第3章 邪印教典
第21話 創生の書
「アーリア!!」
俺の目の前でアーリアが剣で貫かれた。貫かれた腹から濃い紅い血が大量に溢れ出す。アーリアは力無く崩れ落ちていく。
「くそが!!どけぇぇ!邪魔だぁ!!」
「駄目だ、カイル!周りを見ろ!こいつらは操られているだけだ!!」
「知るかよ!アーリアが危ねぇんだ!!セラかレジーナは居ねぇのか!?」
「セラもレジーナも近くには居ない!後ろで奴と戦っている!!」
サジンが俺を引き留める。しかし、早くアーリアの元に行かねぇと!体の周りには紅い水溜りが出来ていってる。
「駄目だ!これ以上こいつらに構ってる暇はねぇ!アーリアが死んじまう!!」
全身の気を脚に集め踵落としをするかの如く渾身の力で地面に脚を叩き付ける。脚が地面に着いた瞬間、大地が爆発した。
周囲に居た人達や魔物は強風に飛ばされた紙の様に吹き飛んでいく。
「アーリア!今行くぞ!死ぬな!!」
地に深い足跡が残る程の踏み込みと共に駆け出す。
しかし、辿り着く直前にアーリアの前に暗い緑色のローブを着た不気味な男が剣を構えて立ち塞がる。
「てめぇ!!邪魔だ!どきやがれ!!」
「ふふふ、何をそんなに焦っているのです?喜ばしい事でしょう?神の生贄に選ばれたのですから。」
「てめぇだけは絶対許せねぇ……。殺す!!」
アーリアを助ける為にも早くコイツを殺す!と全身の気を爆発させて、空気との摩擦で火が上がる程の速度で前蹴りを繰り出す。
くそが!何でアーリアがこんな目に……。
ーーーーーーーーーーーーーー
「今日も魔物が出なかったわね」
「こないだ子爵級を倒したからじゃねぇか?」
エヨーナを出発して七日、俺達は荒野を進んでいた。
生命魔法が完成し、食糧の目処が立って直ぐにエヨーナを出た。この七日間は魔物に遭遇していない。
子爵級の魔物が現れた事により、この辺りを縄張りにしていた魔物が散り散りに逃げて行ったのだろう。
「良い事だな。このまま何事も無く着いて欲しいものだ」
長い銀色の髪を風に揺らしながら遠くを見つめていたサジンがこっちを見る。
「そうだな、相棒の言う通りだ!平和で良いじゃねぇか」
平和で良いと言う俺の中には焦りがあった。
子爵級の魔物でさえ一人で倒せないようでは更に上位の魔物が現れた時に倒す事が出来ない。力をもっと付けねばと、エヨーナを出てから常に気を練っている。
「カイル様、少しお疲れじゃないですか?」
「セラか。いや、大丈夫だ」
いつも俺の事を見てくれているセラが、普段の無表情を消して不安気な顔をして心配している。
駄目だな。顔に出ちまうなんてまだまだ修行が足りねぇ。
力だけじゃなくて色々身につけなければならねぇ。知識も含めてな。
「そうだ、レジーナ。お前ってシスターだったよな?」
「はい、そうですが。どうしました?」
「いや、シスターとか神父とかは見た事あるけど何を信仰してんのかなと思ってな」
「えっ?ご存知なかったのですか?」
レジーナが長い銀色の髪の奥で目を大きくして驚いている。
この世界に来てから魔物との戦いばかりでその辺の事はちゃんと聞いた事無かった。
「うん、知らねぇな。良かったら教えてくれねぇか?」
「分かりました。この世界には二神により成り立っています。そしてその二神が信仰の対象です」
「ニ神か。何と何の神なんだ?」
「主神であるワーデス様と女神ウーガス様です」
「ほぉ、男神と女神か定番だな」
「定番って、……貴方ねぇ」
アーリアが美しい顔を呆れた表情へと変えている。
地球でも大体が男神と女神がトップにいた様な気がするからな。
「世界の成り立ちに関しては各教会にある創生の書に記してあります。興味があるならまた用意しときましょうか?」
「いいや、大丈夫だ。その神さんには直接会えるのか?」
「いえ、その様な事は聞いた事ありませんね」
「御神託みたいなのもないのか?」
「ええ、それも聞いた事ありません」
つまりは実在してる訳じゃなくて、ただの信仰の対象。偶像崇拝って事か。
「それって何教って名前になるんだ?」
「通称は天教と呼ばれてます」
「そうなんだな。相棒とアーリアも天教徒になるのか?」
「ああ、信仰はしてるな」
「私もよ」
「はぁ、信心深いんだなぁ」
日本に居た時から神は信じて無かったからなぁ。今いちピンとこねぇんだよな。
「この世界には天教しか居ないのか?」
