3-4 手紙

『お千代へ

 

 あんな別れ方になってしまって、すまないと思っているよ。

 あの後俺は、尊敬出来る師匠を見つけて、拳法を教えて貰っているんだ。

 まだ習い始めたばかりだけど、自分の人生を捧げるものに出会ったつもりでいる。

 昔から、いじめられてばかりの俺を、何も言わずに守ってくれていたのは、お千代だったね。

 どれだけやられたって、お千代が作ってくれたご飯を食べれば、元気が湧いたものだったよ。

 お千代の料理はどれも美味しいから、ついつい食べ過ぎるのは分かるけど、あんまりたくさん食べて体を壊さないよう、気をつけて欲しい。丈夫なお千代のことだから、あまり心配はしていないけどね。

 これからは、自分で自分の身は守れるし、生活もどうにかなっているから、どうか心配しないでおくれ。

 それから、面と向かって言うと恥ずかしいから今まで言わなかったことを、この機会に伝えておくよ。

 俺の両親は早くに死んで、父親というものを知らずに育ったけど、母親が居ないと思ったことは一度だってなかったよ。

 お千代のおかげだ。

 ありがとう。

 お千代に認めてもらえるような、立派な男になったらきっと会いに帰ってくるからね。

 その日まで、どうか元気に過ごしておくれ。


 正彦より』


 明くる日、妙子からこの手紙を受け取ったお千代は、崩れ落ちて泣いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る