第4話 探索

 いつもの様にギーズを町の外で退治した帰り、サジンに聞いてみた。


「それにしてもこんな頻度で襲ってくる黒アリは絶滅しないのかね?」


 戦いが終わって、ギーズの体液やら砂埃で汚れたサジンが顔を拭いながら答える。


「そうだな、いつもの事だろうと考えた事も無かったが確かに絶滅してもおかしくないな」


「だろ?ってかコイツらは何処から来てるんだ?」


 何もない所から現れるって訳ではないはずだ。


「巣らしきものがあるんだろうなとは推測されている。まだ誰も確認してないがな」


「つまり巣を潰せばもう襲ってこないと?」


「そうなるな」


 こう毎日毎日襲ってくるギーズ共にうんざりしていた為、その話を聞いた時に巣を探そうと思った。

 例え巣が広かろうとも、ギーズを産み出している存在を倒せばいずれは全滅させられるからだ。


「明日からちょっくら巣を探しに行こうと思うんだけど、防衛は何とかなるか?」


「何?お前、一人で行くつもりか?」


「いやいや、一人は流石にきついから斥候向きの奴を何人か付けて欲しいんだけど?」


「う〜む、町に帰ってから考える」


 サジンは眉間に皺を寄せて考え始めた。

 

 俺だって流石に一人で探せるとは思っていない。そういう探索に向いた奴を何人か付けてくれさえすれば、戦闘は何とかなるとは思っていたが。


 町に着いて一旦サジンと別れ、おっちゃんの所へギーズを運搬していく。おっちゃんにギーズを渡した後でいつも通りシグナートで飯を食べていると、サジンが一人の獣人を連れてきた。


「こいつは兎人族の獣人で耳が良い斥候だ。お前の巣の捜索にも賛同しているから連れていけ」


「良いのか?俺はカイルという。あんたは?」


「俺の名前はミルガ。俺もこう毎日毎日ギーズを撃退するのに疲れてきたとこだった」


「お、そうか。じゃあ巣を潰して楽な毎日を過ごそうぜ!」


「あはは、それは良いな!」


 サジンとミルガにも席を進めて乾杯する。ギーズの巣はどんな所にあるのか、どれだけギーズがいるかなどを話ながら盛り上がっていると、アーリアが料理を持って来た。


「カイル達、今日は楽しそうじゃない?何か良い事でもあったの?」


「いや、黒アリどもに毎日襲われるのに飽きたからこちらから攻めてやろうと思ってな?」


「えっ?貴方達3人で攻めるの?」


「サジンは参加しないから俺とミルガの2人だな!攻めると言っても、とりあえず巣を探すだけだがな!」


「そう」


 急に真剣な顔で何かを考え始めたアーリアが気になって声を掛けると、アーリアは勢いよく顔を上げて厨房の方に走り去った。


「……なんだったんだあれ?」


「さぁな?ところでカイル、必要な物資は揃っているのか?」


 物資も何も先程決まった事なので何も用意など出来ていない。サジンに明日用意すると言いつつ料理に手を付ける。

 

 しばらくサジンとミルガと話していると、アーリアがジョッキを片手に戻って来た。


「ちょっとカイル、端に寄って」


 そう言いながらアーリアは俺たちのテーブルの席に座ってエールを飲み始めた。


「アーリア、お前仕事はどうしたんだ?」


「マスターに言って上がらせてもらったわ。それよりカイル、その巣の捜索に私も参加するわよ!」


「はっ?何言ってんだ?お前は酒場の店員だろ?」


「前にも言ったけど私って魔法が使えるのよ。それも探索向きの風魔法をね。それに私達森人族は精霊とも会話出来るの」


「森人族?エルフじゃなかったのか??いやいや、そんな事より黒アリと戦う事もあるし危ねぇぞ?」


 ずっと頭の中でエルフ(仮)と思っていたのでつい口に出てしまった。

 

 アーリアは細くてモデルの様な体型をしており、明らかに戦闘に向いてないように見えた。そんなアーリアが参加するなんて思いもしなかった。


「エルフってなによ?私は森人族。ちなみサジンは闇人族ね!」

 

