第5話 窮地
アーリアが落ちた所に駆け寄ったが、暗くて先が見えなかった。やばいと思い直ぐに追い掛けようとしたが、ミルガに声を掛けられる。
「待て!カイル!」
「なんだ!すぐに降りねぇとアーリアが!」
「多分これはギーズ達の巣の一部だ!一人では危ない!!」
「そんな事言ってる場合か!それなら余計にアーリアが危ねぇじゃねぇか!!」
「ニ人ともやられてしまうぞ!」
「アリ如きにやられてたまるか!ミルガは巣を発見の報告に戻ってくれ!俺はアーリアを助けに行く!!」
「くそっ!分かった!絶対無理はするんじゃないぞ!」
ミルガは荷物を置いて町の方へ走って行く。
俺は暗い中で戦うのはやばいと思い、松明に火を点け地面に空いた穴に飛び降りる。
「待ってろ!アーリア!!」
アーリアはこの世界でサジンと同じくらい仲良くなった友達だ。この世界で俺は狭い範囲の人と仲良くしている。
いずれは元の世界に戻る為に旅に出るつもりだったからだ。その狭い範囲だけで良いと割り切ってた俺に、グイグイ寄って来たのがサジンとアーリアだ。そんな大事な友を失ってたまるかと必死の思いで飛び降りた。
地面に着く時間から考えて五メートル以上は落ちた筈だ。少し先の灯りが灯っている場所で、アーリアがギーズと戦っている。
「アーリア!!」
全速力で駆け寄りアーリアの周囲に群がってるギーズ共を蹴り飛ばす。
ギーズ共が居なくなった先には片膝立ちになっているアーリアが居た。
「アーリア、どうした?怪我か?」
「カイル!何で来たの!?」
「いや、そんな事はどうでも良いから足を見せてみろ!」
足を見ると、足首が赤くなり腫れていた。高い所から落ちたので、捻挫か骨折をしたのだろう。
「アーリアは治癒魔法って使えないのか?」
「治癒はちょっと得意じゃないのよ。ミルガはどうしたの?」
「ミルガには巣の発見を町に報告しに行ってもらった」
アーリアが歩けないとなると、抱きかかえて五メートルくらい跳ばないといけない。灯りについてはアーリアの魔法で何とかなる。しかし、跳び上がる事が出来る程、足場が強いかどうかが問題だった。
「アーリア、この地面って力を入れても崩れないと思うか?」
「何をするつもりなの?」
「いや、アーリアを抱きかかえて、跳び上がってこの巣から抜け出そうかなと」
「貴方ってそんなに跳べるの!?そうね、ここが巣であると考えると、あまり力を入れ過ぎると抜けるかもしれないわね」
「やっぱりそうか」
そうなると、この巣の出口を探す羽目になる。巣の広さが分からない為それは少しきつい。
「アーリア、探査の魔法で出口が分からないか?」
「使ってはみるけど、広過ぎると分からないから期待しないでね。『巡る風』」
アーリアは探査の為の魔法を放つ。
どうもこの世界の魔法は、詠唱とかはしないらしい。魔法の名前を言うだけで発動するが、頭の中でしっかりイメージが出来ていないと失敗するらしい。
「だめね。出口らしきものは見つからないわ」
「そうか、仕方ない。じゃあ、俺の勘で進むしか無いか」
「頼むから出口に進めるように勘を働かせてよ」
半目でアーリアに見られたが、きっと大丈夫な筈。着くとしたら出口か、この巣の主の元かの二択だ。
「とりあえず進もう。ほら、俺の背に乗りな」
「はぁ、分かったわ」
アーリアを背負って巣の中を進む。こんな状況じゃなきゃ背中の感触を楽しんでもいいんだが、流石に今はそこには集中出来ない。