「そうですね、天教以外は聞いた事がないです」
「儂らの国でも天教以外は聞いた事無かったのぉ」
ローグストのじいさんが長い髭を触りながらやって来た。
「おっ!じいさん、良いところに来たな」
「なんじゃカイルよ。何か用でもあったのかの?」
「魔法について聞きたくてな。魔法の属性って何々あるんだ?」
「属性とな?そうじゃのぉ、基本の火水風土と後は光と闇と治癒と雷と生命といったところじゃぞい」
「あれ?雷って無かったんじゃねぇのか?」
「おお、雷属性の魔法はここ数年の間に開発された魔法じゃからのぉ」
「そうだったのか、だからアーリア達が知らなかったんだな」
以前アーリアに聞いた時は雷魔法は無いって言ってたからな。ナーグルやトルガナは王国と関わって無かったみたいだから知らなくて当然だな。
「なぁ、みんなちょっと良いか?」
「どうした?カイル。」
「いや、この前の子爵級の魔物と戦った時に思ったんだけどよ。このままじゃ伯爵級以上が現れたら俺達やられちまう」
「それは!?……そうね」
アーリアが悔しそうな顔をして俯く。周りを見渡しても皆同じ様な顔をしている。
いや、サジンだけは顔を上げて俺を見ている。
「それで?続きがあるんだろう?相棒」
「おうよ!この移動してる時間、周囲の警戒をしながらでも良いから修行しねぇかなと思ってよ!」
「修行ってどんな事をするんでしょうか?」
セラが顔を上げて真剣な眼差しで見つめてくる。
「近接攻撃が得意な奴らはとりあえずチャクラの解放だな」
「やっぱりそうなるよね」
シジールが赤い髪を揺らしながら何度も頷く。
「で、だ。魔法士組は魔法を教え合うってのと、魔法の開発をしてもらおうとかなと」
「魔法の開発とな?どんな事をするのかのぉ?」
「俺が色々案を出すからそれを考えて欲しいんだ。例えば空間に関する魔法とか複合魔法とかをな」
「何じゃそれは?それとその発想はどっから得たんじゃ?」
「それはあんまり気にしないでくれ。そんな事より戦力を強化しないと本当にやばいからな」
「まぁ、そりゃあ確かにそうだけど」
じいさんは何処から知識を得たのか知りたがったが、上手く誤魔化せたみたいだ。
俺が地球で読んだ漫画とかにあった有れば便利だなと思う魔法を教えていった。
「空間転移とか収納魔法とか、どうやったら出来るのかさっぱりだわ」
「う〜む、面白そうな魔法ではあるが難しいそうだぞい」
「生命魔法を開発したじいさん達ならきっと出来るさ。空間転移が出来ればエヨーナと国を作る場所の移動が楽になるし、収納魔法が有れば物資を運ぶのが楽になる」
「そうじゃのう、色々考えてみるとするわい」
「私とレジーナとローグストさんで考えるのね。セラはどうする?」
「私は近接組に混ざらせて頂こうと思っております」
「そうだな、まだセラには格闘を教えてる途中だからな。近接組も俺が考えてる事を色々試してもらうぞ。あっ、近接組じゃねぇけどキクリシスはこっちな!」
「どっちに混ざるか困ってたんだ!助かるよぉ」
情け無い声をあげるキクリシスに皆から笑い声があがった。
「じゃあ、それぞれ頑張って強くなるぞ!」
この集団の中心になってる俺達は目的地までの間、空いた時間は修行に費やす事が決まった。
「相棒って剣を二本使ったりしないのか?チャクラを解放して筋力上がったから二本使っても問題無いんじゃねぇか?」
「そうだな、今の剣は両手だと軽過ぎるくらいだからな。試してみよう」
「チャクラの解放の具合はどうだ?」
「ああ、もう少しな気がするんだが何かが足りなくて第四チャクラが解放出来ないな」
「何かってなんだよ?」
「俺にも分からんな。だが何かが足りない感覚があるのは確かだ」
「そりゃあ困ったな。チャクラの解放が強くなるには手っ取り早いんだけどな」
「色々試してみるさ」
天才であるサジンでさえ第四チャクラの解放は難しいみたいだ。
サジンは第三チャクラまでしか解放していない今でも俺と互角の強さだ。しかし、これから先はより上位のチャクラを解放して行かねぇと厳しいだろうな。
「魔力が集まる所は心臓の辺りだろ?第四チャクラも心臓の辺りだから、それも関係してくるのかもな」
「魔力か……。坐禅の時に気と共に魔力も練る様にしてみる事から始めるか」
サジンなら何か切っ掛けさえ有れば解放出来る筈だ。何せ俺の相棒だからな!