「サジンはダークエルフじゃなかったのか……」


「だから何よ、その名前は。それに私ってこう見えて戦えるのよ?風魔法や水魔法で攻撃も出来るし、意外とこの町では強いのよ?」


「そうだぞ、カイル。アーリアは魔法に関してはこの町でも強い方だ。接近戦は駄目だがな」


「もう!何よ、サジン!褒めるか貶すかどちらかにしてよ!」


「あはは、君らは面白いな」


 ミルガが笑いながら俺達のやり取りを見ていた。

 確かにミルガの聴力に加えて、風魔法による探査が出来るのであれば巣を早く見つける事が出来るかもしれねぇ。


「分かった、一緒に探しに行こう。但し危ないと思ったら俺を置いてでも逃げるんだぞ。一応お前の事は守るつもりではいるけど」


「え?あ、うん。分かったわ。でもなるべくは置いて逃げたくないけど……」


「いや、駄目だ。お前は俺にとって大事な女だからな」


「は、はい……!」


「(おい、サジン。この二人はそういう仲なのか?)」


「(いや、多分仲の良い女友達という意味だろう)」


「(アーリアは絶対そうは思ってないぞ……)」


 ミルガとサジンが何やらこそこそと話しているが、今はアーリアと話している為に気にしない事にした。

 

 それからアーリアも含めた四人で話し合い、明後日の早朝に町を出て巣を探しに行く事になった。


 翌日、俺はおっちゃんの工房に来ていた。


「おっちゃん!居るかい!?」


「朝っぱらからうるさいわい!何事じゃ!!」


 おっちゃんにうるさいと怒られつつも、明日の巣の捜索の為の道具を買いに来ていた。用意するものはロープやテント、松明と色々あるのでおっちゃんにアドバイスをもらいながら集めていく。


「それにしても結構な荷物じゃが運べるのか?」


「余裕余裕!俺って力持ちだからな!」


 小さい人なら隠れる事が出来るくらいの荷物を背嚢の中に押し込み立ち上がる。道具関係は俺の担当であり、ミルガとアーリアには食料をお願いしていた。


「おっちゃん、ありがとな!」


「おうよ!無事帰ってくるんじゃぞ!」


「もちろん!」


 ミーズの家に戻って来たが、今日は明日の為に防衛の手伝いをせずに家でゆっくり休んでおけとサジンに言われていた。なのでミーズやじいちゃん、ばあちゃんとの畑仕事の手伝いをする事にした。


「じいちゃん、この野菜は此処に置いておいたらいい?」


「そうじゃの、そこでいいぞ」


「ミーズ、疲れてないか?」


「大丈夫だよ、お兄ちゃん!今日はお兄ちゃんと一緒にやれるから楽しいんだ!」


「そうかそうか、無理はするなよ〜」


 そう言って頭を撫でながらミーズを見る。俺の年齢的には、このくらいの子供が居てもおかしくないせいか、ミーズを見るとどうしても可愛くて仕方ない。

 