暫く進むとカサカサと音が聞こえてきた。
「またアリ共か」
ここを脱出するまでに、どのくらいギーズを狩る事になるんだかと思いながら蹴り殺す。
「ちょっと、あんまり揺らさないでよ!」
「仕方ないだろ。肉弾戦しか出来ないんだから。アーリアが魔法で倒してくれてもいいんだぜ?」
「何があるか分からないから、魔力は温存しときたいの。カイルだったら余裕を持って倒せるでしょ?」
「まぁな」
こんな時、魔法が使えればアーリアを揺らさずギーズ共を倒せるんだがなぁと思いつつギーズを蹴りで殺していく。
「それにしても、カイルの力って不思議よね?魔法じゃないのに何でそんなに力が強いの?」
「それが分かりゃ苦労しねぇよ」
本当に俺の力って何なんだろうな?魔法とは違うが体の中にエネルギーらしきものは感じる。何の力か分かれば鍛え方も分かりそうなもんだけど。
ニ時間程進むと、少し雰囲気が変わってきた。今回の勘はどうやら出口方向へは進ませてくれないみたいだ。
「ねぇ、カイル。何か魔力の濃い方に進んでいない?」
「そうなのか?魔力って言われても分からねぇからなぁ」
そんな会話をしてると赤色のギーズと、初めて見る形のギーズが現れた。
初めて見るギーズは、通常種より顎に生えている牙が大きく発達しており、甲殻の形状は所々尖っていた。
「変異種と上位種になるのか?アーリア悪ぃけどちょっと降りといてもらえるか?」
初見の為、どの様な動きをするか、どの程度の硬さか分からないので離れてもらう。
「わかったわ。後ろは一応警戒しておくけど、無理そうなら逃げるのよ」
「ああ、その時は抱えて逃げるさ」
赤色のギーズと上位種らしきギーズの前に一人立つ。
数は前に赤色が三匹、後ろに上位種らしきのが二匹か。まず赤色を速攻で潰して上位種だな。
正面のギーズに向かって走ると見せかけて、直前で右に跳び、右のギーズの首を狙い飛び蹴りを放つ。ギーズは反応出来ず、飛び蹴りで首が半ばまで千切れる。
着地したと同時に、素早く体を回転させ正面のギーズの胴体に後ろ回し蹴りを叩き込む。正面のギーズは甲殻を砕かれながら左のギーズと共に吹っ飛んで行く。
良し!
続いて上位種らしきギーズへの攻撃を加えようとした時、蟻酸が飛んで来る。斜め上より飛んで来た蟻酸を前に出ながら躱し、右側に居る上位種の足を刈り取る勢いで蹴る。
折れはしなかったが、バランスを崩させる事に成功する。そこで左の上位種が噛み付いてこようとした為、バックステップで距離を取る。
「こいつら硬ぇ!」
「カイル、大丈夫なの?」
「ああ、硬ぇが何とかなるだろう」
俺の戦い方は基本我流だ。しかし、元の世界での格闘技の動画を参考にさせてもらってるので、それなりに戦える。
「ぜやぁ!」
体勢を立て直した赤色のギーズを潰そうと駆け出し、甲殻がひび割れてる方へ右脚による蹴りを放つ。鋭い蹴りは胴体を分断し絶命させる。
攻撃をしてる俺目掛け、また蟻酸が飛んで来た。それを躱しつつ、左脚による飛び蹴りを残りの赤色のギーズへ放つ。その蹴りは赤色のギーズの頭を吹き飛ばす。
後は上位種のみだ!
構え直すと同時に上位種の顎が噛みつこうと迫って来たので、バックステップで躱す。
下がってすぐに前へ出て、踵落としを頭に叩き込み、地面に叩きつける。その勢いで前方宙返りをしながら、逆の脚での踵落としで首を破壊する。
あと一匹!