ーーーーーーーーーーーーーーー
「おい、あれを見ろ!」
辺りを警戒していたキクリシスが何かを見付けた。
そこには岩山にある洞穴の前に人が居た。
「あれは人か!行くぞ、キクリシス!」
「おう!」
俺とキクリシスは先行して洞穴の前に行く。
「おーい、こんな所で何してるんだー?」
「まさか!?人だ!みんな!助かるかもしれないぞ!」
赤く短い髪に幾何学模様の刺青を顔に入れた男が洞穴に向かって声を掛けた。
何だ?他にも人が居るのか?
俺とキクリシスが少し離れて洞穴を見てると人が続々と出て来た。
出て来た人々は疲れた顔でフラフラとしている。皆かなり痩せている。
「俺達はエヨーナの町から来た。お前達、何があったんだ」
「俺達の町が魔物に襲われて、守ろうとはしたんだが。力が足りなかった……」
赤髪の男は苦痛に耐えるかのような表情で説明する。
「そうか、どっちの方向から来たんだ?」
「俺達は東から来た」
東か。東の方角を見たが荒野が続いているだけで景色に変化はない。
「荒野の中に町があるのか?」
「いや、荒野の先の森の中に町はあった。それよりも、すまないが食糧は無いか?食糧がもう尽きたんだ」
「食糧ならあるぞ!あっちにみんな居るんだが来れるか?」
赤髪の男の他にも子供や女、老人まで居るが全員がかなり痩せていた。もしかしたら歩く事も出来ないかもなと思ってキクリシスに呼んで来てもらおうと考える。
「出来る事なら皆で行きたいが、歩けない者も居るんだ。すまないがこちらに持って来てもらえないか?」
やはりそうか。キクリシスに食糧を取りに戻ってもらう事にした。
俺はもう少し詳しく事情を聞こう。
「なぁ、あんたらはどこの国の者なんだ?」
「俺達は深緑の国サージュのガンジュという町から逃げて来た」
聞いた事ない国だな。こりゃあお嬢の出番になるかもな。
他国の民の扱いなんて分かんねぇからなぁ。
「そうなのか。まぁ、もうちょいしたら食糧を持って来ると思うから待っててくれ」
遠くにキクリシスが馬車に乗って向かって来ているのが見える。
「そういえば、ここには何人居るんだ?」
「二十七人だ」
どのくらいの規模の町だったか分からねぇけど、これはだいぶ少ねぇんだろうな。
最初からこの人数だったのか、それともここに来る迄に減っていったのか。
「ところでお前の名前は?」
そういえば名前を聞いていなかったなと思って、改めて目の前の男を見る。
背は俺よりも高く、痩せてはいるがかなり鍛えられているのがみえる。手を見ると剣タコらしきものがあるから町の戦士だったんだろうな。
「俺は火人族の戦士イエールだ」
火人族ってのは初めて聞いたな。だが、イエールの様な見た目をしている奴はこの集団には居ないな。やられちまったのか、元々一人なのか。
「俺はカイルだ。よろしくな」
握手を交わしているとキクリシスの乗った馬車が到着した。
「お待たせ!沢山持ってきたよ!」
「じゃあ、とりあえず飯にしようぜ」
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