐々にジグザが押していく。


 「拙いぞい!上位種まで出て来たのじゃ!!」


 変異種の更に奥に白いジグザが見える、奴が上位種か。

 上位種が参戦した事により昨日の奴らは次々に狩られていく。


 「そろそろ昨日奴らが全滅するぞ!戦う準備をしろ!」


 サジンの指示に俺とセラ以外は武器を手に構える。


 「サジンは皆を指揮して通常種と変異種をやってくれ!俺は上位種をやる!!」


 「一人なんて無茶よ!!」


 アーリアが悲鳴の様な声を上げるが、俺達の数より変異種の数の方が多い現状では選択肢は少ない。


 上位種を単独で相手取れるのは俺かサジンくらいだろう。しかし、俺は他の奴の指揮何て出来ねぇ。

 だから実質選択肢は一つしか無かったのだ。


 「昨日の魔物が全滅したよ!」


 キクリシスの声が合図となり、こちらに気付いていない今の内だとばかりに魔物へ向かって駆け出す。


 気を全身に纏いジグザの群れに突っ込む。凝縮した気を纏う事により、体を鉄の様に硬くして当たったジグザを吹き飛ばしながら進む。


 通常種の群れの背後まで辿り着いた所で、後方より魔法が飛んで来る。


 「『絶気氷牙』」


 じいさんが放った魔法は俺の進む先で炸裂し、変異種達を地面から生えた氷で貫いていく。

 氷を縫って進んだ先に上位種である白いジグザが居た。


 「ぜぇりゃあ!!」


 上位種の三歩手前より踏み込みを強くし、強烈な踏み込みから右脚での前蹴りを放つ。


 ゴオォォン!!


 鐘を鳴らす様な音を響かせながら俺の脚と上位種の鎌がぶつかり、周囲に衝撃波を発生させる。


 上位種がもう片方の鎌を振り下ろす。それを上半身を反らす事によって躱す。


 「何!?」


 鎌が当たっていない筈だが、左肩から右腰までが切り裂かれる。

 

 「ぐっ!風の刃か!」


 傷はそれ程深くは無いが動きはどうしても鈍る。

 油断した!そう思ったが後悔しても遅い。


 傷が痛むが、チャクラを回して回復しながら戦う。

 傷を庇った動きをしてしまうせいか防戦一方になってしまう。


 他の奴らは通常種と変異種の群れに手一杯で援護は期待出来そうにない。


 こいつに負けると皆やられちまう。そう思うと覚悟が決まった。


 傷の回復に回していた気を脚に集め、凝縮していく。脚に集められた凝縮した気により速度は上がったが傷口から溢れる血の量が増えていく。


 「こりゃあ時間は掛けれねぇな」


 防御を捨てて全身の気を脚に凝縮し、大地が爆発する程の踏み込みと共に上段回し蹴りを放つ。

 上位種が鎌で防ごうとするが鎌とその先にあった頭を蹴りで断ち切る。


 頭を真っ二つにした事により上位種は倒したが、上位種が最後に放った風の刃で同じ場所を切り裂かれる。


 「ぐっ!!」


 血を失い過ぎたせいか力が抜け地面に倒れていくと同時に、第五チャクラが解放されていくのを感じる。


 「だから、遅ぇんだって……」


 そして意識を失った。


 


ーーーーーーーーーーーー


 「カイル!!」


 「カイル様!!」


 目を覚ますとアーリアとセラが抱き着いてきた。


 「意識を失ってたのか……?あれからどうなった」


 どれくらい意識を失っていたのか、周囲を見渡すと森の中の少し開けた所で野営の準備をしているのが見えた。


 「ここに着いてすぐ目を覚まされたので、それ程時は経っておりません」


 「そうよ。カイルが倒れて少し経って私達も魔物を全て倒したの。それから直ぐに移動して、ここを見つけて負傷した人の手当も兼ねて野営する事になったの」


 「そうか、怪我人は多いのか?」


 「そんなに居ないわ。サジンの指揮のお陰ね」


 流石は相棒だ。あれだけの数の魔物を少数の怪我人だけで殲滅させるとはな。


 「俺の怪我はセラが治してくれたのか?」


 「はい。カイル様の怪我が一番深く、アーリア様にも手伝っていただきました。」


 「アーリア?治癒魔法を使える様になったのか?」


 「いいえ、生命魔法を使ったのよ。」

 

 「生命魔法でか?」


 「そうよ。生命魔法で貴方に気を送り込んで自己治癒を強化したの」


 「そんな使い方も出来たんだな」


 俺がセラを治した時と同じ事を魔法でしたって事か。しかし、二人掛かりで治癒してもらったお陰か体調はバッチリだ。


 「二人共助かった。ありがとな」


 目覚めたばかりの時は二人共泣きそうな顔をしてたが、お礼を言った時には笑顔に戻っていた。


 「それじゃあちょっと体の調子の確認しに行ってくるわ」


 「まだ治ったばかりなので無理はなさらぬようお願いします」


 「そうよ!無理しちゃ駄目だからね!それにもうすぐ日が暮れるから早めに戻って来るのよ」


 「分かったよ」


 森の開けた場所から少し離れた場所に来た。

 第五チャクラを解放してすぐに意識を失ったからその確認をしなくちゃならねぇ。


 第五チャクラはスロートチャクラと呼ばれており、喉にある。

 能力としては、確か喉の強化とテレパシーと霊的な力の強化だった筈。

 

