異端の拳術

明治維新以降、近代国家を目指し、中央集権化が進む日本にあって、武術界もまた統合の動きを見せていた。
明治28年、諸流派を束ねる組織として発足した大日本奨武会は以後拡大を続け、設立から5年で会員数は100万人を超えた。そうして不動の権威を得たこの巨大な組織によって、日本武道は牽引されていくことになるのだ。

時は下って大正年間。

そんな強大な組織に、かつて否定された一人の拳法家が居た。

己の強さにしか興味を示さなかった男はある日、一人の少年と出逢い、教えを乞われる。初めは少年を疎ましく思っていた男だが、そのひたむきな姿に心を開き、弟子として迎え入れることに。

少年の想いと、男の願いが交差し、やがて絡みあってゆく。

卑しき邪拳とされた男の拳は狂騒の時代にあって何を掴むのか――