気法士戦記
サルノコシカケ
第1章 気法士
第1話 渡界
「今日も疲れたなぁ、晩飯何にするかね?」
薄暗い公園を寒さに身を縮こませながら歩いている。公園は帰り道であり、今日も仕事帰りに歩いていた。
「最近忙しくてちゃんと作ってねぇから、今日はちゃんと作るか」
周りには人気が無いので、少しばかり声を出しても目立たねぇだろう。
「ん?」
遊歩道の曲がり角を曲がる時、後ろに気配を感じたような気がした為、振り返りつつ歩く。
「気のせいか」
何も居なかった事に安堵しながら正面を向いた時、いつもの景色ではなくヤシの木のような南国に生えてる木が周りを覆っていた。
「はっ?」
そしてまるで昼になったかの様に明るくなっていた。職場を出た時には既に二十時を越えていたのに、外が明るいという事はありえねぇ。
しかし、周りの木々の葉の形が見える程に明るく、あった筈の街灯や遊歩道に敷き詰められたレンガも無くなり、背の高い草と土しか見当たらず、道などは消えていた。
「いや、待て待て!はっ?えっ?」
慌てて背後を振り返ったが、元来た遊歩道は無くなっており、正面の景色と同じく南国風の木々が鬱蒼とそびえ立っていた。
「う、嘘だろ……。夢でも見てんのか?」
そんな筈は無いと頬をつねるが、何も変わらない。それは目の前の光景が現実である事を示していた。
「ゲギョギョギョ!」
「さっきまで暗かったのに、こんなに明るいなんてあり得ねぇ!
しかも、何か変な鳴き声が聞こえるし。意味がわかんねぇ」
立ちすくむ俺の周囲では、何かの動物や虫の鳴き声が響いていた。
「それに暑っ!今は十二月だろ?何でこんなに暑いんだ?」
夏になったかの様な、気温の急激な変化に戸惑う。上着を脱ぎ、シャツ一枚の格好になったが、溢れ始めた汗が止まらない。
「いや、それにしても暑過ぎないか?汗が異常に出てきやがる。それに頭もぼーっとしてきたよう……な……?」
暑さのせいか目の前の景色が徐々にボヤけてきた。こんなよく分からない場所で意識を失う訳にはいかねぇと焦るが視界は暗くなっていく。
「やべぇ……。誰か助け……」
誰かの足音が聞こえてきたような気がするが、俺はそのまま意識を失っていった。
§§§
「──っ!んっ?ここは何処だ?」
意識を取り戻して周囲を見渡す。そこにあったのは、椅子と小さいテーブルと木の桶があるのみの殺風景な部屋だった。
とりあえず時間を確認しようと思い、スマホを見ると時間は二十二時と表示されていた。
「いや、明らかに外が明りぃし、時間合ってねぇんじゃねぇか?それに圏外かよ。参ったな」
スマホで時間を確認した時、ついでに地図アプリで場所も確認しようとしたが、地図も表示されない。
「地図が表示されねぇって事は、GPSも拾えねぇのか。これはちょっとやべぇな。でも、部屋に居るって事は誰かが運んでくれたんだろ。その人に聞いてみるしかねぇか」
GPSも拾えねぇなんてどんな場所だ?
急に昼に変わった事といい、ヤシみたいな木が生えていた事といい、訳わかんねぇな。
「それにしても、なんか力がめっちゃ漲ってるな。何か変なもんでも食ったか?まだ体が少し暑ぃ気もするしな」
ドアを開けようとするが、鍵が掛かっているのか開かない。
「あれ?鍵が掛かってんのか?おーい!誰か居ませんかぁ!」
呼び掛けてみたが、反応は返ってこねぇ。
暫く耳を澄ませてみると、誰かの話し声が聞こえてくる。しかし、距離が遠いのかいまいち聞き取れねぇ。
もう少し大きい声で呼べば気付いてくれるか?
大きい声を出そうとした瞬間、金属を擦り合わせたような不快な音が大音量で鳴り響く。
「な、なんだ?」
急に聞こえてきた不快な音に顔をしかめる。耳を澄ますと、人らしき叫び声と何かが争うような音が聞こえてきた。
「外で何が起こってるんだ!?」
音は少しずつ大きくなり、四方八方から聞こえ始めていた。何が起こっているか分からねぇが、部屋から出れないので、どうする事も出来ず焦る。
「絶対何かやべぇ事が起こってる。どうにかして逃げねぇと!」
何とか部屋から出れないかと周囲を改めて確認すると、ドアの隙間から光が漏れていた。蹴破れば外に出れるんじゃねぇかと、助走をつけてドアを蹴破る事にした。
「よし、ボロいドアだからきっと蹴破れる!何とかして部屋から出ねぇと!」
助走をつけてドアを蹴破ろうとした瞬間。
「ギィィィィィーー!!!」
金属を擦り合わせたよう不快な音が、部屋のすぐ側から聞こえてくる。
「なに……っ!?」
何がと言おうとした瞬間、右の壁を破壊して人よりも大きい、巨大な黒いアリのような生物が現れた。
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