第4話 四十万宗舟

4-1 妄執

 宗舟は時々夢を見る。

 内容はいつも決まっていた。

 敗北の記憶である。

 夢を見る度に、生々しく記憶が甦り、目を覚ます。

 そんな時、宗舟は巻藁や立木を打った。

 拳で打ち、脚で打ち、時には頭を思い切り叩きつけることもあった。

 そういった時、彼の心は空っぽであった。

 様々な想いが浮かび上がってはくるのだが、すぐに霧散してしまう。

 後悔、怒り、慰め。

 形容しがたい何かが頭に浮かんでは、それをかき消す為に巻藁を突く。

 巻藁を突けば、浮かびかけた何かは、頭から飛び出していく。

 再び脳裏によぎるものがあれば、もう一度突く。また頭が空になる。

 それを繰り返していくと、最後には何も残らない。

 ただ巻藁を突く感触だけが残る。

 その感触によって、宗舟は自分があの日よりも強くなっていることを実感し、少しの安堵と、それ以上の渇望を得るのである。

 ──阿南あなみ朱邑あけさとともう一度闘いたい、と。

 その飢餓感を、振り払うかのように再び宗舟は巻藁を突き始めた。

 倉では正彦がまだ眠っている。

 まだ日も登りきらない薄闇の中、宗舟はあの日の事を思い出していた。

 いくら巻藁を突こうが、消せぬ思い出。

 十五年前の京都でのことを──。

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