 属性はエーテルとなってたがエーテルが何の事か分からないからこれはスルーだな。


 坐禅を組んで気を練り、会陰から喉まで順にチャクラを開いていく。


 「また気の量が倍になってるな」


 第一チャクラから一つチャクラを解放する事に気の量が倍になっていってる。

 これだけの気で強化すれば子爵級も楽に倒せそうだ。


 「それでも伯爵級以上は強さが分かんねぇから油断は出来ないんだけどな」


 そうやって坐禅をしていると森の奥より気配を感じた。


 「誰だ!」


 俺達が野営してる場所と反対側に気配がある。俺の呼び掛けに応じ、その気配の主は木の裏より出て来た。


 「おお、この様な所で人種と会えるとは!これも神の思し召しですね」


 出て来た男は深い緑色のローブを纏った怪しい奴だった。


 「フードを取って顔を見せろ」


 フード取ったそこには深い緑色の髪をしており、鼻が高く目付きが鋭い男だった。


 「どこから来た?」


 見た事もない男であったので警戒しつつ直ぐに動ける体勢になる。


 「この先にある集落から参りました。貴方はどちらから来られたのですか?」


 「俺達はエヨーナって町からだ。」


 「エヨーナ……。聞いた事はないですね」


 「まぁ、ここからは遠いからな」


 この辺りに集落があるとは。ガンジュの町の奴らはこいつに合わなかったのだろうか?


 「何しに来たんだ?」


 「いえ、人の気配がしたのでご挨拶をと思いまして」


 「そうか、俺はカイルだ。よろしくな」


 「私はクルンドと申します」


 怪しい見た目のこの男はクルンドというらしい。挨拶だけにきたのか?暇なのか?と思ったが、そんな事もあるかと納得する。


 「他にも居るんだが、紹介した方が良いか?」


 「はい、出来ればお願いしたいですね」


 怪しい行動を取らなかったので皆に顔見せする事にする。


 「こいつはこの先の集落から来たクルンドだ。体の調子を確認してる時に現れた」


 まず、纏め役をしてるお嬢とじいさんとサジンに紹介する。


 「おかしいぞい。そやつから魔力を感じんぞい?」


 「何?お前魔力が無いのか?」


 「ええ、私は生まれつき魔力を持っていません。そういう体質みたいで」


 「そうなのか」


 サジンとじいさんは何か気になるのか首を傾げている。


 「そういえば、俺と会った時に神がどうだか言ってたな。お前も天教の神父なのか?」


 「いえいえ。私は我が神、ナグザクトス様の僕でございます」


 「ナグザクトス?聞いた事ねぇな?お前らは聞いた事あるか?」


 お嬢達に聞いてみるが、どうも聞き覚えないようだ。

 

 「どうやら知らないみたいだな。レジーナにでも聞いてみるか。相棒、悪ぃけどレジーナを呼んで来てくれねぇか?」


 「わかった、呼んで来よう」


 サジンが呼びに行った後も色々と質問をしていく。


 「この先の集落にはどのくらい人が居るんだ?」


 「二十人程ですね」


 「少ないんだな。そんな人数で魔物に襲われたらやばいんじゃねぇか?」


 「我らには神の御加護があるので大丈夫なのです」


 神の御加護か。どんな加護か知らねぇが現実問題無理なんじゃねぇか?


 「カイルさん、お呼びと聞きましたが?」


 クルンドの言う神について考えているとレジーナがやって来た。


 「レジーナ、ナグザクトスって神を知ってるか?」


 「いいえ聞いた事はありませんね」


 「レジーナも知らないのか。天教じゃないらしくてな」


 「天教以外の方とは初めてお会いしました」

 

 レジーナは目を丸くして驚いている。


 「信徒の数はまだそれ程居ませんからねぇ」


 クルンドは残念そうな表情をして首を振る。まだって事は最近出来た宗教なのか?


 俺達が話して居ると、またジグザが出たと周囲を警戒してた奴から報告があった。


 「魔物が出たみてぇだから俺は行ってくる!」


 「魔物ですか?私も微力ながら協力致しましょう!」


 「すまんな、助かる」


 今回は通常種しか居ねぇらしいから、そんなに時間は掛かんねぇだろうけどな。


 報告があった場所では通常種とトート達が戦っていた。


 「おい、下民。お前が戦うのだ」


 トートの奴がまた偉そうに言ってくる。トート達はまだ第一チャクラさえ解放していないから通常種でも厳しかったんだろうな。


 「はぁ、お前も少しは役に立てよ」


 諦めてジグザと相対する。

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