左を向くと目の前に上位種の頭があった。やばいと思い躱そうとしたが、左腕へ強力な顎での噛み付きが掠ってしまう。
「いってぇ!くそっ!」
「カイル!」
「大丈夫だ!」
掠っただけとはいえ、でかい顎での噛み付きだったのでそれなりの深さの傷を負う。
左腕をだらりと下ろしたまま構えを取り、上位種へ向き合う。バランスは悪いが、このまま戦うしかあるまいと駆け出す。
右へのフェイントのステップを入れ、左へ回り込み足を刈る。バランスを崩した上位種の首目掛け、左脚を斜めに蹴り下ろし首を折る。
「ふぅ。くそっ、油断した」
「カイル、大丈夫?」
「ああ、荷物の中に布があるからそれで止血すれば何とかなるだろう」
これからどれくらい進めば良いか分からない為、正直良くはないだろうな。だが、そんな事アーリアに言って心配させる訳にはいかない。
「止血したら先に進もう」
「分かったわ、無理しないでね」
徐々に広くなる道を進んで行く。
「ねぇ、カイルって何で戦う時に脚しか使わないの?」
「ん?ああ、基本的には力があるんだが、何故か脚の方が力が集まり易いんだよな」
「それって体の中にあるエネルギーの話?」
「そうだな」
そう、何故か俺の中の力は腕にはエネルギーが集まる事がなく、脚に集まる。基本的には身体能力が上がってる為、その中でもって注釈がつくが。
そんな話をしながら歩いているとカサカサと音が聞こえ始めた。
「またアリ共か」
「ねぇ、カイル。何か沢山居るような気がするのだけど?」
「そんな気がするな」
「そんな気がするなじゃないでしょ!元来た道に戻りましょ!」
「そっちはそっちでなんか嫌な予感がするんだよなぁ。ちょっともう一度探査の魔法使ってもらっていいか?」
「嫌な予感って何よ、分かったわ。『巡る風』」
前には大量のギーズが居るが、後ろも似た様なもんな気がするんだよなと思いながら待つ。
「えっ!?後ろにも沢山ギーズが居るわ!!ど、どうしよう……」
「まぁ進むしかねぇだろうなぁ。多分この先ではアーリアにも魔法を使ってもらう必要が出ると思う」
「それも貴方の勘なの?」
「ああ、そうだな」
「分かった、覚悟を決めるわ」
「次は何処かにお前を置いておいたら、後ろから狙われるかもしれない。壁を背に出来るとこまでは背負って行くぞ」
奥へ進んで行くと、その先は広いホールのようになっていた。ホールの中には上位種、変異種を含め数え切れない程のギーズがひしめいていた。
「ははっ、ちょっと嫌になる程いるな」
「ちょっと気を失っても良いかしら?」
「気を失ったら食われちまうけどな。そんな冗談を言えるなら余裕があるな!じゃあ左にある少し窪んだ所まで駆け抜けるぞ!防御用の魔法を頼む!」
「分かったわ!『逆向く風』!」
ギーズひしめくホールを、アーリアの防御魔法頼りに全速力で駆け抜ける。
余りの物量による攻撃で走ってる途中で防御用の魔法が消えてしまう。しかし、そのままギーズを蹴り飛ばしながら駆け抜ける。
流石に全ての攻撃を捌け無い為、体中に怪我を負う。アーリアには攻撃を当てさせない様に立ち回っていた為に余分にダメージを食らってしまう。
「よし!ここでやるぞ!!」
「貴方!既に傷だらけじゃない!!」
「それは仕方ねぇ!ここのギーズ共を潰して地上へ戻るぞ!!」
「──っ!!仕方ないわね!『荒ぶる旋風』!!」
アーリアの魔法により、十数匹のギーズが切り刻まれながら飛んでいく。魔法ってやっぱり凄ぇなと思いながらギーズを倒すために駆け出す。
これまでの戦いで、体に馴染んだエネルギーが体内で暴れ回る。その勢いに任せ、力を込めて蹴りを放つ。その蹴りは目の前の通常種のギーズだけでなく、背後にいた上位種のギーズまで纏めて断ち切る。
ここに来て更に強くなった力に驚くが、都合が良いかと思い暴れ回る。
どれ程時間が経っただろうか、ギーズは数える程になっていた。残りは上位種が数匹とその背後に見える上位種より二回りは大きく、腹部が異常発達した個体だけだ。多分背後の奴が女王蟻なんだろう。
それに対してこちらは、アーリアは魔力切れにより荒い息を吐いて膝を付いている。俺も無傷とはいかず深い傷を負った左腕に加え、右腕も折れ、左の眉の上から頬までの切り傷により左目が塞がっている。
「あと少しだが、ちょっとやべぇかもな」
「はぁはぁ、カイル大丈夫?」
「ああ、怪我は多いが体の中のエネルギーが何か溢れそうなんだ」
「それって大丈夫なの?」
わからん。が、悪い事じゃねぇだろう」
体の中にあるエネルギーは、会陰から体の内部を上に進もうとしている。これがどういう事か分からないが力は溢れてるから良いだろう。
「さぁ、行くぞ!」
自分に気合いを入れて残りのギーズを倒す為に駆け出した。
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