 畑仕事がひと段落したのでみんなで家に帰る。

 家の中で寛いでいると、ミーズが聞いて来た。


「お兄ちゃんって此処に来るまで何してたの?」


「そうだなぁ、会社……って言っても分からないか。う〜ん、職場に行ってお店の宣伝する為の絵を描いたりする事かなぁ?」


 俺は元の世界で中堅の会社でデザイナーをやっていた。そこそこ人に頼られて、そこそこの給料を貰う。特に不満は無いが変わらない日常だった。


「それって大変だった?」


「ん?そうだな、大変だったと言えば大変だった気もするな。でも今の方が大変だぞー!その分やり甲斐はあるけどな」


 前の会社と違って、今はやればやっただけ金になる。そしてやればやっただけ周りに笑顔が増える。やり甲斐なんて比べるべくもない。


「さーて、そろそろ飯の時間だ。準備をしよう」


「はーい」


 こうして巣捜索の前夜の夜は更けていった。



§ § §



「忘れ物はないか?」


 まだ日が登って間もない時間に、俺達は東門の前に居た。東門の前には俺とアーリアとミルガ、そしてサジンが居た。

 サジンの問い掛けにアーリアが荷物を確認しながら答える。


「ええ、無いはずだわ」


「サジン、町の事は頼んだぞ!俺らも早く見つけて帰ってくるから」


 背嚢に目一杯荷物を詰め込んだ俺が言うと、サジンは頷く。


「ああ、三人しかいないのだから、戦おうとせずに見つけたらすぐに帰って来るんだぞ」


「もちろんだ!帰ってきたらシグナートで一杯やろうぜ!」


「楽しみにしておこう。では、気を付けてな」


「おう!じゃあまたな!」


 東門を出て平原地帯に足を踏み入れる。ここからはいつもギーズが現れる方向に向かい、その後は痕跡を辿りながらの探索となる。

 

 ナーグルの東門の周りは草原になっており、視界の先には丘が見える。その丘を越えればその先は森となっているらしい。

 

 いつもギーズと戦うのは東門の前の平地になる。なので、丘より先には行った事がない。

 サジンが言うには森にはいつものギーズ以外の魔物が出てくる事もあるとの事だ。

 

 巣を見付けるまでどれ程時間が掛かるか不明な為、一応七日分程の食料は用意してある。保存食にはなるが、この辺りは南国な気候のせいか香辛料になる植物が自生している為そこまで不味くはないだろう。


「さて、とりあえず丘に着いたな。此処からはアーリアの出番だな!」


 アーリアは探査の魔法に加え森での探索に慣れているらしい。元々は森の中に住んでいて、何年か前にナーグルに来たそうだ。


「分かったわ。あそこの辺りの草が削れているから、そっちへ進みましょう。ミルガ、何か聞こえる?」


「いや、今の所何も聞こえないな」


 ミルガが何も聞こえないと言う事は、近くには居ないという事だろう。そう思いアーリアを先頭にし、進んで行く。


「此処からは森に入るから二人とも周囲の警戒はしっかりお願いね」


「おうよ!」


「わかった」


 俺は元の世界にいた時から反射神経と勘だけが何故か異常に良かったので、勘頼りの警戒をするつもりだ。

 

 進み始めて三時間程経ち、ちょっとした広場みたいになってる所を発見した為、休憩をする事にした。


「他の魔物が現れると思ったけど、意外と出て来ねぇな」


「きっと、ギーズの縄張りになってるんだろうな」


 そう、町を出てからここまでは魔物には遭遇していない。野生の動物などは見かける事はあるんだがギーズも含めて魔物は居なかった。


「一日一回はアリの襲撃があるんだから途中で鉢会うんじゃねぇか?」


「私もそう思うけど、まだ見かけないわね」


「そうだな、警戒はしてるんだがギーズらしき足音は聞こえんな」


 俺の予想ではギーズの巣はそんなに遠くは無いと思う。何故ならそんな遠くからわざわざ町まで襲いに来る必要が無いからだ。この辺りには野生動物も居るから食料には困らないはず。


「それにしても、何でアリ共はわざわざ町まで襲いに来るのかねぇ?」


「話によると、魔物は肉と共に魔力を食べるらしいのよ。野生動物はそんなに魔力を持って無いから、町に居る人種を狙いに来るのでしょうね」


「そういう事か。まっ、何にせよ巣を潰してしまえば良い話だな!」


「貴方ねぇ……。考え無しと言うかなんというか」


「俺の勘ではもう近い筈だぜ」


「それなら良いがな。では、そろそろ出よう」

 

 立ち上がるミルガに続いて俺とアーリアも立ち上がる。 

 森の中は背の高い草なども生えていてそれなり疲れていたが、休憩した事により回復できた。


 その後、一時間程歩いた時、急に嫌な予感がしたので立ち止まる。


「待て!動くな!何か嫌な予感がする……」


「何よ?何か見つけたの?」


 暫く動きを止めていると、ミルガが何かに反応した。


「ギーズらしき足音がする!ただ、少しくぐもって聞こえるな」


「どの辺りだ?」


「アーリアの背後辺りだ」


「えっ?」


 アーリアが驚いて体を右に動かした瞬間、アーリアの足元が崩れた。


「きゃっ!?」


「アーリア!!」


 そしてアーリアが崩れた地面に消えて行った。

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